7:モノローグ~花水木~/side ルーティエ ☆
ブクマ入れてくれた方、本当に本当にありがとうございます!!
感涙しながら、小躍りしております!
☆ルーティエの真面目な回です。
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―――ゴツン!
「アオイ!?」
テーブルに突っ伏し、気絶したらしい彼女に驚いた。声を掛けるも返事がない……
しかし安定した呼吸音が聞こえてきたので、ホッと胸を撫で下ろす。
こんなことがあるのか?とは思うが、どうやらそのまま眠ってしまっているようだ。
眠るアオイを抱え、彼女の寝室へと運ぶ。抱き上げる際に顔を見れば、当たり前だがすぐそばに顔があって……プロポーズした直後と言うのも相まって、急に意識し出してしまう。絶対に耳まで赤くなっているに違いない。
すぐそばに付いていたいものの、さすがに許可もなく女性の寝室に居座るわけにはいかない。
少しだけドアを開けておき、すぐ隣のリビングにて待機することにした。
「アオイはなぜ急に眠ってしまったのでしょう、疲れが溜まっていたのでしょうか?このところ、大量に保存食分まで作って下さってましたから、それが原因かもしれませんね。少々、甘え過ぎました」
アオイの食事が摂れないのは残念だが、起きた後に何か食べやすい物でも用意しておこうと思い立ち、市場へ向かうことにした。
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どれくらいで彼女が目覚めるのかわからないし、身体を休ませてあげたい気持ちもあるが、目を覚ました時には一番に自分を瞳に映して欲しい。
明日の朝食分まで多めに購入し、空間魔法にしまっておこうか。そうすれば、明日の朝は彼女とのんびり過ごせるだろう。
アオイと共に買い物へ行くときは、楽しくて時間が過ぎるのもあっという間に感じた。初めの頃は質問に答えたり、逆に彼女の世界の話を聞いたりしていたが、この頃は彼女曰く私にはツッコミどころが多いそうで、言葉の掛け合いなんかも楽しんでいる。ただ、私は至って真面目に答えているだけなのだが。
この家に移動してからの二週間は、プライベートな時間まで共有でき、特に充実した時間を過ごしていた。自分の過ごしてきた世界が一新されたような心地すら感じる。
「ふふ。一緒に料理をしている時なんて、まるで仲の良い夫婦のようでした。キッチンという空間だからこそ至近距離にいられる良さがありますね」
我ながら狭すぎず、広すぎないちょうどいいサイズ感で作ったものだ。今後もこれを基準にしようと思う。
しかし、久しぶりに一人で屋台へ来てみたが、こんなにもつまらないものだったろうか?
少し前までの「当たり前の日常」が急に色褪せて見え、急に焦燥感に駆られた。見える世界に色がついたあとでは、もうセピア色の世界には戻りたいとは思わない。
早く彼女の元に戻りたくて、慌てて買い物を済ませた。
結局、急いで転移で戻ったものの彼女はまだ目覚めてはいなかった。
一人で食事をするか、とも考えたが、彼女の座らない食卓では食欲も全くわかない。魔素で十分だ。
家の中心から見回せば、一人ではとても広く、寂しく感じるリビング。ここにたった一人いないだけでこんなに印象も変わるのか
ガラスボウルに浮かぶ、今朝摘み取ったハナミズキの花を眺めながらルーティエは物思いに耽っていた
―――出会ってからたった一ヶ月―――
それもお互いの第一印象は最悪であった。
私があえてエルフ語で放った捨て台詞を、聞き取っていたことには少し驚いた
確かにあの時は自分にも非があったとは思う。
とはいえ、なんて態度の悪い女であろうかと、こちらも腹が立ったものだ。
ああ言えばこう言う……中々弁の立つ女で、埒が明かないので面倒になり、こちらが折れることにしたのだ。
あまつさえ、短縮呼びを渋々許可したというのに、なぜか更に短縮し『ルーさん』と呼ばれ……
『更に短縮だと…(この女は相当物覚えが悪いのか?)』もう勝手にしろと怒りを通り越して呆れたものだ。
