6:パジャマパーティーに行かせて!! ★
******
「パジャマよし、着替えよし、おやつよし、あとは洗面用具と……お金は怖いから空間魔法の中でいいか…」
「……アオイ、本当に行ってしまわれるのですか?私では満足させてあげられませんでしたか?」
「……あのねぇ、ルティ。なによその言い方!たった一日友達の家に泊まりに行くだけじゃない。散々話し合って、その代わりに夏の終わりにはルティと二人きりで一泊旅行に行こうねって、納得したんじゃなかったの?」
私は今日、夏休み直前にクラスメイトのアーチェリーちゃんから『夏休みに夜着会をしない?』と誘われてお泊りへ行く事になっているのだ!
おそらくパジャマパーティーと似たようなものだろうと思うけど、そういったリア充的集いの経験は修学旅行以来ないので、ハッキリ言って浮足立っていた。なんなら1cmくらい浮いているかもしれない。
夜通しパジャマでお話したり、お菓子食べたり、恋バナなんかもしたり?するのかなぁと非常にドキドキのワクワクのウハウハである
「一泊旅行はもちろん楽しみですよ!何人たりとも邪魔はさせませんし、キャンセルは認めません。欲を言えば一週間くらいは欲しかったのですが……気が変わったらいつでも言って下さいね?
あ、夜着は私が一緒ではないのですから、ちゃんと冷えないものを選びましたか?おやつを食べたまま寝落ちは窒息の危険がありますからね、ウトウトきた時点で食べるのはやめるのですよ。あと床にオニギリがあったとしても拾ってはなりませんし、階段を一人では…」
「もう、うるさい、うるさーい!!ルティ、またオカンティになってるよ!!子供じゃないんだからそれくらいわかってるし。床に落ちたオニギリなんて誰が食べるかっ!!パジャマはルティが許可したやつにしたじゃない!夏なのに暑そうなやつをさぁ」
いつもは短パンでいいのに、なんで女子会では駄目なのよ。それに夕飯を食べてから出発だなんて……厳密には一泊とも言えないレベルじゃない!?
「また訳のわからない名前を……。そちらでは上掛けをはだけても掛けてくれる者がいないではないですか。それに恋人の心配をして何が悪いのです?風邪を引いたり、ケガをして帰って来た日にはどうなるか……」
「ひぃぃぃ!!ヤンデレ!ルティが病みだしたよ!いや、闇落ちか!?わかったから!気を付けるし、階段は手すり+手繋ぎが鉄則ね、アーチェリーちゃんにも話しておきます!」
もうほんっとこの保護者は口うるさいなぁー。私が反抗期の子供みたいじゃない!『夜着は寝る前に着るものですから、集合は夕食後で問題ないですね』ってまた例の如く、覆らない笑顔で言ってきてさ。
かといって『束縛が酷くない?』ってハッキリ言えるほどまではギリギリいかないという、絶妙なバランスの取り方が憎らしい……
「アオちゃーん、アーチェリーさんが迎えに来てくれたみたいだよ~、準備できてるー?」
ご機嫌斜めな保護者には今は文句を言えない為、心の中で悪態をついていたところ、階下からそれらの不満をも一気に浄化してくれるマイ エンジェルブラザーより、友人の来訪を知らせる声が聞こえてきた
「あ、ゴーちゃん!ありがとう。なんとわざわざお迎えに!?ホントにご近所さんなんだね。今行きますって伝えてー!」
「わかったよー!伝えて来るね。アオちゃんは走ったら駄目だからね~」
「はーい」
「じゃあ行ってく…」
「アオイがあっさりし過ぎていて、辛い……私はこんなにも胸が張り裂けそうなのに……」
ご機嫌斜めの次は同情作戦か?う~ん、彼の場合は真実寂しいんだろうなぁ。そう思ってもらえるのは恋人としてはとっても嬉しいし、幸せな事なんだけど……すまん、今日は行かせてくれ!
「もう…私だってルティと一緒に寝なくなってから、寂しいけど我慢して慣れる様にしたんだよ?寂しい時はお揃いのピアスに触れたり、月を見たりしているんだから。そうすると不思議とちゃんと眠れるの」
とは言え、寂しくて眠れない日などほとんどないくらい、寂しい思いをルティがさせないのもあって、そんなことをしたのはほぼないのも事実だけど。しかし、ルティもそれで乗り切ってくれ!!
「アオイはそこまで私のことを……?寂しいと言って頂ければ、いくらでも潜り込みますのに……」
「いや、潜り込むのはやめて。ここは人のお家なんだから、ルールは守らないと。それにすでに限りなくブラック寄りのグレーゾーンなことしてるんでしょ?現場を掴んだことはないけどさ。
でも、それを我慢した先のご褒美に、二人っきりの旅行があると思うから頑張れるんじゃない。どうせならどんな旅行にしようか考えて待ってて欲しいな」
「ではいっそ、そろそろ敷地内に私達だけの家を建てさせてもらうのはいかがですか?それでしたらアオイ不在の寂しい夜を乗り越える為に、徹夜で作り上げますので」
「帰ったら敷地内とは言え、いきなり引っ越すの!?う~ん……」
っていうか、徹夜は頂けないよね。ちゃんと夜は寝なさいよ!
