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第5話 山神と街とパチンカス


 エリーシアと帝国を目指して旅を始めてから3目


 今日も朝からエリーシアと街道を歩く。

 ある程度歩き疲れたら脇にそれて休憩する。

 休憩中に色々とこちらの世界の事を学んだりもする。


 「エリーシアって魔法とか使えたりするんですか?」

「ワタシは貴族であり軍人でありますからね、勿論使えるでありますよ」


 少し誇らしげなエリーシアさんだった。

 やはりこの世界には魔法があるのか......。


「貴族や軍人でないと魔法って使えないのですか?」

「そういうわけではないでありますが、貴族や軍人で魔法を使えない者はまずいないであります」


「エリーシアはどんな魔法が使えたりするんです?」

「火と水と探知系に属する魔法が得意でありますね。それと、身体強化系の魔法は一通り使えるでありますよ」


「凄いですね!」

「ハッハッハー、ワタシは優秀な帝国軍人でありますからな! 当然です!」


 大きな胸を張って調子づくエリーシアは実に誇らしげだ。


「水の魔法とかみせてもらっても?」

「よいでありますよー」

 そう言ってエリーシアさんは手の平から水を出す。

 水道の蛇口から水を出すように手の平から水がでてくる。


「まじに凄いですね!」

「まあ、これくらいは当然でありますよ」

 エリーシアの顔は得意気だ。


「魔法って誰でも使えたりするもんなんですかね?」

「素質があって鍛錬すれば使えるであります」

「俺にも使えるでしょうか?」

「掌から水がでるイメージをしてみるであります」


 手に意識を集中してやってみる... ...水は出なかった。


「パチンカス殿は多分魔法が使えないであります」

 残念だ!

「さて、休憩はこれくらいにして次の街に行くでありますよ」


 そう言ってエリーシアは俺を背中に乗せてくれた。

 朝は共に歩き、休憩後はエリーシアの背中に乗せてもらい次の街迄行くというパターンが定着しつつある。


 今日も無事に予定の街迄到着した。

 今日泊まる街は規模もそれなりに大きく宿には期待できそうである。


 何時も通りエリーシアが門番に口を利き、街に入れてもらう。 

 エリーシアの後をついて行けばお咎めなしである。

 エリーシアは特殊な身分なのかもしれない。


 中に入ってからエリーシアさんに金貨を何枚か見せて宿代等に使って欲しい旨を伝える。

「助かるではありますがこんな大金持ってる事が分かったら危険であります。 無闇に外で金貨は出さない方がよいであります」

 と言って叱られた。

 まぁ、そうかもしれない。

 俺ははどうにも慎重さにかけているようだ。


 エリーシアさんはこの街に何度か来た事があり懇意にしている宿屋があるらしい。


 宿は中華風な御殿という感じで門構えも立派である。

 これまで泊まった宿に比べて中も豪奢で綺麗だ。

 中に入ると受付の熊のような獣人が陰気な表情を浮かべながら挨拶してくる。


「お客様。 いらっしゃいませ! あ、以前いらした人馬の方、エリーシア様ですね」

「ワタシを覚えていてくれたでありますか?」

「それは勿論! 娘を可愛がっていただいたお客様を忘れるわけないですよ」

「エマちゃんはお元気でありますか?」

「もう元気も元気、店も手伝うし、お客さんには可愛がってもらえるしでカワイイ盛りですわ!」


 熊獣人は喜色満面の笑みで娘自慢しようとする。

 変わり身の早い奴だな。


「あんた、お客さんかい?」

 と、宿の中から女将さんらしき兎耳のすらっとした女性がでてきた。


「女将さん、こんばんはであります」

「あら、エリーシアさん! また来てくださったんですね。 ご贔屓にありがとうございます」

 熊獣人と兎耳の人間の夫婦から生まれた子供はどんな感じなんだろうか?

 少し気になる。


「ただいまー、食材買ってきたよー」

 そう言って玄関から人馬の子供が入ってきた。

「おう! エマお帰りー。 今、ちょうど... ...」


「あ!、エリーシアお姉ちゃんだー。わーい」と言ってエリーシアに猛烈チャージをかます小柄な人馬のエマちゃん!

 それをあっさりと受け止めて抱きかかえるエリーシアパイセン! マジ凄い体幹してる。


「エマちゃんは相変わらず元気でありますなー」

「エマ、この前エリーシアお姉ちゃんに教わった魔法いっぱい練習したんだけど、まだあんまりうまくできないからまた教えて欲しいの」

「いいでありますよー。 基本の水と火の魔法はどのくらいできるようになったでありますか?」


 それを聞いてエマという小さな人馬は、「ぶぅー」と頬を膨らませてエリーシアにおねだりする。


「エマはそんな簡単な魔法より、エリーシアお姉ちゃんのように速く走れる魔法が使えるようになりたいの!」


 なに? 

 聞き捨てならんな! 

 こんな小さな子供ですら魔法が使えるというのに俺ときたら水の1つも出せんとは!

 水で良いから魔法でだしてみたいです!


「身体強化の魔法はまだ、エマちゃんには難しいであります。 まずは基本が大事でありますよ」

「こら、エマ! お客さんは旅で疲れてるんだから後にしなさい」

 兎耳の女将が割って入ってくれたおかげでエリーシアはエマから解放された。

 そして、この宿でも特に良い部屋に通してもらい俺は一息つく。


「ふー」


 エマちゃんか……。

 嵐のように元気な子供だったな。

 しかし、この世界の子供は親の遺伝子を継承しないのだろうか? 

 養子という可能性もあるが。


 また、時間があればそこのところも聞いてみたいとこだな。

 エリーシアはエマちゃんの相手をしているだろうし、俺は部屋でパチスロ三昧させてもらうとするかな。


 今日の機種は

 Lパチスロ D4DJKB

 である。

 アイドルユニット毎にAT性能が異なる個性的な台である。

 高設定の勝率はマジに高いが低設定は死ねる台である! 

