10:刺激的な夏は、天使の目に毒!
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ツンツン
(う~んまだ眠いよ……)
「アオイ、アオイ?」
(だから、まだ眠いんだって……)
「起きないならゴーシェの目の前で口づけしますよ?」
(~っ!?ふおっ!)
「オハヨウ!!開眼シマシターー!!!」
目覚まし時計よりも強力な台詞で、シャキーンとバッチリ目が覚めた。心臓の鼓動も一気に全力疾走しだしたようでバックバクいっております!
彼の場合、脅しではなく本気でするからホントに怖い。誰か羞恥心ってやつを彼に御教授してやって欲しい
「ふふ、アオちゃん夢でもオニギリ食べてなかった?寝言で『大きいオニギリ~』って言ってたよ」
「アオイは可愛い食いしん坊ですね」
「えぇっ!ヤダ、涎垂れてなかった!?……良かった、ルティの肩濡れてないっ!」
確かになんだかとっても満足いく夢を見た気分だけど、おにぎりだったのか……いい夢だ
「あ、なんか潮の香りがするね!海はもう見える?」
キャビンの小窓から顔を出し景色を確認してみると、小さな丘を下った先に海が見えていた
この磯の香りがおにぎりを連想させたに違いない。良い塩加減だ…見えているのは海だが、浮かんでいるのはおにぎりってところが、どこまでいっても私なんだなとフッと自笑する
「アオイ、急に立ち上がると危ないですよ!」
「アオちゃんって時々読めない行動するから目が離せないよね」
なんとオカンが二人に増えてしまっているとは!?言っても、ルティが腰をガッチリ抑えていて、ゴーちゃんも何かあればすぐに動けるようなポーズとっているんだから、何も起きようがない気がするが?
「ふふ。ねぇルティ?ミトパイからパイッシュ、キシュタルトへ渡った時を思い出すね……」
「え?あぁ……海で思い出しましたか?ふふ」
「えーなになに?それって二人だけの甘い話?」
ん?あれは甘い話と言うよりは……
「まぁ確かに甘い話もあるよね。デザートパイも美味しかったし。ただ海を見たら、ホタテのポットパイが超絶美味しかったことを思い出したんだよ」
「色んな種類を並べて食べ比べ、アオイは動けなくなるまで食べたので、私が肩を担いで運んだのですよね」
「また結局食べてる話なんだー!あははっ本当にアオちゃんってば変わらないね、食べ方も一緒なんでしょ?」
「確かに口一杯頬張って、もきゅもきゅしてましたよね」
「えーそんなこと言って、ルティだって……チクショウ!綺麗に食べてたよー!!」
「あはははは!!」
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「ふぅ~ようやく到着したんだねぇ」
偉そうにほざいているけど、出発後すぐに寝ている私は体感1時間ほどで到着した気分である。ルティの左肩はきっと凝りに凝っているに違いない。夜に肩を揉んであげようと思う
「やっぱり海側ってジトジトしていて暑いねぇ……」
上質なもやし君ことゴーちゃんには夏の日差しは強敵のようだ。きっと水分が奪われているんだな
「皆様、お疲れ様でした。ちょうどお昼時ですし、荷物を置いて、まずはランチにしませんか?」
「そうね、私も結構お腹が空いたわ」
「うん、私も~」
「アオイはどうですか?」
「うん、私は、、、
ぐぅぅぅぅ~
今お腹空きました、デス」
「ぷっ!アオだっせぇ~お前普段は俺に食い意地張ってるだの言ってるくせに、女子力皆無だ…あ、やべっ!」
悔しいけどその通り過ぎて、なんも言えねぇっ!!くっそー変態セクハラ野郎のくせに(ただの八つ当たりだけど)あやつは後で縦に掘った砂風呂の刑だ!砂で大好きな胸でも作ったろか!!
私が一人羞恥でぐぬぬ……となっていると、隣の二人からなんだか重いオーラが立ち込めているような???魔人族の女子’Sはそれが感じ取れるからか、若干涙目でカタカタ震えていた。え?殺気系なの!?
