22:イメージポスターのモデル依頼② ☆
甘々でピリ辛です
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散々私を好き放題に構い倒して、恥ずかしさと暑さにぐったり気味にしていると、彼にしては珍しいセリフをこぼした
「……アオイは昨日は眠れましたか?私は久しぶりに二人きりになれる事が嬉し過ぎて、ほとんど眠れませんでした」
「え!?寝てないの、大丈夫?私も緊張はしてたんだけど、なんかルティがいるなら大丈夫かなって…えへへ、そう思ったら普通に眠れちゃった。ごめんね、頼りっぱなしで」
私は彼の膝上に座ってバックハグ状態なので、見上げる形で振り向き、ごめんねと両手を合わせた
「………かっ!」
「……蚊?ここは室内だし、まだ飛んではいないんじゃない?」
それとも世界が違うし、今時期に活発な蚊でもいるのかもしれないけど。あれ、ルティ?身体がぷるぷる震えていて、ちょっと座り心地が安定しなくて怖いんですけどー!?
「ルティ?どうし…わぁあ!!」
「アオイがまた私の心臓を止めにかかってる!!可愛いっ!!可愛すぎますっ!!その小悪魔発言はもう好き!大好きですけど、ちょっと予告なしはやめて頂けませんか!?」
「心臓を止めようとなんてしてないし、小悪魔発言ってなに?予告して話すっていうシステムもよくわからないんだけど???」
次週のアオイさんは~<アオイ小悪魔発言します・あざとく甘えます・自ら膝の上に座ります>の三本でお送り致します。じゃんけんぽーん!!グフフフフフ☆ってやつかな?悪魔ならゲヘヘ?どうでもいいか。
「あぁぁぁぁ……無自覚、無自覚な小悪魔はこれだから……大好きです。もう帰りたい…帰ってアオイを愛でまくりたいです!」
「ちょっちょっと!落ち着こう?今日は仕事に来たんでしょ?お願い、ルティ戻って来て~!!」
「ハッ!そうでした……一応、依頼の最中でしたね。それにアオイの『お願い』は全て私が叶えると決めておりますので」
くっついていることを了承したとは言え、このまま何もせずにくっついていると碌でもないことしか起きなさそうだ。
それに、もしスタッフさんが呼びに来た時に、一切飲み食いしていないのも違和感あるし……っていうかホントにこの部屋暑いんだけど!?汗もかいてきちゃったし、ちょっと離れたい
「ふぅ、それにしても暑くて、肌にも汗が浮かんできちゃったよ~。あ、ねぇねぇせっかくだし、新作のピリ辛ターキー食べてみよう?ミトパイのピリ辛味よりは辛くないといいなぁ」
「では、一緒に食べさせ合いましょうね。スタジオでは恥ずかしいのでしょう?誰もいないここでだけでもして欲しいのですが……」
「う~ん、まぁここならいいよ。ルティもピリ辛味でいいの?」
人目がないのなら、私だって大好きな恋人とイチャコラするのも吝かではない。それにさり気なく膝上から抜け出せるし……暑いのよホントに。
夏設定のこだわりが凄いな…霧吹きで汗は演出するのかと思っていたよ
「はい。あ、この持ちやすそうなドラム部分にしませんか?二つ合わさるとハート形にも見えますし」
「あ、ホントだー!クロスさせるとよりハートっぽく見えなくもないね。ふふ、結構ロマンチストだねぇ、ルティは」
「ほらアオイ、もっと近くに……」
「え……?」
人のことを散々小悪魔だなんだと言いながら、彼も普通に話していたかと思うと、急に男の顔になる時があって……私の心臓を止めにきているんだと思う
彼の瞳に捕らわれている間に腕を引かれ、あっという間におでこや鼻先がコツンと
くっつく距離まで縮められていた
「ではこのまま、お互いに……」
「う、うん……」
全く予想もしていなかった食べさせ合い方に、脳内では『どうしよう緊張する!』から『ルティの鼻にあてるなんてことしたらどうしよう、うまく口に運ばなきゃ!』という、パニック故のよくわからない考えに意識が向いた。鼻にピリ辛は危険を伴う……
「………」
「………」
お互いに無言のまま、ゆっくりと咀嚼していた。私はルティの口にうまく運べたことに安堵して、ようやく彼へと視線をやれば、うっとりと甘く見つめられていて……私を見るその瞳には、熱が含まれていると気付いてしまった。
私はもはや味わうどころではなくなって、今度は視線を彷徨わせる状態になったものの、齧りついてから気付いてしまった。
フライドターキーが出来立てだったとは……辛さも加わっているせいか、通常よりも熱く感じる。すでに涙目だ。
「……美味しい、ですね」
「……う、ん…ハァ…でも口の中が辛いって言うか、熱い……ハァァ」
口の中が、熱いのと辛いのと、痺れるで騒がしいので、私は口を開けて手で仰いだ。うん。気持ち程度だけど、和らいだような気もしなくもない。気のせいとも言うけど
