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44.バレてしまった膝に矢を受けた老兵

 リロード貸し切りでの晶、美智瑠、早菜、詩穂ら四人の合格記念パーティーは盛況の内に幕を閉じた。

 社内からは玲央や康介、或いは隆輔といった面々も駆けつけ、地元の常連客らも一緒になって四人を祝ってくれた為か、源蔵が想像していた以上の盛り上がりを見せた。

 最後は合格した四人を代表して晶が感謝の挨拶を述べたのだが、その際に彼女が源蔵をやたらと持ち上げまくった為、何ともむず痒い気分のままでお開きとなった。


(せやけど、照れてる場合ちゃうな。園崎さんにはもっとようけ資格取って貰わんと)


 美智瑠から聞いた話では、トータルメディア開発部内に於ける晶のパパ活疑惑の噂はまだ多少は残っているものの、それ以上に今回の資格試験合格によるインパクトの方が強くなってきているとの由。

 更に曰く、同じく合格した美智瑠と早菜との三人で、トータルメディア開発部の美麗才女三人組という新たな空気が生じ始めているらしく、これは源蔵にとっても嬉しい誤算だった。

 白藤家が創業当時から抱えている美麗枠などという馬鹿げたシステムを撤廃に追いやる為にも、単に顔の良し悪しだけでなく、実力のある者、努力した者にこそスポットライトが当たるという風潮が強まれば、会社は再び持ち直すことが出来る様になるだろう。


「やー、ホント資格の威力って、大きいですねぇー」


 美智瑠が嬉しそうに語ったのは、ただ単に顔が良いだけのイケメン社員が、以前の様にしつこく声をかけて来なくなったという点だった。

 今までは美智瑠も晶も、彼らから下に見られていた節があったが、仕事がデキるオンナであることをアピールし始めたことで、逆に件のイケメン共の方が尻込みして距離を取る様になったということらしい。


「ま、それも狙いのひとつやったんですけどね」

「流石センセ……色々考えてて下さったんですね!」


 ワンレンボブを傾けながら嬉しそうに微笑む晶だったが、しかしこの効果には諸刃の剣の様な、若干危うい部分もある。

 大した実力も無い美麗枠のイケメン連中だけを排除するならば兎も角、本当に力の在る社員までをも遠ざけることにならないか――その点についてだけは細心の注意を払わねばならない。

 必要以上に彼女らをデキるオンナに仕立て上げてしまうと、本来得られる筈だった出会いの機会をも奪ってしまいかねない。

 それは源蔵の本意ではないから、もう少し様子を見て、場合によっては軌道修正も視野に入れていかなければならない。


(……って、僕まるでこのひとらのオトンみたいやな)


 年齢差はそんなに無い筈なのに、どうしてこんなに父親っぽい心境になってしまっているのか、自分でもよく分からなかった。

 ともあれ、パーティーを終えて最後の後片付けの段に入ったところで源蔵もカウンター裏に廻り、操や冴愛を手伝って洗い物に着手した。


「あー、そいやーオーナー。ハロウィンも営業すんの?」


 不意に冴愛が、思い出した様子で問いかけてきた。

 源蔵が操に視線を流すと、彼女は一応営業はするものの、早い時間に閉店する予定だと応じてきた。


「祭り客と違って、ハロウィン帰りのお客さんは何かと騒ぎたがるから、正直ご近所迷惑になりかねないんですよね……」


 操が苦笑を浮かべた。その言葉には妙に真実味を帯びた重みがある。恐らく、昨年の経験から出た台詞なのであろう。


「え、じゃあさ。ウチ、友達らとコスしにいってイイ?」

「エエよ。その代わり、警察の御用にならん様にしてや」


 源蔵が釘を刺すと、冴愛は大丈夫だよー、などと自信があるのか無いのかよく分からない笑みを返してきた。こんな反応を返されると、正直かなり不安だった。


「私も久々に渋谷の交差点で遊ぼっかな。こないだ出た格ゲーの美少女キャラのコス、まだやってなかったんですよねー」


 すると、帰り支度を進めていた早菜が手を止めて、カウンター裏の会話に加わってきた。

 美智瑠と晶が意外そうな視線を彼女に送るが、早菜は逆に、何故そんな風に見られるのかが分かっていないといった様子だった。


「もしかして私、非オタに見えてます?」

「え? 早菜ちゃんオタクだったん?」


 美智瑠が驚き顔で早菜の美貌をまじまじと見つめた。

 ここで早菜は、源蔵に理解を求める目線を送ってきた。


「楠灘さんなら分かってくれますか? 私TRPGとかトレカとか、めっちゃ大好きなんですけど」

「おっと早菜さん、そっち系っスか?」


 源蔵が反応するよりも早く、詩穂が食いついた。そういえば彼女も結構なオタクで、自称腐女子だ。

 美智瑠や晶に連れられて合コンに参加したりすることもあるが、大体いつも頭数合わせで付き合っているだけなのだという。

 頭数合わせの合コン要員という意味では源蔵も似た様なことがあったが、詩穂ぐらいの美人がそんな扱いを受けているとは少々意外でもあった。

 そんな詩穂に若干後れを取った格好の源蔵は、勿論分かると頷き返した。


「いうときますけど、僕のオタクキャリアはかれこれ20年ですよ。坂村さんや長門さんが物心ついた頃には、僕はもうオタクの扉を開いてましたからね」


 対抗心剥き出しで語る源蔵に、傍らの操が乾いた笑いを漏らした。

 しかし早菜と詩穂は、目を輝かせて食いついてきている。

 現役の課長が、若い腐女子とキャリアを張り合うオタクだったことが余程に新鮮だったのか。

 ところがそこに、美智瑠も割り込んできた。


「えー、コス楽しそー。アタシもやってみたーい」

「美智瑠さん、綺麗だしスタイルもイイしおっぱいデカいから、何でもイケそうっスよ!」


 詩穂がその場の野郎連中の目など一切お構いなしに太鼓判を押した。

 この時、玲央と隆輔が何ともいえぬ微妙な表情を浮かべていた。


「じゃあコスしたいひとは渋谷で遊んでから、楠灘さん家でアフターやりましょうよ!」

「……何でそこで僕ん家が出てくんのですか」


 当たり前の様に提案してきた早菜に、源蔵は渋い表情。

 しかし詩穂も美智瑠もすっかりその気になっている。何となく、断り辛い空気になってきた。


「膝に矢を受けたベテランオタクなんですから、堅いこといいっこ無しっスよ、課長!」

「いや、それ関係無いでしょ」


 だが結局、押し切られた。

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