4:似たもの親子
いいね、ありがとうございます!
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お屋敷まで迎えに来てくれた快速魔車に乗って走ること30分。さすが王家御用達の魔車は快速の割に乗り心地も非常に良く、魔獣ターキーも心なしか品がある……ように見えなくもないような気がする。ドヤった顔が太々しいが、確かにお前の足は速かった
魔国城に到着し、すぐに控えの間に案内される。私の受賞した、とってつけたような【外国人枠の新人賞】というのは仮の姿で、実は【息子の友人に会ってみたいDE賞】は一番最後の案内になるそうだ……でしょうね。ちなみに受賞は一組ずつ個別に行われるらしい。
――…コンコン!
「は、はいぃぃ!」
「アオイ、落ち着いて下さい」
最後と言われていたから今は完全に気を抜いていたのに、もう順番が来てしまったのかと心臓が跳ね上がる
「ぶははっ!!アオ、お前見事にガッチガチじゃねーか!様子を見に来て正解だなっ」
ガチャリという開閉音と共に入室してきたのは、まさかのキラ君。人を指差して笑うとは!親の顔が見て…みたくないので帰りたい
「……なんだ、キラ君じゃん。お城の関係者さんとか、案内してくれる人が呼びにきたのかと思ったからビックリ損だよ」
「おい……俺は十分、お前の言う【お城の関係者】だと思うんだけどな。一応、これでも竜王の息子やってるわ!」
「フッ、こんなものが王子を語るとは……世も末ですよね。花を愛で、種を蒔くことに関してだけは長けていらっしゃるようですけど、キラ第三王子は」
「おいおい、ルーティエ、ここは一応城内だからな?お前不敬だぞ」
「キ、キラ君、そんな本当のことを言われてたからって…落ち着いて!
キラ君が女性にだらしないのは今に始まったことではないし、それ以外であればキラ君のこと…多分、いや少し?…うーん、ちょびーっとだけ尊敬していることも、無きにしも非ずのような…そうじゃないかもしれない感じだから!」
「ようするに尊敬もしてなけりゃ、女にだらしない認定してんじゃねーか!アオはホント初めから俺に全く靡かない、不思議な女だな」
「????ごめん、こんなことドヤッてるキラ君に言うのもどうかと思うんだけど……あ、キラ君は十分顔も整っているし、カッコいい部類なのは間違いないんだよ?」
「ア、アオイ……そんな、、、こんなゴミ屑のような男を……?」
「オイ!!誰がゴミ屑…」
「あ、違うから誤解しないでルティ」
「アオも!ゴミ屑くらい否定しろよ!!」
「そうだね、ゴミは物だもんね。ルティ、キラ君は物じゃないよ」
「そうですね、魔人族の屑でした。先ほどの発言は撤回致します」
「またこのパターンかよ、クソがっ!!」
「いや、そもそも全く、欠片も、トキメかなかったし、好みでもないから靡きようもないと言うか……私にはルティという素敵な恋人がいるから……あ、やだ。言わせないでよ、恥ずかしい!!」
「アオイ…私はもう、今すぐ帰りたいです。キラ、あなた王子の権限で順番を早めるか代理授与させるかできないのですか?この際ですから、あなたが替え玉でも許可します」
「こういう時だけ王子って。お前らマジでお花畑かよ……友人として、アオが緊張しているだろうし、親父と会う時に近くにいてやろうかと思って来たのによー」
え、マジで!?なぁんだ、それならそうと早く言えばいいのに、勿体ぶりよって!このこの~
「よし!わが友、キラ君ももちろん一緒に行くよね?ご関係は?と聞かれたら「心友です」って言ってもいいかな?良い友~!」
「おい、急に格が上がってんじゃねーか」
「そりゃあ……大事な(純文学の)ネタ…じゃなくてクラスメイトじゃない!」
「ネタ……?なんだそりゃ?」
「……え?ネタ?私そんなこと言ったかしら。あ~~私の愛する大事なオニギリのネタは鮭で、キラ君は唐揚げだって知ってるよって話かな~そうだ、そうに違いな~い」
「ああん?なんか怪しいなお前……根も葉もないゴシップを流しているとかじゃないだろうなぁ?」
