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4:コスプレって二人で一作品なんですか? ★



******



 あれから、昼時間いっぱいを全てお説教に費やし、床に長時間正座していたが為に、足が完全に使い物にならなくなった。

 お昼ご飯も抜きの刑を受け、怒られ泣きやつれ、ルティに横抱きにされながらみんなの前に戻った私は、不幸にも事故に巻き込まれた可哀想な女子にしか見えず……みんなの心配する声掛けがザックザクと私の良心に突き刺さった。これもルティの考えた罰なのである。精神刑罰……



「そのようなくだらない事情を、アオイは本当にクラスメイトに話せるのですか?おそらくあなたは彼らの姿を見たら言えないと思います。今回は不幸なトラブルに遭ったとし、あなたは大いに良心を痛めつつ、反省したら宜しいかと思いますよ」



 確かに、私への打撃は半端ないけれど、こんなにも心配してくれた彼らの気持ちを踏みにじるというか、完全に『お前はバカか?』という視線を向けられるのではないかと思うと、言えないかもしれないと思った。ダメ人間でごめん……。

 さすがにゴーちゃんには正直に話したけれど『そっか…まぁ無事で良かったよ』と全く責められないのも辛いと学びました。

 

 この優しいクラスメイトの為にも、どんなことでも頑張ろうと心に誓った。なんなら仮装のお笑い枠に収まるのも厭わない



***



 話はコスプレ服に戻る。私は宣言通り、赤ずきんちゃん風に決まっていたので、ざっくりな私は『あくまで、それっぽくあればいいんだよね』という解釈をしていた。

 私は見る専で、あくまでも彼らを引き立て、盛り上げる側に立とうと思っているので、あまり深くは考えていないといった方が正しいが

 

 赤系の持ち物を広いベッドに次々と空間魔法やクローゼットから出し、センスがないなりに頭を捻り、ついでに首も捻りながら、あーでも、こーでも、そーでもないコーディネートでアオイ風赤ずきんちゃんを作り上げてみた。



「おぉっ!!ぽい、ぽい!!赤い頭巾が頭巾じゃなくてスカーフなせいで、マッチ売りの少女風になってしまったけど、こんなんでいいんじゃないかなぁ?どうせ裏方で動くんだし、むしろ三角巾がいらなくていいかも~エプロンも前掛けついてるみたいな感じだし一石二鳥じゃん」



 一人、部屋で鏡を見ながら「ついに私も自分でできるようになったとは…くふふ、やるな自分」と調子に乗っていると、ドアのノック音が鳴り、ルティとゴーちゃんという、珍しい組み合わせで訪ねて来た。

 私がゴーちゃんを訪ねに行く事はあっても、ゴーちゃんは滅多に私の部屋へは一人で訪ねて来ることはない。おそらく気を遣ってくれているのだと思うけど




「アオイ、すみません、学園祭の仮装のことで……」

「アオちゃん、僕までごめんね。アオちゃんの神父様のイメージを参考までに聞こうかなって……」



「あ、ちょうど良かった~!私もちゃんと自分で頑張ってみたんだ~!自分の持ち物だけでもやれるもんだね。って言ってもほとんどはルティが買ってくれたものなんだけど。でも、赤系は種類が多くて選ぶのが苦労したよ~」



 私は自分でやれたことが嬉しくて、二人がフリーズ気味だったことにも気付かず、「どうかな~」とくるくると回って見せていた。我ながらドアホの極みである、一度土に埋まればいいと思う



「あ……うん、うん?アオちゃんのそれって【赤ずきんちゃん】って言ってたやつの仮装なの?……なんかちょっとだけ聞いていたイメージとは違うような気もするような……うん、それもいいと思うけど、今回はせっかくだし、プロに作ってもらうのもいいかもしれないよね?ほら記念になるし!」



 さすが気遣いのエンジェルブラザーは、やんわり風に言っているが、『プロに作ってもらえ』とほとんど言っている。オブラートが剝がれかけだ



「……なるほど、ソレは外で果樹の手入れ等をする時にぴったりな装いですね。アオイが仮装のことを考えていたのでしたら丁度良かった、以前話していた【赤ずきんちゃん】という人物像を伺おうと思って来たのです。

 ゴーシェと部屋で待っておりますから、()()()()()()来てください。アオイの好きな紅茶を用意しておきますね」



 さすがルティ、初手の時点で『庭いじり用にしろ』とハッキリ口にしている……果樹の手入れってしたことないんですけど。いっそ畑でもやるか……

 

 二人を見送ってから少し泣いて、あとの思いは紅茶と共に胃袋に流そうと思う



***



 ちょっとばかり諸事情により、鼻をかみ過ぎて赤くなってしまったけど、二人と合流し仮装について話し合った。センスは全くないものの、腐女子歴の長い私の記憶の中には、永久保存版という名のカテゴリーに分類された、キャラクター達の服装の記憶も多少は残っている。

 

 そう、完全にコスプレに特化した服装なので、神父と言えどもどこか正統派ではない服装になる。そして、もう一度言うが、()()()()()()()()その記憶を頼りにデザインを起こすことはできる!