「ふふ。今ではその『ルーさん』呼びの方に慣れてしまって……特別な名前に感じますね。でも、できれば敬称も取って頂きたいものです」
しかし、その後の魔力循環・操作の指導や座学では、こちらも依頼として受けたものだと思い、それなりにきちんとした対応に切り替えた。
始まってしまえば、思ったよりも彼女は勤勉であった。飲み込みも非常に早いというのが、初日が終わってからの感想だ。なぜか本人は『物覚えが悪くてごめんね』と言っていたが
ただ、適性を知る為としてかけた<鑑定>で彼女が【転生者】ということ、人族にしては高めと聞いていた魔力が他の能力に比べてアンバランスなほど高いことがわかり、少し興味が湧いた。
魔法の精度は低いのに、魔力だけはすでに人族のCランク上位程度の魔力持ちであった。
ただ、本人に冒険者として討伐などを生業にする気は全くなく、生活に役立てたいと言っていたが……
「結界をある程度マスターしたら、護身術くらいは教えた方が良さそうでしょうか」
もう一つ驚いたのが、循環・操作の指導の際に、互いの繋いだ手から魔力交感を行ったのだが、魔力相性が非常に良かったことだ。
溜まっていた疲労が一気に吹き飛ぶような……そんな錯覚を起こすくらい、心地の良いものであった。
恐らく彼女も非常にリラックスしたような表情だったので、同じ感覚を抱いていたように思う。
本来混ざり合うことのない二つの魔力が、溶けて融合していく……
指導でなければ、ずっと彼女と手を繋いでいたい……そう思った。
その日から毎回、実技の前には『感覚を忘れないように』と称して、必ず魔力交感をするようにしたのだが、自分でも動揺してしまう程に、日々彼女への想いが高まっていった。
エルフは長命な分、人族とは時間の流れの感じ方が全く違う、と思う。
まだ若い時分には、人族とも多少交流があり、近しくなった者もいた。気の向くままに、ふらっと別な場所へ赴き……またふと友人を思い出して、気まぐれに会いに行けば、すでに故人になっているか、生きていても老いて忘れてしまっているか。
人族の一生とは何と儚いものなのか。
人族と長きに渡って関わり続けるのは難しいと痛感してしまった。
それからは一部の自ら入り込んでくる人族以外とは、必要最低限の関りしか持たないようにしたが、すべては己の心を守る為でもあるのだ。
これが他者目線からすると、「エルフ族は冷たい」という印象を与えてしまうのだろう……
「エルフ族の、延いては長寿の者の孤独を、本当の意味で理解できる人族はいないでしょうね」
エルフは長命であるが、その分、子が中々出来にくい。
里で暮らす以外では大抵、パートナーがいる者を除き、一人で行動する者が多い。長過ぎる寿命は退屈で、常に孤独とは隣り合わせだ。心が孤独に耐えられなくなった者は人知れず自死を選ぶ。
生きる為、長い人生を生きる理由を探す。自分にとってのそれは「何なのか」を探し求め、明日の活力にする。主に若手のエルフがそうして里の外へ出て行くのだが、私もその内の一人だった。
そしてついに私は見つけた、ずっと探し求めていた
―――生きる理由となる存在に、共に生きたいと思える運命の相手に―――
彼女は私が食事でおかしくなってしまったと勘違いし、慌てていたようだが、実際はそうではない。
ほとんど確信に近かった想いが、食事をしたタイミングで、ハッキリと確信に変わっただけなのだ。
胸の奥で『カチリ』と開かずの扉の鍵が開いた感覚。
その扉を開けば、色取りどりの花々が溢れるように舞い広がり、世界が一気に色づき始めた。
途端、味まで感じるようになった
『味を感じるようになった』というと、やや御幣があるが、味覚がなかったわけではない。ただ、心から『美味しい』と思えることが、ほぼなかったというだけだ。
一緒に食べたときは全て美味しく感じていたので、『彼女と一緒に食す』という事が鍵となっているのだと思う。
それでも、彼女の手料理は雷に打たれたような、衝撃的美味しさを感じたので、食事で天啓に打たれたというのも、あながち間違いではないかもしれない。
今まで木の実や果物、延いては空気中の魔素を取り入れるだけであった自分は何だったのだろうか?