 まあ、うまくBONUSとATを絡ませて連チャンすればそれなりに出玉はでる!

 やるぜ!!

 今日の俺もやれる!

 レバーオン!!!


 結果

 投資枚数 1708枚

 回収枚数 2412枚

 とりあえずちょこ勝ち!

 負けなくて良かった!


 ぐは! スロットに夢中になり過ぎて飯を食いに行くの忘れた。

 少しひもじいが勝ったから気分は良い。

 それにこの街に数日滞在する事になりそうだし、まあ今日は我慢して寝る。



 翌日、エリーシアが起こしにきてくれたので朝食を一緒に食べに一階の食堂に行く。


「パチンカス殿は昨日はご飯も食べずに何をしてたでありますか?」

「ふむ、論文の締め切りが近くてね... ...」

「パチスロしてたんでありますね」

「まあ... ...そうです」

「毎日やってて飽きないでありますか?」

「それが全然飽きないんだよなー これが!」

「流石パチンカス殿ですな」

「流石ワタシですか?」

「パチンカス殿が流石であります!」

「そうですか」

「そうであります!」

「はははは」

「なんで笑うでありますか?」

「なんとなくです!」

「なんとなくでありますか」

「はい」


 という何時ものやりとりが終わるとエリーシアは旅の荷物の買い出しに、俺は部屋にパチスロしに戻るのであった。


 今日は久々に1日打てる!

 こちらの世界に来て始めて訪れた丸一日自由な時間!

 終日パチスロ回してこそ真のパチンカスである!


 エリーシアさんは買い出しやらエマちゃんのあいてやらで忙しい!

 そして、俺はパチスロ打つので忙しい!

 お互い忙しいの身の上だ。

 素晴らしい!

 そして、今日の機種は。


 Lゲゲゲの鬼太郎 覚醒JCである。


 通常時は規定ゲーム数消化・レア役・妖気ポイント(妖気目で獲得)を契機にCZやAT当選を目指すゲーム性である。

 最大ATループは80%で継続する爆裂台である!

 1日あればどっかで大爆発狙えるはず!

 いざ!

 勝負!

 レバーオン!


 結果

 投資枚数 4506枚

 回収枚数 4401枚



 1日使った結果......。

 ほぼ何の成果もありませんでした。

 しかも12時間使ってしまった。

 朝の7時から打ち始めて今は夜の7時30くらいだろうか。

 ディナーの時間である。

 今から6時間一切能力は使えない!

 考えなしにパチスロしてしまった俺は大間抜けである。 

 まあ、後は飯食って寝るだけだし。

 無事に明日を迎えれたら万事解決。

 しかし、いざ能力がまったく使えないと思うと少し不安な気持ちはある。


「パチンカス殿ー 夜ご飯でありますよー。 今日も食べないでありますかー」

 「あ、いきます。 いきます。」

 エリーシアが良いタイミングで呼びに来てくれたので有飯にする。


「パチンカス殿は、またパチスロでありますか?」

「うむ! パチスロの締め切りに追われてましてな」

「パチスロの締め切りってなんでありますか?」

「なんでしょう?」

「なんでパチンカス殿がわからないでありますか!?」

「すいません。 適当喋りました!」

「まったく困ったパチンカス殿であります」

 エリーシアさんの反応がよいからついつい軽口をたたいてしまう。


「それはそうとパチンカス殿、ここの夜の料理は素晴らしく美味しいでありますから食べないと絶対に損でありますよ!」

「え! そうなんですか?」

 聞いてないよーである。

 まあ、実際聞いてないからな... ...しれるわけもない。

「なら今日は美味な料理を堪能させてもらいましょうかね」

 この世界に来て美味いもんあまり食った記憶がないからあんまり期待できないが......。


 と、思ったら。


 女将の特製、山の幸、海の幸のスペシャルコースはマジに美味かった!


 というか、度肝を抜かれた!


【前菜】

 サウスフィシュの錦糸巻き

 あばら豆腐

 柿鳴門

【お向】

 名魚の三種刺身盛り

【鍋物】

 猪肉鍋

【お凌ぎ】

 二八細切りざるそば

【小鉢】

 海鮮と野菜の和え物

【揚げもの】

 季節野菜の天ぷら盛り合わせ

【蒸し物】

 最高級茶碗蒸し

【ご飯】

 季節香る茸飯

【水菓】

 桃花の実


 異世界と言えばメシマズがデフォルトであるとの自分の思い込みは完全に破壊された!

 この宿の飯のクオリティは異世界の限界を越えている!

 不可解過ぎて、

「女将を呼べ! 褒めて使わす!」

 と、言いたいくらいだがそんな事はせずに普通に聞いた。

 

 そして、宿の主人と女将さんに話を聞くことになった。

 この街は何故か色々国から商人が集まるらしくてとても有名な場所らしい。

 故に様々な調理法や美味い食材や珍味が手に入る。

 何でも、王が倒れようが、国が荒れようが山神という偉大な神がこの辺り一体の安全を保証しているという話だ。


 山神のおかげで周辺の山にも川にもモンスターはでず安全に狩猟はできるし、川は氾濫しないし、天災にも見舞われないから田畑も荒れない。

 そして、何千年も街が傾いたことがない実績がこの街の信頼度を高めている。


「神様が守ってくるてる土地だなんてすごいですね」

「まあ、そうですわね... ...あれさえなければね、特に今年はエマが10歳になるから心配ですわ」 


 と、兎耳の女将は複雑な表情を浮かべている。


 まあ、エマちゃんの可愛さは確かに心配になるレベルではある。

 悪い虫がつかないかさぞ心配だろう。

 街が栄えていても良い事ばかりではない。

 それなりに苦労があるってことなのかもしれないな。


 それはそうと、とにかく美味い飯はありがたい!

