18:最終血戦!全クラス対抗リレー/後半戦④
<念の為の豆知識>
①アンダーハンドパス→受け取る側が腰の位置で軽く腕を出した状態で受け取る姿勢のこと。走る姿勢とほとんど変わらない状態で受け渡しができます。
②テイクオーバーゾーン→バトンを受け渡すことができる、長さ30mの区域のこと。バトンを受け取る前に、ちょっと助走しだしている場所のことです
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「みなさん、よくここまで頑張りましたね……と言いたいところですが、まだチャンスはあります!現在8位から順位を上げて、我々は全体で5位、一学年では当然余裕の1位です。
ここで1位を取ったとしても優勝はできませんが、3位のメダルには届きます!ベスト3に入ると副賞には……はい、ボーン、キラ」
「ドンタッキーのフライドターキーの骨が一ヶ月食べ放題ですっ!」
「ドンタッキーのフライドターキーの肉が一ヶ月食べ放題だったな」
「そうですね、君たちの身体を作っていると言っても過言ではありません。
無料で死ぬほど食べたいのであれば、死ぬ気で……いえ、たとえ死んだとしても走り切ってからお逝きなさい。
では今一度スローガンを…『みなさんはアオイの為に!!』はいっ!」
「「「私たちはアオイさんの為に!!」」」
「私はみんなの為にー!!……ケガしません。ご心配をお掛けしまして、すみません!!」
もう、みんなのこの号令は、どこかの軍部組織で改造でもされてしまったのだろうかと思うくらい揃ってるな……とにかく何事も起きないようにするには、自分の身は自分で守る!これに尽きるよね
私もゴーちゃんからバトンを受け取る練習とルティに渡す練習だけはたくさんしたんだよ!
フフフ……美しいバトンリレーの日本出身だから、アンダーハンドパス方式に拘ってみた。
ただ、形から入ってみただけだけどね。30秒くらいは『こいつ、デキる…』みたいな誤魔化しが効くかもしれない
クラス対抗リレーは担任も含めて行われる為、ルティもアンカーとして出場する。ちなみにアンカーは7km走る……もうそれはリレーじゃなくてマラソンじゃないかな?
彼の本気の走りとか見たことないけど、彼に出来ないことはない気がするので心配はしていない…していないけど、私だけが心配である。
そう、私だけなのよ!間違いなく学園イチ遅いことは確実だからね。ドヤッ!!
私が走る前までにいかに距離を稼げるかが鍵となる。私はアンカーの一個前、ルティにバトンを繋ぐ重要任務がある。1秒でも早く、コケずに渡せるようにしたい!!
≪♪ それでは最終血戦!全クラス対抗リレーを行います。全員自分の配置について下さい≫
「私、レーンが18もあるリレーって初めてだよ……一番インコースで良かった。中間辺りだったら並ぶときに絶対焦って転んでいたなぁ」
ちなみにインコース側が一年生、中間が三年生、アウトコース側が二年生となる。
一周が7kmに及ぶ大きなグラウンド……規模が半端ない。魔法で運んでもらえなかったら泣いてるレベルだよ。
でも、アンカー以外の生徒35人は200mずつ走るという、ここに来てまさかの至ってまともな競技。そして、アンカーは普通に一周…つまり7km走る。ここだけおかしい
これはある種、先生達の戦いなのではないか?生徒の部、先生の部で分けられそうなものだけど……
「アオイはとにかく、みんなの為にもケガをしないことですよ?あとは全て私がうまくやりますから、ね?」
「はい、わかりました!!」
「僕も心配だからアオちゃんにバトン渡したら後ろからそのまま追い掛けるよ!」
いや、なぜに!?そこまではして頂かなくても……チャリティマラソンじゃないんだから
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≪♪ 全員配置に着きましたね?……いよいよ手に汗握る最終戦です、先生方はクラスを任されているというプライドを賭けて、生徒達はより高みを目指す為に……スタァァァトォォォ!!≫
パァン!!とレース開始の音が鳴り、18レーン、つまり18人が一斉に走り出した。まずこれだけでも若干、駅伝のスタートシーンのようである
一番目は加速力があるキラ君、続いてハガネ君が走る。この二人は学年でもトップクラスだったけど、どうやら三学年で見てもかなり早い二人のようで、全体の二番目に位置する好スタートを切っていた。
しかし、全員が走りが得意なわけではない為、やはり途中順位は徐々に落ちて行った。中盤では8位辺りまで順位を落とした後半組に差し掛かり、筋肉自慢のダンチョ君がパワフルな走りで二人抜き6位浮上。筋肉質な人が早いイメージはないから驚く
そして、ちょっと失礼だけど、全く期待していなかったガリガリのボーン君が……ドンタッキー食い協走でもあんな走りしてなかったよね?という驚異の追い上げを見せて3位に!!あとから聞いたら「骨骨骨骨…」と呪いのように囁きながら走っていたとか……怖いわっ!
