影
「うーん、まぁまぁ寝れたな」
セオは三段ベットから降りると、背伸びをした。リオンとエリオットはまだ寝ている。廊下に出ると、妹たちの部屋からも寝息が聞こえてきた。起こして昨日の喧嘩の続きをされてらたまらない。セオは部屋の前を忍び貸しで通ると、小腹が空いていたので、戸棚に何か食べるものがないかを探していた。
「ベビードラゴンの燻製肉。これにしようかな」
セオは戸棚の端にあった、薫製肉を取ると、皿に並べ一気に平らげてしまった。
「父さんの剣がない。そうか、遠征に昨日の夜に行ったのか」
ガタ
「何だ?」
物置小屋からガタガタと音がする。母親はまだ寝ている時間だ。セオは何となく胸騒ぎがしたため、家から飛び出すと物置小屋には駆け込んだ。
「おい! そこにいるのは誰だ!」
「ひぃ! なんだお前は!」
「うっ!?」
セオ画物置小屋の扉を勢いよく開けると、そこには見知らぬ黒い影がいた。黒いローブをかぶっており、不気味な笑みを浮かべた仮面をつけている。
その人物はセオの声に驚くと、杖で魔法を操り、セオの体を壁に固定した。
「身動きが取れない」
体を動かそうとするが、指一本動かすことができなかった。謎の人物はニタリと笑い、水晶を掲げた。
「しばらくそこでじっとしていろ! 今は大事な時なのだ」
謎の人物はそう言うと、水晶を掲げ、何かを唱えだした。
(くっ、どうしたら……。そうだ!)
セオは相手を強く睨みつけた。その瞬間、相手の体に電撃が走る。拘束状態でも無詠唱魔法を使うことはできたらしい。
「ぐあ!」
相手は悲鳴を上げ、地面に倒れ込んだ。セオの拘束もとけ、水晶が地面に転がった。セオは間髪入れずそれを奪い取った。
「何企んでるのか知らないけど、怪しいからこれは募集するぜ」
「兄ちゃん、何してるの?」
気がつくと寝ぼけたリアンがすぐそばにいた。どうやら耳がいいリアンはこの騒動で目を覚ましてしまったらしい。寝ぼけていて、この騒動が目に入っていないようだ。
「リアン! お前は物置小屋から出るんだ」
「え、なんで? あの人だぁれ?」
「フフフフフフ、もう手遅れさ。その水晶の力はもう発動している」
水晶が強く光り始める。先ほどまでは気が付かなかったが、地面には魔法陣が書かれていて、セオとリアン、そして謎の人物は魔法陣の中にすっぽりと入り込んでいた。
何やら嫌な気配を感じたセオは、魔法陣の外側に出ようとしたが、見えない壁に弾かれて、魔法陣の中に戻されてしまった。どうやら閉じ込められてしまったようだ。
「フフフ、子供がついてくるとは、予想外だったが、そんなことは些細な問題よ」
「おい、お前、さっさとこれを解け!」
「無理さ。一度発動してしまったのだから、取り消しようがない」
壁を強く叩いたり、魔法を当ててみるが効果は見られない。間もなくして床の魔法陣がクルクルと回転し始めた。眩い光に当たりが包まれ、あまりの眩しさにセオは、目をつぶった。
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「ここは、どこだ?」
「知らない場所だね」
そこは見知らぬ場所だった。
森の中のようだが、家の付近の普段通っている森ではない。どんよりとしていて、今にも何かが出てきそうなほど、不気味な森だ。
「な!? ここは英雄のいる場所ではない? 魔法陣は完璧だったはず! 一体なぜ着地点がズレてしまっているのか。うぐっ!」
「おい! 俺達を元の場所に戻せ!」
セオは、ブツブツとわけの分からないことを呟いている相手を殴りつけた。
「配下たちよ、この画像を仕留めるが良い」
謎の人物は水晶を掲げた。先程の綺麗な水色とは違い、禍々しい色に染まっていた。
「なんだ。配下なんてどこにも……うわ!」
周りを見渡すと、いつの間にか大勢の敵に囲まれていた。その数は数百はくだらないだろう。
「リアン、俺の傍を離れるな」
「う、うん」
リアンは言うまでもなく、怯えてくっついてくる。離れる心配はなさそうだ。
「ちょっと君達! ここで暴れられると困るよ!」
突然頭上から声がしたと思うと、近くにあった大木の木の上に誰かが座っていた。
「せっかくこのあたりのモンスターを一掃したと思ったのに、また現れるとは懲りないやつらだね」
木の上の人物が杖を振った。光の刃がは数百数千にもなって、辺りに飛び散り、次々と敵を射止めていく。倒れ込んだ敵の体を見ると、全てが心臓に的中していた。
「凄い」
その様子を見ていたリアンが感嘆の声を上げる。
「くそ、者共! 退却だ!」
謎の人物は生き残った者を集めると、素早く消えていった。水晶の力でも使ったのかもしれない。
「君達、そこを動くな」
木の上にいた人物は木を滑るようにして降りてくると、セオ達の前で立ち止まった。こちらに杖を構えながら警戒するように話しかけてくる。
セオと同い年ぐらいの少年だ。
「君達は何者だ? なぜこのようなところに?」
「えっと、俺の名前はセオ。こっちは弟のリアン。俺達歯敵じゃない」
「信じられないな。怪しすぎる」
「うっう」
少年画そう言ったところで、リアンが地面に倒れ込んだ。
「おい、リアン! 大丈夫か?」
「おい! 動くなといったはずだ」
「うるさい! 非常事態だぞ!」
セオは、少年を怒鳴りつけると、リアンの額に手を当てた。酷い熱だ。リアンは昔から急に熱を出すことがある。それにしてもタイミングが悪い。
「おい、ここら辺に医者は居ないか?」
「動くなと言っているだろう!」
「弟の命がかかってんだぞ! 病弱だから、熱でもすぐに危篤状態になるんだ! 頼むから医者のところまで案内してくれないか?」
セオは、少年を睨みつけた。
「う、仕方がない。ついてこい」
少年はなおも警戒を強めていたが、杖を下ろし、顎をしゃくると、歩き始めた。セオもすっかりと体が熱くなってしまったリアンの体を抱き上げ、少年の後を追った。