迫りくる脅威
森の中を少年達が走っている。
暗闇の中、黒い影から逃げているのだ。
それを森の主であるフクロウは木の上から悠々と眺めていた。
少年の内の一人が黒い影に足を絡め取られ、倒れ込んだと同時に胴体を真っ二つに切断された。血しぶきが飛び散り、辺り一面が血で覆われる。先頭を走っていた立派な剣を携えた少年が、思わず立ち止まった。
「ジャドス!」少年は叫ぶ。
四人の中では一番年配だと思われる少年が、叫んだ少年の手を取り、引っ張って連れて行こうとする。
「いけない! フェンリル、立ち止まらずに逃げるんだ!」
「嫌だ! 俺はここで戦う!」
「聞き分けの悪い奴め! お前が死んだら、誰がこの世界を救うんだ!」
「仲間を救えずして、世界を救えるか! 俺はここで戦うぞ!」
フェンリルは叫び剣を抜こうとした。
年配の少年は、後方を走ってくる屈強な体つきをした少年に助けを求める。
「くっ! ライオス! 力を貸してくれ!」
「オルフェン! 分かった!」
ライオスとオルフェンはフェンリルを押さえつけると、引きずるように走り出した。
「くっ! 離せ! ライオス、オルフェン!」
逃げ出そうとする3人の少年に、黒い影の魔の手が襲いかかった。黒い触手のようなものが、ライオスの腕を絡め取った瞬間、ライオスの腕が吹き飛んだ。黒い触手はオルフェンの足にも忍び寄り、膝に巻きついたと思った瞬間、オルフェンの両足が切断され、倒れ込んだ。
「ライオス! オルフェン!」
「逃げてください! フェンリル様、貴方は我々の希望なのです!」
ライオスは切り落とされた腕を押さえながら叫ぶ。
「俺達のことは気にするな! ここでやられるほど落ちぶれてなどおらぬ!」
オルフェンも釣られて叫ぶ。
「すまない! 二人とも!」
フェンリルは涙を拭うと駆け出した。二人の命はそこで燃え尽きた。
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「これは……うっ!」
「見つけたぞ! 覚悟しろ!」
気がつくと追っ手が、追い着いてきていた。肩に弓矢をくらい、フェンリルは腕を押さえた。
「ここまで追っ手が来たということは、ライオスとオルフェンは!」
「あぁ、あいつらか。それなら始末しといてやったぜ」
「くそ、俺のせいだ。俺が足を止めたから! もう逃げ場はない」
気がつくと前方は崖だった。もうあとがない。ここで戦うしかないのだ。フェンリル背中の剣を構えた。
「おい、ちょっと待って!」
空から影が降ってきて、フェンリルと追っ手の間に立ち塞がった。
「助けに来てやったぜ」
金髪にエメラルドの瞳を携えた少年がニカッと笑った。