ドキッ!!!根も葉もない……【物事の根拠や証拠などが全くないこと】該当する?該当しちゃうのか?いや、最終的には全くのフィクションでの創作物だし、名前も、挿絵も全然似てないし、ギリギリアウト寄りのセーフだろう……ようするに、ざっくり言えばセーフだな。ひゅう~
「あー…ルティ、中々順番来ないねぇ」
「おい、堂々と話も目線も逸らすな。俺の目を見て答えろよ!」
「キラ、あなた何の権利があってアオイと目を合わせるのです?王子、辞めたいのですか?」
「まともに会話できるやつはいねーのかよっ!」
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キラ君からの疑惑の視線を搔い潜り、なんとか誤魔化す……というより、タイミング良く名前を呼ばれた為、その場から逃亡することに成功したとも言うが。
それを乗り越えたとはいっても、ここからが一番緊張するのだけど……
「ルティ、絶対近くにいてね?離れないでね?もう緊張してガチガチだよ」
「ふふ、『ずっとそばにいて♡』だなんて熱烈ですね。もちろん未来永劫、これからもずっとアオイのそばにおりますよ」
ふと思うのだが、この言語翻訳がイマイチ仕事していない気がする今日この頃。私が放った言葉と、ルティから返ってくる言葉が合わないことが多々あるのだけど。電池切れか?
大きな扉の前に立つと名前を呼ばれ、内側から扉が開く
王様がいるくらいだから、さぞかし絢爛豪華な大広間なのだろうと想像していたけれど……小さい体育館くらいの広さかな?庶民専用?低い壇上に校長先生ならぬ竜王様がいるって感じだ
入り口で軽く膝を折り一礼、少し目は伏せたままルティのエスコートに従い進む。顔はもちろんアルカイックスマイルで固定。ガチガチガチ…歯の震えが止まらないけど、武者震いと思えばいい?
ルティが立ち止まったところが立ち位置になるので、私もそれに習い立ち止まる。
名前を読み上げられ、竜王様からも面を上げるように言われる。
顔をあげた時に気付いたけど、先程も呼びに来てくれたシュバルツ=ネッガーさんは、結構お偉い方だったようだ。竜王様のすぐ近くに立っているし。いやぁ実に良い名前だ、筋肉は中々良い勝負ではないだろうか……
ルティとちょっとした知り合いだったようで、この広間へ向かう道中、念話で会話をしていた。お陰で私はボッチ野郎で一人ドキドキしたままだったよ。
それよりも今は、練習すること二週間弱の付け焼刃のようなものだが、筋肉痛にも耐えながら取り組んだ全力のカーテシーをすべく片足を斜め後ろ、もう片方の足の膝を軽く曲げ……ようとしたのだが、重心の置く位置というか、きっと猫背だったのかもしれない。もしくは全力を注ぎ過ぎたか……期待を裏切らない私はそのまま前に倒れそうになる
(あっ!)
「っと……」
ルティはすでに予測済だったように私をスマートに抱き止めて、サッと正しい位置に戻してくれた。この時点で帰りたいのは山々だけど、無理なものはわかっている。
ならばどうするか……これは『オホホ、なにかありましたか?』戦法しかないなっ。今度こそ背筋を伸ばし、キチンと挨拶すれば周りも大人だ、何となく生温い視線かもしれないが許してくれる…だろうことに期待するしかあるまい。
「アオイ=タチバナにございます。竜王陛下におかれましては……」
「ぶはぁっ!!くっくっくく……あ~腹が痛い!良い良い。堅苦しいのはどうせ苦手なタイプであろう?そう、息子のキラから聞いておる。むしろ畏まられて再び転ばれでもすると、いよいよ儂も笑いを耐えられなくなるわ!よしシュバルツ、人払いをせよ」
「はっ!」
竜王様がパァン!と小気味のよく手を叩くと、すぐに周りにいた人達が黙ってはけていく。ひゃあ~王様っぽーい……まぁ王様なんだけどさ
それよりも…えーーー畏まらないのはいいとして、あの失態のせいで、私の半月の努力は泡と消えたのか。いやむしろ泥
チラリと竜王様を盗み見る。見た目は30代後半くらいかな?瞳はこっくりとしたシェリー酒を思わせるような色味で髪は不思議なことに前髪側が黒っぽく、他は柔らかな金髪。全体的に短いけど、一部の後ろ髪のみ伸ばしているようだ。これって地毛なのだろうか?