 しばらく、この街に逗留するのも良いかもしれないな。

「パチンカス殿もここの食事には満足そうで良かったであります」

「あれ、俺は日頃の食事に不満そうでした?」

「パチンカス殿は顔に出やすいでありますからな」

 バレバレだったか。


「後、3日くらいはここでゆっくりしたいとこですよ」

「それくらいなら、構わないでありますよ! ワタシもこの街は好きでありますから」

「なら、出発は明々後日ってことでよろしくお願いします」

「わかったであります」


 3日のうち1日だけエリーシアに少し付き添って行動した。

 エリーシアの朝は早い。

 朝日が上がると同時に街の中央にそびえ立つ山を登る。

 山頂まで一万二千八百段という階段が続き千段毎に鳥居がある。

 七千段を越えたあたりから限界を感じた俺はエリーシアの荷物となり山頂まで連れて行ってもらった。


 エリーシアパイセンマジにタフ過ぎる!


 山頂に綺麗に石畳で整地されていて本丸御殿のような建物が建ち並んでいる。

 人が住んでいる気配はないが高い標高と朝焼けの効果もあってかこの場所は非常に神秘的だった。

 まさに神が住まう場所って感じである。


「しかし、エリーシアって凄い体力してるよね? 俺を乗せて階段までスラスラ上がって息も切れてないし、本当に凄い!」

「ハッハッハー、まあ、ワタシはエリート軍人ですからなこれくらい余裕であります」

 今日も誇らしげなエリーシアである。


 帝国のエリートはみんなエリーシア並みのフィジカルエリートなのだろうか?


「俺も元いた世界では身体を使う最高峰の肉体労働者だったんですけどね」

「そうだったんでありますか? パチンカス殿の職業はパチスロだと勘違いしておりました」

「いや、それも間違いではないんですが......プロ野球選手という職業も少しやっていたんですよ」


「どういった仕事なんでありますか?」

「こういう丸いボールを投げたり打ったりして走る仕事ですかね」

「変わった仕事でありますね」

「これが以外と奥が深い競技でしてね。 帝国についたら道具を作って参加者を募って1度はやってみたいと考えてます」


「それは楽しみであります。」


「きっと楽しいですよ。 

 楽しみにしといてください!」


 「期待してるであります!」

 エリーシアの身体能力で野球をしたら異次元の投打が期待できそうで胸熱だわ。


 その後に宿に戻り、エリーシアさんはエマちゃんの魔法の特訓に付き合う。


 エマちゃんがエリーシアさんの仕草を真似て頑張る姿はとても可愛気があり大変よろしい!

 子供の人馬っての小さくて本当に可愛らしい存在で見ていて癒し効果があるな。

 エリーシアの子供の時もさぞ可愛らしかったのだろう。


 しかし、魔法の訓練はあまりうまくいってないな。

 どうにも、エリーシアは感覚的に魔法を使う天才肌のような感じなのでうまくコツをエマちゃんに伝授できてないようだ。


 エリーシアにも不得手な事があるんだなーと俺は少し安心する。


 しかし、実力は確かでエマちゃんはエリーシアを尊敬しっぱなしだ。

 エマちゃんがエリーシアにあれやってーとおねだりしてエリーシアがそれに応えて魔法を発動させる。


 それをエマちゃんが真似しようとするがなかなか同じようにできないが、キャッキャキャッキャ楽しそうである。


 同じ人馬同士でもあるし二人を見ると年の離れた兄妹のようにみえるくらい微笑ましい。


 エマちゃんの特訓が終わったらお昼である。

 女将さんが特別に豪華昼食を用意してくれた。

 その味は絶品の一言である。

 俺はそこで眠くなり限界がきたので部屋に戻り熟睡した。

 朝から階段ダッシュマジに辛かったです。


 夜はエリーシアに起こしてもらい豪華ディナーに舌鼓を打つ。

 そして、パチスロを打って眠る。

 そういう1日になった。

 翌日は身体がバキバキに筋肉痛になったのは言うまでもない... ...。

 身体はわりと鍛えてはいるつもりだったがエリーシアについて行くの無理過ぎる!

 生物としてレベルが違い過ぎることを実感する。


 残りの2日間は美味い飯、綺麗な宿で惰眠貪り食い、そしてパチスロを打つだけという理想的な生活で終わってしまった。

 好きな時に寝て、好きな時に食い、好きな時にパチスロできる幸せ!