 

 二人は私のそんな才能に度肝を抜かれたに違いない『えーーまさかの!?』と顔に出ている。口に出していなくてもわかるくらいの動揺した空気感。いっそ口に出せよ

 

 ついでに言えば『デザインは上手に描けるのになぜ?』と二人仲良く右に小首を傾げている。そろそろ失礼じゃないかな?どこまで泣くのを我慢して耐えればいいのかっ!!



「アオイの隠れた才能を垣間見た気がします。また一つあなたを知ることができて嬉しいですね」

「アオちゃんは食べ物の絵とか、イラストっぽいの()得意なんだねぇ~思っていた神父さんとは違うけど、お祭りだし、少し変えた方がいいのかもしれないよね。これを参考にしてみるよ!」



 こういう時は年の功なのかもしれないけど、ルティはなんとなくうまくフォローで締めている。ゴーちゃんはうまく隠せていないせいか、本音がチラチラ漏れ出てる。


 でも、嘘をつかないって良いことだよね。そうだ、そこが天使が天使たる所以(ゆえん)なのだ!!これでゴーちゃんが私の(煩悩)が詰まった神父服を着てくれるというのであれば、安いもんだ……



「うん、画家さんみたいな本格的な人物画とかは無理なんだけど、こういう漫画?イラスト?……う~ん、本の挿絵だらけの本って言ったらいいかな?そういう本の登場人物の模写とかなら、ちょっとだけ得意なんだぁ。食べ物は、単に名前だけじゃわからなくなって、絵で描くようになったのが始まりなんだけど」



 言っても、スマホを手にしてからはほとんどが写真だったから、かなり腕は落ちたと思う。今後の(ゴーちゃんの)コスプレの為にも、また練習していこうと思う。


 私が描いたラフ画をゴーちゃんへ渡すと、『早速デザイナーに相談してみるね!』と言って、部屋を後にした。発想がやはりお金持ちのボンボン感を醸している……きっと【セール品・B品】なんて着たことすらないに違いない

 

 二人きりになり、私はルティに尋ねられていた赤ずきんちゃんのストーリーを改めて話した。彼は『ふむ。なるほど……とても良いですね』と何が一体良いのかわからないことを言って、一人納得していた。

 



 数日後、私は下地のまだ全く装飾のついていないワンピースみたいな段階のサイズを合わせた。ルティに『サイズは間違いないので、着るのは当日までのお楽しみですよ』と言われ、【ワンピース・赤ずきんちゃん風】というキーワードしか私にはわからない


 しかし、普段から着るものはほぼお任せ体質の私は特に気にすることなく、少なくとも私が決めたような【庭師コーデ】にはなってはいないのだろうよ、とだけのほほんと考えていた。

 

 でも、さすがのルティと言えども、制服みたいに既成のものを着る以外でやるコスプレという概念は、理解しきれていないだろうなぁ、存在しないのだから当たり前だよね。

 

 自分の壊滅的センスは地中深く埋めつつも、『お手並み拝見だな』なんて舐めた考えを持っていた私はやはりア()イなんだと思う。

 

 彼が仮装に並々ならない情熱を注いでいるとは全く知らずに……



***



 そして迎えた学園祭当日、更衣室の関係もあり、みな着替えた状態で登校することになっている。特殊メイクとかしていたら、校門で弾かれないのかな?

 

 そんなナナメな考えなど、秒で消え失せたけど……



「ねぇルティ……これって赤ずきんちゃん、なのかな?」

「ええ、私がお話を伺って浮かんだイメージそのものですけど、少し違いましたか?」



 少しどころの話ではない。いや、赤ずきんちゃんのクオリティはマジでスゴイ。ちょっとゴスロリっぽいけど、私と彼の色ということで、下のブラウスが黒。そこに赤いフリルやリボンがついた、なぜか猫耳風のケープ、そしてワンピース、非常に可愛い!そしてニーハイにブーツ……やっぱりゴスロリなのか??


 彼も『全身アオイを纏っているみたいですよね』と言いながら、真っ黒の軍服にロングの編み上げブーツ。そして演出の一つだと思いたいが、なぜか赤い鞭を持っている。軍帽にはまさかの狼のような銀の耳がついていて、ベルト部分に狼の尻尾をイメージした飾りが引っ掛けてある。彼にはコスプレイヤーとしての才能まであったのか……興奮度MAXにめちゃくちゃカッコイイ!!



