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封印された部屋の住人

「──」


その答えに、私は言葉を失った。


(二代……前?)


それは……つまり。


ツォアベラーという国はもうなく……て?

フレンツェルの家もなくて……。


混乱した私は、何とか手がかりを得ようと、さらに彼に尋ねた。


「い、今……。今は、聖暦何年なのですか」


掠れきった、細い声で尋ねる。

その声は震えてしまった。


確かな予感を抱きながら、それが当たって欲しくない、と私は願った。

だけど、私の願い虚しく──その男性は、あっさりと答えた。


「聖暦じゃない。今は──光歴四百七十一年だ」


そもそも、暦法が変わっている──。


その事実に、私は卒倒しそうになった。


胸に抱えた、五日間を要した傑作の存在を思い出す。


(つまり……?ええと、私は)


何らかの理由で、未来?に来てしまって?


……ということは、何かしら。つまり。


確か、この状況を正確に表すことわざが、前世にあったはず──。


骨折り損のくたびれもうけ、とか。

水泡に帰する……とか。


徒労に終わる……とか、そういうやつ?


そんなの、そんなのって。


(ちょっと、あんまりじゃないーーーー!?!?)


その瞬間、気が遠くなった。

思えばこの五日間、まともに寝ていない。

達成感とアドレナリンだけで動いていたのだが、気力の糸が途切れた今、猛烈な眠気に襲われたのだ。


「──」


くら、と体が揺れ、頭から私は倒れた。




そして、そのまま失神したのである。

眠りに落ちた、なんて生易しいものではない。


文字通りその場に卒倒した。

何なら、口から魂すら出かかっていたような気がする。









ぱち、と勢いよく目を開けた。

なんだか、すごく眠った気がする……。


(夢も見なかったわ……)


そのままベッドに起き上がって、伸びをした私だが──違和感に、気がついた。


天蓋のレースカーテン。

その先に見える、紗がかかった室内の様子──に、見覚えはない。


伸びをした姿勢のまま、たっぷり数秒。

私は固まった。


(…………どこ、ここ!?)


そして、目まぐるしく記憶が駆け抜ける。


気絶する前──そうだわ。

確か私、部屋を出たら見知らぬ場所に出てしまって、それが未来の世界で……。


「…………????」


だめだわ。

考えてもよく分からない。


ここは人の話を聞くのが一番だ。


天蓋レースカーテンを捲り、ベッドから降りる。


室内は広く、城の貴賓室のように見えた。


(そういえば、あの金髪の男性……。殿下、って呼ばれていたわ)


ツォアベラーの王朝は既に滅んで、無い。

王朝が二代交代している……とのことだけど、その敬称からして、あの人は王族?


思考を整理するためにも部屋を歩き回っていた私は、ある事実に気がついた。


(足が、痛くない……?)


そう、あれだけ存在を主張していた足の痛みがないのである。


室内靴から足を抜き取って、足首を確認する。

既に包帯は外されており、色も至って普通。


痛みはない。

試しにあちこち曲げてみるが、全く痛くなかった。


どう見ても、完治している。



(な、何で…………!?)



混乱したが、直ぐに私は答えに思い至った。


(そうか……医療の進歩!!)


あれから何年経過したのかは分からないけど、王朝が二回変わっているということは相当な月日が流れているはずだ。

それくらい時間があれば、医療だって発達する。


薬効のある草から成分を抽出し、それを患部に貼ったり、飲んだりと言った前時代的な治療法ではなくなったのだ……!!


とはいえ、こんなに直ぐに治るものなのかという驚きはある。


一体、何年が経過したのかしら……。


思わず、もう何の問題もない足首をじっと見る。


その時、扉が叩かれる音が聞こえてきた。


「失礼します」


その声は、女性のもの。

彼女は私の返答を待つことなく、入室した。


そして、私に気が付くことなく、窓際に向かい、カーテンを開けた。

全く私に気がつく様子のない彼女を見て、ハッと私は思い至った。


私の特異魔法(ユニークスキル)の影響で、彼女は私に気がついていないのだ。


これは、私が声をかけるしかない。


そう思った私は、できるだけ彼女を驚かせないよう気をつけながら声をかけた。




「あの……」


「キャッ!?」


彼女は、茶髪をシニヨンにし、リボンのヘッドドレスを身につけていた。

私の知る、王城メイドとは服装が違う。

これも、時代の変化と言うやつなのかしら……。


驚きに目を見張った彼女に、私はにへら、と愛想笑いを浮かべた。

もはや、どんな表情をすればいいのかわからない。


ツァオベラーが無くなった、ということは今の私は公爵家の娘ではない。


ただのフェリシアである。


どう振る舞えばいいかわからずに戸惑っていると、彼女の瞳は見る見るうちに見開かれた。


そして、彼女は大声で言った。



「目が覚められたのですね、魔女様!!」




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