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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
5章:【嘆きの魔女】という称号

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血は繋がっていても、分かり合えるわけじゃない

「え…………」


「おい、ザックス」


隣の栗色の髪の彼、マーカスがザックスを小突いた。

しかし、ザックスは真剣な顔で私を見ている。


(あなた)から見た、真実を教えてください」


「なんだよお前、歴史なんて興味なかったくせに」


「フェリシア様が今ここにいらっしゃる以上、もう遠い昔の話じゃないだろ。少なくとも俺にとっては、()の話だ」


「…………」


「それに……悪に見えてもただ不器用なだけ、という例もある。あなたは彼女の実妹だ。だから、あなたの意見を聞きたい」


彼の言葉は、まるで特定の誰かを指しているかのようだ。


(もしかして、マグノリア?)


ふと彼女のことを思い出す。

しかしそれは今、特段重要なことではなかったので流す(スルーする)ことにした。

私は、ゆっくりと視線を落とし、記憶を辿る。


綺麗なお姉様。

幻のように美しいお姉様。

触れたら壊れてしまいそうな、ガラス細工のようなお姉様──。


『フェリシア、あなたはいいわね。だって……外の世界を知れるんだもの』

『……お姉様も、きっとそのうち外に出られるようになるわ』

『ううん、慰めはいいの。……羨ましいと、思うの、あなたが。だって、フェリシア。あなたは──』



「フェリシア様?」


ザックスの言葉に、顔を上げる。

黙り込んだ私を見て、不味い質問をしたと感じたのだろう。再びマーカスがザックスの腕を小突いた、が。

私は笑みを浮かべて答えた。


「分かりませんわ」


「え……」

「へ」


マーカスとザックスが、ふたり揃ってぽかんとした様子を見せる。

それに、私は苦笑しながら本を閉じた。

パタン、と本を閉じ──その紙面に指で触れた。


「お姉様は歴史的に見たら、悪女なのでしょう?私は、私がいなくなった後にお姉様がどう行動したのか知りませんもの。今、この本を知って部分的には知ったけれど、これもどこまで真実で、どこまで脚色されたのか分からない。だから、お姉様が歴史的に国を滅ぼした悪女だったのか、という質問には答えられません」


「……では」


ザックスの言葉を遮るように、あるいはその先を引き継ぐように、私は首肯した。


「彼女の妹という視点で見るのなら、私は、お姉様が嫌いです」


「えっ!?」

「へっ……」


また、ふたり揃って声を上げる。


(仲良いのね……このふたり)


そんなことを考えながら、首を傾げた。

さらりと、垂らした桃色の髪が揺れる。

苦笑を浮かべて、私は言った。


「お姉様はきっと、悪意なく、悪気なく、自分の望みを果たそうとするひと。それが良いか悪いかはともかくとして、私は彼女のそういうところが嫌いだった。悪意のない無邪気さほど、タチの悪いものはないですから」


「…………」


「彼女にはきっと、悪意も悪気もない。ただ、自分がそうしたい(・・・・・)と思ったから(・・・・・・)、そうする。ただそれだけのこと。……失礼、何を言っても、愚痴になってしまいそうです」


私はそこで、口元に手を当てた。

悪女だったのか、という質問には答えられない。

ひとりの人間を、ひとつの型に嵌め込むことができないように、その一言で片付けることはできないと思ったから。


ただ、好きか嫌いか、と聞かれたらその問いへの答えはひとつ。


私は苦い感情を覚えながら、肩を竦めた。


「ただ、私は彼女が嫌いだったし、苦手でした。……血が繋がっていても、許容できないことは許容できないし、向き合えないと思った。……そんなふうに私は姉を見限りました。酷い、と思われますか?」


異母姉妹とはいえ、私と姉は、血が繋がっている。

たったふたりだけの姉妹だというのに。

血が繋がっているというのに。


私は姉と向き合うことを諦めた。

無理だ、と思った。


血は繋がっていても、他人は他人なのだ。

理解することが難しい時だって、ある。


前世の感覚なのか、無理をしてまで彼女を理解することを、私はあの時──お姉様に階段から突き落とされ、お姉様が自己保身を図った時に、諦めてしまった。


それを後悔することはない。

実姉を見切ったことに、悔やむ気持ちはなかった。


私が真っ直ぐに見つめ返すと、ザックスは僅かに目を見開き──それから首を横に振る。


「……いいえ。家族でも、結局は自分とは違う人間ですから」


妙にしんみりとした空気をどうしたものかと考えた私は、そこで、以前マーカスに問われた質問に答えてなかったことを思い出した。


『アグネス・フレンツェルと、ツァオベラー王朝最後の王太子フェリックスが恋仲だった、というのは真実なのですか?』


確か、その後自己紹介を挟み、軍の話になり、マグノリアが現れたので結局答えられなかったのだった。

それを思い出した私は、顎に指先を当てて、端的に答えた。


「そういえば、以前マーカスさんから聞かれた質問なのですけれど」


「えっ!?あ、はいッ!!」


そこで、マーカスがなぜか大袈裟なほど肩を震わせた。

その言葉は素っ頓狂だし、何よりその声はひっくり返っている。


「…………」


そこで、私は妙に静まり返ったこの空気が、しんみりしたものではなく、凍っているのだと気がついた。


どうやら、ここでも私の凍るような目つきの悪さは健在らしい。


(威嚇する(そんな)つもりはなかったんだけどなぁ……!!)


苦し紛れにニコ……と笑みを浮かべたが、ますますマーカスの顔色は悪くなるばかり。

仕方ない。ここは事情を説明すべきだろう。

そう思い、ため息を吐いた。


「……目つきが悪いのは生まれつき、というより私の悪癖のようなものですので、お気になさらず」


「いや、目付きと言うより眼差し……」


マーカスは小声でごにょごにょ言っている。

上手く聞き取れず、首を傾げた。


「何でしょう?」


「いえ、何でもないです」


彼はそれきり黙ってしまったので、仕方なく私は肩を竦めた。


私は、このとおり顔立ちは可愛めなので、時折──私にそのつもりは無いのだけど。

お母様譲りのこの瞳の鋭さは、容姿に反して、とんでもなく冷たく見える……らしい。

これは、お父様とフェリックス様の反応から推測した限りだけれど、相当冷たく見えるのだろう、きっと。


「……お姉様と、フェリックス様は恋仲という関係にありました。ふたりは、初対面で恋に落ちています。それは、私が断言します」


あの、日。

マグノリアの花吹雪が舞う寝室で──間違いなく。


お姉様と、フェリックス様は、恋に落ちた。


白い頬を赤く染め、見蕩れるお姉様と。

いつもは冷たい薄青の瞳に、熱っぽさを宿したフェリックス様。


その時、私はふと疑問に思った。


(……お姉様が、魅了の特異魔法をかけたのは、いつ?)


だって、お姉様と彼が出会ったのは……。

彼らは、出会った当初に恋に落ちていた。


いつ、お姉様はアーノルドに願い出て──いや、そもそも。

お姉様は、いつからアーノルドと連絡(コンタクト)を取っていたのだろう?


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