<感謝>SP小話:発熱は初熱 ☆
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今日はカーテンから漏れる日差しを見るにきっと良い天気なんだろうなぁ。そしてさっきから鳴っているノック音が<コンコン>から<コンコンコンコン>になり<コココココッ!!>という連打に変わり出した
ごめん……目は覚めているんだけど、身体がベッドにくっついたみたいになってるし、心なし天井が回ってるような?ボーっとしちゃって大きな声で返事ができない
「アオイ?返事がないですけど、開けても宜しいですか?開けますよ?起こしに入りますけどいいですよね?」
起こしに来ようというなら、あえて忍び足で入って来なくていいんじゃないかな?『あまりに気持ち良さそうに寝ているもので、うっかり私も寝てしまいました』とか抜かしながら、<目覚めたら隣にルティ>をやるつもりなのかしら……もうかれこれ三回はやってるくだりだけど
「おや?アオイ、起きているじゃないですか!?私に起こして欲しくて、まだ寝ているフリをしていたのですか?ふふ、甘えんぼさんですね」
「……ん、ちが、くて…身体、あがら、ないの」
「え、よく見たら顔は赤いですし、目も潤んで…可愛らしい…っではなく、病気!?病気ですか!?」
「…いや…ちが…きせつの、、」
「き、季節性の……奇病!!ち、治癒、治癒をしましょう!!」
季節性の奇病ってなんだろう……?多分、これって季節の変わり目によくあったやつだと思うんだよね。リイルーンは気候が一定だったからなかったけど。
魔国は夏に台風がないから大きな気圧の変化はないものの、夏から短い秋、そして冬へと変わって行く、今の気候の変化は大きかったようだ。
ここに来て、初めての発熱だなぁ
熱はあるけど、幸い頭痛はない。こういう季節の変わり目の体調変化って月の障りと似たような感じで治癒で治るようなものではないんだよね。
痛みの緩和とか、ケガとかウイルス、菌や毒性のものには効果あるんだけどね。だからって一瞬で治るとかではなく、回復を早める感じというか、そこまで万能なわけではない。小さなケガなんかはすぐ消えちゃうけどね。
でも、これは痛みもないからねぇ。寝てるしかないよね、もう。
「だいじょぶ。寝てたらいい、から……」
「あぁぁぁぁ!アオイ~私を置いて行かないで下さい!!あなたが死んだら私も一緒に埋まりますからね!!」
マジか……生き埋めじゃんそれ。同時に死ぬか、少しでも長く私が生きていないと、もれなく彼は生き埋めになるってことじゃん。怖すぎる……
ちゅうか、ツッコミ不在のまま相手するのはキツイ……誰か冷静な人来て欲しい…
「アオちゃん、入って大丈夫?ルーティエ兄さん……廊下まで叫び声が聞こえまして…何かありましたか?」
あ、良かった。ゴーちゃん、この人ちょっと回収して欲しいのだけど……チラリと視線を向け、訴えてみる。オイオイと私のお腹の辺りで泣いてるから、地味に重たいんだよね。どいてくれ
「ゴーちゃ…ルティをおねが、い…」
「え!?アオちゃん!!ルーティエ兄さん!!アオちゃんはどうしたって言うんですか?兄さんをお願いってなんですかっ!?」
「ゴーシェ……アオイが、アオイが季節性の死病に……うぅっ、治癒も効かないのです!!アオイが死ぬ時は、私も死ぬ時です!!私は一人では残りませんからね!!あぁぁぁぁ……」
「そんな、アオちゃんっ!アオちゃんっ!!死病にかかっていたなんて!!!あんなにそばに居たっていうのになぜ気付けなかったんだ僕はっ!!ルーティエ兄さん、僕の寿命は分けられないのですか?
