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55.バレてしまったぼっちイブ

 クリスマスイブの夜は源蔵自宅に大勢の来客が集まり、割りと盛大なパーティーが催された。

 集まった客は美智瑠、晶、早菜、詩穂、操、冴愛、徹平の七名で、そこに居住者である源蔵と美月が加わることで総勢九名となり、個人宅で開催する宴としては結構な大人数となった。

 料理は主に源蔵が手掛けたが、彼の弟子である操がサイドメニューを調理し、更には美月も各皿への盛りつけの際に手伝ってくれた。

 一方酒類はいつもの様に美智瑠が勝手にワインセラーを開いて自分好みの高級ワインを抜き出した他、徹平が買い出しに行ってきた諸々のドリンク類がサイドテーブル上のクーラーボックス内に放り込まれた。


「メェリィィィクリッスマァァァス!」


 ひと通り準備が整ったところで、宴会部長を自認する美智瑠の音頭でパーティー開始となった。

 最初のうちはただ飲んで食ってお喋りするだけがメインだったが、そのうち詩穂がゲームをやろうといい出してボドゲ部屋から幾つかのゲームを取り出してきた。

 特に酔っ払いが集まって、まだ誰も遊んだことが無いゲームを皆で必死にプレイする様は、ちょっとした即席コントの如き可笑しさがあった。

 年齢上、アルコールが飲めない冴愛と美月は割りと有利な筈だったが、最後は矢張りというか、普段から色々なゲームに接している早菜と詩穂が断トツの強さを発揮していた。


「はー、ちょっと休憩きゅうけーい」


 美月がどすんと勢いを乗せて、源蔵が座るソファーの隣に腰を下ろしてきた。


「酔っ払いのお守りも、大変やろ」

「んー、でも、楽しいから全然大丈夫」


 美月は明るい笑顔を源蔵に振り向かせた。

 初めて出会った頃の、敵意に満ちた警戒心たっぷりの険しい顔が、今はこの通りである。人間、変われば変わるものだと源蔵は密かに感心していた。

 そんな思いが伝わったのか、美月はほっとひと息入れながら、穏やかな笑顔で大騒ぎしている友人達を眺めている。


「なーんか、イイよね、こーゆーの……うちさ、正直いって、こんなに楽しいクリスマスとか、もう一生無理なんじゃないかなって思ってた」


 一瞬だけ、その美貌に翳が差した。曰く、高校三年間のクリスマスはいつもアルバイトで忙しく、友達と遊んだ記憶は全く無かったのだという。

 過去に時間を遡って、最後にクリスマスケーキを食べたのはいつだったのかが思い出せない、と美月は寂しそうに微笑みながら静かに語った。

 しかし、そんな悲しい思い出も今日で終わりにすることが出来た――今度は明るい表情を源蔵に向けた。

 ところが源蔵は、何ともいえぬ苦笑を浮かべている。


「うち、何か変なこといった?」

「いや、そうやなくて、この家でクリスマスパーティーなんてすんの、今日が初めてやから」


 すると美月は意外そうな面持ちで、歓声を上げている来客達と、源蔵の強面を交互に見遣った。

 実際のところ、美智瑠や操、或いは他の面々が源蔵の自宅マンションに足を運ぶ様になったのは今年の秋からだ。それ以前はほとんど来客らしい来客は無く、常にひとりで過ごしていた。


「まぁ宴会自体は、ちょっと前からやっとったけどね。資格試験の勉強会の後とか、試験終わった打ち上げとかで」


 だから、今日のクリスマスパーティーもその延長みたいなものだと、源蔵は尚も苦笑を浮かべたままだ。

 恐らく来年以降も、こんな光景がしょっちゅう見られるのではないかと予測した源蔵。


「あー、何か普通にありそう」


 美月は可笑しそうに肩を揺すった。

 その朗らかな笑みを横から眺めていた源蔵は、これが美月の本来の表情なのだろうと軽い吐息を漏らした。

 彼女に、あれ程の険しい顔つきを強要した母親とは、一体どんな人物なのか。

 少しばかり、腹が立ってきた。


◆ ◇ ◆


 更に宴は進み、徹平と冴愛はきりの良い時間で先に帰宅した。

 残りの面々はべろんべろんに酔っ払っており、もうこのまま源蔵宅に泊まる勢いである。

 勿論源蔵も既に織り込み済みで、客間の和室に人数分の布団を敷き終えていた。


「じゃあ、うち先にお風呂入ってくるね」


 美月が食い過ぎたの何だのいいながら、バスエリアへと去ってゆく。

 源蔵は尚も缶ビール片手にちびちびやっていたが、不意に酔っ払った美智瑠が隣に座り込んできて、何やら管を巻き始めた。


「楠灘さぁん……あのねぇ、アタシらねぇ」


 半分、呂律が廻っていない。恐らく明日の朝には絶対に記憶が飛んでいるだろうと思われる。

 それでも源蔵は一応真面目に耳を傾けた。

 下手に無視すると、美智瑠は更に詰め寄って来る絡み酒の悪癖があった。


「ホントはねぇ、今日皆で楠灘さんに告っちゃう? とかいってたんですよお。皆で一斉に、お願いしまーっすっていって、握手求めるポーズの、アレね、アレ」


 源蔵はハイハイそうですかと適当に相槌を打ちながら、苦笑を漏らした。

 美智瑠は尚も、酒臭い息を盛大に吐き散らして源蔵に迫り続けた。


「でもねー、やめたんですよー。ホラ、美月ちゃんが養子になっちゃったじゃないですかー。なのに、アタシらの誰かが楠灘さんと結婚しちゃったらー、美月ちゃんから、お母さんって呼ばれるんですよねー。それちょーっと、アタシら的にはキツくってー。だからー、楠灘さん攻略は小休止しようかーって話してたんですよー」


 思わぬ情報が飛び出してきた。

 自分の知らないところで、そんな進展があったのかと驚いた源蔵だが、しかしこの話を美月が居ないところで漏らしてくれたのは運が良かった。

 もし美月が聞いていれば、変な責任感を覚えていたかも知れない。それは余り宜しくな状況だ。


「ですからー、美月ちゃんがー、一人前になってー、楠灘さんがフリーになったらー、そん時に、オナシャスってキメよーぜーって話したんですよー。まー、それまでにアタシらが他にオトコ作ってなかったらの話なんですけどねー」


 けらけらと笑う美智瑠。

 対する源蔵は、きっとそんな状況にはならないだろうと勝手に予測した。

 彼女らとて、時間は有限なのだ。それまでにきっと、自分なんかよりも良い男を見つけ、捕まえていることだろう。


「ところでー、楠灘さーん。アタシー、キモチわるーい」

「はいはい、トイレはこっちですよ」


 源蔵は美智瑠を引きずり起こしてトイレへと案内した。

 他の面々も、そろそろ二階の和室へ運んだ方が良さそうであった。

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