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感情の整理は必要です

マグノリアが私の前に姿を見せたのは、リアン殿下からお誘いを貰った二日後のことだった。

ちなみに、未だに私は飴玉石から飴を出すことはできてない。

もう無理なんじゃないかとうっすら、諦めを覚えつつある。


マグノリアは私の部屋を訪れたものの、話を切り出すことはせず、黙り込んでいた。


泣いたのだろう。

その目元は赤く腫れぼったい。


メイドがティーセットを配膳し終えても、マグノリアは黙り込んでいた。


やがて、淹れられた紅茶が温くなってきたあたりで、マグノリアは重たい口を開いた。


「……婚約が、決まったの」


それは、とても小さな声だった。

私は頷いて、答えた。


「知っております」


「殿下から聞いたのね……」


「……おめでとうございます、と言ってもいいのでしょうか」


できるだけ感情を排除した声で尋ねると、マグノリアの赤い瞳がみるみるうちに潤んだ。

そして、彼女はぱっと顔を手で覆うと、しゃくりあげた。


「私、嫌よ!」


「マグノリア様……」


「何で今更、ザックスと!?絶対嫌!!」


「……」


私は、何と答えるべきか迷って結局口を噤むことにした。

私は、マグノリアとザックスの関係を知らないから。

紅茶に口をつけたあたりで、マグノリアがゆっくりと顔をあげる。


「諦めろって言われたの」


「……それは、ザックスにですか?」


尋ねると、彼女は頷いて答えた。


「迷惑を……かけている、って。分かってる。知っているわ。でも、だからといって諦められるものじゃないの。だって……好きなのよ」


「……リアン殿下とはお会いしましたか?」


マグノリアは首を横に振る。


「会って、何を言えばいいの?私、わかっているのよ。彼は、私のこと好きじゃないもの。悔しいけど、ザックスの言う通りなの。迷惑をかけてるって、分かってる。でも、でも、だってぇ」


マグノリア自身、まだ感情が追いついていないのだろう。

ポロポロと涙を零す。

私は少し考えて、ティーカップの中の水面に視線を落とした。

そこには、考え込む私が映り込む。


「……マグノリア様は、リアン殿下に気持ちをお伝えしたことは?」


マグノリアは首を横に振る。


「婚約したい、とは何度も。気持ちは伝わっていると思うわ」


震える声で、彼女は続けた。

それから、キッと顔を上げると彼女は声を荒らげた。


「ああ、もう!!何で私が、婚約なんて!!本当、嫌だわ!本当に嫌!!よりによって相手はあのザックスだし!!あいつだって私のことを嫌っているはずよ!!こんな婚約、意味ない!」


マグノリアは高位の令嬢とは思えないほど荒々しくソファを叩いた。

ボフボフとその度に音がする。どうやら相当腹に据えかねているようだ。


「ザックスが、マグノリア様を嫌っている?」


私は首を傾げた。

リアン殿下の話では、彼はマグノリアに想いを寄せていると──。

マグノリアは涙目になりながら私を睨みつけた。


「そうよ!!だいたい、あいつが言ったのよ!私の目は、血みたいって!最低だわ!そんな男と婚約なんてするものですか!」


「それは……。何か、ええと……理由があったのでは?ほら、照れ隠しとか」


それでも、言ってはまずい発言だったとは思うけれど。


「ハッ!あの男がそんな可愛さ持ってるものですか!」


マグノリアは鼻で笑うと、苛立たしげに舌打ちをした。

そのまま、爪を噛む。


「お母様もおば様も乗り気だし、もうこの婚約はほぼ決定よ。でも、リアン殿下がその気になってくれたら分からないわ」


「…………」


また、私は紅茶に口をつけた。

紅茶は、すっかり温くなっている。


「リアン殿下に、告白をされてみたらいかがですか」

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― 新着の感想 ―
うーん、難しいようでいて分かりやすいところのあるる問題ですね マグノリアもザックスも、相手の気持ちを無視して自分の思いを押し付けているのは大差ない気がするけれど、婚約まで強引に持ち込んだザックスの方が…
人の恋愛沙汰に首を突っ込むのは難しいですね。 うーん、はっきり振られた方が前に進めると思って言ったのでしょうが… どちらかといえば婚約者ときちんと話をした方がいいような。 男側がもし惚れているなら気持…
フラれるって分かってるのに告白させるって鬼かな? 今まで一度もしたことないならともかく何度もしてるって話なのに… まぁ本気で好きだと思われてないとかそんな話になるのかもしれないけど仮に本気で好きで言っ…
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