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第二十三話:青い月

 ***


 私は落ちた。

 物凄い高いところか、すんごい勢いで。

 肌が冷たくて濡れそぼっているような感覚に襲われ私は目を覚ました。


「ん? あ、あれ? ここ、どこ……?」


 私は全然想像もつかないようなところに転がっていた。といっても芝生の上だったけど。雨上がりだったのか丁度濡れていて、冷たかったのはそのせいだ。気持ち悪いなと思いつつ、汚れを叩き落とそうと服に手を掛けて首を傾げる。


 なんだこのドレス……。私は確か学校の帰りで……制服のはずで……。


 てことは、夢。

 私ってばまた変にファンシーな夢を見ているもんだ。辺りは夜なのか真っ暗で空には二つの月が浮かんでいた。


 ―― ……夢決定。


 そして傍にあった壁を振り仰げば……ゲームとか漫画とかとりあえず現実離れした世界の城の外壁のように思える。きょろきょろと挙動不審気味に辺りを見回しつつ、立ち上がると足を進める。この辺りに人は居ないのだろうか? 虫の声一つ聞こえない。




 第一村人を探してぼんやりと広大な庭を歩いていると、遠くから人が走ってくるのが分かった。走ってきた人は二人……に、見えるんだけど? 人影は確認できたけど、顔までは見えない、もう少し近寄れば良いかとそちらに向う。


「王子、こちらに隠れて」

「無駄だよ、もう僕は構わないから……」


 悪漢にでも追われているのだろうかと思われる会話に口出ししそうになってそれは阻まれた。


「くだらない追いかけっこはやめてください」


 涼しげな、夜の闇に凛と通る声。その声に二人が息をつめたと同時に、後から来た人? はあろうことか、一瞬の迷いもなく


 ―― ……ガウンッ、ガウンッ!!


 発砲した。


 ―― ……嘘っ!


 私は思わず両手で口元を押さえて息を呑み、現状が理解出来なくて目を見開いた。半歩下がるように足を引くと芝生が水を弾いてしまった。


「―― ……!」


 犯人に気がつかれ彼は私を見つけるとこちらに歩み寄ってくる。


「どうしたんですか? どうして、フロアから出たんです」


 何か声を掛けられているような気がするけど現実が追いついてこない。


 人を撃った。

   人を殺した。


 その人が私に歩み寄って来て手を伸ばす。


 膝が笑ってしまって、逃げられない…… ――


「……っこ、ろ」


 かちかちと奥歯がなって言葉も上手く出ない。


 どうしよう……

  どうしよう……

   ど う し よ う ……。


 混乱のあまり、頭の中がどんどんっと痛みを覚えるほど強く脈を打つ。


「マシロ?」


 嫌だ……殺される……!!


「ひ……」


 殺さないで、撃たないで……


「ひと、」


 伸ばされた指先は、私に届く前にぴくりと止まった。それを合図にしたように、


「ひ、人殺しーっ!! い、いやぁぁぁっ!!」


 力の限り、叫んでいた。

 逃げなきゃと思うのに私の足は一向に動いてくれなくて、私はその場にしゃがみ込み頭を抱えて繰り返し、意味を成さない声を上げ、ただ叫んだ。



「……っん、マシロさんっ!」


 何度呼ばれたのか分からない。肩に手が掛かって私は慌ててその手を払いのけると暴れた。


「マシロさんっ! ちょっ! 痛っ! あ、暴れないで下さい!」


 闇雲に腕を振り回していたら誰かに当たって、その直ぐあと両方の手首を掴まえられてしまった。半べそ状態で顔を上げれば、さっきの人影じゃなくなっていた。


「大丈夫ですか?」


 私の手首をなんとか押さえた人は月明かりのした、本当の色は何色なのか白っぽくキラキラと輝く髪の色をした、綺麗な少年……? というよりは青年だった。瞳は翳って黒っぽく見えるけど、本当は何色なんだろう?

 やっと私が大人しくなったことに安堵したのか、目にも明らかに肩を落として「手を離しますけど暴れないで下さいね?」と念を押す。私が、こくんっ頷けば手首は解放され、変わりに手を取られて「立てますか?」と立ち上がらせてくれた。

 まだ足元が覚束ない私をしっかり支えてくれる姿は、やはり男の人だった。


「何があったんですか? 庭で転んだんですか? もう、広間から出たりするからですよ。今夜は最小限の明かりしかないから許された場所以外は危険ですよ?」


 なんか凄く子ども扱いされているような気がしなくもない。私は少しだけ落ち着きを取り戻すと、はっと思い出して夢の住人に告げる。


「今、そこで人が撃たれて! 助けないとっ! 犯人に襲われそうになって、だから、だ……だから、私……」


 口にすると先程の光景が脳裏に蘇って、私は慌てて頭を抱えた。私を支えてくれていた人がその言葉に僅かに身体を強張らせたのが分かる。

 そりゃそうだろう、人が殺されたのだから……でも、もう犯人が居ないなら、撃たれた人を助けないと。ふと、そう行き着いて足を踏み出そうとしたら止められた。


「どこへ行くんです」

「あっちに倒れたから……助けないと」

「無駄ですよ」

「え?」

「無駄です。もう、何も……兎に角何も残っていないはずです」


 残ってない? 誰かが助けたの? 私が錯乱している間に? 浮かんでくる疑問ばかりを私は何ひとつ処理できない。

 だからその答えを求めてその人を見上げるのと同時に、肩に彼が着ていた上着が掛けられた。

 寒くはなかったけれどその暖かさに少しだけ落ち着く。


「今、マシロちゃんの声が聞こえたけど、二人してどうしてこんな所に居るの? マシロちゃん、転んだの?」


 ……夢での私はどじっ子設定なのだろうか。


 あとから駆けつけた人は明かりが少なくても、色のはっきりとした人だ。金髪に碧眼。騎士服着て帯刀してなかったら、王子様だと思うような容貌だった。


「すみません。僕の不注意で……」

「ふーん。よく分からないけど、まだ残党とか残ってるかもだから、強化区域を出ないほうが良いよ。迎賓棟まで送ろうか」


 そういってにこりと微笑んでくれたとき、丁度いくつかの足音が近づいてきて私の身体は自然と強張る。


「隊長!」

「急に持ち場を離れてどうされたのです」


 隊長? この人、まだ若そうなのに、隊長なんてやってるんだ、凄いな。私の夢なんだか壮大だ。


「ああ、ごめん。ちょっと、問題発生。君たちは持ち場に戻って、僕もあとで直ぐ戻るから」


 いいながら私の正面に立ち位置をずらし、彼らから私を隠してしまう。


「はい?」

「最優先事項が発生したの。ほら、君らは戻る! 隊長命令」


 いってしっしと犬でも追い払うような仕草を付け足した。駆けつけた人たちは「分かりました」と直ぐに納得してくれ、闇の中へと消えていく。


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