第1話 パチンカスは異世界に行く
主人公はパチンカスです。
興奮が幸せであり、退屈が不幸であるという考え方が俺にはしっくりくる。
そんな俺はパチンカスだ!
パチンカスとはパチンコ、パチスロのギャンブル依存症患者の総称でありそれを揶揄った表現でもある。
パチンカスになる前の俺はプロ野球選手だった。
高卒でドラフト1位で巨◯軍に入り8年で120勝もした。
勿論、それ相応の努力はしてきたつもりだが、運よく結果もついてきた。
アマでもプロでもたいした挫折はなく俺の野球人生は順風満帆。
メジャーリーグ挑戦も控えていた。
そんなスペシャルな俺なのだが……大きな欠陥も抱えていた。
俺はてのつけようがないギャンブル中毒者なのだ。
きっかけは高校の頃である。
ヤンチャな時期で野球しながらも悪い人間とも付き合い野球賭博に迄手を出した事が始まりである。
野球賭博は単純だ。
どちらのチームが勝つか負けるか予想するだけである。
俺は自分に自信があった。
だから、自分の投げる試合に自分が勝つように金をかける。
そして、連戦連勝で俺の試合のレートは最大ハンデが5点とかつくほどにまでなった。
野球賭博で5点ハンデとは試合開始から相手チームに5点ある状態としてスタートする規定である。
つまり、俺が完封しても自軍チームが6点とらないと勝ったことにならないという事だ。
それでも俺は勝ち続けた!
9回を完封して打点10を上げた事だってある。
勿論、野球賭博がバレたなら俺の野球生命はそこで終わりだ。
しかし、俺は反社組織と蜜月関係になりうまくやり続けた。
プロに入っても俺の野球賭博人生は続いたが、とある事がきっかけであっさり崩壊した。
反社組織が俺に八百長を持ちかけたのである。
俺は賭博はしても八百長だけはやらない!
真剣勝負に手抜きは有り得ない。
ピストルで脅されようが!
それだけは死んでもしない!
だがその姿勢が仇となり大金がかかった試合で負けた時に、反社組織はあっさり俺を見切り、警察に売りやがった。
俺は当然逮捕され、野球界からも永久追放、メディアもネットからも親族からも袋叩きにあった。
ついた渾名は『令和のギャンブルジャンキー』『投げる反社御殿』『最多ギャンブル最多勝利勝率投手』等等言われたい放題。
ある事ない事言われたい放題だった。
俺の罪状は 野球賭博と野球賭博で儲けた金の脱税容疑である。
野球賭博で儲けた額がデカすぎて極めて悪質と判断されて懲役10年、執行猶予5年の刑が確定した。
なんとか執行猶予がとれたので刑務所暮らしになることはなかったが。
俺は積み上げた社会的信頼、人間関係、全てを失った。
しかし、散財しない性格で浪費家でもなかったので金がかなり残ったのは不幸中の幸いだった。
生活に苦労する事はなかった。
日本は金さえあれば生活に不自由しない良い国だ。
しかし、野球を取り上げられた俺には最早何もなかった。
やる事と言えば。
体力維持のためにトレーニング。
漫画を読む。
アニメを見る。
ゲームをする。
それだけで1日が終わる。
そんな生活がしばらく続いた。
それはそれで楽しい毎日ではあったのだが、やはり刺激が足りない!
酷く退屈だった。
退屈だけはどうにもならない。
俺は刺激になる遊びを求めた。
それがパチスロだった。
パチンコ屋は素晴らしい。
金さえあれば無機質に受け入れてくれる。
個人がいくら勝とうが負けようが気にしない。
このほったらかし感が俺には心地良かった。
パチンコ、パチスロをやるのは久しぶりであったがすぐにのめり込んだ。
パチンコよりもスロットにハマった!
パチスロに心の底からハマった!
俺の生活は一変した!
朝起きて2時間野球の練習して、10時からパチンコ屋に行って閉店ギリギリ迄パチスロをする。
その繰り返しの人生になった。
立派なパチンカスの誕生である。
そして、世間の騒ぎも収まり俺の存在もだいぶ忘れられて3年がたった……。
____
俺は29歳になっていた。
そんな俺は今でも現役のパチンカスである。
俺は毎日、
それこそ毎日、
365日パチ屋でパチスロを打つほどにハマり続けていた。
今日は当たれば純増10枚でATに入るギャンブル台を打っている。
まあ、詳しくない人に説明するならば。
5分で10000円儲かるかもしれない遊技台。
1時間で10万円以上儲かるかもしれない。
1時間で数万円損するかもしれない。
そういう遊びをしていると思ってくれて問題ない。
所謂、ギャンブルである!
なので、
それはもうひりつく。
ひりにひりつき脳が焼かれるが如しである。
勝った負けたを繰り返す世界にいると退屈しないということだけは確かだが、負けてばかりではいられない。負け続けるわけにはいかない。
どんな勝負だって、
負ければ悔しい!
勝てば嬉しい!
それが真理だ!
パチンコ、パチスロはギャンブルである。
しかし、今日は調子が悪い。
朝からまったくろくな当たりがない。
金をじゃぶじゃぶパチスロ台にぶち込んでいる。
私のようなパチンカスはでかく当たるまでやる!
大きく勝つまでやってしまう。
しかし、今日はもう駄目なようだ。
10万円以上パチスロ台で溶かしてしまった。
天井保証のあたりで少しだけでたりもしたが、そんなのは焼け石に水だ。
秒で飲まれてすぐに無くなる。
今現在、私の財布には小銭しかない……。
魔法の機械から新しく諭吉を引っ張りだしに行かねばそろそろまずいと思ったその時だった。
次のパチスロのレバーを押した瞬間、俺の意識は飛んでしまった。
そして、気がつけば俺は見たこともない荒野で、先程と同じ状態で座っていた。
当然のようにパチスロ台もそのまま目の前にあった。
俺は幻覚を見ているのだろうか?
