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呪い呪われ回る矢印  作者: 南雲 皋
最終章《????》
18/28

第十四話

 好きな人のことは、ぜーんぶ知りたいの。

 それって、当たり前じゃない?


「笑歌ちゃん、なんでわたしのおうち知ってるの……?」

「昨日帰るとこ見てたから知ってるよ!」

「やめてよ! そういうのストーカーって言うんだよ!」


「え、私ワンキュル好きって言ったっけ……?」

「ワンキュルが出てくる時だけ嬉しそうなの見てたし!」

「なにそれ……キモ……」


 好きになった人のことは何でも知りたくて、いっぱい観察して追い掛けた。あたしにとっては当然のことだったのに、どうしてか周りのみんなは私から離れていく。

 好きな子の写真をこっそり撮って、通学ルートを把握して、好きなキャラのグッズをプレゼントして、もっともっと仲良くなりたいだけなのに、どうしてあたしが嫌われるの?


 あたしの行動は一般常識的にはおかしいんだなって理解してからは、上手くやるようになった。バレないように、勘付かれないように、自然に思われる程度に。周りの人たちが「それ好きだよね~」って話すのに乗っかって、ああ、ここまでなら出していいんだって学んでいった。


 ゆーちゃんとは高校に入ってから出逢った。全然タイプの違う子だと思ったけど、どうしてかウマが合ってめちゃくちゃ仲良くなって。


 本当は一緒の大学に行きたかったけど、あたしの頭が足りなくて無理だった。同じ塾に通って、同じ参考書を使って、同じペースで勉強してみたけど、やっぱり元々の頭の良さが違うんだね。あたしじゃゆーちゃんみたいにはなれない。当たり前だけどさ。


 一人暮らしをするんだって聞いたから、流れでルームシェア的なことを持ち掛けようかとも思ったけど、そこまで近い大学ってわけでもないから不自然かなと思ってやめた。


 代わりに盗聴器入りのぬいぐるみをプレゼントした。「あたしだと思って大事にしてー!」って渡したら笑ってくれた。カメラも仕込みたかったけど、レンズを上手いこと隠せなくてちょっと不自然になっちゃったから盗聴器だけで我慢した。

 まあ、声を聞けばゆーちゃんの顔はバッチリ思い浮かぶからそれでいいかなと思った。


「ホントに大事にしてくれてるじゃーん!」

「言うな、恥ずい」


 ゆーちゃんは律儀にぬいぐるみをタンスの上に置いてくれていた。アクセサリーをぶら下げるやつとか、メイクポーチとかに混じって、可愛いうさぎのぬいぐるみが座っている。

 ちょっと高い位置にあるから、部屋全体の音が拾えた。ゆーちゃんの生活音をイヤホンで聞きながら過ごす毎日は楽しかった。


 大学に入って少しして、街中を歩いている最中にナンパされた。

 あたしはゴリゴリのギャルだから、そうそう声を掛けてくる男なんかいなくて、しかもそれが割と真面目そうなサラリーマンだったから余計にびっくりした。

 なんであたしなんかに声掛けるんだろうって興味が沸いて、お高いカフェに誘ったらオッケーされたからついていった。


 めちゃくちゃ美味しいロイヤルミルクティーを飲みながら、その人と話す。

 原沼丈司って名前を聞いて、「じゃあじっくんで」って言ったら目を丸くしていたっけ。

 その顔がなんかすごいツボって爆笑したあとで、あたしはじっくんと連絡先を交換した。


 じっくんはまともな大人の男の人って感じなのに、時々ちょっと変になる。

 一緒にご飯とか食べてるときは普通なのに、夜の街を歩いてると露骨にホテルに誘ってきたり。

 あたしってそんな軽い女だと思われてんのかな?って思ったけど、「今はそーゆー気分じゃない」って言うとすぐに諦めるから、あたしを試してるのかもしれないって思った。


 それからしばらく一緒にご飯食べたり映画見たり遊びに行ったりして、これってもう付き合ってるくね?って思って口に出したら、「じゃあ付き合おう」って言われてカップルになった。

 「好きです、付き合ってください」って、そういうのから始まるのが恋愛だと思ってたけど、意外とそうでもないらしい。

 まあ、じっくんと一緒に過ごすのは楽しかったし、ありかなって思って頷いた。


 付き合うってなったら、まずはGPSかな。そう思ってあたしはじっくんのカバンにこっそりGPSを仕込んだ。


 大好きなじっくん。

 今まではただの遊び相手だったから踏み込まなかったけど、彼氏になったんだもん、もういいよね。全部教えてもらわないとね。


 おうちも、働いてるとこも、好きなものも嫌いなものも全部教えてね、じっくん。


 その頃にはゆーちゃんのことはもうほとんど知り尽くしていたから、新しい相手が見つかってあたしはテンションマックスだった。知らないことを知っていく感覚ってめちゃくちゃ()()んだけど、分かってくれる人いないかなあ。


 まずは行動範囲を教えてもらって、それから写真を撮りに行くのと盗聴器。

 いきなり全部知っちゃうのは面白くないから、徐々にステップアップしていこう。


 じっくんの住んでるとこと働いてるところはすぐに分かった。というか、他にどこにも行かなかった。

 家と、職場と、それからあたしと遊ぶ場所、その三ヶ所だけがじっくんの行動範囲だった。


 普通、もっと色んなとこ行かない?


