5:不思議な女、アオ。&竜王は末っ子が可愛い /side キラ時々親父
真ん中辺りで<***>がちょこちょこ挟まりますが、表現上の理由あってのことなのでそのまま読んで頂けると幸いです(ただの私の表現力不足故の、とも言います)
前半キラ回想、中盤からキラ&竜王のトークです
☆後書きもちょっと長いですがあります!明日の投稿もあります。AM6時です
今週は感謝の小話です
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キラ=カイザー20歳、魔国を治める竜王の末の息子で第三王子だ。
ここ魔国では必ずしも世襲制ではなく、他に名乗り出る竜人族で、実力が伴っていればそちらが次代の竜王となれる。
しかし、ただでさえ寿命が長いのに、仕事ばかりをして過ごす人生は嫌だと考える者が多い為、今のところ、ほとんど竜王の子が引き継いでいる。
ちなみに竜人族でなければならない決まりもないが、似たような理由で、一番寿命の長い竜人族に押し付けられていると言える
飽きっぽい人種が多い魔国には専門的な学校も非常に多く、青年期の内に色々な分野を学ぶことで将来の仕事に生かしていく。
学校に通っている最中でも働くことは推奨されていて、お金を貯めてから通う者、壮年期に入ってから改めて特殊な専門知識を入れたい者、一気に短期間で知識を詰め込み卒業する者と様々である。
自分は第三王子な分、気楽なものだ。自分が興味を持ったものを伸ばしていけばいいという魔国らしい大雑把なスタンスではあったのだが……もちろん、幼少の頃にそんなことを考えることはなく、ただなんとなく楽だからという理由で、エスカレーター式の国立グローリア学園へと入学を決めた。
勝手に親友と位置付けているゴーシェとは幼少期から一緒だったわけではない。
思い出したくもない黒歴史だが、フラフラと街を出歩いていた時に、迷子になって俯いて涙を堪えていた可愛い女の子にトキメキを感じ、声を掛けたのだが……その子が実は男の子だったというオチ。これがゴーシェ(当時7歳)との初めての出会いである。
男と気付かず、結構本気で口説こうと考えていたことは墓場まで持って行く秘密である。
次兄のキールが冒険者をやっていた頃、その界隈では相当名を馳せていた全盛期のラトと長兄のアレクと共に友人関係にあったという。そこへルーティエが新進気鋭の冒険者として加わり、ラトから兄、親父へと依頼があり、一時期 親父がルーティエらを鍛えていたことがあったらしい。
考えてみると、これはラトが冒険者を引退する為に、急ぎルーティエを鍛え上げる必要があったのではないかと思う。
そこにカーモス…いや、あの頃は【心眼のラズリ】か。アイツが加わって、潜在能力開花の訓練まで行ったことで飛躍的にルーティエは強くなった。あのカーモスの本気の訓練に耐えられた者は世界に数人しかいない……らしい。
後にゴーシェが、ラトやルーティエの従弟と知ることにはなるが、物心ついた時にはラトや次兄キールはとっくに冒険者を引退していた為、知ったのはだいぶ後になってからだった。
そもそもゴーシェはかなりのインドア派で、人見知りなところがあり、7歳で入学した魔国学園 初等部をわずか半年で休学したくらいである……10歳で復学した時に、ようやく俺と出会った。
まぁ遊ぶと言っても、ゴーシェは本の虫なこともあったから、会うのは専らゴーシェの自宅の趣味部屋がメインだった。
ただし、インドア=弱いわけではない。かなり癖があり、陰湿な訓練をする心眼のラズリ改め、カーモスが(なぜか)乳母代わりに小さい頃から躾けてきたこともあり、実際はそれなりの実力があるらしいが……元来の温厚な性格が邪魔をして、本気で戦うようなことはほぼない。
ちなみに俺は三日でカーモスの訓練から逃亡したほどだ。これを三ヶ月 全期間耐えたルーティエは尊敬を通り越してイカれていると思っている
そしてアオがゴーシェの屋敷でしばらく一緒に住むことが決まり、引っ越してくる3日前。兄弟のいないゴーシェは、ラト同様に、すでに世間でも名を馳せていた、密かに尊敬する従兄ルーティエに会えるワクワク感半分と全く知らない人族の女に会うという緊張感が半分で、なんともいえない顔をしていた。
俺自身も覚えたところで、すぐに寿命が尽きてしまう人族とはあまり関りがない。それ故に、これといったアドバイスはできないが『普通に挨拶だけして、あとはいつも通り引き籠ってればいいんじゃねぇか?』と適当なことを言っておいた。
初等部、中等部、高等部でもメンバーが変わると、すぐ引き籠る癖があるゴーシェ。
