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待合室の哲学

作者: 香月由良
掲載日:2026/06/16

精神科病院の待合室は今日も長い。

一人一人に真剣に向き合う姿勢が人気を呼んでいる。いい意味で人間らしい先生の病院だ。

平気で4時間待つ時もあるがそこに苛立ちを見せる者は案外少ない。それほど人は救いを求めているのだ。

佐和子もその中のひとりだった。

幼きころのいじめ体験や家族の不幸で、ばらばらになってしまう家族の中で空元気で笑い続けながらリストカットを続けていた。それでも家族からは「ファッションリスカ」と見られていた。

人間なんて信じられない。だって自分のことすら信じられないのだもの。学校にすら休みがちの人間がまともに働く事ができるとは思えなかった。


転機が現れたのは大学の頃だった。

ロックバンドが好きだったことも影響して、思い切ってリストカットのあとにタトゥーを入れたいと恩師に話した。

恩師は笑いながらこう言った。


「そんなダサいことはやめろ。」

「お前はお前を大切にしろ。」

「その時の、中学時代のお前を抱きしめて、生きていくんだよ。」


涙がこぼれ落ちそうなのを我慢して笑顔で酒を交わす。

そうだ、人を愛するには自分を愛するのだ。

タトゥーを否定したいのではない。でも、傷口を隠すような真似はしたら、過去の否定になる。それは自分自身の否定ともなりうるのだ。


さぁ今日も歩いていこう。

肩で風を切って歩いていこう。

大丈夫だ、人間はひとりでは生きられないが、人間を救うのもまた人間であるのだ。


手を差し伸べてくれる人は必ず現れる。

大切なのはその手を見るだけの目があるかどうかなのだ。

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― 新着の感想 ―
冒頭の小説テイストの書き出しから、自然と語り手の内面に入って感情を感じられる小説と詩のハイブリッドな独特な表現が好きです。 精神科病院という重い単語の書き出しから、最後に自らの視野に問題の焦点を絞って…
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