パチスロで負け過ぎて頭イカレタのだろうか?
どちらにしろ、
「きっつー」という感想である。
それでも俺は引き続きパチスロ台を回す。
いや、今パチスロを回す理由なんて何処にもないのだが……。
俺はパチスロのレバーを叩いてリールを回してストップボタンでチェリー付きバーを狙う。
安定のDDTを繰り返している。
その手の動きは意味もなく淀みなく正確だ。
繰り返しの習慣とは恐ろしいものである。
しかし、実際はそんな事をしてる場合じゃない!
今……。
ここは見たこともない荒野であり見たことない大型のモンスターがそこらにいて荒ぶっている。
トルネコの不思議なダンジョン的に言えばモンスターハウスにいるような状態。
ベルセルクで言えば『蝕』で鷹の団が人外の使徒に食い散らかされている状態だ。
見たこともない巨大な生物がそこらにいて食い殺しあっている。
まさに怪獣大集合の大パニックのオリンピック状態。
その荒ぶる荒野のど真ん中で椅子に座りパチスロを打っているのが俺である……。
モンスターは俺に気づいているのだろうか?
俺は認識されているのだろうか?
そんな事が頭によぎりながらも俺のアームはレバーを叩く。
そして回るリールを停止させるためにフィンガーで正確にストップボタンを3回押す。
そして、次のレバーオンで奇跡が起こった!
フリーズである!
65536分の1の奇跡!
それが起こった!
リールが逆回転で高速に回転しだした。
それと同時にモンスターも俺に襲いかかる!
このまま行けば当然ながら俺は食われる!
しかし、そうはならなかった。
リール全てに7が揃った瞬間。
筐体から光の幕が光の速さで周囲を飲み込んだ。
そして、俺の見える範囲全てのモンスターが空中に浮かび上がってプチプチと破裂して死に絶えた。
パチスロ大災害とでもいうべきだろうか?
俺以外のあらゆる生物が巻き込まれてぐちゃぐちゃである。
モンスターを巨大なコンクリートミキサーにかけてぶち撒けたような惨劇だ!
この世の物とは思えぬ惨劇が目の前で広がる。
スプラッター好きの変態なら歓喜するだろう光景間違いなし……。
もはや荒野に動くものはない。
これは夢だ!
これは幻だ。
しかし、そんなことより今はフリーズだ!
パチスロを回さなければ!
パチスロに思考が持っていかれる。
この状況でも俺はパチスロのレバーを叩く!
フリーズの恩恵を活かしてクレジットを増やす!
パチスロのクレジットはどんどん増えて行く!
「流石! フリーズの恩恵は伊達じゃない!」
どうせ夢だと思い世界を無視して私はパチスロ台を夢中で回す。
このままガンガン枚数を上乗せしてクレジットを稼ぎまくるぞ!
「玉を出して出しまくるのだ!」
こんな事をいましてて何になるんだ?
おそらくなんにもならない!
ならないが!
夢だしな。
だがしかし、荒野の惨劇のど真ん中で違和感ありまくりの俺ができることは何もない。
夢か何かであろうが、モンスターが消滅しようが俺には無関係だ。
そう決め込みパチスロを打つ。
夢はまだ覚めない!
そして玉をだした!
だしまくった!
8150枚程でた!
素晴らしい。
そして、見渡す限り死屍累々の山。
これは現実なのか!
夢の間違いではなかろうか?
とりあえず私はクレジットをICカードに移しパチスロ台から離れる。
俺が席を離れた瞬間パチスロ台と椅子は消えた。
そうするとぐちゃぐちゃな惨劇死体も光に吸収されて雲散霧消した。
「消えるのか? やっぱり夢なんだな」
しかし、俺の目は覚めない。
さてどうしたものか?
眼前には無人の荒野がひろがっている。
もう1度、夢だと思い込む。
夢なら答えは決まっている!
「もっかいパチスロ打ちたい!」
である。
そしたら目の前にさっき打っていたパチスロ台がでてきた!
「流石夢だぜ!」
でも欲張り言えば他の機種が打ちたい!
そう思ったら、さっき打ってた機種とは違うパチスロ台がでてきた。
「これは爆裂台の革命機ヴヴヴじゃないか!」
少し型は古いがスマスロの超人気台である。
「いいね、じゃあ打ってみますか!」
と、そんな感じでまた私はパチスロ台に座る。
見渡す限りの死屍累々の山が出来上がったかと思えば全て消失する。
そういった非現実さに圧倒されるわけでもなく、置かれている状況を正しく認識しているわけでもない。
俺は慣れた動きでICカードをパチスロ台に入れてクレジットを台に転送してレバーを叩く!
今や無人の荒野の中心で私はパチスロを再度打ち始めている。
誰に言われたわけでもなく、自分がパチスロしたいからパチスロを打つ!
当たって沢山出玉が出れば天にも昇る気持ちになろうと言うものである。
夢でもパチスロ打てるなんて最高に幸せだ!
そして……。
俺がこれは夢じゃない!
アニメじゃない!
本当の事さぁー!
と、気づくのはまだ少し先の話になる。
パチスロ、パチンコ用語で出玉を出す=玉を出す!
パチンコ玉でもメダルでも「玉を出す」と表現するのがパチンコ・パチスロ業界なのです。