8:旅の仲間って、こうやってできるものじゃないよね? ☆
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「ふぁぁぁぁ~」
上半身だけ起こし、ぐぐっと伸びをする
「身体を伸ばすのって、なぜこんなに気持ちいいのか……たまに足が攣ることもあるけど」
今何時?夕方くらいか……そういえば、なんで私寝てたんだっけ?
ガッツリ寝てしまったわ。成長期かしら?そんなわけないね。
水でも飲みたいな~っとリビングへ続くドアを、リラックスモードで開けたら、顔!!!
「ギャ―――!!!!!ル、ルーさんか、びっくりさせないでよ!っていうかなんでルーさんいるの?」
「ハァ……やはりアオイはあの時すでに疲れがピークだったのですね。確かにいつもと様子が違いましたし。あなたは食事の用意から魔法練習と、少々根詰めていましたからね……別世界から来たことで精神的疲労もかなり溜まっていたのでしょう」
中々目覚めない私を心配しつつも、調理済の食べ物を買ってきてくれたというルーさん。『今日はゆっくりしていて下さい』という言葉に甘えさせて頂こうと思う。
しかし思い出した!ベッドに運ばれる前に意識が覚めたけど、そのまま寝たふりしたつもりで、本当に寝ちゃったんだった!
一回頭をクリアな状態にしたかったし。本当に一瞬で寝る辺り、特技の寝つきの良さがかなり役に立ったわ。
でも、いきなり目の前で気絶したら心配するよね。何でいるの?なんてひどいこと言ってしまったよ
「言い方悪くてごめんね。逆に心配まで掛けちゃって、むしろいてくれてありがとう。
ルーさんがベッドに運んでくれたんでしょう?重たいおばちゃんを運ぶの大変だったよね?腰、大丈夫?」
「いいえ。全く問題なかったですよ。むしろ不可抗力とは言え、許可なく女性の寝室に入ってしまった私の方こそ、謝らなければならないくらいです」
「あはは!まぁ女性ではあるけど、そんな意識に入れるような年齢じゃないって!」
なんなら、こんな人間国宝みたいな美男子に運ばれた私の方が役得なんじゃないかな?
でも、見た目は親子みたいなものだから、母を心配する息子ってとこかな
「ハァ……年齢で言ったら私の方が遥かに年上ですし、それを言ったらおじさんを超えて、おじいさんレベルになりますよ。アオイは十分に意識に入れる女性です」
「そ、そうですか……ありがとう、ございます?」
まずい、返答を誤った気がする。
とりあえず立ったままだったのでイスに座ろうかな。
ダイニングテーブルの方を見ると、何か作業をしていた後なのか?よくわからない道具や、赤い石の破片がいくつか見えた。
「ルーさん、アレって何か作っていたの?」
「あ、そうでした!ちょうど先ほど完成したのです。少し付与魔法もお付けしているので、アオイのお守り代わりに良いかと思いまして」
ルーさんが閉じていた左手をそっと開くと、そこにはラズベリーピンクの丸い宝石がついたピアスが一つ
「え?可愛い!作ったって、まさか石の加工から?すごいっ!ルーさん器用過ぎない!?」
「いえ、そんなことないですよ」
どうぞ、どうぞと勧められ、鏡を見ながらつけてみる。良かったまだ穴ふさがってなかった!
「どうかな?変じゃない?この控えめな色味が派手過ぎなくて素敵!」
宝飾品なんて貰ったの初めてなものだから、年甲斐もなくはしゃいでしまった。
「思った通り、良く似合いますよ。アオイの肌にも良く馴染んでいます。余った石で私もついでにお揃いで作ったのですが、いかがでしょうか?」
そう言って、耳に掛かる髪を避けてお揃いだというピアスを見せてくれた。
「男性でもルーさんは肌が色白で綺麗だし、美形だからピンク系だろうがなんでも似合うね」
お揃いではあるけど、身に着ける人が違えば、見え方は全然違うものだなと納得しておく。彼ならきっと道端の石ころを着けたとしても、宝石に見えるに違いない。
『貰っちゃっていいのかな?』なんて言いつつも、ちゃっかりもう身に着けてしまっている。
くれると言うのなら貰っておこうかな的おばちゃん精神で『ありがとう!とても嬉しいよ、大事にするね』とお礼はきちんと返した。
ようやく腰を据えてお茶でも飲もうかと思ったら、向かいに座っていたルーさんがスッと立ち上がり、座る私の横で片膝をつけて跪く。
なんか目を覚ましてからずっと彼が落ち着かない。何かあったのかなと思い、ただ黙って様子を伺って見ていた。
「アオイ、もう一度やり直しをさせて下さい。
私はあなたを心からお慕いしております。依頼契約は終わってしまいましたが、あなたと離れたくないのです。護衛でも道案内でもなんでもしますので、どうか私をあなたのそばに置いてくれませんか?
