21:イメージポスターのモデル依頼① ☆
ちょい甘です
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「久しぶりだなぁ、ルーティエ!つっても、あれからまだ100年も経ってねーか?
ちょっと見ねぇ間に、随分キャラが変わってんじゃねーかよ!一瞬誰かわからなかったぞ」
「やはり、ドン=チャカでしたか。そちらこそ、随分老けた……いえ、それは元からでしたね。
あなたが、店員の格好でここにいるということは、もしかしてドンタッキーとはあなたのお店だったのですか?」」
調理員というよりは、所々の傷の多さを見るに冒険者ではないのかな?と思わせるごりっごりのマッチョマンで、太い眉毛が特徴的なドワーフのようだ。
ルティの知り合いとして会っていなければ、間違いなくマフィアのドンさんと勘違いすると思う。でも笑った顔はくしゃっとなっていて年嵩ではあるんだろうけど、可愛らしいおじ様。見た目は50歳前後くらいかな?ちょっと親近感が湧くかも
「おめえのその丁寧なようで、辛辣な物言いは相変わらず健在なんだな……安心したわ。
ドンタッキーは正確には俺の弟の店なんだ。で、俺は魔獣ターキーの仕入れ兼討伐をやってんだよ。
別に弟…シラーの名前で店開けばいいのによ、『兄さんが仕留めてこなければ作れないんだから』つって、俺の名前を採用したのよ。可愛い弟だろう?
カルネリングの本店にいるんだが、代表になった今でも各店舗まわって味のチェックしてんだ」
へぇ、仲良し兄弟が始めたお店かぁ……ん?弟さんの名前だったら『シラータッキー』か。響きだけはカロリーゼロのダイエットフード店っぽくなるね。うん、ドンさんで良かったと思う。
「で、そっちが、へ―リオスのところの倅の……ゴーシェ、だったか?すっかり青年らしくなったなぁ」
「はじめまして……でしたよね?父とはどういったご関係ですか?」
「そりゃあ、へ―リオスもバーの経営してんだろ?飲食業界繋がりみてぇなもんだ。
それから、随分と猫かわいがりしているそのお嬢ちゃんは?ルーティエ、紹介しろよ」
「はぁ、あまり見ないで下さい。彼女は私の最愛の恋人、アオイです」
「はじめまして、アオイです。ドンタッキーすっごくすっごく美味しかったです!」
「はい、紹介しましたので、さっさと仕事に戻って下さい。お忙しいのでしょう?」
「はっはっは!!こりゃあ傑作だな!そこまでベタ惚れとはなぁ、嬢ちゃんもありがとな!
ちょうどいい、おめぇに依頼がしたいんだけどよ、ちょっと頼まれてくれねーか?」
「は?なぜ、私があなたの言うことを聞かなければならないのです?」
「ルティ、話を聞くくらい、してあげたらいいのに……」
「はぁ…全く……で、なんですか?」
「嬢ちゃん、ありがとな!実はよ、今ドンタッキーを精力的に出店しているんだが、人族の国にも進出しようかと考えていて、もうガレット帝国に店も建設し始めてんだ。
それで宣伝として、街中にポスターでも貼ろうかと思っているんだが、イメージに合う子が中々いなくてなぁ。そこで……」
「はい。却下ですね。アオイは駄目です、無理です。ドン、あなたターキーの餌にしますよ?ちなみに私単体だったとしてもお断りですね」
「おいおい、まだ全部話す前から、せっかちな野郎だな。
構想は2パターンあってよ、友達同士で食べているところにするか、恋人同士で食べているところか。俺的にはやっぱり世界で一番ラブラブなカップルに……と思っていたんだが。そうだな、さすがにおめぇらに【世界で一番】を名乗るのは荷が重いよな、他に…」
「ドン、いつです?そういった事情があるのなら、最初から言って下さい。
【世界で一番愛し合っているカップル】なんて、私達に決まっているのですから、他の者では作れないでしょう?」
「え?友達同士で食べる構想を採用すればいいんじゃないの?私とゴーちゃん、キラ君、女子’Sでとか」
「僕的には仲良し兄妹で食べるドンタッキーなんかもいいと思うけど。アオちゃんと食べさせ合いっこしたいなぁ」
「あ、それもいいかもしれないよね!ゴーちゃんとなら楽しくできそうな気がする!そうする?」
ヒュンと音がしそうなほど早い手刀が、私とゴーちゃんの間に割って入る。わかってる、彼がそんなことを了承するはずがないことも。でも、友達とワイワイって方が良い気がするんだけどなぁ