 俺のこの世界に来てからの素敵な素敵な3日間はあっという間にすぎた。


 そして、改めて帝国を目指しての出発の日。


 宿屋に恐れていた悲劇が訪れてしまった。


 『エマちゃんが生贄巫女に選ばれてしまったのである!』


 ことの始まりはこうである。

 朝方、宿屋に赤い布に包まれた封書が届けられた。

 封書を見た宿屋の店主は肩を落とし、女将は泣き崩れた   

 その姿は火事にあったちびまる子ちゃんの長沢君のように暗い影が浮かぶ。


 俺とエリーシアは店主に事情を聞くことにした。


「娘は……。娘は今年の祭事の生贄巫女に選ばれてしまい。 これはそのことが決定した先触れなのです」


「エマちゃんは今何処にいるでありますか?」


 宿屋の何処を探してもエマは見つからない。

 先触れがつくと神隠しのように儀式の日まで消えてしまうのだ。


 それから、俺とエリーシアは宿屋夫妻からこの街の生贄巫女と儀式の話を聞いた。


 端的に言えばこの街には生贄の文化がある

 この街では毎年10歳になる娘を生贄として山の神にお供えする。


 勿論ながら生贄が戻ってくることはない......。


 それは街全体の周知の事実である。

 そして生贄巫女の儀式に対する見返りが街の安全と発展に寄与しているということは街の人間の共通認識である。


 そういう歴史が積み重ねられてきた街である。

 生贄に選ばれた娘の家に抗うという選択肢はない。

 それがこの街で暮らしていくということらしい。


 神事を仕切るのは顔役連中のまとめ役の長巫女と呼ばれる地位にいる人間である。

 生贄となる巫女も長巫女の一存で決まる。

 今回も長巫女の一存で宿屋の娘が選ばれた。


 エリーシアは心情的にはエマちゃんを救いたいようだったが......。


 自分が他国の人間でましてや帝国軍人であることから諦めムードである。

 宿の主人も女将も諦めムードである。


「えげつない街だな」


 しかし、ここは異世界。

 俺の常識とは異なる世界。


 なかなかえげつない風習のある街もあったなと心に留め置くのが大人の判断である。

 余所者が首を突っ込める話ではない。


 しかしながら、幼い命が無為に消えるのはしのびない......。

 あのエマちゃんが10歳で死なないといけないのはやはりやるせない。


 エマちゃんの居場所がわかればな......。


 エリーシアがその気になればエマを背にのせて街から逃がすことくらいはできるだろう。


 しかし、それをしたところで根本的な解決にならない……。


 俺は宿の部屋でエリーシアと話し合う事にする。


 いつも明るいエリーシアが見事に落ち込んでいる。

 目にエマちゃんを助けるという闘志も感じない。


「エリーシアはこういった生贄とかいう儀式はどう思うんですか?」


 軽くジャブ的にエリーシアに聞いて見る。


「こんな風習がある場所は珍しいであります。 帝国にはそんな村や街はまずないであります!」

「なら、この街のやっている儀式に意味はないと?」

「それは分からないであります。 信仰は自由でありますし、何より街全体の意思がそうであるなら部外者のワタシ達が異を唱えるのは筋が通らないであります」


「なら、幼い娘は街のために犠牲になれと?」


「そうは言ってないであります!」


「ならどうするんですか? エリーシアはエマちゃんを助けたいんでしょう?」


「それはそうでありますが......。 ワタシは帝国の人間、貴方は異世界人。 この国の人間でもないし、この街に住んでもいない部外者であります。 助けてあげたいという気持ちだけで何かをするわけにいかないであります!」


「帝国ってのは自分のやりたいことができない国なんですか?」

「誰もが自分のやりたいように生きてるわけではないであります!」


「違いますね。 間違ってますよ! エリーシアさん!」

 俺はエリーシアを否定する。


「それはやりたいことを誰もが我慢してるだけです。 そうすれば最悪を回避できますからね」


「それの何が悪いんでありますか!?」


「俺はね。 自分がやりたいと思ったことは我慢しないタイプの人間でしてね。 世界が違ってようが、それが街のためになろうが子供を生贄にするような文化は許せないし、見過ごすわけにはいかんのです!」


「それは何故でありますか?」


「俺がパチスロを楽しむためです! ここでエマちゃんを見捨てたら、これから先ふとした時に思い出すでしょう。 もしかしたら助けることができたのに助けなかった。 そういう記憶が俺を嫌な気分にさせる! それは我慢ならない! そうなると俺はパチスロが心ゆくまで楽しめない! それは困るんですよ!」


「随分と我儘な理由でありますな」

「俺はわりと我儘なんですよ! 知らなかったんですか?」


「まだ、出会って日が浅いでありますからな。 知らない事のほうが多いでありますよ!」


「それは失礼しました。 ナハハハ」

「なんで笑うでありますか?」

「失礼、なんとなくです!」

「なんとなくでありますか」

「なんとなくです」

「で、ありますか」

「はい」

 フフフとエリーシアも少し微笑む。

 エリーシアの瞳に少し闘志が戻ってきた。

 これで居場所さえわかればワンチャンスあるかもしれない。


「それで、エマちゃんをどうやって助けるでありますか? 何か妙案でもあるでありますか?」


「ま、このパチンカスにお任せあれです!」

 とりあえず俺は根拠の無い自信を提示してモチベだけは保つことにした。


 エマちゃんはこの宿の主人の一人娘であり、エリーシアもとても懇意にしている。

 俺も少しだけ懇意にしている......。


 だからこそ人情的にはエリーシアもエマちゃんを助けたいわけだがエリーシアにも立場があり、今は俺を帝国まで送り届ける任務が最優先される。


 だが、俺が娘を助けたいと言い出せば話は別である。 これでエリーシアは俺のために他国で揉め事を起こしてしまったとてしても少しは大義名分が得られるかもしれない。


「あの異世界人のせいでありますー」みたいな感じで言い訳に使えるだけかもしれないが。


 これでエリーシアも少しは動きやすくなるだろう。

 しかし、自分でも不思議だ。


 エマちゃんとは面識はあるが恩も義理もない。

 だが理不尽に命が奪われると聞くとなんとか助けてやりたくなるものである。

 何時の間にかエリーシアから影響を受けてお人好しな性格が移ったのかもしれないな。


 そんな自分も悪くないと思えるから不思議である。


 この世界には神や王、奇跡や魔法が身近なだけに儀式が重要視されている。

 長巫女や神官と呼ばれる人間に特権がわりと集まるようだ。


 生贄巫女が儀式まで何処に幽閉されているか不明なのは取り返しに越させないようにする仕組みの1つなんだろうな。


 儀式が行われるのは2週間後である。

 わりと時間はあるが……。

 何時までも生贄巫女が無事かどうかもわからない。

 できるだけスピード解決が理想なんだがな。

 さて、どうするか?

 

 長巫女や街の権力者を締め上げて吐かせるか?


