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第十四話:三番目のお姫様

 キサキ? キサキと仰いますと――私の記憶が確かなら……第三王位継承順位の――お姫様だ。社交界でも常に上段で華を添えている。私も何度か見かけたことはあったけどあまりにも高嶺の花? というか、近寄れる雰囲気ではなくては話す機会には恵まれなかった。


「もしかして、気がつかなかった?」


 明らかに面食らっていた私に、キサキ様はにこりと愛らしい笑みを浮かべる。ここでお姫様といえばメネルやアセアしか私は知らなかったけど、あの二人は神秘的な感じのする美人だ。


 キサキ様はそういう感じではなく、華やかな美人系だ。


 それに……キサキ様の格好は私の間違いでなければ上級武官の制服に似てる気がする。


「無理も無い。私は普段こんな感じだよ。社交界などの場ではどうしても父が私に女装をさせたがる」

「え!」


 生物学上、間違いなくキサキ様は女性だ。益々目を丸くした私にキサキ様は声を上げて笑った。


「ごめん。いや、すまない。私は普段騎士塔や軍を管理していてね? こっちの方が何かと都合が良いんだよ」

「え? キサキ様が学長だったんですか? 確か騎士塔の学長は腰が弱いご高齢の方じゃ」


 思わず口にした私にキサキ様は尚笑う。


「確かに、アレは面倒臭がりだから。私はそれもひっくるめて管理しているんだよ……それにしても『様』はないだろう? アセアやメネルのことは呼び捨てているのだから、私も同じで構わない。もちろん、私もそうさせてもらう」


 そういうとキサキさ……キサキはやんわりと微笑んだ。ああ、やっぱり姉妹なのだなと思う。その笑顔がメネルに少し似ていた。


「それで、マシロはこれからどこへ? 時間が空いているなら私と一緒にお茶でもゆっくりどうかな?」


 にっこりとそう告げられて、私はちらりと手にしていた紙袋を見てから「ごめんなさい」と首を振った。それとほぼ同時に声が掛かる。


「キサキ様。マシロさんは研究棟に用事があるんです。そのあとは恐らくエミル様たちに用があるのでしょう。お互い忙しいのではないですか?」


 聞き覚えのある声に私は喜んで振り返った。


「シゼ! 丁度今から貴方のところへ行こうと思ってたんだよ」


 にこにことそう口にした私に、シゼは大きく溜息を吐いて「そうでしょうね」と肩を竦める。


「連絡があってから随分経つので……」

「心配してくれたんだ?」


 思わずにやにやと聞き返した私にシゼは、ぼっと頬を染める。相変わらず可愛い。


「していません! ……ただ、面倒ごとに……あー、いえ、僕も用事があっただけです」


 シゼのいいわけに、私は笑いを堪えることもせずに噴出すと、シゼはぷいっと来た道を戻り始めてしまった。その後姿に待って! と、声を掛けると少しだけ足並みが緩くなった気がする。


「……ごめんなさい。キサキ。お茶はまた今度ということで。あんまりシゼの臍を曲げると直すのに大変だから」


 くすくすと笑いながらそう告げて手を振ると「あ、ああ」と頷いたキサキを確認して、開け放った扉の横に立っていた兵士さんにも「騒がしくしてごめんなさい」と謝ってから通り過ぎた。


「驚いたな……あのシゼが懐いているのか?」


 私は背後からキサキの笑い声が聞こえて、少しだけ振り返ったけど理由は分からなかった。



 そして、シゼとお茶をしたあと、本当は手伝いをしたかったのだけれど……私では力不足だということは分かりきっていたので、折角だからと、私の色々と知らないことを教えて貰ったりして夕方まで時間を潰した。





 エミルの部屋に到着すると居たのはカナイだけだった。


「カナイだけ?」

「んー、ああ。お前が来るだろうからって俺は留守番」


 窓辺の席に腰掛けて、本のページを捲っていたカナイにもう遅いよ? と歩み寄ると忙しいんだと返事が返ってきた。


「そうなんだ? ……カナイは暇そうだね」

「俺は宮仕えじゃないからな。基本的にエミルが王宮を出るときとか以外は、ひ……暇なわけじゃなくて自由だ」


 暇なんだねカナイ。いい直した時点で、そういっているようなもので悲しいよ?


 私はカナイのお向かいに腰を降ろした。

 タイミングを見てメイドさんがお茶を運んできてくれる。メイドさんが下がったのを見計らってカナイは本を閉じると「もうこんな時間なんだな」と外を見た。こいつ、人の話を聞いていない節なんとかならないのか?


「会議というか打ち合わせが長引いてるんだろうな」

「ふーん。何か大きなことがあるの?」


 紅茶に少しだけお砂糖を入れて、かき混ぜていた私の手元をぼんやりと見ながら、カナイは少しだけ唸って「変わったことじゃない」と口にした。


「舞踏会の前なんてこんなもんだろ」

「あー……舞踏会ね」


 嫌なことを思い出した。思わず眉を寄せた私にカナイは訳知り顔で頷く。


「お前も参加なんだよな。精々パートナーの足元に気をつけてやれよ」

「五月蝿いな。私だって一通りは踊れるの! カナイだって踊れないでしょ」


 カナイがダンスフロアまで引っ張り出されているのは見たことない。アルファはあるけど。アルファはあの容姿からフロアに出るとかなり目立つから見逃さない。


 悪態吐いた私にカナイは口角を意地悪そうに引き上げる。


「俺は踊らないだけ。なんだったら、練習台になってやろうか?」


 いって私の手を取るとぐいっと引いて立ち上がった。そして自然に開始姿勢をとるカナイに、私は慌てて首を振った。


「わ、分かった。分かったから! からかってごめん」


 カナイは私が振り解いた手をひらひらと振りながら「分かれば良い」と壁に背を預けた。なんかカナイって付き合い自体は結構長いけど、正直、スキンシップ率は一番低いから、ただのダンスの練習とはいえ、ちょっと緊張する。


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