2:友人宅(城)へお呼ばれするには理由が必要ってやつ
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またまた別の日の、ある夏の休日の朝
平時の朝食であれば、モルガさんかへーリオスさんのどちらか一人か、もしくは二人共すでに仕事でいないということが多く、滅多に全員が揃って朝食を摂る機会がない。
その全員が奇跡的にも揃った『滅多な日』の今日だからなのか、へーリオスさんから『滅多なこと』を告げられる。
以下まずは回想から……
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前回も話したけど、MBA大会が終わった後、アイさんがお兄さんであるへーリオスさんに私の作ったタパスとピンチョスを絶賛し、お店に出したらどうかという話を振られました
私的には自分の考案した食べ物でもないし、ということで『いいかもしれないですね!おつまみにも向いているし』となんの責任もなくあっさり返し、その日のランチは仕事ごっこのような感じで三人でタパスとピンチョスの試食会のようなマネごとをしてレポートっぽいものを書いて渡した。
そしたらまた後日、今度は『観光客を呼び込む為に、なにか良いアイデアないかなぁ』って聞かれて
『具材を各お店ごとに変えて、イベント期間だけでも川沿いに何店舗か露店を出して、5枚綴りのおつまみ引換券やアルコール引換券を購入してもらったら、使い捨て容器に自分好みのタパスやピンチョスを引き替えて詰められるとか。
それに、暗さを生かして月や星の形のライトをぶら下げて星空マーケットとか……あ、脱線しました!』なぁんて調子こいて答えちゃって。
さらには『騎竜場の付近や港でミニイベントとして<魔国今こんなのに力入れてます>みたいなアピールしたらいいんじゃないですか』って話して
『おお!それいいかもね~』『そうですか~?』と、まぁ雑談だよね、ほとんど。そう、私の中では雑談に過ぎない話だったのよ。
バーべさん達にもレシピを教えたから、食事にタパスやピンチョスがちょこちょこ登場するようになって、それに対して『これでも美味しいけど、スパイスをもう少し効かせたらもっと美味しくなりますよ』とか『こういう具材も合いそうですよね~』ってな感じで感想を言っていた。
うん、普通だ。出されたものが美味しかったら美味しいって言うみたいな感覚じゃない?
私が関わったと言うならば、これが全てなんだよね。
あとはへーリオスさんに、私とルティがガレット帝国で二ヶ月程食べ歩いた時の感想とか、特にユーロピアではオシャレで彩りよく映える、小さ目で種類豊富なものが流行っていたこと、引き籠り中の暇つぶしに描いていた食べ歩き絵日記を数ページ複写して渡したくらい。
あの時は引き籠りっぱなしで、時間だけたっぷりとあったからね。食べた物も色まで入れちゃうこだわりのグルメ絵日記が描けたと思う。美味しそうなツヤ感にこだわったしね!
それ以外の予算申請とか場所の確保、打合せとか、試作品改良とかに参加とか?全然、ほんっと全っっく関わってないのに、私は活動してるのかどうかもわからない相談役みたいな扱いにされていたらしい。私サインすらしてないのに……
そして冒頭で振った『滅多なこと』、いや【巻き込まれ系アオイの面倒な事件簿】に繋がったわけですね。あ、これもちょっとそれっぽく言いたかっただけです。事件は現場で起きてる、みたいな?雰囲気大事かなって。え、いらん?
