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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
4章:過去への時間旅行

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マグノリアという少女

女性の、甲高い声が静かな蔵書室に響いた。

思わず、私が扉付近に視線を向けると、そこには鮮やかな銀髪をふたつに結んだ少女──女の子がいた。

歳は、私より数個下だろうか。社交界デビューしたばかりのように見えるし、まだしてないようにも見える。


彼女はキョロキョロと視線を彷徨わせると、確信を持ったように蔵書室の螺旋階段を上り始めた。

この蔵書室は、吹き抜けの構造になっており、階段は三階まである。

そのままズンズン登り進めようとした彼女に待ったをかけたのは、彼女の侍女と思われる女性だった。


「お待ちください、お嬢様。あちらに近衛騎士がおります。魔女付きの近衛騎士でしょう。話を聞いてみては?」


「……そうね」


お嬢様、と呼ばれた彼女はくるりと方向転換し、先程とは打って変わって淑やかな動作で階段を降りてきた。


どうやら、近くに人がいることに気付かなかったらしい。


気配遮断の得意魔法を持つ私はともかくとして、三人の近衛騎士にまで気付かないとは……。

余程【魔女】に興味があるのだろう。

彼女は目を眇めて、私の背後に立つ近衛騎士を見た。


「あちゃー、厄介なひとが来ちゃいましたね」


マーカスが、面倒そうなのを隠しもせずに小声で言った。

私も小声で、彼に尋ねる。


「……彼女は?」


「マグノリア・エヴァレット。エヴァレット公爵家のご令嬢です」


(マグノリア──)


マグノリアは花の名前だ。

そこから名前を取ってもおかしくない。

おかしくないのだが……私にとって、マグノリアは……。


(お姉様と……フェリックス様の)


初恋を象徴する、彼らの出会いを示す、花。


彼女は、私の声が聞こえなかったのだろう。

私に気付かず、彼女はスタスタとこちらまで歩き進めると、ザックスの前で立ち止まった。


「魔女様はどこ?あなたがここにいるということは、魔女様もこの辺にいるのでしょ?」


彼女は強気に言った。


(私ならここにいるんだけど……)


果たして、ここにいます!と声を上げていいものか。

しかし、ここで黙っているのも心象が悪くなるだけというものだ。


そう思って返答しようとしたところで。


ザックスが表情を変えることなく、淡々と答えた。


「あなたに答える義務は無い」


「!?」


なぜか、ザックスが回答を拒否してしまった。

驚いてザックスを見るが、彼はこちらを見ていない。


「なっ……何ですって!?」


予想通り、マグノリアは顔を真っ赤にして怒った。

彼女が動くにつれ、そのツインテールも揺れる。


しかし、見事な縦ロール(カール)だ。

耳の横で結んだツインテールは、綺麗にくるくるとカールを描いている。


私の髪はドストレートで、なかなか癖がつかず、ツァオベラーにいた時は苦労したものだ。

その巻きは自前だろうか。

人工なら、その技法を是非とも伝授して欲しい。

地味に切実な思いを抱えながら、私は彼女を見た。


身長は私よりも数センチほど低めだ。

だけど、彼女はヒールのある靴を履いているので、実際はもう少し低いかもしれない。


ちらりとマーカスを振り向くと、彼は諦めたように肩を竦めた。

マグノリア──と言うらしい彼女は憤慨した様子で、ザックスに食ってかかる。


「あなたね!!だいたいあなた、いつまで騎士の真似事をしているわけ!?バルキュリー公爵家の息子のくせに!閣下はよくお許しくださっているわね!?信じられないわ!この恥知らず!!」


(おお……意外と言う……)


小柄で可憐な顔立ちをしている彼女だが、言葉はなかなかキツい。

しかし、言われたザックスはなんてことない様子で、無表情だ。


「あなたには関係ないが?」


その一言に、マグノリアはぐっと黙り込んだ。

返す言葉がなかったようだ。


「~~~~そうねっ!!そうよ、私には関係ないわ!!無関係よ!!だから早く、魔女様の元まで案内してくれる!?それにあなた、魔女様付きの近衛騎士のくせに、彼女から離れていていいわけ!?そんなので騎士だなんて笑わせちゃう!!」


「声が大きい。淑女の慎みはどうした」


「…………っうるさい!!」


マグノリアは顔を真っ赤にしてそう叫んだ。

先程のウェルノー同様、一番声が大きいのは彼女なのだが──ウェルノーを見ると、彼も困ったように肩を竦めている。

貴族の令嬢相手には、流石に注意できないと、そういうことなのだろう。


口喧嘩(ディベート)は、どうやらザックスの方が上手(うわて)らしい。


マグノリアが返す言葉をなくしたところで、私はそっと彼女に声をかけた。


「嘆きの塔の魔女なら──」


私です、とそう続けようとしたのだけど。


まさかこんな至近距離に人がいるとは思わなかったのだろう。

彼女は首がもげるのではないかと言うほど勢いよくこちらを向くと、零れ落ちんばかりにその紅の瞳を見開いて──


「きゃああああああ!!!!」


悲鳴をあげた。


(まあ……こうなるわよね…………)


やはり、もっと早い段階で声をかけるべきだった。


私がそう思ったのも束の間、相当驚いた様子の彼女の体が大きく揺れる。

ズベッと、驚きのあまり足を滑らせたらしい。


「──っ……!!」


彼女の体が、激しく傾いだ。


(倒れ…………!!)


咄嗟に手を伸ばしたが、その時には、彼女の上半身はかなり反れていた。


(間に合わない……!!)


近衛騎士たちは私の背後にいて、彼女を助けるには私が邪魔だ。

私が、彼女の最も近くにいた。


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― 新着の感想 ―
扱いに困るのはお互い様で孤立してるし、せっかくならこの猪突猛進子が良い関係になりたい女の子だと良いけどな、はたしてどうなるのかなとソワソワ読んでいたら流石良いところで待て次回!
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