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13:恋愛事情は人それぞれ ☆



******



 「むむぅ…」とモヤモヤとした気持ちのまま考えてごとをしていると、ズイっと視界一杯に、少し拗ねたルティの顔が映って驚く



「ひゃあ!!」

「アオイ、ようやく訪れた二人きりの時間なのに、考え事をされいては寂しいですよ」


「あ、ごめんね。そんなつもりはなかったんだけど、ゴーちゃんだけ一人で大丈夫かなって気になっちゃって」


「はぁ、ゴーシェのことですか?今更私達の部屋へ招いたとしても、かえって彼に気を遣わせることになるかと思いますよ。今は完全に私達のプライベートな時間なのです。そこに割って入るような無粋な真似を彼がするとは思えませんけど」

「うん、それはそうだよね……」



 私が逆の立場なら、ゴーちゃんと彼女さんが泊っている部屋にお邪魔しに行くってことだもんね。無粋以外の何ものでもないよね。反省です



「彼のことはもういいでしょう?今は私と二人のことだけを考えて頂きたいです。いい加減ヤキモチを焼いてしましますよ」



 おっと、これ以上拗ねさせたらヤキモチも消し炭になる恐れがあるよね。それに一緒に過ごすのが楽しみだって魔車の中でも話したのも自分だし、ルティの言う通り、彼と二人のことを考えよう



「ルティごめんね、忘れていたわけじゃないんだよ。今、私自身がルティを始め、みんなから幸せを貰っているでしょ?…だから、自分と関わる人も同じように幸せになってくれたらいいなって思っただけなんだよ。

 思うだけでは駄目だし、さした能力もないんだから無理な話だってわかってはいるんだけど。でも今は、ルティに幸せを感じてもらえるように頑張ろうかな」



「今アオイとこうして二人きりで過ごせることはとても幸せですよ。ですが、せっかくアオイが頑張って下さると言っているので、もう少し甘えても宜しいですか?」

「いいよ。膝枕でもする?」



 ポンポンと自分の膝を叩き、彼が頭をそっと乗せてくる。私の手櫛で髪を梳いてあげると彼も目を細めて気持ち良さそうだ。膝枕をした時は決まって催促されるので、これが好きなんだと思う。

 私自身も身長の差がある為、立っている状態で髪を触る機会はあまりない。彼の柔らかく美しい銀の髪に触れるのはこういう機会でもないとできないので、実は私も好きでやっているのだ。



 髪を梳きながらも軽い雑談を交わしていたけれど、ふと昼間の出来事や先ほどのカーモスさん達のことが思い出されてしまい、あの時自分が感じたことを彼に打ち明けることにした



「ねぇルティ、この国の常識だということには私も慣れていかなきゃいけないのかな?……二人きりの空間とか似たシュチュエーションならわかるけど、私には無理かなって」

 


 夕食時はルティ、私、ゴーちゃん、向かいがイーロちゃん、カーモスさん、ホヘットちゃんで座っていた。お向かいグループは普通に話しているはずなんだけど、妙に艶っぽくて視界に入れるのが恥ずかしく、私はひたすら自分のお皿に視線をやるか、左右のルティ、ゴーちゃんと話していたのだ。



「別に無理に慣れる必要もないのではないですか?恋愛の仕方は人それぞれと思っておく程度で良いのですよ。私とアオイの恋愛の仕方だって、全ての人に理解されるものではないでしょうし。

 でも仮に否定されたとしても、私達は私達のペースで進めているのですから、誰にとやかく言われる筋合いもないですけどね」


「そっか……そうだよね、私達は私達だもんね。不本意ではあるけど、今までたくさん否定しちゃったキラ君には今度謝っておかなきゃかな」

「彼は彼で十分幸せそうですし、別に気にしなくて良いのでは?」



 考えてみたらそうだよね。キラ君だってキスしていたくらいだから、ハニーちゃんに好意を持っているんだろうし。……キャンディちゃんは残念だけど、ハニーちゃんもキラ君が好きだったんだもん、素直に祝福しなきゃね



「それもそっか……えへへ、それにしてもルティは獣じゃなくて良かったぁ~」

「は??どういう意味ですか?」


「ん?キラ君のことも『獣』だとか、『味見に騙されるな』って言ってたし、カーモスさんのことも『陰湿ムッツリ執事』って言ってたじゃない」

「そうですね、確かに言いました」



「初めは、そんなことないと思うけどなって思っていたけど、結局だいたいルティの言っていた通りっぽいなって。カーモスさんが陰湿かどうかはわからないけど」

「ほら、私の言った通りだったでしょう?」



「うん、もしもルティが初めからそういうの全開な人だったら、付き合ってなかったと思う。ルティって口では変なこと言ったりすることはあるけど、無理矢理それを実行することはないし。ちゃんと理性ある紳士的な人で良かったなって思って」



