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17.バレてしまったパジャパへの疑問

 結局、操はリロード二階に定住する運びとなった。

 件のストーカー紛いの不審者が未だ発見されず、危険の芽が残されたままの状態では、操をあの自宅マンションにそのまま住まわせるのは余りに危険との結論に達したからだ。

 事件のあらましを聞いた冴愛も、絶対にリロード二階に住んで欲しいと、源蔵と一緒に声を揃えて操を説得してくれたのも大きかった。

 但し、操の方からもひとつだけ条件が提示された。


「御家賃だけは、絶対に御支払いさせて下さい」


 このままただで住むのだけは嫌だ、と彼女は頑なに拒み続けた為、源蔵としても操の大人としてのプライドを傷つけぬ様にと気を遣いつつ、相場の最安値での家賃を提示した。


「え……本当にこんなに御安い家賃で良いんですか?」

「御存知かと思いますけど、僕お金には全然困ってないんで、それで宜しいですよ」


 尚も操は若干不服そうではあったが、本当に家賃など端から取るつもりはなかった源蔵は、これがお互いの譲歩ラインだとして、それ以上の数字は絶対に出さなかった。

 源蔵にここまでいわれては、操としても受け入れざるを得なかったのだろう。彼女は渋々ながらも、源蔵が提示した数字で家賃を毎月支払うことで合意した。


「やったー! これでウチも、二階でお泊り出来るよねー!」


 閉店後のリロードで話が纏まった瞬間、何故か冴愛が大喜び。どうやら彼女は、リロードでのアルバイト後に二階でのお泊り女子会が出来ないかと、以前から画策していたらしい。

 今までは誰も住んでいなかった為に敢えて我慢していたということなのだが、操が住人として居を構えたことで、遂に念願が叶ったとの由。


「いや冴愛ちゃん……何か主旨変わってへん?」

「いーのいーの! 操さんだって、たまには皆でぱーっとやりたいよね?」


 女子高生特有の元気と強引さで迫る冴愛に、操は苦笑を滲ませつつも否定はしなかった。

 矢張り、夜になってから誰かと一緒に居るというのは、それだけで気分的に違うものなのだろう。

 源蔵としても、居住者たる操が困らないのであれば、それ以上口を挟む義理も無かった。


「せやけど、お泊りする時はちゃんと親御さんに連絡せなあかんで」

「はいはーい。もーっちろん、その辺はちゃんとするよー!」


 すこぶる御機嫌な冴愛。

 彼女は最初のお泊り女子会は是非、たこ焼きパーティをやりたいなどと放言していた。

 ともあれ、引っ越しや役所での手続きなどの諸々全てを終えたのは、それからおよそ二週間程が経過した頃である。

 その時には早菜、美智瑠、晶といった白富士インテリジェンスの常連美女客らも操の二階定住化を知り、冴愛と一緒になって絶対お泊り女子会やろうなどと変に盛り上がっていた。


「何で若い女性て、パジャパとか女子会とか好きなんでしょうね?」


 操が二階に居を定めてから数日後の夜、客席でラノベを読んでいた源蔵がコーヒーのお代わりを運んできた操にふと、そんなことを問いかけてみた。

 すると操は、


「だったら楠灘さんも、御一緒なさいます? ここは楠灘さんの不動産なんですから、いつでも御泊り頂いて良いと思いますよ?」


 などと大胆な台詞を発してきた。

 流石にそれは拙いだろうと、源蔵は苦笑を浮かべてかぶりを振った。

 ところが、今度は冴愛までもが、


「えー、イイじゃん別にー。オーナーのお店なんだから、好きにしなよー」


 と、これまたヤバそうな台詞を放ってきた。

 操はどういうつもりなのか分からないが、少なくとも冴愛は危機感が明らかに欠如していると見て良さそうだった。

 ここで、ドアチャイムが鳴った。

 現れたのは早菜、美智瑠、晶の総合開発部の美女三人だった。いずれも、少し大きめのボストンバッグなどを抱えている。

 恐らく今宵、二階で寝泊まりする腹積もりなのだろう。


「あ、美人さんを囲った童貞さんがいらっしゃる」

「変ないい方せんで下さい」


 手を挙げて笑いかけてきた美智瑠に、源蔵は心底嫌そうな顔を返した。


「えー? そうですかー? 状況的にはどう見ても、囲ってるじゃないですか」


 今度は早菜が、からかう様に言葉を繋げてきた。

 しかし源蔵は断固否定した。


「僕まだ結婚もしてへんのに、囲うてどういうことですか。一応説明しときますけど、囲うってのはですね、既婚者の金持ちが二号さんを自宅以外に住まわせて面倒見るって意味ですよ。分かってはります?」

「既婚者じゃないのと、二号さんじゃないってとこ以外は条件マッチングしてるじゃないですか」


 尚も晶が反撃してくるが、冴愛の様な子供が居る前でこれ以上変な話はするなとシャットアウトした。


「え、何ナニ? 二号さんって何?」

「ほーらー……要らんこと教えるから、食いついてきたやないですか。雪澤さん、責任持ってちゃんと説明しといて下さいよ」


 指名された美智瑠は、任せておけといわんばかりに敬礼を返してきた。

 駄目だこれは――源蔵は彼女らの貞操観念に大いに疑問を抱きつつ、店を辞することにした。

 その去り際、冴愛が思い出した様に源蔵のワイシャツの裾を摘まんで呼び止めてきた。


「あ、そうそうオーナー。夏祭り、どーすんの?」

「夏祭り?」


 聞けば、近所の河川で開催される花火大会に合わせて、最寄りの神社の境内で夏祭りが開催されるらしい。

 そういえばもうそんな時期かと、源蔵は今更ながら思い出していた。


「ああ御免、完璧に忘れとった。夏祭り当日も店はオープンするよ。帰りの祭り客が休憩がてら、ここ寄ってく筈やしね」

「去年も凄く忙しかったですからね……ということで冴愛ちゃん、宜しくね」


 源蔵に続いて操も働けの圧を加えると、冴愛は軽い悲鳴を漏らした。

 どうやら彼女は、夏祭りと花火大会の双方で遊ぶ気満々だったらしい。

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