1:文化祭は仮装をしよう!
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「はぁ……アオイが足りない」
長期休暇明けの『ヤダ!!学校行きたくない!!』病と似た類の、<アオイ欠乏症>を今、彼は患っているらしい。うん、人それぞれの秋の形ってことでいいのかな?私は年中食欲に全振りしておりますけど。
「もう、朝から溜息ばっかり!幸せが逃げちゃうよ!」
「そう言われましても…アオイと心と身体の奥深くまで繋がってからというものの、私の持つ愛の受け皿は大きく容量を変え、多少の余裕が生まれたと、初めは喜ばしく思っていたのですよ?」
「うん。言い方はあれだけど、とても良い事だよね」
「ですが…今度はその空いた隙間を埋めようと、私の愛は止めどなく溢れてしまい、更にあなたを求めてやまなくなってしまったのです」
それって…まぁ、あれか?ポエマーっぽい雰囲気で、アンニュイさも演出に加わってるけども、言いたいことはあれなのかしら?
「え……以前の受け皿でも相当なものだと思うんだけど。外付けのハードディスク買ったのに、もう空き容量がないですよってこと!?あれって相当容量あるはずだよね?」
「??アオイ、いくら私が博識であったとしても、元の世界の…ハートデスクなのか、バードディスコなのかわかりませんが、こちらの世界にない用語で説明されては理解致しかねます。あ……もしでしたら、無知な私に今からじっくり教えて頂けませんか?」
「あ、それはまた今度で!」
なんじゃい、ハートデスクって……可愛い机じゃん。まぁ使い勝手は悪そうだけど。そしてバードディスコは……パーリィーバード集団が踊ってんじゃん!?自前で羽毛扇子が作れそうじゃない?そちらはぜひ覗いてみたいですね!イメージはスズメが三羽DEサンバだけど。。。
でもさ、少し不明ワードを出しただけで、ピンクな雰囲気に持って行けるって、ちょっと脳内どうなっているのか……あ、その辺りの説明は不要ですけどね
現在が18歳とはいえ、約50年の歴史も歩んできましたからね。華やかな人生でもなかったけどさ。初心な女子とはほど遠い、耳年増な腐女子でもありましたし?興味もそりゃあ人並みにありましたよ
妄想が親友みたいなところあったしさぁ、いいじゃん?妄想くらい
はぁ、今になって文明の利器が恋しい……匿名で『~こんな事情なんですけど、どうしたら良いのでしょうか?』って、教えてgood!に投稿したい!!こんなこと、聞ける人が近くにいたって聞ける話ではないじゃないですか!!……あぁ、私は誰に言い訳をしているのか。
「ルティ、お願い。そういうの好きとか嫌いとかじゃなくてさ、もうちょっと理解して欲しいっていうか……」
自分で言っておきながら、照れてごにょごにょ、指をイジイジしている私を後ろから抱き締めてくるルティ。今日の彼はダスマスク系のバラの芳香と色気まで纏っている。あ、あかーん!香りに誘われちゃうよ!この甘い香りはなんですか!?
あわわわわ……まずい、すでに黄色のランプがファンファン回り出してますよ!!
「では……私のこの溢れんばかりの愛はどこへ向かったら宜しいのでしょうか?」
や、やめてぇぇぇぇ!!バックハグしながら肩に顎を乗せて、耳元で話さないでぇぇぇ!目を合わせようと覗き込んで来ないでよ!!ダメ!目を合わせたら捕らわれるのわかってるから見ちゃダメ!!
おまわりさーん!ここに恋泥棒がいまーす!!NO MORE 恋泥棒!
よし、ルティの顔を手で封印完了!どうするかだね……う~ん、もし再生可能エネルギーなのであれば、屋敷内の電力供給にまわして……あ、ここは魔法の世界だったか。それか畑の肥料にでもして、まさに愛情たっぷりで育った野菜を収穫してみるとか?
え、なにその白けた視線……あはは~冗談ですよ、冗談!あれ?これって人族ジョークですよ~嫌だなぁ
「理想は、いっそ夕日にでも向かって行って欲しいけど…あ、うそうそ!ゴホン、定められた日って言うのは本当は抵抗あるけど、カーモスさんが言ってた金・土の部屋泊OKの日、とか?でもお屋敷内っていうは嫌かなぁ……」
「では、一旦どちらかの部屋に移ってから、転移して里内の私の家は如何ですか?あそこには別で結界を張っておりますので安全・安心ですよ」
「うん。まぁその結界の中にいる私が一番安全ではない気もするけど。でも、そこが折衷案ではないかと……」
「では、今後はこの案を採用ということで、お互いに良い取引ができましたね」
「あ、はい。弊社と致しましても、ギリギリの線ではございましたが、なんとか良い方向に話がまとまって安堵しております。今後とも良いお取引のほど……って止めろや!!」
さっきまでのお色気ピンク盛り作戦は鳴りを潜め、契約終結後の取引先のような晴れやかな顔をしているってなんだ?
