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70.バレてしまったデート無知

 金曜の夜にリロードへと顔を覗かせた源蔵は、操から不意に、


「折角偽装カップルになったんですし、デートしませんか?」


 と声をかけられ、一瞬その場で固まってしまった。

 正直、デートとは何をするものなのかというところから分かっていない源蔵。その為、操からの誘いに対してどう答えれば良いものか、頭の中で思い描くことが出来なかった。

 仕方が無いので、素直に訊いてみることにした。


「デートって、何するんですか?」


 カウンター席のストゥールに腰を下ろしてから、傍らに佇む操に問いかけた。

 操は、軽く腕を組んで、そうですねぇと考える素振りを見せた。


「まぁ何でも良いんですけど……普通にお出かけデートとか、人混みが嫌ならおうちデートとか」

「……すみません、そもそもデートの概念がよぅ分からんのですけど」


 カウンター上に置かれたコーヒーカップを手に取りながら、源蔵は尚も小首を捻った。

 操は、口元に手を当てて可笑しそうに頬を緩めた。


「そんなに難しく考えなくて良いですよ。要は男女ふたりで何か楽しんでいれば、大体デートです」


 そこで源蔵はますます訳が分からなくなった。

 操の言葉が事実なら、源蔵はこれまでに何度も美智瑠や晶などといった面々と、ふたりで飲みに行ったことがある。あれもデートに入るのだろうか。

 そんな意味のことを訊いてみると、操は、


「それはもう、勿論デートですよ」


 と、あっさり返してきた。

 曰く、居酒屋デートということになるらしい。

 そういうものなのかと、源蔵は尚も首を捻ったまま太い豪腕を組んだ。


「それがデートの定義となると、神崎さんとはそーゆーことはしたこと無かったですね」

「ふたりで何かをする、っていうのは今まで何度もありましたけど」


 端正な面を苦笑に歪めながら、操も隣のストゥールに腰を下ろした。

 そういえば、今この瞬間もふたりきりだ。閉店直前の時間帯である為か、店内には他の客の姿は無く、冴愛や徹平も既に帰宅済みだった。

 しかし操はまだ業務中だから、これはふたりで楽しんでいるとはいえない。かといって、仕事に集中しているかといわれれば、そうでもなさそうだ。

 その辺りの概念が矢張り、源蔵にはピンと来なかった。


「そこまで難しく考えなくても大丈夫ですよ。何ならこの後、お店閉めてから上でのんびりしましょうよ。それも立派なデートです」

「あー、まぁ、そんなんでエエんなら」


 そんな訳で源蔵は、今夜は遅くなるか、或いは帰らない旨をライン上で美月に連絡を入れた。

 美月からは、


「頑張れ!」


 というひと言だけが返ってきた。

 何をどう頑張るのかは分からないが、美月は美月なりに何かを察したのかも知れない。

 幸い、リロードの二階住居部には源蔵の私物や着替えなどもそこそこ数を揃えて置いてある。操の身に何か起きた場合に備えて置いてあったものだが、普通に泊まりで使用しても全然OKだ。

 そういえば、以前台風が直撃した時にも操とふたりでリロード二階に泊まったことがあったが、あの時はのんびり夜を過ごすという雰囲気ではなかった為、あれはデートとはいえないだろう。


「今夜はちょっと、盛大に飲み明かしましょう。わたし、最近日本酒にはまってるんです。楠灘さんも是非、味見してみて下さい」


 その後、操はリロードの閉店作業に取り掛かった。

 源蔵もコーヒーを飲み終えると、路上看板を仕舞い込んだり、玄関扉を施錠したりなどの作業を手伝い、最後はシャッターを閉めて裏口から二階へと上がった。


「先にお風呂、済ませちゃって下さい。わたしは晩酌の用意進めておきますから」

「あー、すんません。ほな、お先に」


 源蔵はいわれるがまま、脱衣所へと足を運んだ。


◆ ◇ ◆


 その後、操も入浴を済ませ、いよいよデート開始という訳なのだが、ただ酒を酌み交わしながら世間話に興じるだけでもデートといえるのだろうか。

 源蔵はその辺の按配がよく分からず、内心で何度も首を捻っていた。


「普段、おうちでは美月ちゃんとどんな風に過ごしてるんですか?」


 思わぬことを訊かれ、源蔵はお猪口を握った手を止めてしまった。

 美月とは夕食を共に済ませることが多いほか、リビングでそれぞれが自分の好きなことをやって適当に過ごすことが大半であり、ふたりで何をするということも無い。

 たまに同一のテレビ番組を揃って眺めることもあるが、それもどちらかがチャンネルを合わせた際に、何の気無しにぼーっと見ている程度である。


「あははは……それって何だか、付き合いが長いカップルがよくやるおうちデートみたいですね」

「そんなもんなんですか」


 源蔵には、よく分からない。

 が、過去に三人の男性と付き合ったことがある操がいうのだから、多分それは正しいのだろう。


「さっきもいいましたけど、本当にそこまで難しく考える必要は無いですよ。今だってこうして、ふたりで美味しいお酒を楽しんでるじゃないですか。それでもう十分、立派なデートです」

「これがデートねぇ……」


 源蔵の中では、矢張り今ひとつピンときていない。

 相手が女性だというだけでデートになるのか。では、同じふたり飲みでも男性同士ならば、それはどういう扱いになるのか。

 玲央や康介ともふたりでサシ飲みすることが多い源蔵としては、その辺の線引きが理解出来なかった。


「女性同士でもデートっていいますから、男性同士でもやっぱりデート、ってことになるかもですね」

「……それ、坂村さんの前では絶対いわんといて下さいよ。あのひと、BLとか大好きですから」


 源蔵が真剣な顔で申し入れると、操は何にツボったのか、途端に笑いが堪えられなくなった様子で、その場に寝転がって腹を抱え始めた。


(神崎さんって、酒入ったら笑い上戸?)


 そんなことを思いながら、源蔵は尚もお猪口を傾け続けた。

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