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3.大塚君は手を出さない

 大塚の自宅は歩いて十五分ほどの距離にあるとのこと。

 お金も泊まりをお願いできる友達がいない以上、大塚の言葉に甘えるしかない状況だった。

 彼女の自宅は電車に乗って五十分もかかる。到底歩いて帰れる距離ではない。


「もちろん、女性の平野さんは怖いと思います。男の、それも出会ったばかりの相手の家に行くのは抵抗があるでしょう。お風呂に入っている時は俺、近くのコンビニで時間を潰しますし、寝るときは玄関で寝ますので」


「そこまでしてもらわなくても……」


「その方が安全だと思います。平野さんにとっては」


「……わかりました。では、お言葉に甘えてお邪魔します」


 それから二人は人気の少ない夜道を歩き大塚の自宅を目指した。

 大塚の自宅は少し年季の入ったマンション。その四階の一室が彼の自宅のようだ。


「一人暮らしなんですか?」


「はい。大学から」


「いいですね。私は実家暮らしなので」


「一人暮らしは大変ですよ。食事も家事も自分でやらないといけないので」


「ああ、そうですよね。ごめんなさい」


「謝ることではありませんよ。では、どうぞお入りください」


 大塚に促されて紗那は入室。ごく普通の1Kのマンションのようだ。

 清潔好きなのか、それとも潔癖症なのか。大塚の自宅は綺麗に整理整頓されていた。


「あまり広くないですけどゆっくりしていってください」


 大塚は絨毯の上にクッションを置いた。紗那はそのクッションに座り部屋を見渡した。

 家具は必要最低限のものが揃っている。ベッド、本棚。そして大学で使うリュックサックがベッドの近くに置かれている。勉強した後なのか、勉強机にはレジュメが数枚置かれていた。


「もしあれだったらお風呂に入っちゃってください」


「あ、はい! ではありがたく入らせてもらいます」


「わかりました。では、連絡先教えてください。お風呂から出てから連絡してくれると助かります」


 大塚はそう言い残して部屋を後にし、外に出て鍵を閉めた。


「……」


 本当に信用していいの?

 まだ半信半疑の紗那はお風呂に入るふりをして大塚がコッソリ帰ってきて覗きに来ないか監視するが、待てど帰ってくるどころか物音一つしない。


「本当にコンビニに行ったのかな……?」


 そうとなれば有難くお風呂に入ろう。紗那は洗面所で服を脱いで浴室へ。

 入ってすぐ紗那はあることに気づいた。


「え? このシャンプーって……」


 とてもではないが男の人が使わないようなシャンプーとトリートメントが置かれていた。

 大塚が使用するとは思えない。だとすると恋人の?


(仮に恋人がいるんだとしたら浮気? になるけども……)


 なぜ大塚に対して疑義を抱いているんだろうか。紗那は首を振って余計なことを振り落とした。

 彼の善意を素直に受け取らないといけない。私の方が邪な感情を抱いている。

 紗那はシャワーで今日の疲れを取り、有難くシャンプーとトリートメントを使用させてもらった。


「は~……」


 汗も流せて髪も洗えた。紗那はドライヤーで紙を乾かしながら大塚に連絡をいれた。もう大丈夫です、と。数分後に帰宅した大塚にの手にビニール袋が。


「これ着替えです。コンビニで売っているものです」


「え? そこまでしてもらうのは……」


「いいんです。もしサイズが合わないのであれば言ってください。別の物を用意しますので」


「あ、はい」


 紗那は大塚からビニルを受け取り中身を確認。大塚は洗面所から外に出たようだ。

 律儀だと思った。そこまでしなくとも、と。


「シャツとズボン。ちょっとサイズが大きめだけど問題ないかな?」


 開封して着て見た感じ、多少のサイズオーバーは許容範囲。

 外で待機している大塚に連絡をし、彼はまた鍵を開錠して入った。


「どうでしたか?」


「これで問題ないです。あの、色々とごめんなさい。こんなものまで買ってもらって、本当にお礼しか言えません」


「いえいえ。問題なく着れているのでよかったです。では、もう夜も遅いのでお休みしましょうか」


「あ、はい」


 大塚はクローゼットからマットレスを引っ張り出して玄関の所にひいた。


「平野さんは俺のベッド使ってください」


「私はそのマットレスでいいですよ。そこまでは流石に申し訳ないですので」


「このマットレス、ベッドが届くまでのつなぎで買った安いものなので、慣れない人が一晩過ごすと全身を痛めてしまうんです。俺はもうこれに慣れていますから」


「……それだったベッド使います。ありがとうございます」


 部屋の明かりを消して就寝となった。だけど、紗那はすぐに眠れなかった。

 部屋を出てすぐ寝ている大塚の存在が気になったのである。


(手を出す機会はまだあるけど、一向にその気配すらない……)


 紗那はどこかのタイミングで大塚が本性を現し、手を出すか覗き、もしくは盗撮をすると思ったが、彼女が知る範囲では確認もそんな素振りも見えなかった。


 性欲がないのか。それともただ単に彼女に興味がないのか。

 だけど、こうして飲み会から彼の家で一晩過ごすことになってわかったことがある。


(私のためにベッドまで……本当に大塚くんは優しすぎる)


 紗那はぐっすりと眠ることができたのであった。

 翌日、紗那は目覚めてすぐ彼の自宅を後にする。大塚はまだ眠っている。

 彼を起こさないように家を出て帰宅するのだった。

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