「熱い?火傷してはいけませんね、氷で冷やしましょうか?口を開けて…」
「たぶん、辛さのせいだから大丈夫だと思うんだけど……んむっ!」
ルティが果実水に入っていた氷を自分の口に咥え、そのまま私の口へと移す
冷やすと言っていたのに、氷はお互いの間を行き来していて、そのまま二人の熱でどんどん小さく溶けていった……
とっくに氷はなくなっているのに、彼の舌が好き勝手に口内を動き回り、私の舌を捕らえて器用に絡ませてくる。『氷がなくなってしまいましたね』と言って、再度同じことをされてしまえば、熱は冷めるどころかどんどん上がっていくばかり
いっぱいいっぱいの私はどうすることもできなくて、只々、受け入れるだけで精一杯だった。
***
「………ピリ辛味、美味しいですね。初めはスパイシーで……後味は、、甘く感じました」
「ハァ…ハァ……私は、よくわからなかったけど、もうお腹一杯デス……」
スパイシーから、甘く蕩けさせられて……キスで腰が砕けるって、かつては絶対フィクションだと思ってたけど、これで何度目?あぁ…未だに頭がふわふわする……酸欠かな
与えられるがまま、飲み物を飲ませてもらって、ポテトをはむはむと食べる。彼の方は相当ご機嫌のようだ
「ルティ……やっぱりキスがうますぎると思う。頭の中がルティで一杯になって困るよ……」
「ふふ、本当ですか?それでは毎日しないといけませんね。そうすれば毎日アオイの頭の中は私で一杯にして頂けますし」
「いや、それはそれでちょっと怖くない?脳内にわちゃわちゃとルティがいるんでしょ?私には目の前に実物が一人いてくれるだけで十分だよ」
もう、一人で十分手一杯って言うか……ね。あれ?なんで、乙女みたいに両手で顔を覆ってるの?おかしなこと言ったかな??
「アオイ……だからそのような無自覚発言はやめて下さい!いい加減、襲いますよ?
上手い下手は、比べようがないのでわかりませんが、一回一回溢れんばかりの愛を込めてしているつもりですので、その想いがうまく伝わったのであれば嬉しい限りです。私は常にアオイで一杯ですよ。愛してます」
そう言って、顔を赤くしながらも超ご満悦の彼は私をぎゅうぎゅうと抱き締め、頭にまたキスの雨を降らせた。いや、嬉しいけど……暑いのよ
その後、少ししてから準備ができたと呼ばれて移動したけど、うまく撮れたのかどうなのか全くわからないまま、撮影は終了した。
私も緊張はしたものの、概ね元気一杯、ルティと楽しく食べれていたと思う。むしろ撮影の時の方がたくさん食べれたっていう。。。
と言うのも、撮影はカメラではなく、念写ができる魔族の人に、ひたすらじーっとガン見されている状態だったから落ち着かなかったというのもある。カメラでも緊張するだろうけど、ただガン見されるのもだいぶ怖い。よって、あまりそちらに視線をやらずに食べる方に集中できたのだ。
この念写の人のガン見した記憶を辿って、良さそうなものをポスターにするそうだ。手振れとかピンボケの心配はなくて便利ではあるけど、焼き増しは記憶頼みになるよね。
それでも余ったフライドターキーや割引券なんかもたくさん貰えたので、私は大満足していた。
でもまさか、宣伝ポスターがあんなことになっているなんて……
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梅雨のような長雨がようやく終わりを迎えた頃、ポスターが無事完成し、新店の入り口付近に本日初お披露目で貼り出すと連絡がギルド経由であった。
ユーロピア初出店記念として、学園前店と本店のみ、ピリ辛ターキーを期間限定発売するらしい。期間限定って、心躍るよね!
元々はキラ君の割引券が来店きっかけだったので、彼には報酬でもらった割引券を分けてあげる際に、ついでに今日一緒に見に行かないかと誘ってみた。
「なぁ、本当に俺も行って大丈夫なのか?割引券はありがたかったけどさ」
「構いませんよ。アオイと私の愛の詰まったポスターの初披露ですからね、知らない者よりは知っている者に見てもらった方がアオイもいいでしょう?」
「やっと、ルティもキラ君を許してくれたんだね!良かったぁ。私もどんなポスターになったのか知らないから、もし変だったとしてもスルーしてくれると助かる……普通にいつも通り食べていただけだから、頬張ってる顔かもしれないし」
「でもさ、アオちゃんがポスターに貼り出されるのは嬉しいけど、可愛すぎて有名になっちゃって、誘拐に遭いやすくなったらどうしよう!!僕、心配になってきたよ」
ゴーちゃんは思考がたまにぶっ飛ぶよね。シスコンが重症化しだしているのかもしれない。ただし、私のブラコンはやめる気はないけどね。永遠の兄推し!!