大学部へと進級したものの、またどうせ休むんだろうなと思っていた為、俺もサボる場所に最適そうな旧校舎で、早弁をしながら暇をつぶしていた。そこで出会ったのが、あのアオだった。
さりげなく誘ったつもりでも返事はイマイチ噛み合っていないし、俺を見てもうっとりするわけでもない、変わった人族というのが第一印象。
相当視力が悪いのだろうと思った
それに、あの人見知りのゴーシェを一日で懐柔し、温厚だったやつがケガをしたアオを見て、あのキレよう……アオはタダ者じゃねーなというのが次の印象。
そして淡々と依頼をこなし、ニコリとも笑わない、女も寄せ付けないと噂されていたルーティエの、見た事もないような笑顔と清々しいほどの他との温度差に、かなりヤベー女かもしれないとまた書き換える。
しかし、関わってみれば、至ってごく普通の女…よりも口は悪く、ちょっと飯がうまいくらいで、ドン臭い、クソ弱い人族。うん、ほぼ良いところねーな。
でも強いて言えば俺をゴーシェと同様に【ただのキラ】として見てくれるところは、ちょっと良いところかもしれない。
第三王子と知ったあとも、全く変わらないどころか、むしろより扱いがより雑になっているのはどういうことなのかわからないが、俺自身は偉くもなんともないわけで。
アイツには『キラ様』なんて呼ばれたくはないと思う、呼ばれたら逆に怖いし、蕁麻疹が出る。
顔はまぁ美人ではないが、愛嬌はある。胸は魔国の女に比べれば全く足りないが、エルフ族のように極端にないわけでもない。まさに普通。
それなのに、なぜか気付けば俺をあっさりと自分のテリトリーにも入れるし、俺のテリトリーにはむしろ土足でズカズカ入ってきて、なんなら荒らしていく始末。本当に不思議な女。
ただし、ゴーシェに対しては描いている天使像が最近では哀れに思えてきている。あいつの脳内はだいぶ腐っているのかもしれない。馬鹿でもないのに残念な女だ。
俺は知らず知らずの内に、この凡庸で、粗雑で、愛嬌はあるが口が悪く、ドン臭い…しかし不思議と憎めないアオの話をよく親父にしていたようだ。
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「……それで、その人族のアオが自分が悪いって言って、責任を被ったもんだから俺は反省文だけで済んだんだけどよ、ルーティエがやたらと細かく添削してくるからまだ終わんねーんだよ。アイツぜってぇ根に持ってんだよ、アオに声掛けたの」
「しかし、それでもその小さき人族にお前が救われたのも、また事実なのだろう?」
「それは……まぁ。揶揄ってないですぐに戻してやれば良かった話だし」
「して、そのおなごはその後無事だったのか?ルーティエのことだ、あっさりと捨てたのだろう?もしそうならお前が責任をとってやるのが良かろう。人族の寿命は短いゆえ、関われる時間も一瞬だぞ」
「いや、それが翌日には普通に学園に来たんだ。本人は複雑な表情していたから、それなりの罰は受けたのは間違いねぇんだろうけど、特に傷もなかったし。
ただ、ルーティエは治癒魔法も使えるから、罰した後に治したのかもしれねぇけど」
「それは中々珍しいケースだ。しかし、二人は魔国の者でもない、その辺りの常識がこちらの感覚とは違うのかもしれぬな」
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「アオのやつドンタッキー食い協走でせっかく大口あけて肉を頬張ったのに、フッ!ボーンのやつが中々骨を食べなくてさぁ、悔しがってた。俺と組めば良かったのかもしれねぇけど、まぁルーティエが許可しねぇしなぁ」
「まぁ、今のお前ではルーティエにはまだ勝てぬであろうなぁ。しかし骨のみが好きとは……変わった竜人族がおるのだな」
「障害物抗争はあれ、俺が渡した隠し撮り念写ブロマイドのお陰で二位になったんだぜ?けどドン臭ぇから足引っ張られて転んでさ。死ぬんじゃないかって心配もしたけど、ゴーシェとルーティエの怒りが凄すぎてそれどころじゃなかったぜ」
「ほお…お前がよく遊んでいるあのヒョロっとしたハーフの子がか?そこそこの腕はあるようだが、その能力も使う気がなさそうな童であった……そろそろ青年期の次の段階へ成長するのかもしれぬな」
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「……最近、ゴーシェとアオが本当に兄妹みたいに似てきてさ、息もぴったりで俺をいじってくんだよ。あえてハブってきたりして。ムカつくけどさぁ、なぜか嫌いにはならないっていうか、面白れぇんだよなぁ」
「ふむ。あの童は一人っ子だった分、急にできた義妹が可愛いのやもしれぬな。それにしてもお前は上二人からも、よく虐られておったが……そういう性分なのだな」
