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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
4章:過去への時間旅行

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それが魅了によるものだったら?

それから、ハッとしたように襟を正し、私を見る。


「あ!!申し遅れました。僕──私は、マーカス・アルバートリーと言います。こちらの青髪の、神経質そうな男が、ザックス・バルキュリー。後ろののほほんとして見える男がウェルノー・エイダンです」


「神経質そうな男だと?」


青髪の彼──ザックス・バルキュリーと紹介された近衛騎士がマーカスを睨みつける。

それにマーカスが「えー?」と間延びした声で答えた。


「だってお前、神経質だし、細かいじゃん。あ、でもこいつ、近衛としての腕もいいし、諜報活動もできる、優秀なやつなんですよ!!」


マーカスの、援護のつもりではないだろうが、その言葉にザックスが気まずそうに視線を逸らす。どうやら、照れているらしい。


ふたりの背後で、水色の髪を刈り上げた大柄の男性──しかし、垂れ目だからか、威圧感はない。穏やかさを感じさせる男性が苦笑した。


「騒がしくて申し訳ありません。マーカスは、五百年前の魔女……失礼、ツァオベラー王朝の人間の護衛に付くことに、興奮を隠せない様子でして。気になるようでしたら、殿下にお伝えし配置換えをすることも可能ですが……」


「何で俺だけなんだよ!!ザックス(こいつ)も同罪だろ!」


「騒いでるのはお前一人だ。俺を巻き込むな、バカめ」


「何だと!?」


冷たくあしらうザックスに、食ってかかるマーカス。

なんだか、私にはこのふたりがじゃれついているようにしか見えない。

この場合、飼い主はどっちだろう。

いや、どっちも犬で、マーカスは子犬……かな。子犬って好奇心旺盛でよくじゃれつくって言うし。

ザックスは成犬……うーん。成犬の顔をしてる子犬かもしれない。


何だかんだふたりは息が合うのだろう。

ヒートアップしていくふたりの会話は近衛騎士とは思えないほど、子供じみてる。

すっかり置いてけぼりの私は苦笑して肩を竦めていると、うんざりした様子でウェルノーと紹介された空色の髪の彼が、一喝した。


「うるせえ!!ここをどこだと思ってるんだ!!」


「っ…………」


ビリビリとした怒声に、私まで肩が跳ね上がる。

その勢いの強い大声に、確かにふたりは口喧嘩をやめた。

やめたのだけど──。


「団長が一番声でけーじゃんか……」


ザックスがぽつり呟いた声に、申し訳ないが私も同感だった。

ふとその時、私は気になって聞き返した。


「……団長?」


「はい。ウェルノー様は、第四騎士団の団長をしていたんです。その腕がリアン殿下に買われて、近衛騎士に引き抜かれました」


答えたのは、ザックスだ。

落ち着いて淡々とした声音からは先程、マーカスと口喧嘩していたようには見えない。


(落ち着いて静かに見えるひとだけど結構、短気なのかな……)


そんなことを考えていると、ウェルノーが苦笑した。


「俺は、元は平民なんです。力だけで成り上がって、ようやく第四騎士団長まで上り詰めました。だけど第四ってのは、いわゆる名ばかり騎士団ってやつで、平民の寄せ集めなんです。ままごと騎士団、とか、窓際騎士団とか、酷い言われようで……。【騎士団】といったら第一から第三を指し、第四は除外される」


「第一は花形なんですよ、騎士の」


答えたのは、ザックス。

マーカスは、隣に立つザックスに怪訝そうな顔を浮かべ、尋ねた。


「お前、貴族の坊ちゃんなのに何で第四にいたんだよ?」


「…………」


無言──いや、無視を決め込むザックスに、しかしマーカスは諦めることなく、彼を凝視している。これはやりにくいだろうなぁ……。

また苦笑いを浮かべていると、ウェルノーが無理にふたりの肩を鷲掴み、引き離した。


そして、にっこり笑顔で言った。


「このまま第四(ここ)にいてもこんな有様じゃあ、故郷に帰った方がまだいいんじゃないかと思ったところで、リアン殿下に声をかけられました。本当に、僥倖だったと思います。俺は、あの日から、あの方に忠誠を捧げています」


ウェルノーは、そう話を締め括った。


「無駄話に付き合わせてしまい、申し訳ありません。フェリシア様は、本を読まれていたのですよね。どうぞ、続きを」


「ええ……」


私はふたたび、開いていたページを指でなぞった。


ウェルノーや、ザックス、マーカスを見るに、きっとリアン殿下の下は居心地がいいのだろう。

だから彼らは、こうして笑っている。


ツァオベラーの時には、なかった光景だ。


(フェリックス様は、従僕やメイド、騎士に厳しかったものね……)


ツァオベラー国が規律を重んじた社会だったので、それも仕方ないことだとは思うけれど。

ミスをしたメイドがクビを言い渡され、城から姿を消すことも、そう珍しくない光景だった。


フェリックス様は冷たいひとだ。


誰に対しても距離を置き、近づかせない。

そんな彼と心を通わせることを──私は、諦めてしまった。


彼は誰に対してもこのように心を開かないのだと、そう思ってしまった。


心を通わせる努力を、私は諦めた。

彼に歩み寄ることを、やめた。


怖かったのだ。

こちらが気持ちを見せても、それを切り捨てられてしまったら、と。そう考えたら──。


結局は、私の弱さの問題だ。

だけど、でも──お姉様は。


一瞬にして、フェリックス様の心を掴んだ。


「…………?」


その時、ふと生じた疑問は、しかし続く感情にかき消されてしまった。


(……もし、リアン殿下がツァオベラーの王子だったら)


少しは、違っていたのだろうか。


ふと、そんなことを──どうしてだろう。

考えてしまった、その時。


蔵書室の扉が大きく開け放たれた。

そして、ヒールの音が高く鳴る。


「こちらに、【嘆きの魔女】様がいらっしゃると聞いたのですが、どこにいますの!?」


【キャラ紹介】

マーカス:人懐っこい。愛嬌のある可愛い系の顔立ち。茶髪に薄いそばかす

ザックス:クールに見えて喧嘩っ早い。紺に近い青髪に黒縁の眼鏡。

ウェルノー:空色の髪を刈り上げており、大柄だが垂れ目。柔和なイメージを持たれやすいが血の気が多い。

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