僕はまだ若いですし、全然平気です!!確かそういう禁呪のようなものがあるって、小説か何かで読んだような…探してきます!!」
まずい、話がどんどんおかしな方向に……奇病から死病に変わり出している。このまま行くと、ゴーちゃんまで寿命を分けだすよ……禁呪て、手を出しちゃあかんやつや。あ、でも小説ならフィクションやな
とはいえ、乙女の部屋の扉を大開放したまま飛び出して行ってしまった彼を止める術は、もはやない
天井は回っているのに、脳は回転しない中、控えめなノック音が聞こえて来た。カーモスさんも騒ぎを聞きつけてやって来てしまった。こうなったら、一番冷静なカーモスさんに頼るしかないな
「朝から、ゴーシェは取り乱し、ルーティエも……すでに馬鹿になってるじゃないですか。一体何事です?アオイお嬢様の今際の際かなにかですか?」
ええ、彼らはそんな気持ちのようなんです。ルティの生き埋めと、ゴーちゃんの禁呪を止めたいんですけどね、私は。
それにしても、あー…喉渇いたな
「ル、ティ…水飲み、たい」
「あぁ!アオイ!!水でしたら名水100選のものでも、温泉水でも何でも持ってきますから、まだ死なないで下さい!!」
ダメだ……こちらもまともじゃないのに、ルティが更にまともじゃない。困ったな。少なくとも今、温泉水は飲みたくない
「ん、わかったから、水……」
「急ぎ、持って参ります!」
よし、なんとか離れた。おそらく、たいした時間稼ぎにはならないだろうけど
「カーモスさ…あの、トイレ…行き、たいので、介助を、お願い…していい、ですか?」
「おや、アオイお嬢様は熱がおありでしたか……宜しければ、抱いてお運びしますよ」
いや、抱っこでトイレなんて行きたくはないので、首を横に振り拒否しておく。
とりあえず、三人のメンバー内では一番冷静に対応してくれそうなカーモスさんを頼る方が良さそうだ。安全の為にも
カーモスさんは私をベッドから起こし、ベッド脇に腰掛けさせると、自身の腰を少し屈め、『私の首に腕を回してください。その方が立ちやすいでしょう?』と言った。確かに介護でそういう感じの見たことあったかも
ぽやんとしつつも、言われた通り彼の首に腕を回して、そのままカーモスさんが後ろ重心に立ち上がるのを利用し、私も立てた。どうしてこんなことできるのか不思議だったけど、女性が動けなくなっている状態の時に介助した経験があるらしい。冒険者時代のパーティーメンバーとかかな?
しかし、無常にもこの微妙なポージングというバッドタイミングに、頭が現在正常ではないルティが戻ってきてしまい、パリーン!とガラスの割れた音が静かな部屋に響いた。あぁ……私の命の水が……
それにビクッと驚いてしまったせいで、腕に力が入り、更にそのまま抱き締められている図が出来上がってしまう。なんてこった
私はカーモスさんの首に腕を回して抱きつき、カーモスさんはその私の腰と背中に手がある状態で完全に密着している、まさに彼女の浮気現場に遭遇した彼氏の図の完成である。死にそう……
「あ、あぁ……あの、アオイ…それは一体、どういう……嘘、ですよね?」
「あ、これは……」
単にトイレに行く為の介助行為だから、誤解しないで!と言いいかけたところで、カーモスさんが話に割り入った。良かった、誤解を解いてもらおう
「これですか?ふふ。あなた達があまりに不甲斐ないせいで、アオイおじょ…いえ、アオイさんは失望し、私に縋るしかない状況になったのです」
「なっ!?アオイ!そうなのですか!?」
「………」
カーモスさんの言っていることを考えてみたけど、違うわけでもないのに、なんかおかしな方向に向かうような??そしていきなりの「アオイさん」呼びは何だ?まぁお嬢様より余程いいけどね。
っていうか、未だ抱き締められたままなので、どうにかして欲しい。私が手を離すと倒れそうだ
「ほら、これが答えなのですよ。邪魔なので役立たずはどいて頂けませんか?トイレまで付き添わねばなりませんので。割れ物は片付けといて下さいね?ふふ。もしでしたらあなたの代わりに私がつきっきりで看病致しますよ」
