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(魔女)フェリシアの力



「…………。えーと、待ってください」


思わず、私は右の手のひらを突き出していた。

反対の手で、額を抑える。


(過去に、リアン殿下は私に接触していて……?)


私に何らかの魔法をかけ、さらにあの部屋に結界を張ったのも、リアン殿下……?


私は目を閉じて、ゆっくり考え込んだ。


「…………」


頭の中で、ポクポクチーン、と軽やかな音が鳴った気がした。


「いや、どう考えてもおかしいですわ!だって、そもそもの話ですよ?まだ私が時を超えた理由すら、分かっていませんもの!」


思わず、私は立ち上がっていた。

ガタッと椅子が大きな音を立てる。


混乱する私に、リアン殿下は至って冷静に話し出した。


「時を超える能力……少し長いので、【時超え】と言います。時超えは、あなたの能力だと考えるなら、そうおかしな話ではありません」


「だけど──リアン殿下はルーモス帝国に生きる方です。私は、五百年前の人間です。過去、あなたと私が接点を持つ場所なんて」


「今から、あなたと共に私も時を超え、過去のあなたに接触すれば……その疑問は解消されませんか?」


「──」


ハッキリと断言したリアン殿下に、私は思わず息を呑む。

思ってもみない言葉だった。


(リアン殿下が……私と、時を超える?)


五百年前の、ツァオベラーの国に──。


呆然とする私に、彼が困ったように笑みを浮かべた。


「申し訳ありません。いささか話が急過ぎました。私の悪いところです。仮定を立てると、すぐにそれが正答かどうか知りたくなってしまう。答えを急かしているわけではありません」


リアン殿下はそこで言葉を切ると、ふむ、と顎に指を押し当てた。

それから、首を傾げて私を見る。


「ひとまず、時超えの話は今は置いておきましょう。まずは、あなたが時を超えたと思われる理由とその仕組み(メカニズム)、そしてあなたがいた部屋の調査をさせてください。話は、それからですね」


あまりに私が混乱しているから、気遣ってくれたのだろう。

確かに今の私は混乱も混乱。大混乱状態だったので、その優しさに助けられた。


きっと今の私は目がぐるぐるしているし、何なら知恵熱まで出そうな勢いである。


過去と未来。平行世界。

時間軸。タイムパラドックス。

メビウスの輪、果てには親殺しのパラドックスにまで思いを馳せていたので、彼の気遣いには大変……たいっへん助かった。


混乱の大安売りレベルで頭の中は迷走している。


私はゆっくり息を吐くと、潔く思考を切り替えることにした。


(…………よし!!後で考えよう)


ひとまず、厄介そうな問題事は後回しだ。


今、考えなければならないことは──

私は、嘆きの塔の内部、つまり自分の部屋のことを思い出し、ふと気になってリアン殿下に尋ねた。


「リアン殿下の魔法痕は三十分で消えるのでしたよね?」


「はい」


頷いた彼に、私は口先に指を押し当てた。


「……──それでは、もう部屋の魔法痕は消えているのでは?」


私が目が覚めて一日も経っていないが、それでも三十分は優に超えている。


超過も超過だ。

魔法痕はすっかり消え失せていることだろう。


今更な疑問に気が付き、それを尋ねるとリアン殿下は「ああ」と今気がついたように頷いた。

そして、彼は落ち着いた声で言った。


「それでしたら──恐らく問題ないかと。フェリシア様の話を聞く限り、あの部屋と外界では、大きな時間の隔たりがあると考えられます。フェリシア様が五日間部屋に篭られた際、外の世界では五百年が経過していたのでしょう?」


リアン殿下の言葉に、私は頷いて答えた。

彼は「では」と話を続ける。


「およそ、 室内での1時間あたりの外の時間の経過は、4.17年。私の魔法痕の滞留時間は30分ですので──」


彼は、指を二本立てた。


「外の時間でいうなら、約二年。少なくとも二年間は、内部に私の魔法痕が残っている計算になります」


「なる……ほど?」


室内と外界で時間の流れが違うなら、室内の三十分は、外の世界の二年に相当すると……そういうことだろうか。


しかし、その計算をパッとできるあたり、彼は数字に強いのだろう。


(幼い頃から魔法学に興味があって、勉強していたみたいだから……計算も得意なのかしら……)


そんなことを考えつつ、私はさらに尋ねた。


「では、嘆きの塔の内部には、リアン殿下の魔法痕がまだ残っているはず、だと?」


「私が過去のあなたに接触して魔法を使い、さらにあなたが部屋を出たことで時超えの魔法が解除されていなければ、そのはずです。……ですから、あなたの協力が必要不可欠なんです」


そこで、リアン殿下は言葉を切った。

顔を上げた彼は、真っ直ぐに私を見つめている。


「魔法が解除されていなければ──あの部屋の一分は、外の世界の二十五日と十日、つまり一月に相当することになります」


彼は苦笑いを浮かべた。

肩を竦め、困ったように言う。


「それでは、調査どころではありません。室内に留まれば、あっという間に外の世界での時間が経過してしまう。五分留まったとしても外では五ヶ月が経っている。あまりに危険(リスキー)すぎます。……ですから、フェリシア様。あなたの力が必要なのです」




(毎度のことですが)13万文字前後の完結を目指していましたが、無理そうなので潔く諦めます。

感想、とても励みになっています。

リアクション、ブクマ、評価などもありがとうございます。執筆頑張ります!!

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