ハッ!!私知らない間に拇印とか押してないよね?さっき契約書を取り交わしたような幻覚が見えていたよ。交渉成立の握手までしていたではないかっ!なんて恐ろしい営業マンだ……
「ふふ。アオイはやはり可愛らしいですね、今日も愛しておりますよ」
「どうせ、扱いやすいって思ってるんでしょ!……でも私だって、あ、あい、愛…あります、よ?」
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朝から…そうね、他人様から見たらただのイチャコラ契約を取り交わしていただけですが、今決めたいのは、はいドーン!【文化祭でなにやる?】これです!
学園祭みたいな感じではなく、教室に各自の描いた作品が飾られていて、作品紹介とは別に出し物やるクラスはやってもいいよといった簡易的なものらしい。よし、今朝の出来事は、とりあえずポーイ!です。
司会はお馴染みクラス委員長のボーン君。今日もビン底メガネはピッカピカです。生徒たちの自主性を重視する為、MBA祭の時と同様、ルティは教室の角にイスを移動させ、長い足を組んで座っています……視線は私へ向かってニコリ。ようするにいつも通り。
「では、文化祭らしい、芸術にちなんだものを考えたいと思います。参考までに、昨年の魔法科一年生は【武術科バスターズ】、【綺麗な鉱石展】なんかを行ったそうです」
ほうほう、MBA祭のように血生臭い雰囲気はないけど、【武術科バスターズ】は武術科の人物画パネルに魔法弾当てるっていう、的当てみたいなものだけど、どう考えても怨恨が含まれている気がしてならない。せっかく描いた作品をぶっ壊す、まさに芸術は爆発だ!みたいな?
【綺麗な鉱石展】は、ようするに大宝石展ですね。ダークエルフ率が割と高いせいか、結構本格的な100カラットのサファイヤとかが、生徒が描いた絵と一緒に展示されていたとか……SPが必要ですね。
それでも若いからか『わぁ、この石めっちゃ綺麗じゃーん』みたいなノリでキャッキャ見ているものらしい。そもそも通学カバンに入れるものではないと思います。まぁゴーちゃんもただのオシャレな空き箱に、雑多に宝石入れてあったけどね
「みんなからも意見を募りたいんだけど、一応、委員長の僕からは『僕らが見つけた骨展』を提案しますがどうかな?もしだったら、片付けは僕がやるし。手間はかからないんじゃないかな?」
「「「………」」」
「ボーン、それはお前しか喜ばないだろ?」
「あ……やっぱりダメだったか…夢だったんだけどな」
ボーン君、それは……わかりやす過ぎるよ。見つける骨ってどこで?魚の骨とか?スペアリブの骨とか?せめて化石展じゃない?片付けはお腹の中にかな?帰りはみんな手ぶらだね
「アオちゃんは?なにかやってみたいこととか、アイディアある?」
「へ、私?……う~ん。あっ!仮装は!?みんなが将来なりたいものでも、着てみたかった服でもなんでもいいから、見た目だけでもなり切ってみるとか」
この世界にはハロウィンとかないから、仮装大会なんてないだろう。みんな体形が美ボディだから、きっとなんでも着こなすに違いない。私はそれを密かに見てみたい!
「ふ~ん。ちなみにアオは何を着てみたいんだ?」
「私?え~……着たい服か、う~ん赤い頭巾の女の子、赤ずきんちゃん?いや、食堂のおばちゃんの服でも借りた方がしっくりくるか……あ、でも、そもそも仮装は芸術に当てはまらないかなぁ……」
「仮装、赤ずきんちゃんで行きましょう!」
「………え、ルティ?」
あれ?今は担任は口を挟まない時間帯なのでは?っていうかまさかルティが赤ずきん服にOK出すとも思ってなかった。
元の世界の童話を話した時に、桃太郎とか赤ずきんとかシンデレラとか話してあげたのを覚えているのかな?頭巾で顔が見えにくいって意味で、私はいいかなって思っただけなんだけど。
「はい、それではこのクラスは【仮装】で決定ですね。各自着たい服装を考えておきましょう」
「「「はいっ」」」
このクラスのヒエラルキートップに君臨しているルティに逆らう生徒もなく、相談開始5分でクラス会の内容が決定した。ちょっと言ってみただけだったのに……まぁいいや、私はひっそり眺めていたいだけだし
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時間内で決まったのは、仮装は見せるのがメインなので、基本的には一年生の階層に交代制でうろつくことになった。せっかく仮装をするので、登校の段階から着て行こうと意外にも皆がノリノリだったからだ。
そしてファン投票の如く、良いと思った仮装に票を入れてもらう狙いもある。これも仮装の盛り上がるところでもあるよね
そして、今はいつもの面々メンズと学食で、仮装何着る?トークをしているところです
「アオちゃんは赤い頭巾の女の子なんだよねぇ~僕はなにがいいかなぁ」
「え!?ゴ、ゴーちゃんといったら…あ、あれしかないのではっ!?」
もし着てくれるのなら、私頑張ってターキーの羽をむしってくるけど?本物顔負けの羽を作りますけども!?
