25:星が綺麗ですね /side ゴーシェ
前話でサラっと書いてあった、3、40分ほどアオイと過ごした月見会でのお話です
※アルファポリスでは未掲載です
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月が見えそうな日に恒例の、アオちゃんの月見会。
ルーティエ兄さんとの喧嘩中とあって、今回は二人で見ようとお誘いがあった。
せっかく二人で見れる貴重な日だと言うのに、今日はあいにく雲に隠れることが多く、中々顔を出してはくれないようだ。
このままでは「今日は見れなさそうだから部屋に戻ろう」ときっと彼女は言い出すに違いない。
そう言うのも、一緒に付き合っている僕が風邪を引くのではないかと心配してのことのようなんだけど、僕は身体は弱くない。ただ、ルーティエ兄さんや、カーモス、父上、竜人族のキラに比べればどうしても。。。まだ青年期の身体であるが故の線の細さは否めない。この辺が勝手に謎のモヤシ認定されている原因だと思う、、、いや、インドア気味なところも良くないのかな。
アオちゃんは全く自覚がないみたいだけど、天然というか、素直過ぎるというか……
妄想好きで、思い込むと暴走することもある、目が離せないけど、とても面白い女の子だ
僕は人見知りする方で、挨拶する前は凄く緊張していたんだ。なのにアオちゃんが暴走し出して……気付いたら懐に入っていて妹になっていた、みたいな感覚。
初めは弟と思われたけど、年上だから兄だよと言えば、あっさりと僕を『兄認定』して、すぐに懐いてくれた。弟妹が欲しかった僕も、兄として素直に慕ってくれるアオちゃんがすぐに大好きになった。
それに、僕はまだ成長途中だから背も180cmに届いていない。けれど、僕よりも更に小さくて、故郷の味で思い出し泣きしちゃうくらい感情豊かなアオちゃんは、とっても可愛いいなと思った。
てっきりラトナラジュ兄さんに対しても同じなんだろうなと思っていたんだけど、『ルティのお兄さんで、元Sランクのすごい人だけど、チャラいという印象』と言っていて、叔母様やルーティエ兄さんからも、あまり関わらなくていいと言われているらしい……一体何をしたのだろう?
それにしても……『天使な兄』設定。これだけはとても恥ずかしいし、今更ながらどうしたら良いものかと頭を悩ませている。登校初日でキラにはバレ、こちらを見る度にバカにしたような顔……思い出しても本当に腹が立つ。その日は課題の手伝いを拒否してやった
ルーティエ兄さんですら、ちょっぴり憐れんで『うちの子がごめん』みたいな視線を送ってきたくらいなのに、うちの両親は『アオイちゃんわかってるね!』みたいな顔してるしで、居た堪れなかった。僕はもう20歳なんですけど……
とはいえ、人族とは違って子供が少ない分、同年の人族の扱いとは少し異なる……らしい。人族では20歳も過ぎれば、そのほとんどが仕事を持ったり、家庭を持ったりするけれど、長寿民族では20歳は一応人族に習って<成人>とはしつつも、感覚では人族の13~15歳の…ちょうど中等部のような扱われ方をする。
それはこの国では当たり前のことではあるのだけど、人族の成人基準で見てくれているアオちゃんに、今更知られるのは恥ずかしいなと思って、教えていない。
兄ポジは厄介だけど優位な点もある。日常での信用度はおそらく恋人であるルーティエ兄さんをも凌いでいると思う。それくらい『兄としての』僕を信用してくれている、可愛いアオちゃん。
実際こうやって恋人同士でもない男女が二人きりの状況だというのに、彼女には僕を異性として意識しているような節は一切見られない。ホント、一切。
「はぁ……無理そうかなぁ」
あ、彼女が溜息をついた。これはきっと今日は諦めようとしている合図だ。
僕はすかさず、そんなアオちゃんに気付かないフリをして、話を振ることにした。
「アオちゃんそう言えば、前にアオちゃんの元の世界の諺とかヒユ表現について教えてくれたことがあったよね?例えばこの『月関係』なんかもあったりするの?」
彼女がわずかに上げかけていた腰を戻す。引き止めに成功したようだ。
「ゴーちゃんさすがだねぇ、よく一度話しただけのことを覚えているよね。すごい!」
「うん。だってすごく興味深かったからね」
