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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
6章:恋は物事を円滑に進めるための起爆剤

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くちびるに、柔らかな感触

「この雨の中をですか!?」


自殺行為じゃなくって!?

ほぼ悲鳴のような声を出すと、ウェルノーが肩を竦める。


「リアン殿下に魔法をかけていただきましたので、ご心配には及びません。すぐ戻りますよ」


「魔法……。いえ、でも」


「山は日が暮れるのが早いんです。杞憂に終わるならいいのですが、日が沈んでからここを出るのはもっと危険ですから」


「リアン殿下……」


彼の言葉に、私は頷いて答えた。

そもそも、彼らの選択を拒否する立ち位置に私はいない。


私が頷いて答えると、ウェルノーたち三人は顔を見合せ、こくりとひとつ頷くと、そのまま小屋を出ていった。


呆然と彼らの後ろ姿を見ながら、私はふと気になったことをリアン殿下に尋ねた。


「……魔法、というのは?」


「五大属性魔法のうち、水、風の魔法を少し。光魔法で防御の効果も付与したので、短時間なら問題ないと思います」


「水、風、……。五大属性魔法は他には?」


「残りは雷と木と火です。……それより、フェリシア。寒くないですか?」


「お気遣いいただきありがとうございます。問題ありませんわ」


狭い小屋だ。

小屋の中には、今の季節は使われていないであろう暖炉と、簡易キッチンが併設されており、木製のコップがふたつ、雑巾が数枚、大判のタオルが一枚、丁寧に畳まれ、置かれている。


燭台があったので、それに火を灯す。頼りない光源が、室内をゆらゆらと照らす。

リアン殿下は大判のタオルを手に取ると、私に手渡した。


「どうぞ」


「……先に殿下が使ってくださいませ」


皇族を差し置いて使うとか、気が咎めるどころの話ではない。

遠慮すると、リアン殿下が苦笑する。

馬車を降りて、小屋に入るまで僅かな間だったとはいえ、大粒の雨だ。

かなり濡れてしまった。

それはリアン殿下も同様で、彼の毛先からポタポタと水滴が滴り落ちていた。


「殿下が先にお使いください」


さらに言い募ると、リアン殿下がにっこりと笑って言った。


「うーん……。それじゃあ、こうしちゃおう」


「わっ……!?」


リアン殿下は、なんと私の頭にタオルを乗せると、水気を拭き取り始めた。


「すみません。このままだと埒が明かないと思ったので」


「ごっ……強引ですわ!それに、リアン殿下だって濡れていますのに!」


「俺は慣れてますから。滅多に風邪も引きません。それより、フェリシア?あなたの方が体調を崩しそうだ」


そこまで言われたら、拒否するのは逆に失礼だ。そう思った私は、有難くリアン殿下の心遣いに甘えることにした。

私が拭き終えると、だいぶタオルは湿ってしまったが、それに構わずリアン殿下は額や首筋を拭き始めた。

それから、彼はなんてことないように──いや、彼にとっては事実、世間話なのだろう。私に尋ねてきた。


「フェリシアは、これからどうしたいですか?」


「どう……」


「まだ、聞いていませんでしたね。あなたがこれからどうしたいのか、俺はそれを知りたい」


外は、変わらず土砂降りの雨だ。

それを聞きながら、私はそっと、雨音に耳をすませた。雨の音は、ほんの少し気持ちを感傷的にさせた。


「……帰らなければ、と思います」


「帰らなければ?」


リアン殿下が、首を傾げて尋ねてくる。

それに、私は苦笑して、壁に背を預けた。


「私は、この国の……今の時代の人間ではありません。私が生きる時間は、五百年前……ツァオベラー王朝です。この世界において、私という存在は異分子にほかならない」


「誰がそのようなことを?」


「誰も。ただ、私が思うのです。私は、ここにいてはいけない、と。本来私は、この時代にいるはずのない人間です。その私がここにいることで、本来起こりえない何か、が起きてしまうことを……私は、恐れています」