若干ずり足気味ではあるけど、カーモスさんは私の右手を持ち、一方は腰をしっかり支えて歩いてくれた。
ルティが固まってるけど、とりあえずトイレだけは先に行かせて。そろそろヤバイんだ
***
トイレから立ち上がるのが大変だったけど、これが出来ないと、私の尊厳が滅亡の危機に瀕する為、気合いで乗り切った
部屋に戻るとなぜかルティの姿はなく、カーモスさんが作ったという、解熱剤とお水をもらって飲んだ。冒険者時代に一時期パーティーメンバーに人族がいて、その人によく作ってあげたらしい。やっぱりそういう経験があったのか……
『宜しければ口移しで飲ませましょうか?』と、今は全く笑えないジョークを飛ばしていたけど、真顔で首を横に振っておいた。渇いた笑いすら出て来ない
こんな時でもなければ、カーモスさんと話す機会もないのだけど、薬を飲んだならあとは寝とくだけだなと思い、寝ることにした。それから禁呪に手を出そうとしているゴーちゃんにも、事情を伝えておいて欲しいとお願いした。何としてでも阻止して欲しい
少し薬が効いてきたのか、これなら寝れそうだ。でもさっきのルティの顔が頭から離れない……
「ルティ……会いたいよ」
病気の時って人肌恋しい……弱った時には特にそうだけど。ホロリと涙を一筋流し、私は眠りについた
***
何時間経ったのかな?ふと目が覚めると、ベッドの脇にイスを置いて座ったまま目を閉じているルティがいた。しかしよく見ると腕に痣がある??一体なにが!?
「ルティ…ルティ…」
「……ハッ!アオイ、目が覚めたのですね?気分はどうですか?熱は?」
相変わらず慌ててはいるけれど、どうやら少し落ち着きを取り戻したようだ。水を飲ませてくれたり、熱を測ったり、汗を拭いてくれたりと、とても甲斐甲斐しくお世話をしてくれる。
「うん。今はもらった薬が効いているみたいで、少し落ち着いたみたい。でも、ルティがいなくなってたから寂しかったよ」
「それは、申し訳ありません……動揺してしまい…」
仕方がなかった事とはいえ、あんな抱き合っているようなシーン、私だって見たら絶対に動揺する。ルティが悪いわけじゃない
「さっきはごめんね、でも熱でフラフラでうまく話せないし、力は入らないしで……あれはトイレに行きたくて立たせてもらっていただけなんだよ。私もカーモスさんもやましい気持ちなんてないからね?」
「アオイは……まぁそうですよね。いえ、もういいです。カーモスとは十分話し合いましたから」
ん?その話し合い故の痣じゃないよね?ちょっと転んでぶつけちゃったぁみたいな類ですよね?
「ね、ルティ隣に来て」
「え?宜しいのですか?」
「うん、私は抱き締めてもらうなら絶対にルティがいいし、ドキドキするのもルティだけだからね」
「私もアオイだけですよ。あの……抱き締めてもいいですか?カーモスの臭いを消したいのです」
「匂い?するかな?でも、わかった」
「………早く良くなって下さい。もう心配で心配で……」
私の体調に気を遣ったふんわりとしたハグだったけど、十分彼の優しさと温もりを感じる、満たされたハグだった。やっぱり彼の匂いが一番心地いい……
少ししてから、今度は左手に包帯を巻いたゴーちゃんが『オニギリを柔らかく煮てもらったよ』と言って持って来てくれた、所謂『海苔茶漬け』のようなものを部屋で三人一緒に食べた。染みわたる旨さで、もちろん完食した。
ちなみにさりげなく聞いたけど、二人共痣や包帯については『さぁ?ケガなんてしてないけど?』と全く誤魔化せていないのに理由は言う気がないようで、諦めた。
私はこれ以上二人に痣やケガが増えないように数分でも早く治そうと心に誓う。
ちなみに、翌日には元気一杯に回復したけれど、朝、カーモスさんにお礼を伝えようと声を掛けたら、なぜか眼帯をしていて『流行り目です』と言っていた。そんなバカな……痣の謎だけがモヤモヤと残った。
ありがとうございました!