「う~ん『月関係』か……あ、初めルティに告白されたときにも言ったやつだから恥ずかしいんだけど、『月と恋は満ちれば欠ける』ってどこかの国の諺を伝えたの。
これって、恋が始まった瞬間を満月とするなら、年月と共にその姿も変えていく……ざっくり言えば、新月を迎えた時には、愛の形も見えなくなってるんじゃないのって話で、あまり良い意味じゃないんだけどね」
「え?アオちゃんは初めからルーティエ兄さんと想い合っていたんじゃないの?一回は断っていたんだ……」
「あーうん……一回どころじゃないんだけどね、断ったのは。
ほとんど毎日のように、挨拶代わりにプロポーズされていたから、途中からはもう挨拶と同じに受け取ってたよ。
それでね、そう返した私に対してルティはメンタル強くて、『一度見えなくなっても月自体は消えているわけじゃないし、また満月に戻るのなら、問題ない』みたいなこと言ってたなぁ。
諺の意味を教えてないのに返してきたことにもびっくりしたけど」
『ふふ、あの時は困ったよー』と笑うアオちゃん。ルーティエ兄さん、毎日プロポーズはさすがにどうなのかなって思います……
「でも、何かに例えるヒユ表現って僕好きだなぁ。魔国的ではないけど、僕は他のみんなのようには攻めの体制をとるなんて向いていないみたいだし。
ハッキリさせない物言いにも思うけど、わかる人にだけはわかるって、秘密の恋というか……ロマンチックだね」
「そうでしょう?こればっかりは文化の違いもあるだろうから、ハッキリ伝えないことが理解できないとか、わかり辛いとか言われたりはするんだけど、私は割と比喩表現って好きなんだぁ」
「うん、なんかわかるな。奥手な僕には結構ありがたいけどね。他にもあるの?」
「あ~代表的なもので、『愛してる』って別の国の言葉で書いてある本の翻訳でね、『月が綺麗ですね』って表現したものがあって、これは流石にわかり辛いけど、他にもこういうのあるのかな?って調べたら、『海が綺麗ですね』とか『星が綺麗ですね』なんてのもあったの!」
「へぇ、そういうのって普通に言ってしまいそうな言葉なのに。どういう意味になるの?」
「えっと…確か星の方は、片想いの相手に『あなたに憧れています』とか『あなたは私の気持ちを知らないでしょうね』っていう恋心を表現したい時の言葉だよ。
月はストレートに『愛しています』なんだけど、星は真っ直ぐ好きって言えない切なさが込められているんだって」
「星の方がやっぱり月よりは主張は控えめってことだね。なんか共感できるなぁ。その意味を知っている相手が返事をする場合はどう返すの?」
「OKなら『はい。綺麗ですね』とか『月も綺麗ですね』とか、あと『願いが叶うかもしれません』なんて言い回しもあるみたい。NOの時は切なくはあるけど、返し方が綺麗な表現でね『届かないから綺麗なんですよ』って言うんだって。NOはともかく、OKの方は普通に言ってしまいそうだよね~」
「ふふ。確かに、使いどころは中々考えないといけないね。ちなみに海の方は?」
「あ、海ね。そっちは『あなたに溺れています』って意味だったかな?
普通に『本当に綺麗ですね』でもOKの意味だけど、『泳いでみますか?』とかもいいし、ここでも『月が綺麗ですね』は使えるんだよね。そう考えると、月って万能だよね~」
「……うん。確かに『月』は万能というか、憧れもあるけど、強敵というか……」
「え、ゴーちゃんにとって月は敵認定なの?眩しいのがあまり得意じゃないって言ってたから、どちらかといえば、太陽の方が敵なんじゃないの?日中よりも夜の方が静かで好きなんでしょ?」
「ん、以前はね。アオちゃんが来てからは、陽の光はある程度浴びないと良くないからって、毎日一緒に歩いて登校してるでしょ?慣れてきたら、外もいいものだなって。太陽に感謝しているんだ」
だって君は僕を照らしてくれる太陽のような女の子だから
「ほら、やっぱり太陽はやっぱり大切でしょう?あっ、ゴーちゃん今指先冷えてない?本当に末端冷え性気味だよねぇ。はぁ、真冬が心配だなぁ」
「そうかな?でも確かにちょっと指先は冷たい方かもしれない」
そうやって言えば、きっと彼女は僕の手に触れてくれる。君の手の温もりが、僕はとても好きだ
「仕方ないなぁ~今日も指マッサージしてあげるよ。摩擦、摩擦~!たまに自分でも、こうやって指と指の間に入れてこするといいよ。こう、ゴシゴシ~ってね」