「アオはゴーシェを本当の兄のように慕っているっていうか、ブラコンの域だけど、ゴーシェのはシスコンってだけではないものを感じるんだよな。
だって、俺にだってあんなにすぐには打ち解けなかったんだぜ?アオはちっさいクセに姉になるって言ってきた馬鹿なのに。
でもいっつもゴーシェもルーティエもアオといる時は楽しそうって言うか、幸せそうなんだ。なんか、、、いいよな……」
「キラ、最近のお前は相手に関心を持つようになったのだな。ゴーシェだけの時は、ほとんど一方的な友情の押し付けのようであったのに、よくよく観察しているではないか。お前もその輪に入りたいのであろう?」
「バッ、そんなわけねぇじゃん!気持ちワリィこと言うなよ!」
「お前は本当に愛い奴だなぁ」
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「おい、親父!アオが授賞式に来るってホントか?アイツぜってぇ『もうヤダ帰りたい』とか言ってガタガタしてるに違いねぇから、揶揄って来るわ!」
「キラ、お前は存外思いやりの心を持ち合わせていたのだな。良きことよ」
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「なぁ、アオって異世界の人族だったんだな……どうりでなんか変な感覚してるはずだ。
それに自分たちの年齢で考えていたからうっかりしてたけど、アイツ元50歳だったんだろ?それなのに若さを保っているのは、もしかしてルーティエからあのエルフの里にだけ伝わるっていう『寵命守』を受けたからじゃねーの?
それなのにまだ結婚はしないっていうのも不思議だけど……まぁあのルーティエから逃げるのは無理だろうな」
「………ふぅむ?」
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「……おい、親父!なんだこの映像記録は!?」
謁見があった日の昼食後、珍しく親父から私室に来るよう言われ、入った瞬間からいきなり記録水晶を上映しはじめた、俺と親父の会話集。一体どこに仕込んでいたのか……
「いや、あんまりお前が『アオ、アオ』と毎日のように話してくるから、記念に記録しておこうと思ったのがきっかけではあったが……やはりお前はアオイが好き…」
「…ではないっ!断じてない!ありえないっ!!いや、友人としては好感は持っているけど。普通に友達として付き合える貴重な女ではあるってだけだからな!勘弁してくれよ」
「では、その女友達を大切にすればよい。ある意味、普通の人族よりは長く付き合えるではないか」
「でも……なんか俺は節操なしだとか、誠実じゃねぇからって、しょちゅう怒ったりすんだよ。この辺が種族の違いを感じるよなぁ。
竜人族はエルフ族以上に子が出来ない希少種だからって理由もあんのに。親父でさえ20人いても、生まれたのは俺入れて3人だし」
「まぁ、その辺りはしっかりと時間をかけて説明してやればよい。キラ、武術科を選ばなくて良かったではないか」
「まぁな。武術科はサボりにくいし。でも元々書いてあった担任の名前がなぜかルーティエに変わってるし…これぜってぇルーティエが絡んでるだろ?」
「さて……あそこは愚弟が管理しておるし、儂にはわからぬわ」
「叔父上か……肖像画ではめちゃくちゃカッコよくて昔は憧れてたのに、実物見てショックと言うか……身内とは言いたくねえわ」
「あやつは王家から出て行った身分、一人の女人に入れ込み過ぎてもああなるのだ。お前も残念ながらアレと血の繋がりが多少なりとあるのだし、よくよく気を付けるのだぞ?」
「……だから入れ込んでねぇって!!」
「くくく……たくさん悩み、学べ息子よ」
「…ん」
念の為…キラはアオイに恋心はないです。断言通り、照れ隠しではないっていう。
友達や年の近そうな弟妹がいる人を羨ましいなと思っている末っ子王子なので、今は身分関係なく(むしろ身分以下扱いなのに)相手してくれることが嬉しい思っている愛い奴です
キラ的にはアオイもゴーシェも【心友・親友】と思っています。
ブクマ、いいねもありがとうございます!
毎日ヒヤヒヤしているので、受け入れられて良かった°・(ノД`)・°・
家族からは「良いと思うよ!」と言われましたが、何となく今週のは大丈夫かな?とか、来週は来週ではっちゃけすぎたかなとか、先にとりあえずマイナス予想をしてしまうタチなもので。(家族はやはり家族贔屓目線になりますし)
たいてい一週間で一区切りになるような作りに最近はしているので、今週はちょっと…とか思っても来週とか、その先をお待ちいただけると幸いです(ブクマはとりあえず完結までは熟成発酵という方向で…)