 パチスロ台を投げつけてバトルして権力者を締め上げたりしたら今後の旅路はお尋ね者として手配されかねないし。

 犯罪者として追われるのは避けたい。

 最悪そんなの関係ねぇー! 

 と暴力に訴えるのは最終手段かな。

 悪手にも程がある。


 とりあえずエマちゃんを助けるのをまずは最優先にして、さらには今後はこの儀式をやめさせて次なる被害者を生まないようにできたら最高なんだが。


 そんな妙手を俺が考えつくはずもない......。


 可能性が高いのは決定権を持ってる人間にアプローチすることなんだよな。

 生贄巫女を決めるのは長巫女だ。

 なら、居場所のわかる長巫女に会いにいく。

 俺はそう決めた!


 出たとこ勝負が俺の勝負手である。

 やると決めたら可能性の高い手段から試す。

 


 宿屋の店主に俺が娘を助けてやると自信たっぷりに話したら諦めムードだが、しぶしぶ長巫女の屋敷の場所迄案内してくれた。


「パチンカスさん、気持ちはありがたいですが長巫女様に会うのは諦めた方がいい」

「ここ迄きて帰るはないだろう、案内ありがとうな」

 宿屋の店主に別れを告げて俺は長巫女の屋敷に足を向けた。


 長巫女の立派な屋敷には厳つい虎の獣人が門番として立っていた。

 俺は近寄って軽く挨拶をする。

「長巫女様に会いたいんだが今ご在宅ですかな? 中に入ってもよいですか?」

「誰だお前は? よいわけがないだろ!」

「そらそうだよね。 これじゃあ駄目?」

 虎の獣人に金貨を5枚程握らせた。

 門番は金貨を見るとビックリした表情を浮かべて「少し待ってろ」と、言って急いで中に入り上に取り次いでくれた......。


 その後、門の前で待つこと数分。

 羊のような執事の人間が現れて丁重に挨拶され中に通してもらい、長巫女のいる部屋迄案内された。


 扉の前で執事が中に向かって声をかける。

「カエデ様。 ......連れて参りました」

「良いぞ、通せ」

 部屋の中から入室を許可する声が聞こえて執事が扉を開けてくれる。

 部屋の中は中華風で虎の敷物や華美な調度品が飾らていて、上座に童女がちょこんと座っていた。

 長巫女どこどこ?

 と、やりたいとこだが目の前の童女が長巫女みたいだ。

 童女は執事に下がって良いぞと手で合図を送ると執事は一礼して退出した。

 

 長巫女......。


 長巫女の見た目は猫耳と二股にわかれた大きな尻尾が特徴的な童女であった。

 銀色の切り揃えられた前髪に、腰まで届く長い後髪はなんとも神秘的ではある。

 目元もパッチリしていて将来は恐ろしい程の美人さんになるかもしれない。

 赤を基調として黒が配色されたベトナムの民族衣装アオザイによく似たロング丈の服を着ている。

 立派な衣装で着飾っているせいか有無を言わせぬ不思議な雰囲気と貫禄があるが。

 

 だが長巫女を見てると少しだけ心の中で金返せ馬鹿野郎と思ってしまう。 

 子供の相手をしにきたわけじゃないからな!


 しかし、長巫女だけが山の神のお告げが聞こえる唯一の人物らしい。

 この童女が長巫女であるなら今回の件に関しては全てを握ってる相手だ。

 礼儀は尽くそう。


「長巫女様、この度は突然に訪問させていただきありがとうございます。」


「よいよい、外の者の話を聞くのも街のためじゃからな。 して、わらわになんの用向きかな異世界人!」

「い、異世界人!? なんのことでしょう?」

 とりあえずすっとぼけて見る。

「顔に書いてるぞ! 何故、異世界人とわかるのか? とな」

 いきなり異世界人とか言われるとちょっと焦る!

「顔に書いてますかね?」

「書いておるのう! 見事に書かれておる!」

「それは失礼しました」

「うむ、もう少し気おつけた方がよかろうな」

「ご指摘ありがとうございます」

「して、異世界からの来訪者がわらわになんのようじゃ? それからもう少し気楽に話してくれてもかまわぬぞ」


 腹芸じみたやりとりは好まれそうにない人物っぽいので単刀直入に話す事にした。


「宿屋の娘を生贄巫女にするのをやめてもらってもいいですか?」


 じろっとこちらを見て長巫女が話す

「良いぞ。 その場合は他の娘が代わりに生贄巫女になるがそれでもよいか?」


「それは困る」

「お主はこまらんじゃろ?」

「無関係な人が犠牲になるのは困ります」

「お主と宿の娘もわりと無関係だと思うがのう」

「いや、そうなんですが、乗りかかった船というか、なんというか、少しカッコつけてしまった手前勢いでここまで来てしまったというか、説明が困難だなー。 おい!」


「お主何を言っとるんじゃ?」

 く、長巫女につっこまれてしまった。


「あー、そのー... ...。 そもそもの話なんですが生贄とか山の神にお供えする儀式って必要なんですか?」

「必要じゃな」

「何故ですか?」

「必要な事に理由が必要かえ? お主は喉が渇いたら水を飲むじゃろ? それと同じじゃ」

「山に対する水が生贄巫女ということですか?」

「そうじゃ、物わかりが悪い相手は疲れるのう」

「人間が渇いたら水を欲しがるというのはわかりますが、山が幼い娘を欲しがるという常識は俺にはないですよ」

「まあ、そうじゃろうな。 山と街の契約魔法でそうなっておるからな」


 なる程、山と街の契約魔法ね! 

 それじゃあ仕方ないわな。 

 ってなんじゃそら!