「アオ、これは地毛だぞ」
「ひゃっ!キラ君……え、嘘?声に出てた?しゃべってないよね?」
シュバルツさんの方が存在感ありすぎて、全くキラ君に気付かなかったわ。びっくりしたー
「アオイは顔にも出やすいですからね。そこがまた可愛らしいところですが」
「ぷっ!ぶはっ!ホント、やめないかお前たち。キラ、いつもこうなのか?」
「いえ、もっと酷いですね。これでも一応まだ大人しくしている方ですよ」
「はぁ?あんまりな言い草じゃない?私はいつだって大人しくしているのに!キラ君こそ女性関係に大人しくしていないじゃない!」
「んだと!コラァ!あれはこの国じゃ普通のことなんだよっ!お子ちゃまが!」
「どうせ私は人族ですから?全然理解できませんし、ちんちくりんですよ!私は一人に対して誠実が一番なんですぅー」
「いや、ちんちくりんは言ってねぇし!」
「わざわざ竜王の御前でも『私を世界一愛している』と言って頂けるなんて…幸せすぎるのでもう帰りましょうか?」
「ルーティエ、お前は会話になんねぇから先に帰れよ!」
「くっくく……ひぃー最高!それにしてもお前本当にルーティエか?そっくりさんではなく?稽古をつけていた頃はまだ青年期であったから大分と成長したように思うが、それよりもお前がそんな風に愛好を崩すとは。長生きをするものだな」
「こいつはいつもこんな感じですよ。アオしか見えてない」
「見えていないのではないですよ。見ないが正しいですね」
「そっちの方がさらに最低じゃねーか」
「ルーティエよ、エルフの里には兄のラトナラジュもおるのだし、そろそろお主はこの魔国で儂の側近として城に入らぬか?」
「竜王、それは以前にも過分なこととお断りしたはずです。それに私が傅くのは生涯アオイ一人と決めておりますので、何卒ご容赦下さい」
え、私ってばルティをいつの間にか傅かせていたとは……知らなかった
「ふむ、また駄目か。残念ではあるが…まぁ良い。
時にアオイと言ったな?昔、つまみ食いばかりしておったら、諸外国へ赴いても対応するのは老女か男性ばかりにされてな。人族の若い女人はとんと見掛けなくなったのだ。
こんなに小さくて可愛らしい生き物だったとは……お主、儂の後宮に入らぬか?好きなものは何でも与えてやるし、平等に皆愛してやれるぞ」
ふぉっ!?ここまで誰にも見向きもされなかったのに、まさかの親玉にブラックジョークをかまされるとは!!ちょっとキラ君!お父さんを止めなさいよ!!あ、シカトしたなっ!!つまみ食いは遺伝かよ!
「……王よ、まだ跡継ぎは竜人族的には幼いようだが、即位の準備を早めた方が良さそうですよ」
訳(テメエ、俺の女に手ぇ出そうってのか!ぶっ殺すぞ!!)
「ル、ルティ!竜王様は冗談をおっしゃっただけだよ。私は本気にしていないし、ルティだけでもう十分、手一杯のお腹一杯だから。ね、一旦落ち着こう?」
「はぁ……申し訳ございません。この王が目を開けたまま、ふざけた寝言を言うものですから…つい。そうですよね、アオイは私がいつも十分に満たしておりますからお腹一杯ですよね。昨夜も口づけだけで…」
――スパーンッ!!!