その骨骨ボーン君からバトンを受け取ったのが大天使ガブリエルが如きゴーちゃん!ゴーちゃんが走り出したら、私もテイクオーバーゾーンを走り出すように言われていたので走ったけど、ゴーちゃんマジで速い!マッハってやつじゃない?ついにトップに躍り出た。
あまりの速さにちょっとビビッて泣きそうだった。私の10歩くらいのところで渡されたと思う。そして本当に後ろからついて走ってきている……いや、競歩…え、徒歩か?
神速の天使ゴーちゃんが順位爆上げで1位で渡してくれたこのバトン、絶対離さん!!最悪咥えてでも走ってみせる。
意気込みだけは十分だった私、1位の座は5秒あったかどうか……泣きそう。それでも、横っ腹痛くなってきたけど、力の限り走る!!……なのに順位はどんどん落ちて行って、気付けば13位
「ごめん…みんな、ごめん。いっつも私が足を引っ張ってる……」
泣いていい立場でもないので、必死に堪えて、それでも溜まった涙で視界がゆがみ始めた。前方を見ればアンカーのルティがいる……ルティが…え、近い??あれ?他の先生方はもう少しだけ先に立ってるんだけどなんで?
まさかのテイクオーバーゾーンを私側に作るという荒業!?え?これってセーフなの?あ、いいのね。
それよりも早くしないと抜かれてしまう、あと少しでルティに届く……ところで期待を裏切らずコケる私。走っていたからか、ド派手に前方にぶっ飛んだのを利用し、せめてバトンだけでもとルティへと手を伸ばす……
「ルティ、ごめん……お願い!」
腕を最大限伸ばし…バトンだけでいい、ルティに届け!!私はスローモーションで飛んでいる中『こりゃ顔面から落ちるかもなぁ』なんて考えていた。良くてゴーちゃんのキャッチかな
「アオイの『お願い』なら聞かないわけにはいかないですね。大丈夫、私に任せて」
「……え?嘘!」
ヤッター顔面打ってない!じゃなくって!いや、もうルティにお任せしたんですけど……なんでバトン…と私を一緒に持っているの?
彼は私が伸ばした腕を引き、そのまま私ごとバトンを受け取り、立て抱きで抱えたまま走り出していた。そうです、バトンはまだ私の手の中にあるっていう……バトンをタッチだけしたらええんか?
「アオイ、落ちないようにしっかりと首に手をまわしておいて下さいね。一気に加速しますので」
「う、うん……ほわぁたぁぁぁぁぁぁぁ―――!!」
ありえん!ありえん速さだ!!Gがかかっているみたいでちょっと苦しい~~!!頬のお肉がぶるぶるしてるって絶対!!逆向いていたら、スカイダイビングのあの顔になってるパターンだ
ぐんぐん加速し、推定5位の辺りまできたと思ったところで先生同士の攻撃が始まった!ま、まさか【最終血戦】ってこういうこと!?嘘でしょぉぉぉぉ
「ルティルティルティルティ!!!私を降ろした方が良いんじゃない?あ、でもこの速さじゃ私が砕けるのか!?ねぇどうしたらいいの?先生方なんて生徒の比じゃないし、目が血走ってるよ!本気モードじゃないの?」
「ふふふ。こうして抱き締めているとアオイのドキドキが伝わってきて、私までドキドキしてきましたよ。アオイが私を応援してくれれば、もっと力が出そうなんですけど……このままですと二人共負傷してしまうかもしれませんね」
「そん、そんなぁルティお願い、みんなの為にも1位を取って!お願い、頑張って!」
「ふむ…では無傷で1位をとれたら口づけで如何ですか?やはり勝者には女神の祝福を頂きたいですよね」
「えーー……」
――…ズドォォォォン!!前方に魔弾のようなものが撃ち込まれ、轟音が響く。なんちゅうタイムリーな脅し!!
「おっと、ついにこちらにも攻撃が届き始めましたね」
「ぎゃーーーーわかった、わかった!するする!するから!!早くゴールしてっ!死んじゃうー」
「ふふ。約束ですよ?では、行きましょうか!」
女神には到底なれっこないので、女将の祝杯では駄目でしょうか?ワンカップとか……駄目っすよね
明日は小話ではなく、この話の続きになります
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