 膝枕から身体を起こし、私の隣に座り直した大好きな彼の肩に、頭を落とし(もた)れる。

 彼も私の腰に手をまわし、更に自分の方へと引き寄せてくれた



「そう言って頂けるのはとても嬉しいのですが……そこまで信用されてしまうと、先に進み辛くなると言いますか…」



 ちょっとうっとりしかけたところで、正直な彼の本音を聞かされて、心臓が思わず跳ねた。つい最近その手の話をぶっちゃけ女子会でしたばかりだったので、どうしても意識してしまい、思わず凭れていた頭も離してしまう



「さ、先!?あ、そ…そっか。あ、わた、私だってさ……何も知らないわけじゃないよ?経験はなかったけど、元の世界にはそういうのを学べる漫画…いや、教本?のようなものもあったし」


「経験は……ない?」



 今までも聞かれたことはないし、はっきり言ってもこなかったけれど、意外に思ったのだろうか?彼は目を大きく見開き、驚いたような顔をしたと思ったら、今度は口元を手で覆ってはいたけれど、嬉しくてにやけるのを抑えているような様子は隠しきれていなかった



「そういうの恥ずかしいから復唱しないで、さらっと流してくれない?

 ルティとは違うもの。ちゃんと付き合ったのもルティが初めてなんだよ?私は欠片もモテなかったし、真っさらさらですよ」


「アオイ……やはり、まだあの時のことを怒っているのですか?」



 意図せず、以前の話を蒸し返してしまったようだ。30秒前は嬉しそうだった彼の表情は、一気に地に落ちてしまったのかの如く落ち込んでしまった



「それは……もう別に。私だって機会がなかっただけで、後生大事にしていたわけでもないし……。それに婚前にいいのかとか、一番は子供のこととか。この世界での常識とか、あるなら法律とか知っていないと駄目じゃない?あと今は一応学生だし私」



 元の世界と同様に、婚前交渉が不道徳な行為ではないことは、この間の女子会で聞いてはいたけど、やはり気になってしまうのは子供のことや避妊について。

 でもこういうことって聞くのは本当に勇気がいるのだけど、ここまで話したのなら、この機会に聞いておくべきことなのだろう



「こちらでは特に今アオイが学生をやっていたとしても、人族の成人年齢である18歳も過ぎておりますので問題ないかと。魔国は……まぁ見ての通りですが、エルフ族であっても16歳を超えた辺りからはお互いの同意があれば問題はありません」

「ここでは学生という身分は特にって感じなんだ……」



「はい。子供については私と兄上で150歳差があるの事でもわかりますように、本当に授かりにくいです。子はとても重宝され、里内では皆と協力し大切に育てられますよ」

「でも、それってエルフ族と人族であっても変わらないものなの?」



「そうですね……そもそも残りの寿命が300年として、その間に本当に授かることができるのかどうかというレベルかと。しかしそこは授かりものですので一概には言えませんが……アオイはもしかして、私との子は、、、望みませんか?」


「あ、ううん、そうじゃないの。それはいつか結婚したらって考えてはいるよ。

 ルティにわかってもらえるかはわからないけど、今は私も若返らせてもらったお陰で毎日がすごく楽しいし、充実しているの。でもまだまだルティとやりたいこと、行きたいところもあるし、何よりこの恋人期間をもう少し二人だけで楽しみたいと思ってて……

 まだ覚悟も決まっていないのに、なんの対策、計画もなしには私は怖くて先には進めないって思って……私の言ってる意味、少しは伝わってる、、、かな?」



 彼のことだ、私との子供を望まないわけがない。私だって彼と私がこの世界で出会って、恋をして、愛し合った証がいつかは欲しいし、残したいと思っている。でも、彼に告げたことはこの世界のエルフ族や魔人族の人からすれば、少し常識から外れるのかな?彼にとっては残酷なことを言っているのかもしれない。

 

 けれど、異種族恋愛である以上は必ずぶつかる価値観の違いだと思う。今だって、ルティと結婚を前提で付き合っているけれど、彼としてはそこまで考えてくれるのなら、なぜすぐに結婚をしてくれないのかと思っているだろう。これはきっと間違いないよね。

 

 きっと彼の方が我慢している部分が多いのだろうなと思うと、本当に申し訳ないなと思う


 それでも、この世界に来てようやく一年と少し過ぎた程度では、魔法誓約書で交わす結婚のことや、元の世界のような出産の為の機関や、医療が魔法で補えるものなのかとか、子育てのことなんかを含めても、まだまだわからないことだらけで……正直怖い