 私服を買いに好きなブランドのお店に行くとか、好きなものを食べにお気に入りのご飯屋さんに行くとか、そういうところからその人の好みを知っていくのが面白いのに、じっくんはそういうのが全然ない。


 買い物は全部通販で済ませて、ご飯は全部自炊ってこと?


 SNSにアカウントを持ってないかもチェックしたけど、それっぽいアカウントは全然見つからないし、GPSを仕込んだだけではじっくんのことはほとんど分からなかった。

 そんなことは初めてで、あたしはかなり困惑した。


「マジ~~?」


 あたしはじっくんと次に会う約束をして、それからゆーちゃんの家に仕掛けてある盗聴器の方を聞いて癒された。

 ゆーちゃんは可愛いなあ。相変わらずオカルトが好きなんだね。

 あたしにそれを隠してるのも、ゆーちゃんの性格が出ててめちゃくちゃいい。

 いつカミングアウトしてくれるのかなって思ってるけど、ずーっと秘密にされてるままなのも、それはそれでいいなって思う。


 ゆーちゃんのSNSアカウントも、すごくいい。

 ゆうゆうって名前なのもそうだし、フォローしてるのが軒並みオカルト関連の人ってのも素直で可愛い。

 あんまり交流するタイプじゃなくて、人の投稿を拡散したり、いいねって反応をするくらいなところも大好きだった。


(交流するタイプだったらヤバかったな~、あたしもオカルト垢作ってめっちゃ活動しなきゃってなるとこだった)


 一応、そういうときが来ても大丈夫なように、オカルト系が好きという設定で作ったアカウントはある。ゆーちゃんがフォローしてる人は全員フォローしてるし、好きそうだなって思う人も時々チェックしてフォローしている。

 ゆーちゃんのアカウント自体はリストに入れて見ているだけで、直接の繋がりはないけど、いつかあたしのアカウントを見つけて、フォローしてくれたら嬉しいなと思っていた。


 今日もゆーちゃんが拡散したサンバって人の投稿をチェックする。ゆうちゃんは特にこのサンバって人がお気に入りらしくて、この人が個人的に出した本も買うくらい好きみたいだった。

 バレないようについて行って、ゆーちゃんの買った本は全部買ったけど、確かにこの人の本が一番読みやすくてよかったな。あたしにも分かるくらいに簡単な言葉で書いてあったし、写真も多くて面白かった。


 じっくんの中身が見えないモヤモヤをゆーちゃんで癒しつつ、次に会った時に盗聴器を仕込んだ。これでさすがに今よりは情報が得られるだろう。


 家に帰ってからウキウキで盗聴器から聞こえる音声をチェックし、あたしはじっくんに奥さんがいたことを知った。


「は?」


 意味が分からなかった。どういうこと?

 キコンシャのくせしてあたしにあんなアプローチしてきたってこと?

 混乱していると、更に理解できない会話が続く。


『笑歌って子は? 最近どうなの? セックスはできた?』

『まだ、できてない』

『大丈夫? できそうなの?』

『何回か誘ったけど、難しくて……。でも、恋人同士ってことになったから、もうすぐできると思う』

『早くしてね。早く妊娠してもらわないと』

『うん、早く妊娠してもらおう』


 訳が分からな過ぎて、聞き間違いかと思った。でも、録音した音声を何回再生してみても、あたしを妊娠させようとしているってことに間違いなかった。


 夫婦なのに? なんで?


 そのあとも何回か会話を盗み聞きしていくと、どうやら奥さんは妊娠できない身体で、少し前に亡くしてしまった自分たちの子どもの魂をあたしが妊娠した子どもに宿して産ませたいってことらしかった。

 なにそれ。キモ。


 ゆーちゃんの影響であたしもそれなりにオカルトに触れてきたけど、自分の子どもの魂を別の子どもに入れるなんてこと、本当にできるんだろうか?

 奥さんはできるって完璧に信じ込んでいて、じっくんに言い聞かせている言葉を聞いていると本当にできる気がしてくるから怖かった。


 しかも奥さんは、じっくんにそれを無理やりやらせてた。催眠術ってやつだと思うけど、本当のじっくんは奥さんと亡くなった子どものことだけを大事にしたいっぽいのに、奥さんに命令されて別の女を妊娠させなきゃって思いこまされてるらしい。


 エグすぎっしょ! 

 あたしも自分のこと割とやべーって思ってたけど、なんだ。上には上がいるんだね。世の中ってひろーい。


 どうしたもんかなーって考えてるうちに、あたしは(ひらめ)いた。

 子どもの魂とかどうとか、その辺はよく分かんないけど、これって上手くやればあたしとゆーちゃん二人してじっくんの赤ちゃんを産むってことができるくね?と。


 それって、めっちゃいい。

 ゆーちゃんとの間に子どもは作れないけど、同じパパの子を産むことはできる。

 普通の男ならそんなこと実現できるわけないけど、じっくんならそれができる。

 だって、若くて健康な女の子を妊娠させなきゃって思いこんでるんだもん。


「名案じゃん! 待っててね、ゆーちゃん。ゆーちゃんもじっくんのこと好きになってくれるといいんだけど……うーん、ゆーちゃんに彼ぴだよって紹介しなきゃよかったなー……でもまあ、とりまやってみるのが吉! 今月のあたしは星占いの運勢第1位!」


 そうしてあたしは、まず催眠術の勉強を始めるのだった。

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