「また、顔にでとるぞ」

「これは失礼!」

「この街はこの地方で一番栄えておる。 それは山神との契約があるからじゃ。 その契約を反故にはできぬ」


 だからといってこのまま、はいそうですかと帰ると全てが終わってしまう気がする。

 どうする?

 とりあえず恐る恐る思いついた可能性をぶつけてみる。


「山神様と再度契約条件の見直しや交渉とか無理なんですかね?」

「お前神を侮っとるじゃろ?」

「そうじゃないですが、意思疎通ができる相手なら交渉できるんじゃないかなと」

「確かにな。 で、生贄巫女の代わりになにを差し出すんじゃ?」


 とりあえず自分が出せる品をテーブルに並べた。

 金貨

 下級ポーション

 中級ポーション

 上級ポーション

「こんなものしか今はだせませんが交渉に使えますかね?」

 長巫女の目が少し見開いた。

「上級ポーションをお主は後いくつだけだせる?」

「100以上は出せるかと」

「お主は戦えるタイプの異世界人かえ?」

「わりと最強かと思います!」

「よかろう、無事に交渉できた場合は贄巫女を返そう」


 そういうと長巫女が俺の手を握る。

 その瞬間、本丸御殿のある山頂の石畳に俺は移動させられた。

 瞬間移動というのはまさに瞬間的に移動して実感もなく移動した結果が残る。

 恐ろしい能力である。


 そして、俺は山の神と相対することになったのだ。


「山神と交渉するのであろう?」


 10メートル近い二股の尻尾を持つ山猫に姿を変えた長巫女がそこに現れた!


「わらわに参ったと言わせたら山と街の契約を見直してやるぞ!」

「さあ、かかってくるがよい!」

 いきなり過ぎて思考が追いつかない!

「せ、説明! 説明お願いします!」

「わらわと対決して勝ったら生贄の契約を見直してやると言っておるのじゃ。 理解できたか?」

 状況は理解できたし、心も少し落ち着いてきた。

「アナタが参ったといえば俺の勝ちになるんですかね?」

「えらく余裕じゃな」

 荒野で戦ってきたモンスターよりも数段上の迫力はあるが、荒野で戦った経験からか負ける気もしない。

 むしろ、全力出したらオーバーキルになってしまわないかが少し心配だ......。


 なので念の為に聞いておこう。


「あ、あのもしも、もしもなんですけど勢いあまって山神様を殺してしまったらどうなりますか?」

「お主! やっぱりわらわを舐めとるな! やれるもんならやってみい!」

 山神は激昂した。

 長巫女もとい、山神もとい山猫とのBATTLE勃発である。

 山猫が正面から勢いつけて飛びかかってくる。

 俺はパチスロ台を山猫に向かって同時に100台程だして2倍ほどのでかさに拡大し、グミ打ちした。

 確実に当たるはずの俺の攻撃だったが山猫は瞬時に消えて俺の後ろをとる。

 俺はパチスロ台を背面にだして大きく拡大して山猫の攻撃を防いだ。

 パチスロ台は硬く山猫の強烈な猫パンチでも破損しない。

「これが異世界人の能力かえ なかなか凄いのう」

「お褒めに預かり光栄ですが、こういった事もできますよ!」


 俺は山猫の周辺をパチスロ台で囲む。

 が、山猫は瞬間移動したように消えてしまいこれもかわされる。


 再び山猫と正面で向かい会う。

 山猫は素早いレベルを越えている。

 仕方ない奥の手を出すかな。

 俺は山猫の四肢に狙いをつけてパチスロ台を召喚して一気に拡大させた。

 すると一瞬にして山猫の四肢は大きく吹き飛んでしまった。

「ぐがぁあぁぁ」

 と、苦しむ声をあげて山猫は長巫女の姿に戻りその場に倒れた。


 やば! やりすぎたかな。

 すぐに駆け寄り「大丈夫ですか?」と言葉をかける。

「お主、めちゃくちゃするのう。 5重の防壁を内側から破られるとはな......」


 長巫女の身体が血だるまに染まっていて痛々しい。


「は、早く上級ポーションをわらわに使うのじゃ! 痛くてかなわぬ!」

 俺は慌てて上級ポーションを長巫女に飲ませる。

 そうするとあっさり長巫女の傷は治った。

 上級ポーションマジにスゲー。


「俺の勝ちということでよろしいですか?」

「参った! お主の勝ちじゃ! 契約条件は好きにせよ!」

「ありがとうこざいます」

 

「占星術による占いで異世界人がきて世界が変わると聞いておったが、体感したぞ お主は世界を変える器の異世界人じゃ」

「うえええー」

 そんな事急に言われても困る。

 俺はパチスロ好きの只のパチンカスなのに。


「とりあえず、生贄巫女の件はよろしくお願いします」

「娘は宿屋に返そう、して新しい契約はどうする?」

 ううん。どうしよう。

「なんでも、いいんですかね?」

「お主は正式な決闘による契約の勝者じゃからな自由に決めてよいぞ」

「えっと、じゃあ生贄は今後禁止でお願いします」

「それで良いのか?」

「それで良いんじゃないかと思います。幼い子供を犠牲にして街の発展を維持してるなんてよくないですからね」

「お主は甘いな。 小さな犠牲で街をより大きく発展させる事を望む者は多いのじゃぞ、街の者が納得すると思うかえ?」


 そんな事をパチンカスの俺に言われても困る。


「山神様は生贄がないとどうしても駄目なんですか?」

「そうではないが街の者の信仰心があってわらわのような存在は強固でいられる。 生贄の儀式はその為にも行われるのじゃ。 明日からは辞めますというのは少し難しいのも事実じゃの。 街を維持するなら代替え案が必要じゃ」


「それは長巫女様がうまくとりなしていただくことはできませんか? それにそれなりに考えがあるから決闘してくれたんでしょう?」

「うむ......。まあな。 そのかわりお主にも協力してもらうぞ!」

「できることは協力させてもらいますよ」

「では、生贄のかわりにお主はわらわと契約してもらおうかのう」

「どういう契約条件でしょう?」

「お主は街に毎年上級ポーション100個、中級ポーションを200個 下級ポーションを1000個収めるのじゃ」


 クレジット3000枚分くらいか......。


「それで生贄の儀式がなくなってもこの街は今まで通りやっていけるんですか?」

「わらわとお主が生きてる間はまず大丈夫じゃな」

 毎年クレジット3000枚くらい余分にパチスロで稼げばよいだけか。


 俺のアームの強さなら余裕である!

