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扉を開けた先は、500年後の世界でした

トンネルを抜けると雪国であった──わけではなく。

部屋を出ると、そこは五百年後の世界でした。



「…………いや、何で!?」



思わず突っ込みを入れたところで、私の話を記録していた文官が顔を上げた。


「フェリシア様?」


「あ、いいえ。何でもないわ」


私は誤魔化すように笑みを浮かべた。









部屋にこもった私は、五日を要してプレゼン資料、もといお父様の説得材料を書き上げた。

ほぼほぼ徹夜である。


カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。


(朝日が目に染みるわ……!!)


試行錯誤したために、部屋中、羊皮紙まみれだ。


だけど。

ようやく、ようやく完成したのだ……!


私は作品を胸に抱いた。

感無量である。


(いける……!!これは、いける気がするわ……!!)


これなら、あの頭でっかちなお父様をも説得できる気がする!!


徹夜テンションで、私は目を閉じた。

思いを馳せるのは、私の今後だ。


(まずは、お父様にフェリックス様と婚約解消したいとをお父様に伝えるでしょ?そしたら──)



『文官登用試験を受ける』と……そう宣言する。



……間違いなく、お父様は認めないだろう。


今まで、私に無関心で一切興味がなかったとはいえ、流石に家門に泥を塗る行為は許さないはずだ。

公爵令嬢が文官になるなど、前代未聞。


だから……説得が必要だったのだ。


過去の文献を探せば、貴族女性が文官職に就いたことも、稀な例だが、あった。


実際のデータを使用し、さらに私の特異魔法(ユニークスキル)がいかに有用かをプレゼンする。


(【気配遮断】なんて、諜報活動には持ってこいじゃない!?)


体力面から騎士は無理だが、諜報員としては活動できると思うのだ。


(それに、私、前世で簿記資格取ったし)


転職しようと思って『それなら資格はあるに越したことないわよね!!』と安直に考え、取ったのだった。


(どこまでこの国で通用するかは分からないけど……もしかしたら活かせることがあるかもしれない)


文官になりたいと言ったら、お父様は烈火のごとく怒るだろう。

ふざけてるのか、と一喝されて本気には取られないかも。


もし、私が本気だと知ったら、縁を切られる可能性は大いにある。


(もう、私はフレンツェル公爵家の名前を名乗れないかもしれない……。ううん、そちらの可能性の方がよっぽど高いわ)


それでも、私は自身の選択を変更する気はなかった。


私は、自分の人生を生きたい。

誰かに言われるがままに生きるのではなく。


私が、私のために、生きたい、と……そう思ったのだ。




部屋を出る前に、続き部屋の浴室でお湯を浴びて、身支度を整えた。


(だけど……少し、意外だったわ)


五日間、引きこもると宣言したものの、お父様はともかく、お母様は間違いなく私を訪ねてくるだろうと思ったから。


もちろん、鍵はかけている。

それに、お母様が訪れても彼女を部屋に招き入れるつもりはなかった(プレゼン資料作りを優先したかったので)。


しかし、私の予想に反し、お母様は私の部屋に訪れなかった。

メイドすら、部屋に近付かなかったのだ。


「うーん?」


ドレッサーの前に座りながら、私は眉を寄せた。


(……放っておいてくれたのは嬉しいんだけど。なんだかいやな予感がする)


私の知らない間にとんでもない話が進んでいたらどうしよう。

例えば、既にフェリックス様との婚約は解消されていて、アーノルドとの婚約が改めて結ばれていた、とか。


そう思うと、居ても立っても居られず、私は思わず立ち上がった。


──その瞬間、忘れるなよ!!と言わんばかりに足首が強い痛みをもたらしてきた。


「っうぎ……!!」


部屋にひとりきりだからこその妙な声を漏らして、私はへなへなとその場に崩れ落ちた。


──そう。


五日経過したものの、未だに足首は熱を持っているし腫れているのだ……!


(これやっぱり、ヒビ入ってない??)


泣く泣く私は、気休めに足首を摩った。


包帯や薬草はリザに用意してもらったので自身で包帯の取り替えなどは行っていた。


足首の色が、相当まずいように感じる。

だんだん青黒くなってきたと思ったら、今度は黄色くなったのだ。


この世界には錠剤なんてなく、基本的に生薬である。


この、本当に効果があるのかも怪しい草をすり潰して飲んだり、それを患部に貼ったりする以外、対処法がないのだ……!!


(一度お医者様を呼んで、診てもらった方がいいわよね、これ……)


添え木を用意してもらった方がいい気がする。





それから私は、ひとりで着用できるコルセットを何とか身につけ、簡素な白のデイドレスを身にまとった。

鏡に映った自分を見て、両手の指で口角を上げた。


「……よし、可愛い!」


鏡の中の自分に、自画自賛する。


お姉様という、幻のような美女がいたために霞んでしまう私だが、私だってそれなりに可愛いのだ。


桃色の髪は……穏やかで落ち着いたラベンダーピンク。春リップとかにありそうな色合い。


同色の瞳は海棠色で、こちらもやはり同様に可愛らしい。


ちょっと癖のある髪は緩くカーブを描いていて、前髪もほんの少しだけくるりとしている。


(アニメとかゲームなら、【町娘A】とか【村人B】みたいな、【地味に可愛いキャラ】といった立ち位置だけど……可愛いは可愛いから、それでよし!)


後は、長い桃色の髪を、青のリボンで結べば完成だ。

鏡を見て、最後にもう一度気合を入れた私は、手書きのプレゼン資料を胸に抱き、根性だけで立ち上がった。


「っ……!」


瞬間、激痛が足首に走る。

それを意地と執念でねじ伏せて、私は部屋を出た。


部屋を出て──



「…………はい??」



愕然とした。

扉を開けた先には、見知らぬ階段が広がっていたからである。


長い長い階段。

それはまるで、塔の階段のように細く長く続いている。


……間違いなく、ここはフレンツェル公爵邸ではない。


それだけは、すぐに理解した。





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