19:最終血戦!リレーのテイクオーバーゾーンが不要な男/後半戦⑤ ☆
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『約束ですよ?』
恐怖に慄くあまり、おそらく、いやきっと、私はとんでもない約束をこの酷く美しい悪魔と交わしてしまったに違いない。もういい、後悔先に立たずってやつだ。
あとで私が一人泣いたらいいんだ……シクシク
私からの言質をほぼ脅しでとった彼は何かを呟き、指先に紅い稲玉を作りあげた。軽く指を弾いたように見えたけど、その5つの稲玉達はまるで意思を持った生き物のように、先を走る先生方へと向かって行く。
先に掴まったのは隣のクラスの女豹ことキスミー先生。稲玉が姿を変え、両手両足にロープのように巻き付き、さすがに先生も動きが止まった。
ただ、電流が走っているかのようにバチバチと音を立てている。先生とは言え、先生にこれって大丈夫だろうか……さすがにしんぱ…
「きゃぁぁん!いやぁぁん!体がビリビリしちゃぁぁう♡」
うん、大丈夫そうだ。
順位が4位に上がり、残るは3位のゴンザレス=マッチョ先生、2位のアイアン=アレイ先生、1位に恩人のゴラリ先生と、全て武術科の先生が占めている。やはり運動系クラスの担任だけあって、持久力も相当あるようだ。
私なんて抱えられているだけなのに、息切れしそうなんですけど!おっふぅ
3位のゴンザレス先生は2位のアイアン先生と格闘最中だった為、隙をついて羽交い絞めのようにあのビリビリロープのようなものに巻かれ倒れた。けれど、2位、1位の二人はギリギリで攻撃を躱し、アイアン先生は逆にこちらに攻撃をしかけてきた。
ルティは片手は私を支えている為、片手しか使えないのに、盾のような防御結界を展開し難なく受け流す。
「おいおい、いくら恋人命だからってよぉ、こんなレースにまで引っ張って来るなんて……実は女を盾にするつもりか?それにこんな子供みたいな……」
半分くらいは、私もなぜここにいるのだろうかと思っている。でも、私を盾にしようなんて、擦り傷程度で死にかける判定する人がするとは到底思えない……って言いたいけど、アイアン先生にお尻向けたままの私には何も言えない。
ゴロゴロ…と空が鳴った瞬間、何かが切り裂けるような雷鳴が轟き、次々と落雷が起こった
「ごわぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃ!!ル、ルティ?え、この雷もルティの魔法?」
血で染めたように真っ赤な稲妻がアイアン先生の鼻先をかすめる。良かった先生の鼻が低めで!!
そしてよく見ると、1位のゴラリ先生の周りも、かつてブクマ―店長がされたみたいな紅い稲妻の鳥籠のようなもので囲まれていた。ちなみに後続の先生方の方も、追い抜けないように走行レーンを塞がれている。
「ふふふ……お二人共どうやら今日が命日のようですね」
「いや、俺はなにも言ってないと思うんだが……」
それには同感と言うか……ご愁傷さまです。
「いえ、私達の前を走っているので、どのみち敵でしょう?ならば消してしまえばいいだけのこと」
「いやいやルーティエ先生、早まるな!アイアンにはキチンと俺が再教育しておくから、な?」
「かといって、ゴラリ先生がそのまま道を開けて下さるのですか?それはないのでしょう?」
「………そりゃそうだろ。俺だって生徒が応援してくれてんだ」
「ふむ。ではタイマン勝負といきましょうか。他の先生方には見学して頂きましょう」
パチンッと彼が指を鳴らすと、ゴラリ先生の鳥籠は消え、代わりに他の先生方が鳥籠に閉じ込められた。魔法科の先生には更に精霊魔法で手を縛り、口も猿轡のようなものがされてる念の入れよう
「へへ……まさかルーティエ先生と一戦交えることができるとは思ってもみなかったぜ」
「私もこんな無駄なことはしたくなかったのですが、たまには恋人に私もそれなりに強いんですよというところを近くで見せておかないと……他に気をとられても困りますので」
「おいおい、その言い方じゃあ、その子抱いたまま俺に勝つと言っているように聞こえるんだが?」
「当たり前でしょう?愛し合っている者同士が離れていることの方がおかしいのですよ」
ごめん、これに限ってはゴラリ先生に一票。普通におろして欲しいとあなたの恋人は願っているよ?ちょっとでも危険のリスクは減らすべきではないのかな?愛し合っている者同士なら尚更
「ふん……そこまで言われちゃあ、こちらもそれなりに行くぜ?恋人の前で膝を折ったとしても恨んでくれるなよ」
「では、私は担任のプライドを生徒の前でへし折ってしまって申し訳ありませんと先に謝っておきますね」
「~~っの野郎!」
ひぃー!なんでわざわざ煽るようなこと言ってくれちゃってるの?意味わかんないんだけど!これって昭和のドラマのように、拳でわかり合える仲になるような青春ドラマの展開じゃないよね?
