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呪い呪われ回る矢印  作者: 南雲 皋
最終章《????》

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第十五話

 あたし、催眠術の才能があるかもしれない。


 何回か遊びと称して飲み会で友達にかけてみたり、じっくんにかけてみたりしたけれど完璧だった。よくある、椅子から立てなくなるやつとか、レモンを酸っぱく感じなくなるやつとか、みんな面白いくらいにかかってくれる。


「えー、就活しないで催眠術師になろっかな」

「ウケる」


 大学の友達とも、当たり前だけど普通に仲がいい。でもそれは上っ面だけどいうか、ビビっと来ることはあんまない。

 昔からの癖みたいなもので、誕生日や住所、電話番号は一回聞いたら暗唱できるようになっちゃうけど、別にそれをどうこうしたりはしなかった。

 普通の友達の範疇(はんちゅう)から出たりはしないし、機材を使ってまで情報を集めようって気にはならない。


 やっぱ、ゆーちゃんとじっくんが特別大好きなんだな。

 あたしはそう実感した。


 一ヶ月ちょっと練習したあたしは、ついにじっくんへ本番の催眠術をかけた。『花畑ゆりあと交際して、子どもをつくれ』って。それともうひとつ、『花畑ゆりあのことは妻には隠せ』ってのも付け加えとく。

 まあ、あの奥さんのことだし妊娠させる相手が一人増えたところでどうってことない感じはあるけど、隠しておけるならその方がいいかなって思って。


 ゆーちゃんがじっくんと付き合ってくれるかは賭けだけど、ゆーちゃんのことだからあたしのためにそうしてくれる可能性は高かった。

 ゆーちゃんも、あたしのこと大好きだもんね。嬉しいなあ。


 付き合ってさえくれれば、あとは力技でも何とかなるかなって思う。成人男性の本気の力にゆーちゃんが叶うわけないし。


 普通にナマでえっちしてくれたらそれでいいんだけど、たぶん無理だろうからほとんど期待していない。ゆーちゃんの生理周期は把握してるから、排卵日に合わせてゴムに細工をしておこうと思っていた。

 なるべく同じタイミングで妊娠したいけど、そればっかりはどうにもできないよね。あたしとゆーちゃんの排卵日も同じじゃないし。


 勉強には全然活躍してくれないあたしの脳みそだけど、好きな相手の情報ならいくらでも暗記できた。好きじゃない相手のものも、ある程度はつい覚えちゃう。だからまあ、日本史とか世界史とか人物の背景を丸暗記してたらある程度いける系の科目は割と成績が良かったんだけど、それ以外はマジでカス。

 勉強にも活かせてたら、今頃ゆーちゃんとルームシェアして一緒の大学に通って、そしたらゆーちゃんにも催眠術かけて三人で子作りするのもありだったのにな。


 でもゆーちゃん、あんまり催眠術かからなそうな感じあるかも。

 結局、世の中思い通りにはいかないもんだよね。

 なんかそういう意味の熟語とかことわざがあった気がしたけど、全然思い出せなかった。


 少しして、じっくんがゆーちゃんと付き合い始めたことが分かった。じっくんから聞いていたから、それとなくゆーちゃんにも確認してみたけど案の定秘密にされた。

 でもちょっと突っつくと彼氏ができたってことは教えてくれて、可愛かった。


「いつか会わせてね!」

「うーん、まあ、いつかね」


 大丈夫だよ、ゆーちゃん。あたし全部知ってるからね。そう言えたらいいのかもしれないけど、自分から打ち明けるつもりはない。

 もしゆーちゃんから問い詰められたら嘘はつかないつもりだけど、ゆーちゃんにドン引きの目で見られたらあたしツラすぎて死ぬ。


 ゆーちゃんのことだから、どこかのタイミングでじっくんに奥さんがいることは気付くだろうなと思っていた。

 じっくんに独身男性と思い込むよう指示してもよかったんだけど、そんなに重ね掛けして上手くいく保証はなかったし、たとえ本人が隠そうとしても、持ち物とかスマホの中身とかでバレる可能性は大いにあった。


 それならわざわざじっくんに負担をかけることも、賭けに出ることもしない方がいいなと思ってそのままにしていた。そもそも、じっくん自身が既婚者であることを隠してあたしに近付いたわけだし、あたしが何も言わなくても同じようにゆーちゃんに言い寄ってくれるだろうと思って。


 そんなわけで初めのうちはただの二股男だったじっくんだけど、数ヶ月経つとゆーちゃんの中で不倫二股クソ野郎にレベルアップしたらしかった。(盗聴器から聞こえるゆーちゃんは口が悪くて面白い)


 奥さんがいるって知ったゆーちゃんが何をするのか、あたしはめちゃくちゃ興味があった。じっくんの二股も奥さんも知らないフリをしてるあたしに、それとなく忠告してくれたときは嬉しくて顔に出ちゃいそうだった。


 さらっと聞き流したら、それ以上強く言ってくることはなかったし、じっくんに奥さんがいるっていう事実はあたしには教えないつもりらしかった。

 それってあたしを気遣ってくれてるってことだよね。思いやりだよね。優しい。好き。


 それからどうするのかなって思っていると、ゆーちゃんは予想外の方向に走り始めた。

 奥さんを、呪おうとしたのだ。


 呪いって、上手くいくのかな?