「はい、それらは全て却下です。いいですか?製作者側が世界一熱いカップルをご所望されているのですから、そちらの要望に答えなければなりませんよね?これは遊びではなくプロの仕事です。二人のようにそんな軽々しい気持ちで受けていいものではありませんよ」
「でも、私達が世界一って、それはさすがに……」
「世界をも飛び越えてきた異種族カップルが他にたくさんいるとでも?」
「あ、そういう考え?でも、私カメラとか向けられちゃうと緊張して笑えないと思うんだけど」
「笑わせるのは私の役割なので大丈夫ですよ。ね?一緒にやりましょう」
「うん、まぁ依頼を受けたことにもなるもんね。ルティと一緒にフライドターキー食べればいいだけなら頑張る!」
「よぉし、決まりだな!助かったぜ。学生業もそれなりに忙しいだろうし、一日で終われるように手配しておくさ」
「はい、宜しくお願いします」
――― 撮影当日 ―――
「控室はここのようですね」
「ねぇ?この控室なんか暑くない?」
春が過ぎ、日中は暖かくなったといっても、ここまで暑くはないよね?というような暑さ
「おお~お二人さん、よく来てくれたなぁ!すまん、すまん。ポスターは夏用だからよ、服装も夏服を着るし、控室から雰囲気が出るように室温も高くしてんだ」
「あっなるほど。確かにその方が雰囲気でますよね!それで半袖の指定だったんだ」
撮影用の服は現地ではなく、事前に用意されていて、当日それを着てくるように指示があった。
イエロー系で、バスト部分がシャーリングになっている。レースアップフロントのパフスリーブワンピは夏っぽくて可愛い。サイズもあつらえたようにピッタリだ
髪型もそれに合わせて、ゆるく編んだ三つ編みを後ろにまとめて所々おくれ毛を出している。
このおくれ毛のあるうなじがポイントなのだと、専属スタイリストのルティが力説していた。
今日は私よりもルティの意気込みの方が凄すぎてドン引いた分、緊張感がある意味落ち着いてきたかもしれない。
「ちょっと準備とか打合せがあるからよ、そこに置いてある飲み物やターキーは食べ放題食べててOKだ。
人族向けの新作ピリ辛チキンなんて、まだ発売前のレアものだぞ!」
「えっ発売前?それ絶対食べなきゃ!ね、ルティ!」
「そうですね。ではドン、準備が整ったら呼んで下さい」
「おうよ。じゃ、それまではこの控室で自由に寛いでてくれや」
「はーい!」
ドンさんは挨拶の為に顔を出してくれたようで、挨拶を終えるとすぐにスタジオ準備の方へ向かって行った。彼もすっかりカタギの顔になったな……あ、マフィアじゃなかった。
「では、アオイ……はい、来て下さい」
「えぇ……本当にするの?」
実はスタジオ入りする前から、カップルの雰囲気作りをどのようにするか、話し合いながら来ていた。ただ、常に雰囲気作りを目論んでいるようなルティとは違って、そんなに早く切り替えられるわけもなく……
だからといって、私が行くまで彼は両手を広げたままであろうことはわかっている為、結局は従うしかないのだけど。。。『早くおいで』という圧が半端ない
「コンセプトは【世界一愛し合っているカップル】ですよ?スタジオに移ってからすぐにその雰囲気をアオイは出せるのですか?報酬を頂く以上は、きちんと依頼者の要望には応えなければなりませんよね」
「むっ、確かに。そうだね、これは遊びじゃなくて仕事だもんね!モデルさんかぁ……ルティはいいけど、私がモデルなんて……きゃあっ!」
背後からルティに抱き込まれ、そのまま控室に置いてある二人掛けのソファに、ぼすんっ!と並ぶように倒れた。結局、私が行かなくても捕まることには変わりないのではないか!
「ふふ、捕まえましたよ!私は耳もいいので、もし人が来たらきちんと離してあげますから。
それに、いつも一緒にはいますけど、他にも誰か必ず邪魔者がいて、二人っきりなのは久しぶりじゃないですか。いい加減、私も構って欲しいです……駄目、ですか?」
もう、絶対、絶対、このうるうる目は作戦だよ!でも、でも……確かに二人っきりっていうのは久しぶりかもしれない。居候の身だし、ゴーちゃんかカーモスさんが大抵いるからね
「う~ん、う、ん、わかった……。でも人が来たら絶対離してね?」
「わかりました。その代わりそれまではくっついていましょうね?」
私の希望に合わせて魔国について来てくれた彼の為に、少し恥ずかしいけど要望を受け入れることにした。
でも、撮影前の緊張感はもちろんあるけれど、ぎゅうっと抱き締められて耳元で話掛けられたり、頭や耳裏にキスをするのは、別の緊張感が高まるのでやめて欲しいデス!
ありがとうございました!