「痛っ!!」
うっし。ローヒールのパンプスだから負傷もしていないだろう。スリッパじゃなくてもいい音鳴るんだな
「それ以上口が滑るようなら出て行ってもらうからね!私の家でもないけどさ」
「あぁーーーーそれだけは!もう言いませんので許して下さい!」
「くーっくっくっくく……お主らは中々にお似合いの番同士。魂の色まで同じ色に輝いておるわ」
は?魂の色なんてあるの?竜王様は右手で顔半分を覆い、人差し指と中指の間から目だけ覗かせていた。てっきり『儂の右目がうずく……』的なことでも言い出すのかと思ったくらい、中々様になっている。
「ルーティエよ、アオイは誠、お主の運命の…魂の番のようじゃ。昔は空虚で面白みのない魂であったのに、ここまで変わるものとはの……実に興味深い。おそらくアオイの方もそうだったのではないか?のう、異界から来た者よ」
「嘘……どうして!?」
「魂に刻まれておったからな。儂には見えるのよ」
「番とは、獣人族の方たち特有の話ではないんですか?」
「あやつらは嗅覚で嗅ぎ分けるが、儂らにはそれがないのでな。なにで、とあえて言うのであれば、見えぬ者は本能、儂は魂を見たらわかるくらいか。
ただ、遠くにいてもある程度嗅ぎ分けられる嗅覚がはない分、本当に出会わなければ本能で感じることも、難しいが。お主らは余程強く、魂が惹かれ合ったのかもしれぬな」
じゃあ、私が元の世界にいた時からルティの魂と共鳴していたっていうの?いや、一度魂だけになった時かもしれない。神様がこの世界に連れて来てくれたのも、そういう引き合わせがあったのかな……それとも偶然?
「この世界に来た経緯を思うとそこは複雑ではありますが、アオイの前世の頃から私達は魂で結ばれていたのだと、私は信じますよ」
「ルティ……」
「アオイ……」
「おい、ルーティエ。儂もこの場にいることを忘れてはおるまい?以前のお前を知っている分、気持ち悪いわ。お主はそんなキャラだったのだな。胃もたれしそうじゃ……もう下がって良いぞ。アオイ、今後もキラと仲良くしてやってくれ」
ルティがスッとエスコートの為の手を差し出してくる。よし帰ろう、すぐ帰ろう!
「またやってしまった、、、恥ずかしい……」
「では、お言葉に甘えまして、失礼致します」
バタン――…謁見の間の扉が閉まった途端、ルティに横抱きにされ足早に帰り用の魔車乗り場へ向かう。
魔車に乗り込む時も、座るときも横抱きのままガッチリ固定され、出発時にも言っていた通りお屋敷に戻るまでの間、存分に彼に愛でられることとなった
◇◇◇◇
一方、ルーティエ達が去ったあと……
「ハァ……ああは言ったが、正直羨ましい。のう、キラ?儂にも魂の番が来ぬものか……」
「親父はすでに20人も『番』と呼んだ女人達がいるじゃねーか。俺こそ、そんなに夢中になれる相手に出会えるもんなら出会ってみてぇわ」
「ほう?キラ、お前も案外夢見がちなのだな。これは意外」
「アオがああやって毎回『誠実一番だ』ってばかり言ってくるから、どんなものか気になっただけだ」
「思えばお前が学園の話をするときは決まって、ルーティエはともかく、ゴーシェやアオイの名前が挙がっておったな……あの娘に惚れておったのか?」
「はぁあ!?そんなわけあるかっ!俺を『全く好みでもない』と言い放つような女だぜ?こっちだって願い下げだ」
「なるほど……?まぁよいが。今夜は久しぶりに後宮へ渡ろうかの」
「それが宜しいのでは?後宮の者も喜ぶでしょう」
こうして全く知らないところで、魔国の後継者がまた一人増えるきっかけを作ってしまうとは、二人は与り知らないことである。
ありがとうございました!