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第19話:目覚めと邂逅(2)

 夜がようやく明けようとする頃、リュカは突然目を覚ました。


 暖炉の火はすでに消え、部屋は冷え切っていた。彼女は急いで立ち上がり、窓の外を見た。まだ暗い。彼女は調理帳を大切に棚に戻し、市場に行く準備を始める。


 深く眠りすぎてしまったが、まだ仕入れの時間に間に合う。


 「銀の厨房」と書かれた小さな木製看板がかかる店の戸口から、一人の獣人の少女が静かに出てきた。首からぶら下げた市場用の布袋を確かめながら、彼女は朝の仕入れに向かう支度をしていた。


 空はまだ暗く、星々が徐々に消えていく程度で、日の出にはまだ間がある。


 わずかな魔導灯の光だけが通りを照らし、遠くからはパン屋の窯を焚く音や、市場へと急ぐ荷車の車輪の音が聞こえていた。早起きの商人たちは、薄暗い中で店の準備を始めていた。


 リュカは頭巾を深く被り、腰に巻きつけた尻尾をそっと確認してから、市場へと向かった。獣人であることを目立たせないための習慣だった。


 今日の仕入れは久しぶりのことだ。王宮での奉公期間中、店は閉めていたが、今日から再び開店する予定だった。昨日受け取った給金で税金を支払い、残りを今日の仕入れに使う計画だった。


 養父の形見である「銀の厨房」を守るため、彼女は再び日常を取り戻そうとしていた。


 明け方の冷気が頬を刺し、リュカの鼻先から白い息が漏れる。彼女の獣耳は頭巾の下でも周囲の物音を鋭敏に捉えていた。朝の商人たちの準備の音、路地裏の猫の足音、遠くから聞こえる馬車の轢音──すべてが彼女の耳に届く。



 その時、彼女の耳は不協和音を捉えた。



 市場への近道である細い路地から聞こえる浅い呼吸と、かすかな呻き声。獣人特有の聴覚で、リュカはその音が単なる酔いつぶれた人間のものではないことを察した。


 本能的に足を止め、リュカは音の方向を見つめた。

 通常なら関わらないことだ。日が上らない東区は危険な場所で、特に人気のない時間帯は。しかし、この呻き声には何か彼女の心に引っかかるものがあった。


 暗闇の中、狭い路地を覗き込むと、石畳の上に横たわる若い男性の姿が見えた。うっすらと差し込む朝の光に照らされた彼の服装は、東区の住人のものとは明らかに違っていた。もう少し上質な布地で仕立てられ、色合いも異なる。何か変わった模様の革袋も傍らに転がっている。


「大丈夫……ですか?」


 慎重に近づきながら、リュカは小さな声で尋ねた。男は顔を上げようと試みたが、再び地面に倒れこんだ。意識が朦朧としているようだった。酒の臭いも感じられたが、それだけではない。何か──彼が傷ついているような気配があった。


 まだ若いのに、誰かに騙されたのか。さらに、東区では暴力事件が増えている。このまま放っておけば命に関わるかもしれない──。


 本来なら通り過ぎるべきだった。しかし、リュカは思い出していた。かつて雨の日、倒れていた小さな獣人の子供を拾い上げた養父の大きな手を。「腹は減っているか?」という、あの日の最初の言葉を。


 彼女の決断は瞬時に下された。この青年を放っておくわけにはいかない。リュカは彼の腕を肩に回し、自分の小さな体で彼を支えた。男は彼女よりも頭一つ分背が高く、重かったが、獣人の筋力であれば彼を持ち上げることができた。


「銀の厨房まで、少しだけ……」


 彼女は男を励ますように声をかけたが、彼の意識はすでに遠のいているようだった。リュカは石畳を一歩一歩、慎重に歩き始めた。頭巾が滑り落ち、褐色の獣耳が朝の冷たい空気に震える。急いで店に戻る彼女の心臓は早鐘を打ち、嗅覚は緊張で研ぎ澄まされていた。


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