「クラス委員長ってだけで、僕まで……でも、今日はたくさん骨が食べれると思うと誘惑には勝てないよ!アオイ君、骨は持って撮影しなかった?
それにしても、ピリ辛味が染みた骨の味ってどんなだろう~!」
「骨は……どうなのかな?多分写ってないと思うよ」
彼がもしも化石発掘員だったら、見つかった骨たちは片っ端から食べられてしまうのだろうか……
今日の彼はポスターお披露目にはほぼ興味がなく、その後食べるドンタッキーの骨×5人分を楽しみに来ている。早めに骨と肉身を分離して渡してあげよう。彼がいればゴミはほとんど出なそうだ。
あと骨にもパンチが効いてることを祈りたい
「あ、あれじゃない?ちょうど貼るところかな?でもきっと顔とか写ってなくて手とターキーだけかもしれないね、あとシルエットだけとか。そしたらみんな笑ってね~」
店の入り口付近にはポスターが張り替えられる瞬間とあって、少しだけ人だかりができていた。店員さんも脚立に乗って、ポスターの枠組みの中に新しいポスターを入れているところだ
「うん……でも、あれって、結構大きく写ってないかな……?合成じゃないんだよね?アオちゃん、念写って言ってたよね?」
「えーゴーちゃん見えるの?私人だかりで、ジャンプしても全然見えないよー」
ぴょんぴょんと跳ねたところで、周りが180~2m超えの人壁の前では、人族女子は無力である
「へぇ……アオって結構やれんじゃん……」
「え?私ちゃんと写ってるの?」
「ア、アオイ君これは骨を見せるより恥ずかしいよ!」
「逆に、骨ってどうやって見せるのよ!」
「ア、ア、ア、アオちゃん……多分、いやきっと、アオちゃんの許可はとっていないんだよね?
だからあんな…あんな……ルーティエ兄さん、これって大丈夫なんですか?」
「???」
エンジェルブラザーの動揺がかなり激しいものになっているけど、なに?顔になんか落書きされてるとか?まさか、今どき鼻に画びょうなんて時代錯誤もいいとこなことをされているとか!?
「大丈夫もなにも、【世界一愛し合っているカップル】がテーマですよ?これくらいが他人に見せるギリギリではありますけど。やはり、アオイがどうしたって可愛すぎますよね……回収するか…」
「ねぇ、みんなしてひどいよ!!私にも見せてよ!」
「あ、そうでしたね、アオイのご意見も聞かないと。ほら、見えますか?」
ルティに抱き上げてもらい、まさに今貼り終わったポスターを見る……二度見、三度見、四度見くらい高速で見直したけど……あれ、あれは……
「え……?あれって……嘘でしょ?撮影は別の部屋だったじゃない!」
「どうやら隠し撮りされていたようですね。困りますよねぇホント……」
「……白々しい!!絶対、ルティ知ってたでしょ!」
控室と言われていた方で、まさか隠し撮り(なんなら覗き)があったなんて……ポスターは私とルティがおでこをコツンとさせて食べさせ合っているもので、ぼかすもなにも、なんならドアップで写っていた。
クロスしたピリ辛ターキーも赤い色でよりハートっぽい。ついに演出にまで手を広げていたとは!!
【あなたと食べたい♡ドンタッキー~心も身体も熱くなる!夏限定ピリ辛味~】のキャッチフレーズが、より一層二人の甘い雰囲気を演出していた。
本来なら今すぐ破り捨ててクレームでも入れたいところだけど、報酬は受け取ってしまっているし、控室で撮影しないとも言われていない。撮影自体はしたが、気に入るものがこれしかなかったと言われればそれまでだ。
ただ……ただ思うのは、ルティは絶対知っていたよね?ということ。嫉妬深い彼を出し抜いて盗撮なんて、きっと無理に決まっている。あのソファの位置も絶対に計算ずくなんだ!!
所謂、完全なる仕込みというやつじゃないか!?ドッキリ企画なら大成功の<テッテレー♪>ってメロディが流れてるわ!チクショー!!
でも一番嫌なのは、このポスターではない。撮影後はすぐに撤収していたのか、否かってこと。
あんな……あんな人前でキスしていたなんて、見られていたなら二度とドンタには行けない!!
「ルティのバカーーーー大っ嫌い!!!」
「えぇっ!!アオイっっ!!!?」
このポスターはユーロピアの街中にもすでに貼られており、中にはポスターが盗まれたりするほど、密かに人気を博していること、さらに風の噂で聞きつけたリイルーンの住民にも知られ、アイさん達の家にも飾られていることを二人は知らない。
そして、ポスター含め、念写したもの全てルティが買い取っていることを、アオイは知らない
ありがとうございました!