「アオちゃん……あれ、どうしたの?難しい顔をして…」
「あ、ゴーちゃん。うん、そろそろゴーちゃん家の土地の空きスペースに家を作らせてもらおうかってルティが……」
「あー…家、そっか。ここじゃ気を遣うし、僕やカーモスがお邪魔だよね、そう、だよね…。じゃあまた前みたいに食事も僕一人か……って、あ!子供じゃないんだしね、なに言ってるんだろう僕……ごめん、気にしないで!」
そうだ……お屋敷から出るということは、何だかんだでゴーちゃんとの接点も激減してしまうということじゃない!!そんなの私だって寂しいよ!
「ルティ!私まだこのままでいい!!」
「え!?アオイ、なぜです?」
「だって、モルガさんや、へーリオスさんとも中々会えなくなっちゃうし、それにゴーちゃんに一人で食事させるなんて私が耐えられない!一人で食べる食事の寂しさを私は知ってるもん」
冬に帰って来た時にファンヒーターに『ただいま、寒いね』なんて話し掛けたことあるか?心なしかヒーター君もポツーンと寂しそうに見える時があんだぞ!
こちとら伊達に毎年一人と一台で冬の寂しさを乗り切ってきてたわけじゃないんだよ!チクショー……おやっさん、ちくわと大根、あと焼酎、お湯割りで頼むわ……
「そんな、アオちゃん僕のことなんかいいのに……」
「ほら、本人もこう言っておりますし……」
「ダメ!『僕のことなんか』なんて言わないで。ゴーちゃんは見ておかないと食事を抜きそうだし、連れ出さないと引き籠ったままになるでしょ?
さらにもやし化するよ?うん、やっぱりもうしばらく私が近くにいた方がいいね!いつも外では守ってもらってばかりなんだし、家の中でくらい、私が兄を守るっ!!」
「あ、あの、嬉しいけど…アオちゃん、それじゃあルーティエ兄さんに申し訳ないから……」
「お願い!ルティ!!じゃあ、ちょっと予算下げて一泊旅行を二泊!二泊にしよう!!」
そうだよ!リッチな旅行なんてしなくても、二人で過ごせればいいじゃん!野宿じゃなきゃ文句も言わないよ私。貧乏旅行には慣れてるからね!そこは心配しなくても大丈夫だから!
「二泊は採用しますけど……せっかくの二人きりで生活できる機会が……」
「では、金、土のみ、同衾可…で手を打ってはいかがでしょうか?」
「カーモスさん!」
「「カーモス!」」
そもそもが、健全な青少年育成の妨げになるからとカーモスさんが禁止したことに始まり、そして他所の家で到着直後にケンカするという醜態を晒すことになった原因でもあるんだけど……まさかの緩和許可!?
ちゅうか「同衾」って言い方が……いや、意味は合ってるんだけど、ルティやカーモスさん辺りが言うと別の意味に聞こえると言いますか。ゴーちゃんがそのワードを言っても「木琴」か「鉄琴」、もしくは「銅・金」って言ったのかな?くらいにしか聞こえないと思うのに……けしからん大人達だな。しかし、それを考えてしまう私もまた、同罪。
「アーチェリー様をずっとお待たせしたままでしたので…先ほどお茶をお出しし、お待ち頂いておりますよ。そろそろこの辺で手を打たれてはいかがでしょうか?」
「あ、すみません!!対応も提案も、さすがカーモスさんですね!ありがと……う゛っ!!」
カーモスさんに両手で握手しようとしただけなのに、ゴーちゃんにはカーモスさんとの間に割り入られ、ルティからはほぼ羽交い絞め状態で拘束される私……これって、アイドルに飛びつくファン捕獲の図じゃね?二人はSPだな、息ぴったりの。
「な、なんかごめんなさい?カーモスさん、もしかして潔癖症とかでした?」
「いいえ?私はどちらかと言えば、積極的に触れ…」
「そう!!カーモスは少し神経質なところがあるからね。でも、普通に過ごす分には問題ないから、アオちゃんは気にしないで大丈夫だよ」
「アオイは簡単に他の男に触れないで下さい!」
「ゴーちゃん、教えてくれてありがとう!カーモスさんは、気付かなくてごめんなさい。今後は気を付けますね。ルティは……うん、いつも通りだな」
「ほら、アオちゃん、アーチェリーさんが待っているんでしょ?早く行ってあげて」
「あ、そうだね、うん。じゃあ行ってきまーす!」
『お友達が迎えに来たよ』から合流するまでの短い時間で、なんかすごく疲れた気がする……明日帰って来てからが怖いんだけどー。
帰ったらすぐにフォローしよう、また闇落ちしちゃうといけないからね。はぁ……
ありがとうございました!