「キラ……言い残すことはあるか?」
「キラ、残念だけど……」
「ちょっ、ホントごめんって!場を和ませようと思っただけだって、な?アオも気にしてねーよな?」
「………つーん!」
「ア、アオーーー!!お前しか止める奴いねぇだろうがっ!」
ちょっとくらい痛い目みたらいいんだよ……って思うけど、これはちょっとじゃ済まないかもしれない。オカン二人が指をポキポキ鳴らし始めているし……うん、やっぱり止めよう。
「もう、気にしてないからいいよ。女子力ないのは本当のことだし」
「アオー!!神様!女神様!今日も最高カワイイぞっ!!」
「キラ、貴様殺す!」
「キラ、妹に手を出すならその手なくすよ?」
「……いや、おかしくない?褒めても揶揄ってもダメってなに?」
すまん、どうあってもキラ君のことは救えないらしい。いい加減、揶揄うのをやめたらいいのにと思うよ
――パンパン!
一歩前に出たカーモスさんが気を反らしたことによって、一旦殺気は収まった
「はいはい、その辺にしておきましょうか。そちらの美しい女性達が震えているではないですか、お可哀想に……あとで私が慰めて差し上げますね。
ハニー様、ランチ会場だけ教えて頂けませんか?少しキラ王子に補習を行ってから参りますので、皆様は先に向かっていて下さい、すぐに戻ります」
「え?補習ってなに?俺もう腹減ってるんだけど……あ、いえ、はい。受けます」
カーモスさんはいつもの笑顔でキラ君を見ていただけなのに、なぜかキラ君は緊張した面持ちで気をつけをして、カーモスさんの後をついて行った。
よくわからないけど、大人には逆らわない……いや、逆らえないのか?カーモスさんってホント謎が多い人だなぁ。
って言うか「私が慰めてあげます」ってなに?サラっと言っていたけど、大人って怖い!
***
とりあえず、あの場はなんとか収まり、荷物を部屋に置きに行っている間にカーモスさんも合流してランチを食べた。
分厚いダイオウイカのステーキはとっても美味しかったんだけど、なんせ弾力がすごい……ずーっともっちゃもっちゃ噛み続けていたので顎が疲れた。後半はルティがふぐ刺しの如くうっすくナイフでスライスしてくれたものを食べていた。食事用のナイフってそんなに切れ味すごいの?
他のみんなは普通に食べれているのに、やはりここでも最弱っぷりを発揮している。ちょっと泣いた
ランチの場にはいなかったキラ君へは『ちょっと餌をあげてきますね』と、もはやキラ君の人権は失効しているかのような発言をカーモスさんにされつつ、私達の3倍はある厚みのイカステーキをお皿に乗せてどこかに運んで行った。よく噛んで食べろよ……あ、彼は骨も砕けるんだった。
***
そして今、男女に分かれて水着に着替えているんだけど……イカステーキ食べきれなくて良かった!!危うくお腹ポッコリで水着になるところだったよね!?ふぃ~助かった!
それにしても……チラリ。
「ハニーちゃんも、イーロちゃんも、ホヘットちゃんもさ……なにをどうしたらそんなバストになるの?それに食後なのにお腹は全然出ていないし、くびれもすごいし。泣きそう……」
「う~んどうなんでしょうか……基本的に魔国のダークエルフはこういうものなので、特に疑問にも思ってなかったです」
「うん、逆にみんなこんな感じだから新鮮味もないっていうか。エルフ系統は皆美形は当たり前なのと同じで、ただの特性だよね?」
「私はかえってアオイさんのように、小柄で可愛らしいのが羨ましいけどな。イカをひたすらよく噛んでいたのも可愛かったし……今日のはとても柔らかかったから、私あまり噛まなくて…早食いするなって親にもよく怒られるの」
違う、違う!柔らかいのによく噛んでいたんじゃなくて、飲み込めなくてよく噛んでいただけだから!!本来は私も結構早食いの方だと思うよ。断じて意識して弱い女子を演じているわけではないからね!
「ゴーシェ様やルーティエ先生が小動物だとか子リスみたいだって言っていた意味がよぉくわかったもの。お二人共ジッと見ていたわよね」
「え、ええー?見てたの?めちゃくちゃ恥ずかしいっ!」
ルティの視線はいつものことだから気にせずに、嚙み切れないイカを睨みながら、一人もちゃもちゃと戦っていて周りを見ていなかったー。
ゴーちゃんは人見知りはするけど、生き物や小動物は好きらしい。天使だから鳥や草花と話ができそう……っていう妄想
「それに、MIZUGIも私達はこういう体系なのでどうしてもセクシー路線になってしまいますが、アオイさんのMIZUGIは可愛らしくて、私達では似合わないので羨ましいですよ」
「私も考えてみたら、セクシーなものを着れるとしても恥ずかしくて無理だし、これでいいのかも。みんな、慰めてくれてありがとう!」
結局は隣の芝生と言うか、ないものねだりなんだなと理解することにしつつ、男性陣の待つ部屋へ移動する
***
「皆様、お待たせいたしました~!いかがでしょうか?新作のMIZUGIなんですよ」
ジャジャーンと水着を隠していたマントをはぎ取るように、まずはハニーちゃんが先陣を切った。
ハニーちゃんは三人の中では一番生地が多めではあるけど、所謂モノキニというやつ。隠す部分のみ生地がしっかりあるけど、その他はかぎ編みになっている。セクシーさはあるけど、その中にも品があり、似合っていて素敵だなと思った。
「私のテーマは『ギリギリ』で~す!」
うん、イーロちゃんはマイクロミニのビキニで、本当に、本っ当に色々とギリギリな水着。お願いだからジャンプとかしないで!!