「アオイ、さすがにそれは悪ふざけが過ぎますし、羽は行動の邪魔でしかないですよ」
「ええ!?なんで羽の妄想がバレてるの?」
「アオのことだから、ゴーシェに天使の衣装着せようとか考えてたんだろ?」
「アオちゃん、ごめんね。天使だけは……」
ツーっと流れる一筋の涙。グッバイ マイ ドリーム。。。ボーン君の気持ちが今、私には痛い程わかるよ。馬鹿にしてすまん。
天使以外でのゴーちゃんらしさ……何か神の啓示でも降りて来ないものかなぁ……ん?神の、啓示……
「ゴーちゃん、神父!神父服は!?もちろん白地で金糸か銀糸の刺繍入りのやつ!!絶対似合う!絶対推す!もう私の一票を投票します!!」
「えぇっ神父!?あー…まぁそれなら着てもいいかな。露出もないし、いいよ」
それならブラザーに投票の一択しかないでしょ?妄想段階からぶっちぎりで似合うんですからね!!
「神父か、無難でいんじゃね?じゃあ俺は?なんかアイディアないか?」
「え、キラ君……?あー…王族の正装着るとか、竜になっとくとか?」
「それ仮装じゃねーじゃん!お前のテンション格差は相変わらずブレねーな」
「あー…じゃあ、逆にウケ狙いで魔獣ターキーの仮装してみる?好きでしょ?お肉」
「もう、お前には聞かねぇわ」
「まぁまぁキラ、調理服借りてさ、ドンタッキーの店長の仮装とかは?」
「とりあえずお前らはドンタッキーから離れろよ」
「それでしたら、私からもひとつ案を。その辺のゴミ屑の仮装なんていかがです?転がってジッと気配を消しているだけで結構ですよ」
「気配を消してゴミになりきるって……アオ!さすがにこれは酷すぎだよな?心友なら言い返してくれよ!」
「いや……考えようによっては、まさにプロの所業じゃない?むしろ普通の凡人にはできない御業だよね…やっとく?」
「もう、今日はお前らとは口利かないからなっ!!」
ありゃ、いじりすぎた?でも『今日は』口利かないだけで、明日はムスっとしながらも挨拶してくるんだよきっと。くふふ、愛い奴じゃな……
「ごめんって~!冗談だよ!そうだねぇキラ君にぴったりなのは、ゴーちゃんに封印される悪魔かな」
「俺、もう仮装しない……」
「あれ?ちゃんと考えたんだけど……お気に召さなかった?」
「う~ん、まぁ悪魔だしねぇ。一応、王族だから悪魔はちょっと…なのかもね」
じゃあ、顔バレしないように、包帯ぐるぐる巻きのミイラ男の方が良かったかな?トイレ行き辛そうではあるけどさ。
「アオイ、私もせっかくですから仮装しようと思うのですが、何が良いと思いますか?」
「えっ?ルティも仮装を!?う、嬉しいっ!執事服も捨てがたいけど、ルティと言ったら…」
「プッ!おい、ルーティエ先生ならあれじゃねーか?」
おい、結局口利いてんじゃん?とは突っ込まないでやるか……
「軍服かな」
「軍服だよな」
「……へぇ?二人共、息ぴったりですが……理由を伺っても?」
え、りりりりり理由ですか?まさに今の雰囲気にぴったりじゃないですか?鬼教官ですよ!!
「やだなぁ~キラ君の理由はわからないけど、私は前からルティには黒の軍服が最高に似合うだろうって思ってたよ?キリっとした感じがワイルドだろぉ~的な、ねぇ?」
「お、俺だって、そう、そうだ。強さを服装でも表せるっていうか、なぁ?」
「「ホント、ホント、あはははははは!!」」
「では、ご要望にお応えして、お二人の期待通りにイメージを精一杯、再現させて頂きますね?」
「ふふ。二人共良かったねぇ~」
「「…………あ、うん」」
下手こいたぁぁぁぁぁ!!
ありがとうございました!