それでは、チェケラー
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7月某日の汗ばむ季節。とは言え、お屋敷の中は魔法で空調が管理されている為、過ごしやすい。
今朝は珍しく全員が揃っている貴重な朝食時間である
「ちょっと皆に聞いてもらいことがあるんだけど……実は、竜王様から授賞式のお話があった」
「授賞式ですか?すごいですね~!一体どんな功績で頂くんですか?」
当然、自分には全く関係のない仕事関係なのだろうと思っていたので、次に飛び出した言葉に驚く
「ハハ、すごいですねって……受賞するのはアオイちゃんだよ」
「は?アオイに?」
「へ~アオイちゃんに……ごふっ!ゴホッ、ゴホッ!!え、私っ!?」
危なかった……危うくモルガさんの美顔に噴出した果実水がかかるところだったよ
「あー!アオちゃん、果実水がっ!僕のハンカチ使って」
「ありが……いや、やっぱりいい。自分のナフキン使うよ。その美しい刺繍のハンカチを私の口で汚したくはないから」
「え?これは暇潰しに僕が適当に刺したものだから気にしなくていいのに」
「この女子力の高さが憎らしいっ!!」
それより今すぐこの国をトンズラするのは可能ですか?あ、無理……はい。ですよねぇ
「でも、どうして私が竜王様に会うことになったんでしょうか?」
「ほら以前、タパス・ピンチョスのレシピ提供やイベントアイデアを出してくれただろう?魔国は輸出入ではそれなりに潤っているんだけど、観光・イベントがイマイチだって言ったよね」
「そう、それに住んで慣れてしまえばそんなに気にならないと思うのだけど、魔国は秋・冬はどんよりとした雰囲気があって、仕事以外での長期滞在者がほとんどいないとも話したでしょう?」
「あ~そう言えば!魔国では人族を見掛けることはほぼないけど、人族の住むガレット帝国では、そこで生活しているような他の種族の方もチラホラとはいたって話をしたやつですね」
「ああ、それで君のアイデアを活用して、まずは騎竜場の近くにミニマーケットを開いてイベント告知をしたんだけど、反応は上々だったよ。冬に、第一回星空マーケットの開催も予定しているんだ。
それに、売り込みをした中に記者がたまたまいてね、ガレット帝国の新聞に大々的に掲載してくれたそうなんだ。お陰で問い合わせの手紙が殺到しているんだよ」
「それは少しでもお役に立てたのなら良かったですけど、それでなぜ受賞?」
「実績を積んでいくのはこれからなんだけど、そのきっかけ作りに対しての褒章というか、所謂【外国人部門の新人賞】みたいなものと思ってくれたらわかりやすいかな」
外国人というか、異世界人ですが、それも該当しますか?
「でも、私はタパスとピンチョスのレシピの考案と、海を渡ってやってくるしかない人族向けに、港と騎竜場付近でミニイベントはどうかって……それこそ口だけで、実際に作り上げたのは他の皆さんなのに……」
「そう言うと思って先にお伝えしたけど、その『アイデアが一番の宝』だからって。あとは多分これが一番の理由だと私は思うんだけど、キラ君と仲良くしている人族に会ってみたいって」
なんですと!?家庭訪問できないから、お前が城に来いよみたいな?よし、明日早速キラ君とケンカ別れするか、絶交宣言しておくか……
「アオイ諦めるしかなさそうです。実は早朝にギルドから私に指名依頼が入ったのですよ。相手は竜王からで、授賞式の際のアオイの護衛とエスコート役というものです」
「え!?竜王様から指名依頼なんて……ルティは竜王様とは面識があるの?」
何度か「竜王」と口にしていたことあったよね?冒険者としての何かの繋がりかな。呼び捨てすほどの仲なの??
「ある、と言いますか……まだ冒険者駆け出しの青年期の頃、私を鍛えてくれたのが兄上と知り合いだった竜王だったのですよ」
「出たよっ!怖い繋がりが」
なんかいっつもシレッと大物と知り合いなんだよね、この人。なんやかんやで、やっぱりエルフの里の御曹司なんじゃーん!村長の息子ってレベルが王様と知り合うかよー。もうヤダー!
「あ、もちろん依頼は秒で快諾しましたよ。億が一でも別の者が受けることになった場合、うっかり手元が狂って相手を物理的に消しかねませんからね。それに、アオイのドレス姿なんて貴重中の貴重ですし、その隣に私がいないなんてありえません」
これまたシレっと怖いこと言ってるよー!教えてあげるね?狂ってるのは手じゃなく、その感覚やぞ!!いつものエルフジョークって言って?にっこりしてなくていいからジョークだと言って!!
いや待て……それよりも最後なんつった?ドレスとか言いませんでした?
「は?ド、ドレス……ですと?ど、どなた様の……?」
冒険者や魔法等の存在有無はあれど、生活自体はほとんど元の世界と大差がないから不便していなかった。そのせいか、そういった考えはマフィーン!じゃなくて、スコーン!と抜けてたよ。ドレス着る風習って、結婚式以外にもあったのか……
「や、絶対無理……」
ムリムリムリムリ……!!
間違いなくスカートの裾踏んで蹴躓いて「あー……」みたいになるのが容易に想像できるからね!……自慢にはならんがっ!
「アオイ、お気持ちはわかりますが、お祝い事ですし……
面倒ではありますが、ある意味、結婚式の予行練習とでも思えば良いのでは?何十着くらい用意しましょうか?デザインや好みの色など、一緒に考えましょうね」
「そうだね~…結婚式はウエディングドレス、カクテルドレス、着物が存在するなら色打掛とか…って、竜王様の御前をヴァージンロードにすんなっ!それはいつかね!もう、ある意味ってどの意味よ」
「了解致しました!結婚は確定だと、もう魂に刻み込んでおきましたから。死んでも忘れません!」
シュバッと敬礼ポーズのルティだけど、いや魂って……怖いよ。魂をメモ帳にすんな
全く、サラッと結婚式の予行練習ぶち込んできて……そもそもドレスの種類が違うでしょ!
