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意識的に使うようにするためには



「………何も、ひとが調査しなくてもいいのでは?ほら、ロボット……じゃなくて、無機物の人形を操ったりして、調査させる、とか」


お掃除ロボット(ル○バ)とか、無人飛行機(ドローン)みたいな……と言いかけて、咄嗟にその言葉を飲み込んだ。


ひとが中に入ると危険があるなら、無機物に調査させればいいのではないだろうか。


安易にそう考えた私だったが、リアン殿下はあっさりと答えた。


魔法人形(ロボット)ならルーモス帝国にもありますが……」


あるんだ!!


「どちらにせよ、内部の空間と外部の時間の流れに乖離がある以上、魔法を解除しない限りは、調査に年単位の時間を要することには変わりありません。内部での三十分は、外部での二年に相当しますので」


そ、そっか~~~~!!!!


そりゃ、そうよね!

そうよ!!

当然だわ!!

何を言っているんだ私は!!


安易に考えた自分の出来の悪い頭をはたきたくなった。


しかし、ここでひとつ重要な問題が発生した。

それは……


(私に時超えの力なんて……あるのかしらね……!?)


意識して使うどころか、本当に私に具わっているのかすら怪しい。


塔内部の調査に協力したいのは山々なのだが、このままでは私は役立たずのお荷物になることは確定だ。


(塔の調査はきっと、一発勝負になる……)


もし、私が塔の内部にかけられている【時超え】の魔法を解除出来なければ──瞬く間に、外での時間が経過してしまうのだ。


一日や二日ならまだいい。


だけど、あの部屋の一分は、外の世界での一月に相当するとリアン殿下は言った。

部屋に入ってすぐ、可能なら数秒以内に魔法を解除する技能が求められる──……。


それを成功させる自信なんて、今の私にはない。


それをリアン殿下に相談すると、彼は、ふむ、と顎先に指を置いた。

そして、やはり落ち着いた様子で言うのだ。


「……お伝えしたとおり、私は、フェリシア様が時を超えた理由は、あなたの潜在能力によるものだと思っています。ですから、その力を、あなたご自身が意識的に引き出せるようになれば良いのですが……」


少し考えたように沈黙してから、また彼が言った。


「フェリシア様。ここに来てから、【時超え】の能力を感じた場面はありませんでしたか?」


「時超えの能力を感じた場面、ですか?」


尋ね返すと、彼は頷いて答えた。


「今まで、あなたの潜在意識に眠っていた能力が何らかの拍子で表面化している(・・・・・・・)状態であれば、無意識に発動するかもしれません。心当たりはありませんか?」


「──」


その言葉に、私は思い当たる節があった。

ゆっくり、口を開く。


「……考えすぎ、かもしれないのですが」



違和感、というものならあった。

それは、つい先程の出来事。

城の蔵書室で、マグノリアが転びかけた時のこと。


(あれは……絶対に間に合わない、手の届かない距離感だったわ)


無理だと思った。

それでも、手を伸ばしたのだ。


そしたら──あの一瞬。



マグノリアが(・・・・・・)不自然に停止した(・・・・・・・・)のだ。



少なくとも、私にはそう見えた。

そして、気がついたら私は彼女の手首を掴み、引き寄せていた。


あまりに一瞬のことすぎて、あの時はその理由まで考えることはしなかった。


だけど、リアン殿下に指摘されて、もしかして、と思ったのだ。


考えすぎかもしれない。

だけど、今思えば見逃せない違和感だった。


それを口にすると、リアン殿下は驚いたように目を見開いた。


「マグノリア嬢と会われたのですか?それは……」


(あ、ルーモス帝国では淑女を【嬢】と呼称するのね……)


ここも、ツァオベラーの時とは違う点だ。

ツァオベラーの時は、レディ、か、ミスで呼ぶものだった。


リアン殿下は言いにくそうに、私から視線を逸らした。

しかし結局、彼は続きを口にすることに決めたようだ。


「……申し訳ありません、ご迷惑をおかけしてしまいました」


マグノリアの件は、突然のことで驚きはしたが迷惑をかけられたとは思っていないので、私は首を横に振る。

そして、話を戻した。


「あの時、確かに──彼女はほんの一瞬。……体が止まったように見えたのです」



そうでなければ、私は彼女の手首を掴むことは出来なかった。



「そう、ですか、良かった。彼女が怪我をしなかったのは幸いです。彼女に何かあれば公爵がうるさい上に、あなたも巻き込んでしまいますから」


(……やっぱり)


リアン殿下の言葉は、ザックスと似たものだったが、その真意は全く異なるように思えた。

ザックスはマグノリアのことを思いやっているように聞こえたけれど、リアン殿下は──。


「では、危機に陥った際に【時超え】の能力が発動するのであれば、意図的にその状況を用意するのはどうでしょう」


「えっ!?」


私は、リアン殿下の言葉にパッと顔を上げた。


(その状況を??)


つまり??


「危機に陥った状況って……どう用意するのですか?」


恐る恐る、私はリアン殿下に尋ねた。


(まさか……階段から落ちるとか)


衝撃で能力が使えるようになるかもしれない……と来ると、定番なのは階段落下のような気がしてならない。


さすがに怖いし危ない。

自発的にはしたくないところだ。


そう思っていると、リアン殿下はにこやかに、しかしとんでもないことを口にした。


「我が帝国には、空中浮遊という遊びがあります。空中落下フォール・イン・ザ・スカイというものもそれの一種で、風魔法を使用し、高所から落ちる遊びです。それでしたら、安全に危機的状況を迎えられるのでは?」


待て待て待て。

言葉がすごい矛盾してるように聞こえるのは気のせいかしら!?


(【安全に危機的状況を迎える】ってどういうこと!?

空中落下ってそれ、前世で言うバンジージャンプですね!!)


そう尋ね返したかったところだけど、生憎そこで時間切れとなってしまった。


いつの間にか、空は茜色から紺色に変わっていたのだ。


肌寒さを覚えたところで──リアン殿下が、「今日はこの辺にしましょう」と話を切り上げた。




椅子から腰を上げたリアン殿下が、ふふ、と笑みを零した。


「?どうしたのですか?」


尋ねると、緩い笑みを浮かべていた彼が楽しげに私を見た。

その瞳はキラキラとしている。


「いえ。五百年かかっても解明されなかったあの封印が、私の魔法によるものかもしれないと思うと……楽しくなってきまして」


「…………」


「どういった魔法構成、魔法陣、詠唱を使用してあの鉄壁の封印を施したのか……。考えるだけで心が踊ります。難問を前にすると、血肉沸き立つ思いになりませんか?」


いえ、それはあなただけだと思います……。


(リュミエール皇太子殿下は、剣を振るうのが性に合っている、と言っていたけど)


やはり、リアン殿下はリュミエール皇太子殿下の弟だ。

同じ血を感じる。


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