 ならいいかな。


 自分が死んだ後の事までは責任もてないが俺が死ぬまで、毎年一人の子供が救われるならそれはそれでなんだか誇らしい。

「いいですよ。 その契約結びましょう!」

「ほう、随分と見上げた自己犠牲の精神じゃのう、まあ、お主にも見返りがあるからのう、そう悪い契約ではないと思うぞ」


 そう言って長巫女は自分の胸から両手で赤く光る塊を取り出した。

 そして何やら難しい言葉を並べてそれを空中に固定する。

「お主、身体を前に」

 そう言って長巫女は近づいた俺の胸の中から紫の光の塊を取り出す。

「ほう、流石に異世界人じゃ変わった色をしとる!」

 そして街の方角から黄色の大きな光の塊がとんできて俺と長巫女を包み込む。


「これより、わらわと主と街の三種契約を結ぶ。 この契約はわらわか、お主か、街が滅ぶまでを期限として互いが責務をまっとうすることで真とする」

 更に続けて長巫女は言う

「わらわは街の安全と主の守護を、主はわらわの守護と街に貢物を、街はわらわに賛美と主に感謝を、これをもって契約とする」


 光の塊は混ざり合って大きくなり長巫女と俺の胸に半分程吸収されて残りは街に飛び散り霧散して見えなくなった。


 こんなおおがかりな事になるなんて聞いてないんだが! 

 大丈夫なのこれ!?


「これで、わらわとお主はこの街と結ばれたからのう後は主がこの街を好きにしてよいぞ!」

「えええー そんな事急に言われても困りますよ! 俺は帝国を目指して旅してるんですよー」

「だから好きにして良いと言ったであろう。 帝国に行った後に、たまには街に帰ってくればよい。 わらわが歓迎してやるゆえな」

 まあ、この街はわりと気に入ってはいるのでそう言われるとやぶさかではない。


 それに自分を歓迎してくれる場所、戻ってこれる場所があるというのはありがたい。


 まだ、この街にそこまで愛着があるわけではないが、こうなってしまったからにはこの街の発展に寄与できるように少しは頑張るとしよう。

「それで、ところでお主!」

「なんですか?」

「名前をなんと言うんじゃ?」

 お互いの自己紹介すらまともにしてなかった事に今更気付く。


 どんだけ互いを知らないのだろうか......。


 相手の名前も知らずに契約しちゃいましたテヘペロ状態である。

「俺はこの世界にきてからパチンカスと名乗っています。 元いた世界の名前も知りたいですか?」

「別に知っておるから良い! そなたの顔に書いてある!」

 そんな馬鹿な!

「嘘じゃ、馬鹿者」

「神が嘘をついてよいんですか?」

「冗談じゃ......殿」

「やっぱり知ってるんじゃないですか」


「まあのう、それからわらわの事はこれからカエデと呼ぶとよい。それと、どれだけ離れていてもわらわと念話ができるゆえ、何か困った事があったらわらわを呼ぶが良いぞ!」


 カエデはそう言って俺を宿屋まで飛ばしてくれた。


 瞬間移動できるのはまじにありがたい!

 帝国まで飛ばしてくれないだろうか?

(馬鹿者、お主が移動ができるのはこの街とこの山限定じゃ!)

 さっそく念話で叱られた。

(まあ、わらわは主のいる場所なら何時でもどこでも移動できるがの)

 山神様ずるい。

(カエデと呼べと言ってろうが馬鹿者)

「これからよろしくお願いします。カエデ」

(任せておけ)


 そして、俺は宿屋の自分の部屋に戻り椅子をだして座る。


「ふー」


 さて、この一連の出来事をエリーシアにどう説明しようか?

 新しい問題について少し悩みながらも俺はパチスロを回す。


 とりあえずエリーシアへの説明は明日にすることにして、パチスロタイムである。


 今日の機種は

 LキングパルサーSLCCである。

 言わずとしれたカエル君スロットである。

 32G迄の連チャンと128Gの引き戻しでボーナスを捕まえて90%ループにぶち込んで出玉を出すマシーンだ!

さあ、今日も勝負勝負! 

 レバーオン!

 ...…。

 ......。

 来たぜ90%ループ!!!

 出すぜ万枚!!!


 結果


 投資枚数 740枚

 回収枚数 9562枚


 ぐぬぬぬ 万枚届かず!!

 しかし、大量出玉の獲得はありがたい!!

 やっぱり良い事するとツキはまわってくるのかな?

【パチスロレベルが4になりました!】 

 お、レベル上がった!

 バンザーイ! 

 わいわい!

 という感じで長い1日が終わった。


ーー


 翌日、宿屋夫妻の自宅でエマちゃんは見つかった。

 健康状態にも以上はなく、元気そのもので店主も女将も周囲を安心させた。

 どういうわけか生贄巫女になっていた時の記憶はないらしいので店主や女将の心配に対してキョトンとしていたが。


 山神がこっそり戻したんだろうな……。


 エリーシアも戻ってきたエマちゃんを見て胸をすくような気持ちで安堵している様子だ。


 そして、俺は宿の部屋でエリーシアに昨日会ったことを説明した。


「パチンカス殿。 今回の件! 本当に感謝するであります。」

 エリーシアの気持ちが思いの他重い。

「まあ、偶然だけどね。 良かったよ」

 念話で山神様に礼を言う。

(山神様! ありがとうございます)

(わわらのことはカエデと呼べといったじゃろ!)