***



 彼は私の話したことを反復して思い出しながら、きっとよくよく考えてくれているのだと思う。たっぷり時間を掛け、ようやく彼が口を開いた




「………アオイが話してくれたことは、きっと元の世界では割と一般的な考え方、ということなのですよね?」


「どうかな。でも、それが全てではないよ?その人、個人個人の考え方や事情もあるし。18歳なら結婚もできるから、してはいけないこともないけど、女性の社会進出が進んで、年々晩婚化に変化していたよ。今では30代で結婚、出産っていうのが多くなってきていた感じだったかな」


「アオイは私を愛しているし、未来に私との結婚もきちんと見据えていて、そしてその先に私達二人の子供も望んでくれている……ただ、それが【今ではないだけ】という解釈で合っていますか?」


「うん。でもそれってルティからしたら理解し難いことなんでしょ?全てを私に合わせることで、ルティが苦しむことは私も望んでないよ。

 私だってもう少し先に進んでもいいかなとは思うけど、今は望まないのに、ただ出来にくいからという確率に委ねようなんて言わないから。結婚までお互いに節度を弁えて過ごせばいいからね?」


「理解し難いことではないですよ。これはエルフ族の常識というものではなく、ただ私が早くアオイと一緒になりたいと強く望んでいるので、つい結婚を急ぎ、催促しているにすぎません。

 アオイとの子は授かれば嬉しいのは間違いないですが、できなかったからといって私のそばにあなたがいて下さるのでしたらそれで十分だと、寿命を分けた時から考えていたことです」


「え、あの時からもうそこまで考えていたの?」


「ええ。それに人族の避妊とは違い、精霊魔法の中に避妊術もあるのですよ。私にそれを施せば100%妊娠はしません。ほとんど使われることはありませんが、特別な事情がある場合として存在はしているのです。

 もちろん結婚し、アオイが子を強く望むようでしたら、術を解除したら良いだけですのでご安心ください」


「でも……ルティはそれでいいの?私にばかり合わせてない?色々なことを我慢し過ぎて、ストレスが溜まってしまったりしないの?」


「いいえ、私達は種族も世界も違うもの同士だったのですからね。アオイは話し合うことが大切だと言っていたでしょう?これでまた一つ疑問が晴れて、更にこれをきっかけに私を意識してくれるのであれば僥倖(ぎょうこう)ですよ。

 不本意ではありますが、竜王に魂の番同士だと言われてから、少しだけ心に余裕が生まれたのです。今でも結婚したい願望があるのは変わりませんが、そう簡単には引き離すことができないのが番ですからね。それに世界をも越えた特別な番なのですよ?」


「ふふ、確かに。世界を越えるレベルの番なんてそうそうあることじゃないよね」



 前世では終ぞご縁が結ばれることのなかった私の運命の赤い糸が、まさか異世界に伸びていたなんて、そんなの想像もしていなかったけど、全ては彼と出会う為だったとするならば、微妙にツイていなかった人生やコツコツ積んできた徳にも意味があったのかもしれない……なんて、これはこじつけだけど。

 

 だってそうでも思わないと、なんでこんなハイスペックでスパダリな彼が私に惹かれるのだろうかって納得がいかないと言いますか……ちょこちょこ顔を出す、おかしな部分を差し引いたとしてもだ。



「アオイ……今後、私はもう少し先に進みたいと願っても宜しいのでしょうか?口づけや抱き締めるだけではとても足りない。欲だけの話ではないのです、それほどまでに溢れているあなたへの愛を、私はあなたに知って欲しいし、感じて欲しいのです」



「………うん、ルティが理解してくれたのなら……でも、、、」

「でも……?」



 どうしよう……多分これって良い雰囲気ってやつなんだよね?だって、ルティの視線が甘いもん。顔の距離近いし、よく見たらがっつり抱き締められているに等しい状態になってるよ!!



「あの、本当にこのムードの中言うのは申し訳ないんだけど……今日は、というか、、、他所の家ではちょっと無理……デス」

「………あ…」



 ですよね!?衝撃を受けるのは無理もないと思う。全面的に私の配慮が足りなかったと思います!

でも、それでも無理なものは無理なので!!



「なんかホントに、、、ごめん……なさい」

「そう、ですよね……色々な感情を一遍に味わった気分です…いえ、アオイは悪くないので、気にしなくていいですよ」



 悪気はなかったんだけど、今日この話をしなければ良かったのかなと反省。

でも、私が気になっていたことをルティがまた一つ解決してくれたことで、彼への気持ちがさらに深まったのは間違いないので許して頂きたい



「でも、聞いてくれてありがとう。私もっとルティが大好きになったよ」

「それならば良かったです。私もアオイが大好きです、愛しておりますよ」





 おやすみのキスを交わし、私は幸せなまどろみに揺蕩(たゆた)いながら、心地よい彼の温度と鼓動を感じつつ眠りについた




 ただ一人「幸せな拷問」に耐えている男の気持ちには気付かずに……



「はぁ、眠れません……」





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