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第二十六話:ファンタジーなリアル(1)

 ―― ……ん……


 誰かが触れてる気がする。

 寝る前にエミルは部屋を出たし……一人になったはずなのに、心配して戻ってくれたのかな?


 髪を梳いてくれる指先がとても心地良い。凄く好きな感じだ。

 手に誰かの指が絡み、触れていく。

 離れたくない……離したくない……でも、きっと私が目を開ければ誰も居ない。これは、夢だから……。


「―― ……誰?」


 瞼を持ち上げると、やはりそこには誰も居なかった。つぅっと目尻から涙が零れ落ちて、私は慌てて拭った。

 分厚い遮光カーテンの隙間から朝日が漏れさしていた。長い夜は明けた。


 目が覚めても私は城に居て。やっぱり現実なのだと、ちょっと思う。夢の中で眠る。目を開ければいつもの天井だと思ったのに、ベッドの天蓋だった。


 放っておくと、どこまでも手伝ってくれそうだったメイドさんにストップを掛けて、私は自分の身支度を整える。

 あれから頭は痛んでいないし、気持ちも悪くない。なのにやっぱり思い出せない。


 ―― ……私は……この世界に本当に居たのだろうか?


 そしてその日、私は部屋の移動を頼まれた。

 ここは迎賓棟で、建物全体が来賓者用となっているため――今現在は、泊り客が居るから警備も厳重だけれど、他に居なくなると手薄になるし目が届かないから――エミルの私室の隣を使わせてもらうことになった。

 私はなんだか申し訳ないような気がしたのだけれど「エミル様のご指示ですから」とメイドさんはさっさと私を案内する。


 用意されていた部屋は、昨夜と同じように主室と寝室に分かれていた。王宮の部屋ってどこもかしこも広いんだろうな。


「何か必要なものがありましたら、何でもお申し付けください」


 と深々と頭を下げてくれたメイドさんに萎縮してしまう。こんなお嬢様……お姫様か。生活思っても見なかった。


 困ったなぁ。


 ぼんやりと外を見ていたら突然扉が大きな音を立てて開いた。


「ごめん、マシロ。遅くなって……」


 あ、ノック忘れた。そう零して開きっぱなしになった扉についていたノッカーをコンコンと扉に打ち付ける。


「エミル。おはよう」

「おはよう、マシロ。頭痛はあれからない?」

「うん、平気」

「そう、良かった……朝食は済んだよね?」


 にこにこと歩み寄ってくれるエミルの背後で苦笑しながらメイドさんが扉を閉める。私が頷くとエミルは、そうだよね。と少し残念そうだ。


「昼食は一緒にといいたいところなんだけど、午後から面倒な式典があるんだ。マシロは王宮の中で休んでいてくれて良いから。でも、どうしてもアルファとカナイは外せないから……もし、マシロが嫌でなければ研究棟で過ごしてもらえるかな?」

「研究棟? シゼのところ?」


 首を傾げて問い返せば、察しが良いねと微笑まれた。


「夜もその続きで遅くなると思うんだけど、そのあとここへ寄っても構わない?」

「あ、うん……もちろん」

「良かった。数日バタバタとするから、あまりマシロと居られなくて心細いかもしれないけど、なんとか時間作るから」


 そういってまた頭を撫でてくれる。


「エミル……」

「うん?」

「今朝方、部屋に来た?」

「ごめん、顔を出したかったのは山々なんだけど……」


 ……そっか、エミルじゃないのか。じゃあ、やっぱりあれは夢だったんだな。


 私は、申し訳なさそうなエミルに首を振って、いいの。と告げる。どうかした? と重ねたエミルに私は何でもないと首を振り、それと同時にノックが聞こえた。入室を許せば見慣れた顔が現われる。


「エミルさん。やっぱりここに居た。準備出来ましたよ」


 ぷりぷりと頬を膨らませて、歩み寄ってきたのはアルファだ。アルファは私を見つけるとにこりと愛らしい笑みを浮かべてくれた。


「マシロちゃんは一緒にいけないんですよね? 残念。研究棟まで僕が案内しますよ」


 良いですよね? といってからエミルに確認を取るアルファに、エミルは苦笑して「お願いするよ」と頷いた。


「じゃあ、行きましょう」


 いうのが早いか私の手を取って歩き始めてしまうのが早いか、良い勝負だった。楽しそうに私の手を取って、城の廊下を歩くアルファは無邪気そのもので悪意の欠片もない。鼻歌でも飛び出しそうな雰囲気から明るく話し掛けられる。


「大丈夫ですか? 頭痛いとか、治りました?」

「うん、平気」

「何か思い出したりしました?」


 にこにこと訪ねてくるアルファに、私は僅かに眉を寄せて首を振った。

 私は、仲が良かったという人たちのことも微塵も思い出せなくて申し訳なくて仕方ないというのに、アルファは「良かった」と微笑む。その予想を裏切る楽観的な反応に、思わず「え?」と目を丸くしてしまった。


「これまでなんて、どうでも良いじゃないですか? また僕のことやエミルさんのことは知れば良いだけだし、聞きたいことがあったら何でも聞いてください。喜んで答えます」

「あ、ありがとう」

「うん! だからね、マシロちゃんはこのまま、王宮に住んじゃえば良いんですよ。そのお姫様みたいな格好もとっても可愛いですよ」


 お日様のような笑顔で、ぽんぽんっと話を続けるアルファに私も釣られて笑ってしまう。それになんだかアルファの言葉は、建前とかお世辞というよりは、そのとき思ったままをただ口にしているように感じる。裏表のない素直で率直な感じだ。


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