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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
5章:【嘆きの魔女】という称号

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目は口ほどに物を言う

「──」


ひゅ、と息を呑んだ。

皇帝陛下の声は、決して乱暴なものではない。

怒鳴りつけられているわけでもないし、厳しく問い詰められているわけでもない。


ただ淡々と、当たり前のことを尋ねているかのように、そのひとは言った。


まるで、さも当然、と言わんばかりに。


──その瞬間、理解した。


ツァオベラ()ー王朝()の人間()は、現王朝──ルーモス帝国の敵になり得るかもしれない。


彼らにとっては脅威に当たるかもしれない存在なのだ、と。


「父上」


リアン殿下がなにか言おうと口を開いた。

だけどそれより先に、皇后陛下がおっとりとした声で言った。


「まあまあ。陛下ったら、そんなことを仰って。ねえ、フェリシアさん」


「……はい」


皇后陛下に答えると、彼女は柔らかく微笑んだ。


「あなたは、悪しき魔女ではないもの。…………ね?」


「……はい」


彼女の口調は柔らかく、微笑みを浮かべてはいるけれど──決して、その瞳は、笑ってなんていなかった。








(こっ…………怖かったああああ!!!!)


無事(と言っていいのかしら、これは?)謁見の間から脱出した私は、ようやく詰めていた息を吐き出した。


凍りついた感情が、じわじわ戻ってくる。


(なに……あれ!?ものすごく、めっちゃくっちゃ怖かったわよ……!?)


ルーモス帝国の皇族(あれ)に比べたら、ツァオベラー王家の、なんて生ぬるいことよ……。


フェリックス様なんて可愛いものである。


あの得体の知れない恐ろしさを思えば、フェリックス様などキャンキャン吠えるだけの犬にしか見えない。


そこまで考えて、私は、いや、と否定した。


犬は可愛い。

フェリックス様は可愛くない。


これは大きな違いだ。


そんな(くだらない)ことを現実逃避気味に考えていると、背後から声がかかった。


「お疲れ様でした、フェリシア様。緊張されましたか?」


私を追って、部屋を出てきたリアン殿下である。


あれで緊張しない強心臓の持ち主がいるなら教えて欲しいものだ。

カクカクと頷くと、リアン殿下は苦笑した。


あの皇族一家において、なぜ彼だけこんなに穏やかなのだろう……。


(さっきの今だからこそ、より、その優しさと気遣いが心に染みるわ~~!!)


いつも以上にリアン殿下が眩しく見え、思わず目を細めた。


(いや、あの!瞳!!)


皇后陛下の瞳。

微笑みを浮かべているのに、全くその瞳の奥は笑っていない──どころか、凍りついていた。


恐ろしすぎる。

ホラー??ホラーなの??

季節的に、少し早くないかしら??


まだ初夏だ。少し待って欲しい。

いや、そういうことではない。


一人突っ込みを入れていると、なにか考え込んだ様子のリアン殿下がふと顔を上げた。


「……では、それなら、私と気晴らしに散歩でもいかがですか?」







「散歩……ではなかったのですか?」


リアン殿下に案内された先は、城の裏口。


そこには、質素な馬車が停められていた。

明らかに、お忍び用のそれである。


私の知る【散歩】とは、意味合いが異なっている気がしてならない。

説明を求めてる彼を見ると、従僕と何やら話していたリアン殿下が、私の視線に気がついた。


そして、にこり、と柔らかな微笑みを浮かべて彼は言った。


「せっかくなので、嘆きの塔まで行きましょう。時超えの魔法が未だ機能しているのか、気になりますし」


それで、私は理解した。


(本来の目的は、そっちね!!)


どうやら、散歩は理由付けだったらしい。

リアン殿下は馬車の扉を開けると、私を促した。


「どうぞ、フェリシア様」


ここまできて「いやぁ、やっぱりやめまーす」なんて言えるはずがない。


行き先を確認しなかったのは私だし、それに私も、嘆きの塔……元はフレンツェル公爵邸の私の部屋だった場所が今、どうなっているのか確認したかった。


そう思い、ステップに足をかけたのだが──ふと気になることがあり、振り向く。


私が振り向くとは思ってなかったのだろう。

きょとんとした様子で、リアン殿下が私を見た。


「ここから嘆きの塔まで、どれくらいかかるのですか?」


それから、まつ毛を伏せる。

流石にさっきの今でツァオベラーの名は出しにくい。

それでも、あの場所は──。


「……あの場所は、五百年前。ツァオベラーの城の近くにあったはずです。ここからは離れていると、文官の方から聞きました」


あの、笑うとえくぼが目立つ文官から。


(そういえばまだ名前を聞いてなかったな……)


嘆きの塔は、五百年前、フレンツェルの公爵邸(タウンハウス)があった場所にあるはずだ。

当然、ツァオベラー城の近くということになる。


しかし、王都の場所はこの五百年で変わっている。

ルーモス帝国の城(ここ)からツァオベラー城のあった場所は、かなり離れているらしい。


(流石に、長期間城を不在にするのはまずいと思うし……)


どんな噂を立てられるかわかったものでは無い。

【嘆きの魔女】から【略奪の魔女】とか、【堕落の魔女】とか不名誉な二つ名を付けられるのは心から遠慮したい。


リアン殿下は私の意図を察したのだろう。

ふわり、と私を安心させるように柔らかく微笑んだ。


「それでしたら問題ありません。ここから、一時間ほどで着きます」


「…………えっ?」

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― 新着の感想 ―
過去改変の結果次第でこの王朝が無かったことになるもんなぁ…
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