(カエデ様、今こっちにこれます?)


「何かようかえ?」

 カエデ様が音もなく長巫女の姿で俺の宿の部屋にあらわれた。

「この方が長巫女様で山神様でありますか?」

「カエデ様、こちらがエリーシア。 俺の旅の保護者みたいなもんです」

「ほう! かなり鍛えられた人馬の娘じゃの」

「見ただけでわかるんですか? カエデ様?」

「お主、やっぱりわらはを侮っとるじゃろ?」

「そんなことないです!」

 エリーシアの凄さを見ただけでわかるとはやるなカエデ様!

 一方、エリーシアはビックリしてその場で固まっている


「まあ、良いがな。 してなにようじゃ?」

「カエデ様にエリーシアを紹介してたほうがよいかなーと思って……」

「それだけか?」

「それだけです!」

「お主! やっぱり侮っとるじゃろ! まぐれでわらわに勝てたからと言って調子にのるでない!」

 圧勝だったと思うが……。


「パチンカス殿は……。山神様に勝ったでありますか?」

「はい、まあ……。 エリーシアさん?」

 エリーシアさんはカエデ様に対して恐縮している。

「エリーシアと言ったかの、そう畏まることはない、気楽にしてよいぞ!」

「ありがとうであります」

と、言ってエリーシアはカエデ様に平伏する。

「パチンカス殿もカエデ様にきちんと礼をとるであります」

 とりあえず従っておく。

「カエデ様、ありがとうございます」

「よいよい、気楽に致せ、エリーシアもカエデと呼んで構わぬぞ」

「カエデ様ってやっぱり凄い偉いのですね」

「パチンカス殿はカエデ様を見てなんにも感じないでありますか?」

「え、まあ、特には」

 エリーシアはまるで分かってないと溜息をつく。

「パチンカス殿には神気を感じられないようだからわかりやすく説明するでありますが、カエデ様は王よりも格が高い、高位な御方でありますよ!」


 言われて見ると神とつくんだもんなカエデ様が気安いからつい立場の違いを忘れてしまう。

 態度を改めた方が良いのだろうか?

「あーよいよい! 普通にせい! お主はもうわらわの身内のようなものじゃ、その共も気楽にいたせ、面倒くさい! で、本当にようがないならわらわは帰るぞ」


「あ、後、カエデに俺の能力を知っておいてもらうかなとも」

 俺はパチスロ台を出す。

 機種は、

【L黄門ちゃま天L2】


「このとてつもない固い箱は昨日みたぞ」

「これは本来こうやって遊ぶ機械なんですよ!」

 俺はカエデ様にパチスロを説明する。


「ほう! ほう! ほう! なる程のう! お主の世界はこんな凄いものがあるのか! 誠に凄いのう? これはわらわも遊ぶことができるのかのう?」

 カエデ様は俺の膝上でパチスロの実戦を見ながらはしゃいでいる。

「カエデ様もやってみますか?」

「勿論じゃ!」

 スマホに何時も通り【カエデを追加しますか?】とでている。

 即座にICカードにクレジットを1000程入れて発行してカエデに渡す。

「ではこれをどうぞ」

 そして隣にカエデようのパチスロを用意してサイズの会う椅子も召喚する。

 俺が横で改めて説明する。

 エリーシアも久々に打ちたいと言い出したので参加する。

 気がつけば3人でパチスロを打つ事になった!

 3人ノリ打ち!

 嬉しい! 嬉しいなー。

 パチスロ仲間が増えるのは嬉しい!


 だが、パチスロは甘くない!

 全員が勝てる程甘くないのだ!



 結果

 

 パチンカス

 投資枚数 1201枚

 回収枚数 4410枚


 カエデ

 投資枚数 980枚

 回収枚数 420枚


 エリーシア

 投資枚数 1200枚

 回収枚数 320枚


「わらわも、パチンカスみたいにATにぶち込んで沢山出玉を! 玉を大量にだしたいぞ!」

 早くもパチスロ用語を覚えたカエデ様の適応力には脱帽である!


「今日はパチンカス殿の一人勝ちでありますな。パチンカス殿はヒキがアームが本当に凄いであります!」


 この賞賛と賛美がたまらなく嬉しい! 

 本当に嬉しい! 


 パチスロで脳汁ドバドバでた後にさらに賞賛される。


 この至福の時間が本当にたまらん!


 そして、3人でパチスロの実戦の反省会をして気がつけば夕食の時間となり、今日はお開きとなった。


 宿屋にも笑顔が戻り、俺にも新たなパチスロ仲間ができて言うことなしである。


 何か忘れているような気がするが、幸せとはこういう事を言うのかもしれない。


 こうして新たなパチスロ仲間カエデが増えて俺は満足である。


「パチンカス殿! 今日は仕方ないでありますが明日からまた帝国目指して次の街にいくでありますよ!」


 それだーーーー!

 あまりに色々起こりすぎて、さらにパチスロに夢中になり過ぎてそれをすっかり忘れていた!


 明日こそ!

 明日こそは!

 明日こそはぁ! と、思いながら眠るパチンカスであったが翌日もその翌日もカエデが来てパチスロをせがみ出発は一週間程延びるのであった。


 そうしてこの街にまた一人の偉大なパチンカスが生まれた。


 その名はカエデ! 

 パチンカスにクレジット7000枚という借金を抱えたお馬鹿さんである。

  



順調にパチンカスは増えて行くようです。

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