着るなら冠婚葬祭用のシンプルなやつでいいよ。膝下くらいか、くるぶし辺りの丈なら失礼に当たらないかな……いや、ここの常識に合わせるなら結局ドレスになるのか?シクシク
「ルティの案はともかく、わかりたくないけどわかるふり、します。ふりですけど……でもさ、こんなベストオブ凡人な顔にドレスなんて似合わないって。
ああいうのはモルガさんみたいな、ボン・キュ・ボーンな美の化身が着て、初めて成り立つんだよ。私じゃ恥の上塗りにしかならないって……あぁ嫌だ」
「ヨシヨシ、良い子……でもアオちゃんのドレス姿を見れるなんて本当に貴重だよね。僕、楽しみだけどなぁ。ルーティエ兄さん、試着の時に一緒に立ち会ってもいいですか?」
「アオイも見られることに慣れた方がいいですからね。見て、感想を述べる分にはいいですよ」
「わぁ、ありがとうございます!」
「私はそういうの全くわからないから、ルティに全部お任せでもいい?露出は少なめで、私に似合う色でヒールは転ばないように低めであれば……もうなんでもいいよ。はぁ…」
「もちろん、全てお任せ頂けるなんて最高ですね!もういくつかデザインが浮かんでおりますので。お金に糸目はつけませんよ?全身、頭の上からつま先まで、全て私が揃えますからね!!」
「え、いやぁ…既製品でいいんだけど。一回くらいしか着る機会ないんでしょ?それなのにデザインまでする気なの?」
「???なにを当たり前のことを……素材も私が揃えますからね。全身で私を感じられる逸品となること間違いなしですよ」
「本気で感じられそうで、先行して鳥肌が立っているんだが?はぁ……なにその特技。ルティは一体どこを目指しているの?」
冒険者を引退しても十分やっていけるよルティなら……今は教師もやってるしね
「どこって、常にアオイの愛の頂点を目指しているに決まっているじゃないですか」
「ハハハ。本当にルーティエはアオイちゃんに夢中なんだなぁ」
「うふふ。アオイちゃんは罪な女の子ね」
「ハズカシイが過ぎる!!!」
ああーーそれでも行きたくないなぁーパネルか何かじゃダメなのかな?
そういえばキラ君のお父さんなんだよね?キラ君があんな感じだから、全く王子様と意識したことないけど。っていうかどうやって王子だと思えばいいのか……王子、ファストフードでドンタッキー食べてるんだよ?庶民派なのかな?
あ、でも、ルティだって、リイルーンを王国としたら第二王子みたいなものだよね?
良かったぁ、私に一途な王子様で♡ラトさんやキラ君は女の子にだらしないイメージがあるからなぁ~ふふ、やっぱり誠実が一番だよね!
「ふふふ。アオちゃん惚気~?ルーティエ兄さんが羨ましいなぁ」
「え?なんで?」
惚気って?……まさか声に出てた!?
「アオイ、私はこれからもアオイ一筋、誠実な男でおりますからね。王子の地位での結婚をご所望でしたら、少々時間は頂きますが、乗っ取りますよ?」
「ギャーー!!ナイナイ!王子様の奥さんなんて無理だからやめて!もーみんな、忘れてー!!」
「「「ごちそうさま~」」」
「プッ!くくく……」
わ~ん!!へーリオスさん、モルガさん、ゴーちゃーん!何気にカーモスさんまで笑ってるし!
「私もゴチソウサマします……」
「では、アオイ。エスコートの練習も兼ねて……さ、お手をどうぞ?」
「カッ……むぐっ」
ふぅ、アブナイ…危うく「カッコいい」と言うところだった。慌てて口を塞いで正解だ!
「カ?続きは?何を言おうとしたのです?」
わかってて聞かないでよ!
クスクス笑ってないで、察しろー!!えーと、か、か……
「カ、カシコマリマシタ……?」
***
あの後、数秒静まりかえった後に、ドッと笑い声が響いた
素直に言った方がマシだったのだろうか?今となっては、もうどうでもいい
授賞式は格式の高いものではなく、一般市民が何かの功績で評価されると授与されるような簡易的なものらしい。
私のイメージでは、困っている人を助けた市民に警察署から渡される感謝状の授与式のような認識なんだけど……まぁ舞台がね、お城なんですよね。商店街の一角とかなら良かったのに
息子の友人の顔見るだけならさぁ、学園に訪問とか、お忍びでとか、なんか他に方法なかったのかなぁ
くっ…こんなことならアイさんからウォーキングでも習っておくんだった……
ありがとうございました!