そう思いつつも、今こうして彼女がいなければ途端に元に戻ってしまうのだから、やはり彼女は特別なのだと思う。
ちなみに話し方は、冒険者向けの話し方を今までしていただけで、丁寧な話し方は身内向けというか……いずれにせよ、どちらも私で間違いはない。
私にとって幸運なのは早い段階で、アオイが自分の運命の相手であると気付いたこと。
ただ同時に不運なのは、アオイと自分が過ごせる時間はあとわずかしかないことだ。
例え100歳まで生きるとしても、わずか50年しか共に過ごせない
「互いに想い合っている状態であれば、方法はないこともないのですが……」
現状彼女から心を傾けてもらえているとは到底思えない為、頭に過ったそれは、最終手段に取っておこうと考えを改めた。
それよりもまずは彼女に自分の気持ちを早く知ってもらい、意識してもらうことだ。
気付いてもらえるまで待つことや、駆け引きなど、時間のない中では無駄でしかないし、恐らく彼女には通用しないように思えた。
ただ、一度に全て伝えても、かえって彼女は離れてしまうだろうか
せめて溢れ出てしまった想い分くらいは、そのまま彼女に捧げていきたい
依頼中はきちんとその任務は遂行しなければならないので、終了後がチャンスかと思った。
その為には依頼完了後も共に過ごせる状態に持っていかなくてはならない。
何としてでも離れたくない、わずかでも離れてしまえば、次はもうないかもしれないのだ。
どうにかしなくてはとわかってはいるが、考えれば考える程、どういう風にアオイに伝えたら不自然ではないのか、中々考えがまとまらなかった。
今までの経験がまるで役に立たないことに苦笑が漏れる。考えてみたら、真剣に自分から口説いた経験がなかったからだ。今までいかに受け身の状態であったのかがわかり、情けなく思った。
そしてあっという間に迎えてしまった最終日、彼女からも特に何も言ってこなかったので、当たり前のように一緒に戻り、夕食もご馳走になった。
彼女は何か言いたそうにしていたが、気づかないフリをした。
片付けを手伝い、時間をわずかばかり引き延ばしても、良いアイデアは浮かばない
少々姑息な手段ではあったが、寝たふりを決め込み、朝まで時間を作ることに成功した。普通なら怪しまれると思うが、よくうたた寝をしやすい彼女には、おそらく「疲れているんだな」程度にしか思われていないはずだ。
***
彼女の就寝後、もちろん本当に寝付けるはずもなく……
かなり早い時間に目が覚めた
早朝の鍛錬後、いつもよりも長い時間をかけて精神統一を行うことにした。
さすがに400年程生きていて女性経験がない、とは言わない。
そんなものは基本的にまだまだ好奇心の強かった青年期に、相手から擦り寄ってきたりしたタイミングで自分も気分が乗れば……といったような、後腐れのない、その場限りのものでしかなかった。
基本的に冷めた所があるし、性欲も他の種族に比べれば、恐らくあまりない種族なのだと思う。
だからこそ種も増えないのだろう
それが彼女を前にするとどうだろうか。彼女のそばにいたい、触れていたい、抱き締めたい……
これほど本能が求めるような気持ちは初めてで、情けないがどうしたら良いのかわからない。表面上必死に『普通』を装う事で精一杯な状態だ。
自分でも、こんな一面があったなんて……と未だに信じられない
理屈抜きで好きなのだ
魂までもが「彼女が欲しい」と求めるほどに
美意識の高い他のエルフが見たら、人族の年齢通り、花盛りの時期はとうに過ぎている、肌も髪も特別良い状態でもないし、スタイルも美しくないと言われるのだろう。
「しかし、私にはあの力強さが宿ったオニキスのような美しい黒い瞳が、私に笑いかける顔が、少し低めの落ち着いた声が……どうしようもなく惹かれ、愛しいと思えてしまうのです」
彼女を想うとこんなにも鼓動は弾み、それと同時に切なく痛む。
しかし、そんな感情すらも喜びに変えていく。
間違いなく自分は彼女に恋をしている。
誰に何と言われようとも、それは揺るがない事実。
伝わってほしい……
この気持ちだけは、彼女に知っていて欲しい
私が望むのはあなただけ。
そして、どうか私を受け入れて……
彼女と朝食を摂ったあと、以前雑談の中で話していた今後の計画を逆手に取り、一緒にパーティを組む提案と今の気持ちを伝えようと思ったのだが、勢い余ってプロポーズをしてしまった。
「アオイは私がプロポーズをしたことは覚えているのでしょうか?もしかすると聞こえていない可能性もありますよね。
私としては情けないプロポーズになってしまいましたが、もう言ってしまったのです。また彼女が目覚めたら改めて伝えることに致しましょう」
花や贈り物があった方が良いでしょうか?
花はともかく、贈り物は今からでも間に合うでしょうか?
「そういえば、前に依頼途中で見つけた、赤が美しいロードクロサイトがありましたね!」
石言葉も<魂が求める相手を引き寄せる、幸せな恋愛、幸せな結婚へと導く>でした!
まさに、私とアオイの為にあるような鉱石です。
「これならすぐにここで加工して作れますね。せっかくなのでお揃いのピアスで作りましょうか!
彼女の方には安全の為にも色々と付与魔法もつけて……。アオイは喜んでくれるでしょうか」
相手の喜ぶ顔を浮かべるとは、こういうことなのですね、アオイ。
あなたもこんな気持ちを込めて料理を作ってくれていたのでしょうか?
「アオイ、早くあなたの笑顔が見たいです」
水に浮かぶハナミズキに優しく触れた後、彼女が眠る寝室へ向けてそっと私は呟いた
私の想いを受け止めて―――
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