まだアオイから心を傾けて頂けるなどと思ってもおりませんが、どうか……この想いだけでも受け止めて欲しいのです」
真剣な眼差し……なのに今にも泣いてしまいそうな不安気な表情で、空間魔法から赤いバラの花束を差し出した
「……綺麗なバラだね。5本っていうのには何か意味があるの?」
バラは色や本数で意味合いが変わるんだよね?赤は愛や情熱だったかな。その程度しかわからないけど、ルーさんの事だからきっと何か意味があるのだろう。
「はい。他のメッセージも考えたのですが……5本は『あなたに出会えたことの心からの喜び』です。
出会えなければこの感情は知らなかったわけですから、まずは出会いに感謝したいと思いました」
「そっか……ルーさんらしいね。まさか初対面で言い合いをした同士とは思えないくらい。私もこの出会いに心から感謝してる」
「では……」
「気持ちはとても嬉しかった、それは本当。ルーさんも真剣に伝えてくれたんだから、私だって真剣に答えなきゃね。
私もまだこの世界に来たばかりだし、知り合いもいないし?そんな中、ルーさんとは仲良くなれて本当に良かったと思ってる。でもだからって、あなたのその好意を利用して、想いを返せないのに一緒にいようなんて不誠実な事、私にはできないよ」
「しかし……」
「今のルーさんの気持ちが嘘とは言わないけど、ルーさんは私の料理が好きなようだし、珍しいものを食べて、一時的に胃袋が掴まれちゃっただけじゃないのかな?私にはそれ以外に惚れ込んでもらえる要素が浮かばないんだけど……」
顔は……せめて若い頃なら多少は見れたかもしれないけど、今はただのくたびれたおばさんだ。
髪は、オシャレに白髪が混じってますし?肌は、うん50代ですから、察して。
性格……結構言いたいこと言っちゃうタイプで、イイ性格していると思うよ。
女らしさ?今はどこかで迷子中かな?行方知れずですわ
世の中、そういう人が良いって言ってくれる、マニアックな人もいるのかもしれないけどさ。考えれば考える程、悲しいかな、どこに惚れる要素があるんだい?と言いたい。ホントに悲しいが
「……確かに、アオイを語る上で料理も無視することはできません。あなたの手料理は美味しいですし、あなたと食べる食事は更に美味しい!作る際の相手への思いやりも素晴らしいと思います。
ですが、料理を抜きにしましても、好奇心に満ちた輝く瞳、くるくると変わる表情、ゆるく癖のあるふわふわした髪、どんな相手にも物怖じしない豪胆さ……魔力相性も良いのはすでにわかっておりますし、抱き締め心地の良さそうなその……」
「ちょいストォォォォォォォップ!ストップ!落ち着いて!!ま、まぁ座って話そうや!」
混乱で言葉がおかしくなってる!どうした、どうした?翻訳機能さんよ?叩けば治るか?
「私は落ち着いておりますが?」
キョトン顔のルーさん、可愛いな……って違ぁぁう!!あなたは一体、誰の話をしているの???
そもそもさ、異世界だもん、見た事ないもの見たら誰でも興味湧かないかい?
ゆるふわ?ただの軽い天パなだけだよ。しかもパサついてるわ!!
物怖じって…あれは売り言葉に買い言葉的なやつだし。
だ、抱き締め心地って、要するにたるみと少々ぽっちゃりしている体形を言っている?ケンカ売ってるわけでは……うん、まぁないんだろうね。
とにかく、どんだけストライクゾーン広いんだよっ!!!
受け入れられるのは、思いを込めて料理していた部分とギリギリ魔力相性くらいしか理解できないぞ!