私に『小柄で羨ましい』と言っていたけど、普通にそのけしからん魅惑のボディを生かしまくっていると思うのですが?
「私のは【どの紐が当たりか見つけてね♡】がテーマだよ」
ホヘットちゃんのは……誰がプロデュースしたの!?包帯ビキニというもの。もちろん本物の包帯ではなく、たくさんの紐がいやらしくあちこちに食い込んでいる……もう、私には解説は無理!!マ、マント!彼女にマントを~!!
だいたい、どの紐が当たりかって見つけちゃいかんやつやろ!!肉食女子凄すぎる…
この三人の後からひょこひょこ出て行く、短足で、至って一般ピーポーな私の気持ちがわかるだろうか?
先ほど三人には慰めてもらったけど、やっぱりセクシーワガママボディの後にお子ちゃまな私……
強いて言えば、いつの間にか復活したキラ君とカーモスさんが三人をじーーーっくり、上から下まで観察しているので、今ならこちらに興味がこなくて良さそうなのと、ゴーちゃんは真っ赤な顔を両手で覆って後ろを向いていること。
そしてルティは……うん、もう疑うこともないけど興味なさそうに無表情で待っていた。
私は今の内に!と思ってこそこそっと一応着ていたセットのパーカーは置いておき、ルティの前へ移動する。
「ルティ、ゴーちゃん、お待たせ。セクシーな三人の後だからちょっと自信ないけど……どうかな?アイさんが送ってくれたの」
私が着ているのは手持ちの水着ではなく、休み前、アイさんの元へメンテナンスを受けに行った際に海の件を話したら『それは負けてられないわねっ!』と言って速攻で作ってくれた新作の水着。仕事が早い
中には普通のビキニを着用しているんだけど、ルティの要望通りあまり肌見せがないよう、ビキニとお揃いの柄でパフスリーブのミニ丈ワンピース風水着にしてもらったのだ。一応背中だけ、ちょっぴりセクシーに編み上げタイプになっているけど、私としても今までで一番自分に似合っていると思うし、露出が少ないので安心だ。
「アアアアアア、アオちゃん!!そのスカート丈で大丈夫なの?そんなの絶対攫われちゃうよ!!こんなの海どころじゃないよっ」
ゴーちゃん、ドードー……落ち着いて!ここはプライベートビーチだし、それに水着だから!!下着じゃないよー
「アオイ……あぁ、とても、とても可愛いですよ。海ではなく、涼しい部屋から二人でゆっくりと海を眺めるのはいかがです?せっかくお手入れいている肌が焼けてしまうではないですか」
背後から怪しく腰に絡みついてくるルティの手は、とりあえずほどいておく。みんなの前ですよ!
それに大丈夫。アイさんからエルフ印のスーパーUVクリームもらって女子’Sと塗り合いっこしたから
「もう、海を見に来たんじゃなくて、入りに来たの!!ルティが入りたくないなら、ゴーちゃんと行くから部屋で待っててもいいよ」
「あぁ、待って下さい!ただあまりに可愛いくて、部屋へ閉じ込めたくなっただけです!」
「余計怖いわっ!」
女子’S三人と両手に花状態の男性二人はすっかり水着に溶け込んでいて、さっさと海へ向かってしまった。水着がお初の動揺するゴーちゃん(もちろん肌見せせずにパーカーを着ている)を説得して、遅れて私達も追い掛けた。
ふぅ、海に入る前から結構疲れたなぁ……
体力お化けな魔人族チームはビーチバレーするぞ~と盛り上がっている。合コンは順調に進んでいるようだ。良き良き
私はとりあえず一回目は見学しようかなと参加を見送ったけど結果、正解だった。どうやら防衛本能が育ってきているらしい
ここは魔国。ビーチバレーが、考えているビーチバレーなはずがないのだっ!!