リアン殿下は何も答えなかった。

彼はいつも緩く纏めている髪を解き、タオルで水気を取り始める。

僅かな沈黙の後、ハッと私は我に返った。こんなことを言って、私は彼にどんな返答を求めているのだろう。

彼の立場では、私の存在を認めるのも難しい話だ。

何せ、私は今の時代(ルーモス帝国)を揺らがしかねない、不穏分子。皇族の彼としても、存在を容認はできないはずだ。

そう思って、取り繕おうと口を開いた、その時。


ガタガタ!!と一際大きく窓が音を立てた、と思いきや。

ガタァン!!と窓が勢いよく開いた。恐らく、風の強さに押し負けて、蝶番が弾け飛んだのだろう。それと同時に、外から突風が吹き込んできて──


「きゃああああっ!?」


フッ、と燭台の灯りが消えた。

途端、小屋の中は真っ暗になる。


(な、何も見えない……!!)


特別、暗闇が苦手というわけではないけれど、今は話が別だ。何しろ。


──ガッシャアアアン!!


その時、この世の終わりのような音がふたたび響き、ステップをふむように飛び跳ねた。


「ワッキャァアアア!?」


「フェリシア、落ち着い──」


「おおお落ち着けませんわだって今、とても近かったですわよね!?光っ……光ッッ!!」


もはや、私は自分が何を言おうとしているのかすら分からない。

リアン殿下の落ち着かせようとする声が僅かに聞こえるが、それよりも私の意識は──窓の外から響く、雷の音にあった。

自然の力は恐ろしいものだ。海も山も、そして雷だって恐ろしい。


(音だけなら、そんなに怖がる必要ないじゃない、と思うわよね?そうよね。私もそう思う)


だけど前世──私は見てしまったのだ。

長期休み。祖母の家に遊びに行った。山の多い所だった。私は裏山で遊んでいて──突然雨が降ってきて──そう。

目の前の木に、雷が落ちたのである。落雷した。

あの時の恐怖は、絶望は、言葉では言い表せられない。この世の終わりのような地響きがして、劈くような暴力的な音がして、木がメリメリ言って──あれから、私は雷が苦手だ。


(この世界、避雷針ってあるのかしら!?多分ないわよね!?見たことないもの!!)


もし──そう、もし。

この小屋に、雷が落ちたら??


(端っこ……隅は危険!!)


側撃を受ける。心肺停止?熱傷?

あの時見た、大木を思い出す。ミシミシって、ミシミシって言ったのよ……!!


恐怖に突き動かされるように、私はハッと自身の立つ場所を見た。


(……壁際!!)


「──ッ!!」


ムンクの叫びのように両頬を挟んでから、瞬間的に、私は動いていた。リアン殿下の手首を掴んで、そう、とにかく真ん中。

小屋の真ん中を目指したのである。

後から思えば、リアン殿下は光魔法を使えるのだから不要な心配だったのだけど、その時の私はとにかく頭が回っていなかったのだ。

その時の私は、落雷を受けた大木と、その音。そして、過去の大雨の記憶しかなかった。


「フェリシ──」


私に手首を掴まれたリアン殿下が、ふたたび私を呼ぼうとしたその時。

またしても、落雷が落ちた。


──ドッゴオオオン……ダアアンッ!!ゴオオオンッ!!


(!?近……いどころでは、ない!)


音と光からして、恐らく至近距離──。


「〜〜〜〜ッ!?!?」


(近付いてきてる!着実に近付いてきてるわよね!?)


次は何!?私に落雷するのかしら!?!?

悲鳴のような声がこぼれて、足がもつれた。

咄嗟にリアン殿下が私の手首をつかん、で?


「きゃっ」

「うわっ」


バランスを崩したのか、リアン殿下に引っ張られ、私も勢いに任せてそのまま倒れ込んだ。

恐らく、リアン殿下の上に。


その瞬間。ちゅ、とくちびるに、柔らかな感触が触れた──気がした。

◇お知らせ◇

本作ですが、

2025/12/15 ブシロード(コミックグロウル)からコミカライズが連載開始予定です!

私も一読者としてとても楽しみです!

ぜひご確認ください、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
更新、お待ちしておりました〜。パチパチパチ(拍手のつもり)。
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