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女たらしなのでは? 〔再〕



馬車を降りた私は、リアン殿下に促されて周辺の屋台へと赴くことにした。

ステップに足を乗せ、湖周辺のほとりに降り立つ。

周囲は木々に囲まれ、枝葉の遠い向こうに、うっすらと空色の湖が見える。


恐らく、あれが観光名所の湖なのだろう。


地面は柔らかい草葉。


(歩きやすい編み上げブーツで来たけれど、気をつけて歩いた方が良さそうね……)


そんなことを考えていると、リアン殿下が私に手を差し伸べた。


「フェリシア、どうぞ」


「……ここは屋外ですし、目立ちますもの。ご好意だけありがたくいただきますわ」


「そうですか?ですが──」


リアン殿下に断って歩き出そうとした、次の瞬間。


ズベッ!!


「!?!?」


……と見事なまでの擬音がつきそうなほど豪快に滑った。


(……踏んだ草葉が!!

土が!!濡れてる!?)


何で濡れてんのよ!?!?


滑った右足はチアダンスもかくやという勢いで天を指し──ぐるっとその場で半回転。

重力に従い、そのまま頭から転倒しそうになったところで。


「っ……!」


背中をさらうように強い力で引き寄せられた。

引き寄せてくれたのは、隣に立っていたリアン殿下である。


彼のおかげで、私は到着直後に泥まみれ!という不幸は避けられたのだった。


「…………」

「…………」


彼を見ると、リアン殿下はなにか言いたそうな──そう、『だから言ったのに』というような。

困った子供でも見るような目で私を見ていた。


(はっ、恥ずかし……!!)


ボンッと頬が焦げたように熱を持つ。

幼少期ですら、こんな派手な転げ方はしなかったわ!?

苦笑を浮かべるリアン殿下にじわじわと頬、耳、首といった場所にまで熱を持つ。

じわじわ羞恥心を覚えていると、苦笑交じりにリアン殿下が言った。


「……この辺りは山の近くなので、天気が急変しやすいんです。昨夜も、雨が降ったばかりですので、歩き慣れていないと転んでしまうかと思ったのですが。すみません、先に言うべきでしたね」


「…………お気遣い、ありがとうございます」


欲を言うなら、断る前に教えて欲しかった……。


リアン殿下は私の返答にまた苦笑すると、ゆっくりと私の背から手を離した。


「怪我はありませんか?」


「大丈夫です。助けていただいてありがとうございました。せっかくの観光名所なのに、楽しめないところでしたわ」


言ってから、付け加えるように、さり気なさを装って私は口を開いた。


「……あの、私はツァオベラー国で特別お転婆であったとか、豪快な性格だった、とかそういうわけではありませんのよ?むしろ、かなり大人しい部類だったと思いますし……。王太子殿下の婚約者だったのですもの」


しかし、何を言っても言い訳にしか聞こえない。


(嘘を弁明しようと取り繕っているようにしか聞こえないわね、これ……!)


これ以上言葉を続けるのは逆効果だろう。

失態を重ねる前に、と私は口を閉じることにした。

リアン殿下は私の言葉を聞いて、また微笑んだ。


「フェリシアは、見ていて飽きない方ですね」


「エッ」


それは珍獣……的な、動物園の動物を見る、というような意味合いで!?


頭の中に、動物園の檻の中で一発芸を披露するゴリラと、ひょいひょいと頭上の柵を掴んで身軽に移動するチンパンジーの姿が思い浮かんだ。


(そんな面白芸は披露していないはずなのだけれど……!?)


ちなみに私に一発芸のような特技はない。


(動物園に入れられたとして、チンパンジーやゴリラの集客力に勝てる気がしないわ……)


そんな的外れな思考が瞬間的に流れた私は、ハッとしてリアン殿下の方を見た。


しかし、彼はその時には既に遠方に視線を向けていた。


「天気がいいうちに昼食を調達しましょう。雨が降ると、屋台も店仕舞いしてしまいますから」


「……はい」


彼の中では既に終わった話のようだった。

わざわざ掘り返すこともできず、私は大人しく頷いた。


先程の二の舞にならないよう、有難くリアン殿下の手を借りて、歩き出す。


そして、先程のリアン殿下の言葉を考え、すぐに答えを得た。


(あっ、観察対象として、ってこと……!)


リアン殿下は魔法オタ──もとい、魔法学に関心の深い方。

私のような異分子(イレギュラー)は見ていて飽きないのだろう、観察対象として。


そうよね、流石に王朝が違うとはいえ貴族の娘を動物園の動物に見做したりはしないわよね。


うんうん、良かった。

それに内心安堵していると、同時に込み上げてきた感情があった。


「…………」


思わず、まじまじとリアン殿下を見てしまう。


「……何か?」


彼が、私の視線に気が付いて首を傾げる。

長い金髪が、さらりと揺れた。


「……いえ。屋台、楽しみですね」


そう答えながら、私はひとつ確信を強めた。


(リアン殿下って……

女たらしなのでは……??)


さっきのセリフも、思わず前世で見た動物園の記憶が駆け抜けたけれど、口説き文句と捉えるひとだっているはずだ。


(だって、さっきのってつまり)



『おもしれー女だな』発言じゃなくって……!?!?



リアン殿下にその気は全くないのかもしれないけど!!



(このひとは!!勘違い製造機だと思うの!!)



リアコ製造機!!

前世で多用していた言葉がパッと頭に浮かび、私はそんな文句(フレーズ)を思わず(心の中で)口走った。


そんな私たちの後ろを、マシュー、ザックス、ウェルノー、マーカスの面々が護衛のため続いている。


彼らの意見も聞いてみたいほどだ。

きっとリアン殿下は、ガチ恋を生み出したのは彼女(マグノリア)が初めてでは無いと思う。


(……後で、こっそり聞いてみようかしら)


そんなことを考えていると、屋台はもう目前だった。


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