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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
4章:過去への時間旅行

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時を超えたのは、魔力の不安定さが理由?



部屋を訪ねてきたのは、リアン殿下だった。

彼は私の対面に腰を下ろすと、メイドによって紅茶が配膳されるのを待った。

ティーセットが整い、メイドが壁際に下がったところで、ようやく彼が口を開く。


「実は──先程、フェリシア様とお話したことを手記に纏めていたのです。そこで、ある可能性に気付きました」


「可能性、ですか?」


リアン殿下は頷くと、配膳されたグラスに手を伸ばす。


この時期の昼、ルーモス帝国では、冷やした紅茶を飲むらしい。

グラスの中には冷えた紅茶──に、炭酸によく似た泡がシュワシュワと浮いている。

昼間にリアン殿下に尋ねたが、これは冷却実(イス・フルクト)と言い、炭酸とはまた違うようだった。

冷却実と呼ばれる果実を飲み物に入れることで、炭酸のようなシュワシュワとした泡と、仄かな甘みが広がるそうだ。


(五百年前にも、前世にもこんなものはなかったわね……)


前世考えていた【異世界】がそのまま形になったかのような国なのだ、このルーモス帝国は。



リアン殿下は、グラスを置くとひとつ頷いた。


「……はい。これはあくまで私の憶測ですが──」


そして、そこで言葉を切り、彼は顔を上げた。


じっと、こちらを見透かすような瞳は、リュミエール皇太子殿下とよく似ている。


そんなことを考えながら、私は彼の次の言葉を待った。


「時を超えたのは、フェリシア様ご自身の能力によるもの、ではないでしょうか」


「え…………」


思わぬ言葉に、私は思わず驚きの声を零した。

目を見開くと、リアン殿下は口元に手を当て、悩むようにしながら言葉を続けた。


「先程のあなたの話を聞いて、思ったのです。あなたの特異魔法は【気配遮断】。……ですが、あなたは階段から突き落とされた時──あなたの姉君……アグネス・フレンツェルに声をかけられたのですよね?それが、私は引っかかりました」


「あ……」


確かに。

言われてみたら、その通りだ。


私の【気配遮断(ディザピアー)】スキルは、第三者が私に接触する、あるいは私から声をかけ、私の存在を明らかにすることで解除される特異魔法だ。


私の特異魔法は、常時開放型。


私がひとりで行動している時に、私を見つけて声をかける……ということは不可能に近い。

【看破】の特異魔法や、【無効化】の能力を持つ人なら話は別だが──お姉様は、特異魔法を持たない。


それなのになぜ、彼女は私に声をかけられたのか?


見落としていた疑問に、私は目を見開いた。


呆然とする私に、リアン殿下が私見を口にする。


「恐らく、あなたの魔力は何らかの理由で、非常に不安定になった。アグネス・フレンツェルがあなたの特異魔法に阻まれることなく、声をかけられたのが、その証左です。逆説的に言えば、あなたの【時を超える】異能は、あなたの魔力が不安定になったからこそ発現したもの……と私は思ったのですが、いかがでしょうか」


「……では、今も私の魔力は不安定ということでしょうか?」


私は自身の両手に視線を落とした。


魔力が不安定……という自覚はない。

体調はいつも通りだし、違和感もない。


私はぽつりと、言葉を続けた。


「だから、嘆きの塔であなたは私を見つけられた……?」


嘆きの塔──私が部屋を出てすぐ、リアン殿下は塔の中に入ってきた。

私が声をかける前に、彼は私に気がついたのだ。


私の特異魔法が発動しているのなら、彼は私に気付かなかったはず。


この世界──五百年後の、このルーモス帝国では私の特異魔法が効かないのかとも思ったけど、メイドは私が声をかけるまで私に気付かなかった。

リュミエール皇太子殿下も、近衛騎士が私に同行していたから、私に気付いたのだ。


五百年の時を超えたからと言って、私の特異魔法が使えなくなったわけではないようだった。


私もまた考えながら発言すると、リアン殿下が考え込むように眉を寄せる。


「それは──」


彼が何か言いかけたところで、部屋の扉が再びノックされた。

ハッとした様子で、リアン殿下が顔を上げる。


取り次いだメイドが、困惑した雰囲気を纏わせながら、彼に尋ねる。


「エヴァレット家のご令嬢がいらっしゃっております」


リアン殿下はその名に、すっと瞳を細めた。

そして、彼は外套の襟を直しながら言った。


「……早いね。もう聞き付けたのか」


「いかがしますか?」


「用向きを確認し、私からの説明を求めるようであれば応接室に。……申し訳ありません、フェリシア様。急用が入りました。先程の話はまた後程。侍従を向かわせます」


リアン殿下はソファから立ち上がると、私にそう言った。


(エヴァレット家……)


聞き覚えのない名だ。

ツァオベラー国から続く家ではないのだろう。


私も彼と同じように席を立ち、ドレスの裾を摘み淑女の礼を執った。


「承知しました。お忙しいところ、お時間を取っていただきありがとうございました」


そして──

淑女の礼を執っておいて、今更なのだけど。


私はあることに気がついた。


(この礼法……今も通用するのかしら……!?)


私の知っている淑女マナーは五百年前のもの。

古き良き……といえば聞こえはいいが、間違いなく時代遅れだろう。

私にとっては最先端でも、ルーモス帝国からすれば五百年前。

リアン殿下は、気付いていてあえて指摘していないのかもしれない。


彼の優しさの可能性に気がついた私は、決意した。



(後で、礼儀作法に関する本を探しておこう……!!)


少なくとも、今すぐ五百年前──ツァオベラー国に戻ることは不可能だ。

時を超えたからくりすら、まだ分かっていないのだから。


だから、この国に滞在することになる以上、淑女としての礼儀作法は知っておいた方がいい。


私は、リアン殿下を見送りながら密かに決意した。







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