「あ、あ、あれだよルーさん、<恋は盲目>って知ってる?
元の世界でのことわざみたいなやつなんだけどさ。今の熱く語ってくれた人?多分私ではないわ、うん。……何ていうか、今は「好きだー」って気持ちが勝っちゃってて、目に特殊フィルターまとっちゃってるというか、さ。<月と恋は満ちれば欠ける>ってどこかの国でも言ってたし、今が特殊フィルターのピークよ!ここからは半年と持たず下り坂だって!ズドーンっとね」
我ながら何を言ってるのか、よくわからない
「なるほど、特殊フィルター……魅了系の魔法を掛けられた、みたいなものですか?私には効きませんが。
月の満ち欠けは言わせて頂きますと、あれは陰で欠けているように見えるだけで、実際は欠けておりません。仮に欠けたという表現に合わせると致しましても、また月は満月に戻りますので。つまり恋心も欠けないことになりませんか?」
「……ソウ、イエナクモナイネ」
なんと!まさかのことわざなのに、なんとなくで意味理解しているし!こういう時にその賢さいらないからぁぁぁ!!
そして投げたブーメラン見事に戻ってきたよ。ゴフゥッ!!致命傷!!
『アオイは月が本当に欠けていると思っていたんですね』的な目で見られてない?知ってますからっ!憐れむのやめて!!
「そうは言いましても、恥ずかしながら私はアオイが初恋なので……。過去の恋などと比較もしようがありませんし、今はあなたに『これは本物だ』と証明することができないようですね」
「え?400年生きているのに初恋なの?噓でしょ!!可愛かったり、美人だったりでも性格良い子なんて大勢出会ったでしょうよ?」
HATSU♡KOIかぁぁぁぁぁ!!これは拗らせ加減が半端ないかもしれない!300年も冒険者生活やってて、恋のダンジョン攻略は一度も踏破していないというの!?そんなバカな!!
「初恋は本当ですよ。綺麗、可愛いなんて、ただの外見だけを言うのであれば、故郷の里でいくらでも見ていますし、そもそも自分の顔で見慣れてもおりますので、見掛けだけで気に入るというのは特に……。
それに必要以上に関わることもなかったので、必然的に恋をするという所にまでは発展しなかったですね」
えーーー自分で言うなよ!とツッコミ入るところだけど。うん、仕方ないか。
これは確かに納得の理由かもしれない。顔面偏差値高い方は、注目するところが違うの?一般人には全くわからない話だな
必要以上に関わってこなかったのに、うっかり今回は関わっちゃったっていう……事故やな!事故案件!
私が一人混乱している中、ルーさんはこれで解決とばかりにこう言い放った
「要するに、私の想いが今後も続くものかどうかを今すぐには証明できないわけですよね?アオイは一過性のものだと、私は本物だとお互いに主張が違うわけですし。
それでは正しく私の想いが伝わったとは言えませんので、ご理解頂けるまであなたと共に過ごし、証明してみせましょう、ね?」
「へ?」
えっと…ね?って何が?
ねぇ何の、『ね?』なの?
お~い聞いてるか?お~い?
「では早速ギルドへ行ってパーティ申請をしてきましょう。そして、まずはどこへ向かいますか?ワノ国へも行きたいと言ってましたが、ここからですとかなり離れていますので、まずは船で北上し、他国を経由しながらのんびりと向かいましょう!」
いや……あの、ルンルンしながら荷造りというか、空間魔法にポイポイしてるし
え?この家も元の木に戻すの?
もったいな……あ、はい。わーーーすっかり元の森状態だ!
カップ麺が出来上がったくらいの時間かなぁ……早いわっ!
「はい、準備完了ですね。行きますよ」
「あ、はい……」
……っていうか、いつの間に手!?
ボヤ~っと感心している間に、がっちり捕獲されてたんですけど!?
これは、もう逃げられる気がしないな。物理的にも
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ……ルーさん、今回は私の負けだよ。でも、結婚云々は一旦しまっておいてもらえるかな?まずは<旅仲間>からでお願いします……」
「はい、喜んで!」
こうしてルーさんの強引技に屈した私に、旅仲間ができた
なんでだ?
ありがとうございました!