「う、うん……なんか思っていたのとは全く違っていたけど、むしろ良いと言うか……ルティってば天才なんじゃない?はわぁ……ルティがカッコよすぎて辛い……少佐、鼻血注意報発令中であります!」

「ふふふ。それは良かった、今回は普通のデザインとは違っているようでしたので、ゴーシェの神父デザインのように、趣向を少し変えてみたのですよ。アオイも思わず食べたくなってしまいそうなほど、可愛らしいですよ」



 軍服銀狼がハマりにハマり過ぎて、すでに食われる直前に感じるのだが?しかし、一つだけよくわからない装飾があり、彼にどこにつけるのか聞いてみた。



「ねぇ、そう言えば、この鎖の飾りはどこにつけるものなの?」

「あぁ、そうですね。これを装着して完成なのです」



 そう言うと、彼はおもむろに自分の首に細いチョーカーのようなものをカチリと嵌めた。なんかダークファンタジー系なんかでよく見る雰囲気を醸している。ハッキリ言って美形がやっているので、最高似合うし、瞬きでシャッター押せるなら、もうかなりの枚数撮っている。


 私が一人ぼへぇ~と見惚れていると、今度は私の左手首にブレスレットのようなものを同じくカチリと嵌める。対になっていて、どちらもアンティークシルバーでオシャレな彫りも入っていた。



「わぁ~片方がルティで片方が私のだったんだね!オシャレで素敵!」

「これなら一日つけていられそうですか?」


「一日?あ、これって返却式のものだったんだね。結構気に入っただけに残念だなぁ」

「返却……?いえ、もしアオイが毎日でもつけたいのであれば、私も喜んでつけさせて頂きますよ」



 まぁ毎日とまでは言わないけど、たまに休みの日とかにはつけたいと思うくらいには可愛いし、着け心地もとてもいい。



「では、仕上げと参りましょうか。アオイ、私の首につけた装飾に魔力を流せますか?アオイのブレスレットには私の魔力を流しますね」


「え、魔力が必要なの?認証登録みたいだね~。じゃあ、流すね」



 さすがはファンタジー。こうやって魔力を流してあげれば、落としても私のものってわかるような仕組みなのかもしれないなぁ……なんて、この時の私はルティのカッコよさに我を忘れていたんだなって思いますね。すでに蛇の口の中にいるようなものだったというのに



 お互いに魔力を流した途端に、ジャラリ……と赤い鎖のような…え、鎖…?が私の左腕とルティの首に繋がった。あの、これって鎖だよね?

 多少細身でオシャレな鎖ではあるが、どゆこと?手首のブレスレットを外してみようと試みるも、継ぎ目すらなくなっていた。Why!?



「ね、ねぇ、ルティこれって外れないけど、どど、どうするの?ルティも自由に動けないじゃない」


「はい。外れませんよ、少なくとも今日一日は。そうですねぇ……私も自由は少なくなりますが、その分アオイがそばにいて下さるのですよね?トイレの時だけは少しだけ伸ばしてあげますが、出入り口辺りで待つ感じでしょうか」


「えぇ!!なんでこんな……それに私の方に首輪ならともかく、ルティに首輪って……私が連れて歩いているみたいだし、なにより首が締まっちゃいそうで危ないよ!」


「アオイを連れる側も良いですが、アオイの首に万が一にでも傷がつくのは嫌なので。それにアオイが逃げれば…ふむ、私の首も締まってしまいますねぇ……ふふ。まさか、そうまでして何か企てたり、逃亡を謀ったりなんてしない、でしょう?」



 ギャーーーーー!!恋人が闇に片足突っ込み始めたぁぁぁぁぁ!!私に首輪じゃなくて、自分に首輪にして、逃げるならひと思いに締めてから行けってか!?そんな恐ろしいこと誰がやるか!!

 

 あっ!これなのか?「アオイの罪は私の罪も同じ」、あれはこういう意味だったのか!!ノォォォン!!こんな、どう見ても連れて歩いているんじゃなくて、猛獣と鎖で繋がれているようにしか見えない、ゴスロリ寄りの赤ずきんちゃん。

 なんなら異(世界)人さんに連れられて行っちゃった、赤い頭巾の女の子だよっ!!ドナドナだわ、これ!



 彼とは見える赤い(くさり)で繋がれているので、今日は二人で一作品となるようです。私的には【ドナドナされる赤い頭巾の女の子と狼軍人】なんだけど、ルティが言うには【黒猫の赤ずきんちゃんと銀の狼さん】らしい。狼()()()ではなくて?


 私の部屋に飾ってある、お馴染みの木彫りの黒猫とシルバーわんこがモチーフで、そこに童話と、希望された軍服がコラボしたとか……好きを全て詰めるんじゃない!





 鎖さえなければ最高に素敵な仮装が、すでに恐怖でしかないし、なんなら休みたい







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