ちくたく、ちくたく
ちくたく、ちくたく。
音が響く。
音だけが響く。
真っ暗がり。
何も見えない。
光が差さないここで、私は一人きり。
ちくたく、ちくたく。
私と一緒にいてくれるのは、この時計だけ。
この時計すら止まったら、私はどうなってしまうだろう。
ちくたく、ちくたく。
じりりりりりりりりりり…
時間が来る。
また、うるさい警報のような音。
この時計が、私の居場所を外に教えてくれる音。
それでも、このドアは開かないの。
じりりりりりりりりりり…
でも、今日だけは違った。
光が、差した。
「…うわ。これはひどい」
「バケモノ屋敷の正体は、白骨の隠し場所か」
ねえ、お兄さん。
私を見つけてくれてありがとう。
「可哀想に…せめて、御霊のご安寧を願おう」
「よく頑張ったな…」
ねえ、お兄さん。
私はどこにいけばいいのかな。
「さて、依頼主の姫さんからもらった札を…」
あ。
温かい。
明るい。
あっちにいけばいいの?
「さて、俺たちは帰りますか」
「一応、匿名で通報してからな」
「こう言う場合って、匿名で通じるのかね」
「あとで話聞かれるかもなぁ」
ねえねえ、お兄さんたちは行かないの?
「…行かないよ」
「おい、バカ」
え、聞こえるの?
お兄さん、見える?
「…ほら、あっちだよ」
うん…うん!
いってきます!
またね、バイバイ!
「バイバイ。もう、会うことはないだろうけど」
「…バカ。だから、知らないふりをしろって」
「だって、あんな全身どろどろで」
「俺たちには関係ないだろ。こういう仕事だ、割り切れよ。だから見えるやつとバディ組みたくないんだよ」
「…ごめん」
地域で、忌み嫌われている廃墟。
バケモノ屋敷の正体は、親に捨てられた哀れな子の怨念がどろどろにとけて空気中に霧散したもの。
でも。
光が差した瞬間、どろどろはあの子だけになった。
怨念は、部屋のドアが開いただけで霧散した。
どれほど純粋な子だったのか。
どれほど優しい子だったのか。
でも、あれだけどろどろになっては光の方にはいけない。
そこで、姫さんからもらった札の出番だ。
姫さんの優しい力なら、どろどろになったあの子でも引っ張り上げてやれる。
姫さんは優しいから、その手の噂を聞くたび札を用意して俺たちに依頼する。
「…慈善事業じゃないんだからな」
「わかってるよ、先輩」
「分かってない顔してんだよなー」
最後にバケモノ屋敷のドアに姫さんが貼れと言ってた、余計なものを寄せ付けない札を貼る。
あとで来る警官のため、らしい。
「姫花さん、また報告を受けて泣くんだろうな」
「いっそ報告聞かなきゃ良いのに、姫さんも変わってる」
「それをテメェが言うかよ」
「…あー、今日は、前払い分の依頼料でおでん屋でも寄ろうぜ」
「この季節にやってるかよ」
「じゃあ…パーっと焼肉とか?」
「はいはい、お前の取り分からな」
姫さんの一回の依頼料は高い。
ちょっとくらい散財しても、バチは当たらないだろう。
「じゃあ、行くか」
「おう」
最後に一度、バケモノ屋敷に手を合わせてから車を出す。
来世があるなら、どうかまともな親の元に生まれますように。
「お母さん、お母さん!」
「みいちゃん!」
「お母さん、ずっと待ってたよ!でもお母さんもずっと待ってたんだね!」
「みいちゃん、迎えに行けなくてごめんね。お父さんがあんなことして、ごめんね」
「お父さんは…うーん。もう、いいよ。それよりお母さんが待っててくれて嬉しいよ!」
「ねえ、みいちゃん。みいちゃんは、お母さんがみいちゃんと一緒にこのままいくのと、離れてみいちゃんの分までお父さんに仕返ししてくるのどっちが良い?」
「お母さんと一緒に行く!」
「…そっか。うん、そうだね。一緒に行こうね」




