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【書籍化&コミカライズ】元公爵令嬢フェリシアは前を向く ~婚約者がお姉様に恋してしまったので、500年後の世界で幸せになります~  作者: ごろごろみかん。
3章:【運命の人】制度には、裏がある

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魅了の特異魔法

「…………こ、れ」


「魅了の特異魔法です」


ハッキリとした様子で、リアン殿下は断言した。

それから、カフスボタンを嵌め直し、袖口を戻す。


「少し、私の昔話に付き合っていただけますか」





リアン・ルーモスには、幼馴染がいた。

とは言っても、リアンは皇族だ。

皇妃にティーパーティーに連れて行かれるようになってから、彼は多数の貴族子息、子女たちと交流するようになった。

彼女は、その中のひとりだった。


リアンには、幼馴染という括りの人間が大勢いる。

昔からの付き合いだけでいうなら、それは幼馴染だ。

だけど、幼馴染が友人か、と言ったらそれは話が別だった。


彼女は、リアンに興味を抱いた。

それは、少女ゆえの強い憧憬を含めた、恋慕だったのだろう。


彼女は、何度もリアンに近づこうとしたが、当時から魔法以外に興味がなかったリアンは、彼女を苦手としていた。

彼女は、心中に土足で踏み込むかのように、遠慮がない。


良く言うなら、人見知りをしない。

悪く言うなら、図々しく、馴れ馴れしい。


彼女は彼女で、リアンに近づくのに必死だっただけなのだろう。


だけどリアンには、夢があった。

それは、【封印された部屋】の扉を、解呪すること。


今まで、この五百年誰も開けることの出来なかった、呪われた扉。

中には、婚約者に裏切られた魔女が、絶望と悲しみの中、眠っている、という──。


彼女は、今もその部屋の中で眠っているのだろうか。

魔女は、どんな見た目なのだろうか。


もし、リアンが解呪に成功して扉を開けられたのなら。

彼が、彼女を起こすことは出来るのだろうか。


考え始めたらキリがなく、リアンはいくつもの可能性を予想(シミュレーション)した。


リアンはそれに忙しく、社交をしている暇などなかったのだが、彼女はそれを無視して彼を訪ねてくる。


彼女の相手をしている時間すら惜しく、リアンはますます彼女を忌避するようになった。


堅実で、真面目が服を着たような兄と違って、リアンは昔から好奇心が旺盛で、学者気質だった。

気になることがあったら、調べずにはいられない。

その好奇心と興味は、子供でありながら古代の文献を解き明かしてしまうほどだった。


今までこの五百年、どんな高名な学者や、強い魔術師でも、終ぞ解呪することは叶わなかった、封印された部屋。

自分がその謎を解き明かす──なんてロマンのある話なのだろう。


幼い頃から、リアンは【封印された部屋】の秘密にのめり込んでいた。


彼が十五歳の時。

ついに痺れを切らした彼女が、婚約を父親に強請った。

父は、皇帝に第二王子を婿に、と話を持って行ったが、そもそも彼女の父は、歴史ばかりが古い、力のない下級貴族。

けんもほろろに断られ、父は傷心の娘を励ました。


『相手が悪かった』


もし、相手が皇族でなければ。

平民なら、こうはならなかった。

次は、確実に手中に収められる相手にしなさい、と父は娘を説得した。


しかし、彼女は納得できなかった。


彼女の【運命】は、間違いなく彼だ。

これは【運命】で神の思し召しなのだ……と彼女は確信を抱いていたからだ。







「──と、ここまではよろしいでしょうか」


リアン殿下は、そこで言葉を切った。

彼の声は淡々としていて、その声に感情は乗っていない。


私は、混乱しながらも、自分の思考を整理するように言った。


「……ですが、先程特異魔法を使える人間はもうルーモスにはいないと」


先程彼が言った言葉を繰り返すと、僅かにリアン殿下は眉を寄せた。

そして、まつ毛を伏せると、物憂げな様子で、言葉を続ける。


「……この話には、続きがあります」


彼は、ゆっくりと話を続けた。


「……そもそも、彼女の家は、第一次魔法大戦で敗北し、爵位を取り上げられるまでは、国中の誰もが知る名家でした」


第一次魔法大戦は、ツォアベラーの王朝を倒そうと、スペンダー伯爵が決起し、起きたものだと彼はそう説明していた。


第一次魔法大戦で敗北し、爵位を取り上げられるまでは……ということは。

つまり、その【彼女】の家は、ツァオベラー国に(・・・・・・・・)おいて(・・・)、誰もが知る名家だったということ──。


それに気付いた私が目を見開くと、リアン殿下が、私を真っ直ぐ見つめて言った。


「あなたもご存知だと思います。彼女の家は──五百年前、ツァオベラーの王朝において、アバークロンビーの名で公爵位を戴いていました」


アバークロンビー……公爵位。

パッと、ひとりの男の顔を思い出した。

それは──


(アーノルド・アバーク(・・・・)ロンビー(・・・・)……!!)


あの男の、名前だ。


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