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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
3章:【運命の人】制度には、裏がある

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開き直るしかない!!

思わぬところで思わぬ名前を聞いた私は、思わず息を呑んだ。


リアン殿下は静かに話を続けた。


「彼女は、アバークロンビーの生き残りでした。アバークロンビーの能力は、【魅了】効果。彼女は、それを使って私の婚約者になろうとしたのです。ですが、彼女は魅了の特異魔法を使える人間、と言うだけでその使い方を知らない。なぜなら、特異魔法に纏わる文書はそのほとんどが焚書にされているからです」


私は絶句して、彼の話を聞いていた。


(アバークロンビー公爵家には代々、【魅了】の特異魔法が継承されている……?)


そもそも、魅了魔法はお姉様が使ったのではなかったかしら?


そこまで考えて、私は根本的な事実に思い当たった。


(いや、お姉様に魔力はない(・・・・・)


ごくごく少量の魔力は持っているものの、それは生命を維持するための必要最低限。彼女は、特異魔法の発現も、行使も出来ないはずだ。


(だとしたら、お姉様がアーノルドに頼んで……?)


ふたりの関係性を思い出そうとしたところで、また違う疑問に行きあたる。


【アバークロンビー公爵家は、代々同じ特異魔法を受け継ぐ】


……そんなこと、有り得るのだろうか。

いや、有り得るからこそ、リアン殿下は魅了魔法をかけられたのだろう。


(でも……そんな話、聞いたことがないわ)


特異魔法はそれぞれ個人個人に発現するものだ。

能力が子に引き継がれるなど、正直信じられない思いだった。


(アバークロンビー公爵家に継承される……ということなら、アーノルドも魅了の特異魔法(ユニークスキル)を持っていた、ということよね?)


「…………」


彼が私に、なにかと構ってきたのも、それが理由……?


でも、それはどうして?


だめだ。

分からないことが多すぎる。


考え込んでいると、リアン殿下が短く、この話をまとめた。


「それでも、彼女は無理に特異魔法を行使しようとし──結果、帰らぬ人となりました。……私に、置き土産(こんなもの)おい(つけ)てね」


リアン殿下が、皮肉げに笑い、手首の内側を私に見せるように持ち上げた。

彼としても、魅了魔法をかけられたのは不本意も不本意。しかも、その相手が故人だというのなら、解呪方法も不明。

とんだ置き土産というわけだ。


私は、彼の境遇に同情を覚えたが、私も私でそれどころではなかった。


なぜなら──


(ツァオベラーでは【運命の人】とされていたあの紋様が実は、魅了魔法によるものだと言うのなら)


そもそもの話、建国神話の内容は全て嘘だということになる。


(あの寓話は……偽りだったとするなら、それはなぜ?誰が何のためにそんな嘘を……)


その質問は、暗闇の中でものを探すようなもの。

深淵を覗いて、その中に真実を見つけようとするものだ。


考えても答えは出ない、深い泥沼に足を踏み込んだような気がして、私は絶句していた。


どれほど、沈黙が室内に落ちただろうか。

ふと、空気を変えるように、リアン殿下が、パチン、と手を叩いた。

そして、彼が明るく頬笑みを浮かべ、言う。


「一気に話しすぎてしまいました。ひとまず、ここまでとしましょう。次は、フェリシア様のお話を聞かせてください」


「それは……構いませんが」


躊躇いながら、私は首肯した。


さっきの今で、そんなに早く切り替えができない。


(考えることが多すぎるわ……)


アーノルドのこと、お姉様のこと。

【運命の人】制度のこと。

魅了の特異魔法のこと。


この五百年間に起きた、二度の魔法大戦。


そして──なぜ、私が五百年後の世界に来てしまったのか、という最たる疑問も残っている。


謎のフルコースもかくやという勢いだ。

混乱だってするし、思考の整理にだって時間がかかる。


私が戸惑っていると、リアン殿下がふっと微笑んだ。


「ですが──その前に、食事にしましょう。幸い、今日は外の天気もいい。フェリシア様さえ宜しければ、私と外で昼食でもいかがでしょう?」


リアン殿下の提案に、私は


「そう……ですね!食事は大事です。お腹が空いては、考えもまとまりませんものね」


うんうんと頷いて答えた。

腹が減ってはなんとやら。

前世でも聞いた言葉である。


意識してみれば、かなりお腹も空いている。

思えば、目が覚めてから何も食べていない。


五日間、口にしたのは保存食の堅パンを数個に、それにレモンカードを塗って食べていた。


三日目の夜あたりから、このままでは間に合わない!!……と、食事の時間を削った。

そのため、最後にまともに食事を摂ったのは──ええと。


(今が何日経ってるのかわからないけど……少なくとも丸一日以上は経過してる?)


それを理解した瞬間、私は猛烈に空腹を覚えた。

意識してなかっただけで、私は相当に飢えていたらしい。


その時。

「その通りだぜ!!マジ空腹!!」でも言うように、お腹が鳴った。


くうぅ……と。


それはとても小さく控えめな音ではあったけど、場所が悪い。


静かな室内にはその音はよく響き──

対面に座るリアン殿下がぱちぱちと瞬きを繰り返している。


「──っ……」


瞬間的に、私は立ち上がっていた。

こうなったら、もう。


「よく考えたら私、丸一日以上何も食べてませんの!!とてもお腹が減りましたわ~~!!有難く、ご好意に与らせていただきます!!」


開き直るしかない!!



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