「わぁ、暖か~い。ありがとう、アオちゃん大好きだよ」
本当に君が好きなんだよ
「ふふ。いいの、いいの!私はご厄介になっている身ですからね、少しは役に立たないと」
「ご厄介なんて、誰も思ってないのに……そんな風に思われているなんて悲しいよ。好きなだけいてくれていいんだよ?」
ずっといてくれたらいいのに
「ごめん!自分がお邪魔虫って意味じゃなくて、謙遜しただけなんだよ。みんなが受け入れてくれているのはちゃんと理解しているし、すごく嬉しいと思ってるよ。でも、ずっとは甘えていられないでしょ?子供じゃないんだし…あ、18歳なんだった」
「うん、まだまだ全然甘えていい年齢だよね?」
「いやいや、それって長寿民族の基準でしょ?私は一応…多分?今も人族のはず…うん。あれ、でも寿命が300年増えたから18歳はやっぱり子供なのかな?よくわからなくなってきた……むむむ」
「ふふふ。アオちゃんは大変だったと思うけど、ルーティエ兄さんには二つ感謝だなぁ」
「二つ?何に感謝なの?」
「一つはアオちゃんを長寿にしてくれたこと。二つ目はアオちゃんをここに連れて来てくれたことかな。父上にも感謝だけどね。ルーティエ兄さんと僕が従兄弟同士だったから縁が繋がったんだもんね」
「そういう感謝ね。う~ん確かに長寿はさ、未だにどうなのかなって実感がわかないんだけど。
でも、魔国やリイルーンには同じく超長寿の仲間がいるって今はわかっている分、寂しくはならなそうかなって思ってるよ。私もゴーちゃんと出会えて本当に良かったし、幸せ一杯だよ。ありがとう!」
「僕たちの存在でアオちゃんの不安が少しでも和らぐのなら良かったよ。僕はずっとアオちゃんの味方でいるからね?これから先も、いつでも僕を頼ってね」
君が僕を呼んでくれたら、すぐに駆け付けるから
「ゴーちゃんとは読書の趣味も合うしね!本の貯蔵数すごいから、このお屋敷をいつか離れても、ちょこちょこ借りにきちゃうかも」
「そうだよ。これからもアオちゃんが読みそうな本、増やしていくからね。もし家を出ても読みたくなったらいつでも来てよ。アオちゃんがいないなら、きっと僕は学校に行かないで趣味の部屋に引き籠っているはずだからね。ふふふ」
ここも君の帰る場所になってくれたら……
「えーー!?いない時でもちゃんと学校は行こうよ!楽しそうに通っていたのになんで?」
「ふふ。僕の可愛い小さなお日様が導いてくれないと、寂しくて家から出れそうにないんだ」
「全くもう!!でも、ここには転移でいつでも来れちゃうんだから、旅先で何かいい本見つけたらここに届けに来てあげるね。って、なんでお別れみたいな話になってるの!?まだ来たばかりだよ」
「そう、なんかずっといたような気もするんだけど、アオちゃん来たばかりだったねぇ。ふふ、おかしい。でも旅先の本はすごく魅力的な話だなぁ」
「ぷっ!本当に本の虫だねぇ……あっ見てみて!いつの間にか雲が晴れてるよ!」
「本当だ………『星が綺麗』…だね」
「うん、本当に!ここの世界で見る月も、星も、同じくらい綺麗~!!」
「月も星も?……そっかぁ~」
今、彼女はきっと普通に返事をしただけなんだろうね。
でも……今はあえて都合よく変換してもいい?
『月も星も同じくらい綺麗』は、
『ルーティエもゴーシェも同じくらい好きだよ』
本当は星だけ見てもらえたらって思うけど、命を賭けて君の心と魂を守り、それを受け入れた彼女。そんな二人の間に入り込めるはずもない。
君の瞳に熱を持たせるのはいつだって月の方だけ。いつも太陽の顔は、月にのみに向けられているんだ
「すっごく星が綺麗だ……」
もう一度囁くように呟いた
手元をふと見れば、指圧途中で僕の人差し指に彼女の親指が残っていた。そこにそっと自分の親指を重ねてみる
月が君を明るく照らしてくれるのなら、星は君を見守る星のままでいよう
心に淡く灯り始めていた、まだ名もない生まれたての想いを少しの痛みに変えて……
君は僕の気持ちを知らないんだろうね―――
ゴーシェは賢いけど、恋愛偏差値は幼稚園児レベルのようなものなので、お友達や兄弟・姉妹へ「好き」と思う感覚を「これが恋ってやつでは?」とこの時点ではちょっと勘違いしてる感じです。義妹として大好きで、シスコン気味なだけです。※エルフ系は家族愛強いので