 あたしはとりあえず見守ってみることにした。奥さんがいなくなったら、それはそれで都合がいいし、ゆーちゃんが直接奥さんを殺しに行くとかじゃないからいいかなって思って。


 ただ、あたしはあたしで、何かあってもいいように準備をしておくことにした。


「これ、一冊ください」

「ありがとうございます、五百円です」

「あの、サインもらってもいいですか? 前に買った本も持ってきてるんですけど……」

「えっ、サ、サイン……?」

「はい! ()、サンバさんの大ファンで!」


 サンバさんの好みの女の子は知っている。清楚な黒髪、色白で、控えめなんだけど好きな相手にはちょっとグイグイくるところもある、素直な可愛い女の子。


 ここのところ日サロに行けてなくて、ファンデでゴリゴリに塗りたくってたからちょうど良かった。

 あたしはウィッグと、普段はしないナチュラルメイクでサンバさんの好きな女の子になりきった。自尊心と承認欲求をくすぐって、分かりやすくアプローチしたらすぐに落ちた。


 何度目かのデートの約束をしているときに家に行ってみたいと言えば、少し悩んだ後でオッケーしてくれる。あたしは呪物だらけのサンバさん……二木(にき)さんの家で、ゆーちゃんが今頑張って作っているらしい呪いのぬいを見つけた。


「これって、呪いのぬい?」

「ん? ああ、そうだよ。ごめん、この間掃除した時に出してそのままだった。キモいっしょ」

「ううん、本で見たやつだからちょっと嬉しい。ねえ、これって本当に効果あるの?」

「どうだろう。俺はいつも不完全なやつしか作らないし載せないから」

「不完全?」


 あたしは首を傾げた。じゃあこれは、ゆーちゃんが今作ってるのは偽物ってこと?


 話を聞くと、どうやら二木さんは万が一本物の呪物ができてしまっても人が死んだりしないように、何ヶ所か改変しておくようにしているらしかった。


「そっか、優しいんだね」

「や……そんな、ことは」


 それから呪いについて話していって、呪詛返しというものを知った。人を呪わば穴ふたつ。相手に向ける呪いの力が大きければ大きいほど、それが跳ね返って自分に戻ってきたときに大変なことになるって話。


 その話を聞いて、あたしの中に何となく浮かんだものがあった。まだちゃんとした形を持っていたわけではなかったけど、それに必要なものだけは分かっていた。


 あたしは裸の二木さんの上に(またが)って、いっぱいよがってみせた。二木さんが何回もイってヘトヘトになって、ちょっとぼんやりしてるところに聞いてみる。


「もし二木さんが呪われちゃったとしたら、誰か助けてくれる人、いるの?」

「御門先生かな……」

「え、それって御門大門?」

「そうだよ」

「……ありがと。それじゃあ、またね」


 あたしは二木さんを寝かし付け、家を出た。


 御門先生、御門大門先生ね。

 あたしは笑っちゃうのを(こら)えきれなかった。


 夜道を歩きながらクスクス笑うあたしを、すれ違う人が見る。酔っ払いだと思われているみたいだったけど、それでも笑いは止まらない。


 ゆーちゃんのオカルト趣味を知ったばかりの頃、ホンモノの霊能者って人に会ってみたいと思って調べたのだ。


 御門大門先生は大々的に何かをやっているタイプではないようで、検索してもあんまりヒットしない。この人は本物だ!みたいな口コミが数件見つかるだけの人だった。


 逆にそれがガチっぽくて、あたしはその人について調べることにした。少し潜って調べるとあたしにとってはラッキーな情報が出てきた。


『大御所っぽいツラしてるけど、ただの破戒僧だから。酒の量もヤバいけど、女好きすぎて』

『なんで普通に仕事してられんの?界隈に女まわしてる?』

『あれでホンモノなのが厄介なんだよな』


 可愛い女の子に産まれてよかった。使えるものは使えるうちに使わないとね。


 御門先生の好みについて調べている最中、先生と関係を持ったっていう何人かの女の子と友達になった。

 その子たちはみんな心霊現象に悩まされてて、御門先生に助けてもらったらしい。でもその後めちゃくちゃな料金を請求されて、お金を払う代わりに何回か寝たんだそうだ。


 その中のひとりがまだ御門先生と繋がってて、可愛い女の子を紹介すると借金が減るんだって嬉しそうにあたしに言った。

 そーゆーとこなんだろうなって思った。


 先生はギャルが好きだっていうから、おじさんが想像するレベルのギャルメイクで行くことにした。

 結局、先生はあたしのことをめちゃくちゃ気に入ってくれて、ちょくちょく誘ってくるようになった。オカルト関連の話を聞こうとしても、セックスのことしか頭にないみたいで何だよって思ってたんだけど、まさか二木さんが頼りにするような人だったなんて。


『みかどせんせ、久しぶりに会いたいな♡』


 メールを送るとすぐに電話が掛かってくる。今から家に来てくれとか、どんだけだよ。

 まあ、あたしの役に立ってくれるなら、お礼くらいはするけどね。


 あたしは一回家に帰ってメイクを変えると、御門先生のところに向かうのだった。

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