ゴ:「へへっお前中々やるな…」
ル:「ッテェ…お前の拳も結構効いたぜ?」
ゴ:「もう俺ら、ダチ…だよな?」
ル:「は、馬鹿じゃねぇの?…マブダチ、だろ?」
みたいな?いや、全然ないわー絶対ない。はい、ミニ劇場閉幕!ガラガラぴしゃん!!
ルティのことは信じているし、きっとこの挑発めいたことも作戦の内なのかもしれないと思うと余計なことはできない。でも、無理だけはしないで欲しくて、黙って彼の首に回していた腕に力を込めた。彼は敵前だというにも関わらず、いつもの優しい眼差しを向け背中を撫でてくれた
「大丈夫ですから、私を信じて?」
「うん……」
「よそ見してんじゃねーぞゴラァ!」
あ、これ当たったら絶対死ぬやつ!そう一瞬で思えるくらい、ゴラリ先生の拳は魔力塊を纏わせていて、元の拳の何倍にも大きく見えた。
その後私の動体視力では到底追えないパンチを、ルティはシュっとしてシャっとしてバンとしていたんだけど、スロー解説をするとこうだったらしい(以下ルティ談)
まず、ゴラリパーンチが飛んできて、それを余裕で見切って躱し、勢い余っておっとっと…となったゴラリ氏。あれ?ルーティエがいないぞ?どこだ?あ、上か!と見上げた時には、すでに風魔法で勢いよく飛び上がっていて、さらにまた風魔法で勢いつけて飛び蹴りの体制で降下。
当然ゴラリ氏も腕をクロスさせて余裕で防御したけど、ルティの狙いはゴラリ氏のみぞおち。ゴラリがクロスした腕を解いた瞬間に、氷を纏わせたグーパンで思い切りみぞおちへ。ゴラリ氏は白目を向いてKO。
ちょちょいのちょい的戦いだけど、やられた本人は白目向いて泡吹いて気絶してたみたいだし。私からはあまり見えないようにされていたから、あくまで「みたい」なんだけど。
ゴラリ先生もかなり腕が立つって聞いていたのに、ルティは赤子を捻るが如く、私の目に白目のゴラリ先生が入らないようにするという気まで配りながら片手間に倒すって……
「申し訳ございません。頭を冷やして頂こうかと思ったのですが、うっかり胸を冷やしてしまいましたね。それに雷対策をしていたようですが……生憎と私、雷以外もできてしまうもので…って聞こえてないですね」
彼は『これ、差し上げますね。返さなくて結構ですから』と言って、ゴラリ先生の顔にポイっと白いハンカチを掛ける。いや、掛ける場所がおかしい……
「では、ゆっくりと景色を見ながらゴールしましょうか」
「え、う、うん。他の先生方はいいの?」
「ゴールしてから出してあげれば良いのでは?必死に二位の座の奪い合いをして頂きましょう」
「ゴラリ先生は?大丈夫かな……」
「決闘を挑まれて、それに答えた結果がこれなんですよ?それにこういう競技ですので心配ご無用です。すぐに目が覚めますので、二位争いに参加できますよ」
「それもそっか……あ、それで目を覚ますまで時間稼ぎにゆっくりゴールを目指しているのか!すごい、ルティってやっぱり優しいんだね。そういうところ大好き!」
「ふふ。ようやく笑ってくれましたね。ゴールをするなら笑顔のあなたと一緒にゴールしたかったので。では、一応リレーなので少しだけ走りましょうか」
「うん!ルティ1位をとってくれて本当にありがとう!!」
こうして最終血戦クラス対抗リレーを、ぶっちぎりの1位で飾り、私達のクラスは学年1位、総合でも3位に入賞することができた。
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「ルティ、お疲れ様!さすがに汗をかいたでしょ?はい、タオルで拭いてあげるからしゃがんでー」
「ふふ、ありがとうございます。髪をおろすと流石に暑くて……頭に汗をかきました」
「そっかぁ~」と頭をわしゃわしゃとタオルで拭いてあげたけど、やはり汗臭さはなく今日はミント系の爽やかな香りがするくらいだ。夏用に変えたのかな?
「アオイ、初めての学園イベントはいかがでしたか?」
今度はルティがもう一枚のタオルで私の汗を拭いてくれる。どちらかといえば頭を撫で、褒められているようで心地いい
「あ、MBA大会?う~ん、思ってた体育祭とはだいぶ違っていたけど……でも、すっごく盛り上がったし楽しかった!学生ならではだもんね。青春って感じがしてさぁ~……あっ!ふふ、そう、青春してたんだよ私っ!わぁ、すっごく嬉しい!!」
「また一つ……私はアオイの願いを叶えてあげられましたか?」
「うん……ルティ、叶えてくれてありがとう」
頭に被せられたタオルごと彼に引き寄せられる
皆の視線が教師のプライドを賭けて、壮絶な死闘を繰り広げている二位争奪戦へと向いている頃、こっそり重なる影が二つ。
気付いたクラスメイトに冷やかされるまで離れることはなかった
冷やかしたクラスメイトはなぜか後ほどお仕置きをされたとかなんとか……
ありがとうございました!
体育祭番外編のあとから、甘め→和気藹々→しっとりのお話