16:舞・乱入DAY その1/後半戦②
ブランニューデイ!
新たな一日
******
≪♪ 次のプログラムは【大爆弾転がし】でーす。こちらは保護者、地域の方からも飛び入り参加可能でございます。我こそは!と名乗りを上げる方は本部までお集まり下さい。学園での普段の授業を体験するチャンスですよ!≫
普段の授業を体験させるのなら、せめてもう少しマシなチョイスはできなかったのだろうかと思うのだけど。どの保護者も皆、猛者の集まりか何かなのだろうか?
「キラ君、普段の授業にこんなのあったけ?選択科目だったら絶対に選ばないよ私」
「あ~あれは武術科の必修科目のひとつだな。『ギリギリ』を見極めるのには持ってこいなんだと」
「ギ、ギリギリって……でもでも、大会のはダミーとかそういうやつだよね?」
「あ?そんなわけねーだろ。『普段の授業を体験するチャンス』って言ってたじゃねーか」
それは所謂、チャンスを掴んだ瞬間には砕け散るパターンではないのだろうか……
「えぇっ!?爆発の規模は?これってゴーちゃんも出るんだよ!キラ君なら大丈夫だろうけど、天使の羽が焦げたりしたらどうしてくれるのよっ!!」
キラ君の襟首を掴んでガクンガクンするほど揺らす。お前は少し焦げたトカゲ焼き程度かもしれないけど、天使の頭が雷様みたくチリチリになったらどうしてくれんだよ!!
自分が出ないからって、簡単に言ってくれちゃってさ!
「おい、ちょ、ヤメ…ヤメロ!って言うか、お前も俺なら大丈夫だろうけどって、それゼッテェー褒め言葉の方じゃねーだろ!?ゴーシェとの温度差がだんだん露骨になってきてねーか?少しくらい何かに包めよ!!」
「はんっ!!ガムの包み紙程度には包んでるだろうが!!セクハラトカゲめ。『こんな爆発程度じゃ傷もつかねぇし』ってドヤって言ってたじゃんよっ!だから心配してないんでしょ!!」
そろそろ、昔 体育で習った柔道の締め技でもやったろかと思ったところで、エンジェルブラザーから優しく肩を叩かれた
「アオちゃん、アオちゃん、ほら手を離して。いつまでもキラに触れているなんて、僕ヤキモチ焼いちゃうよ?」
「え?兄のヤキモチ!?ごめんね、離す!」
ガックンガックンの勢いのまますぐに手を離した為、キラ君は器用に後転しながらすっ転がっていったけど……うん、彼なら問題ないな。
「ゴーちゃん!そんなことよりも、大爆弾転がしって本当に出ても大丈夫なの?地域の人が出るレベルならそんなに激しいものじゃないよね?」
「う~ん……僕も初めてだからよくわからないけど、ルールブックを見た限りでは問題ないと思ったよ」
「この学園って、大会なのに事前練習とか全然なくて、ぶっつけ本番で行うんだね。今日はずっと心臓バクバクしてるよ私。寿命が縮まった気がする……」
「えっ、寿命が!?アオちゃん、なにか心臓の病気でも持っていたのに隠していたの!?」
「アオイ!!寿命が縮まるとはなんですか?心臓になにか欠損でもあったのですか?やはり、先ほどの擦り傷からウイルスが入り込んで……!?」
「わぁ!ルティまで!!どんだけ耳いいのよ!?」
ホントにルティは……いきなりピューンって登場するのやめてくれないかな…まさに心臓に悪いんだけど
「いや、ちょっ…違うよ、違う!ごめん、これは比喩表現!!縮まりそうなくらいドキドキしたよっていう表現の一つなの!紛らわしくてごめんなさい!!」
「「ヒユ表現……??」」
「私の国ではよく使われていた表現の一つなの。あ、ほら『花開いたような微笑み』とかわかりやすくない?実際は花なんて開いてないけど、なんとな~く通じないかな?」
「あ、ちょっとわかったかも!それって…」
「あぁ、そのような表現でしたらわかりやすいですよね、それは…」
美しいものへの例えならきっとエルフ族にも通じやすいと思ったんだよね。ちゅうか二人共頭いいからね。説明したら大抵理解するんだよ、うまく伝わって、良かった良かった!
「アオちゃんのことでしょ?」
「アオイのことですよね?」
「は?わ、わたし?やめてよ、恥ずかしい!私そんな綺麗に笑ってないって絶対!私が持つ花と笑顔のイメージはねぇ……アイさんが存在感のある香りの大輪の白百合イメージでしょ~、モルガさんが真っ赤な情熱的な薔薇、惑わす香りというか……お二人共、素敵な大人な女性だよねぇ」
「う~ん母上を褒めてくれるのは嬉しいけど、自分の母親にそういうイメージを持ったことはないかなぁ」
「そうですね。間違いなく母上がこの場にいたら、アオイは撫でまわされているとは思いますが、私も母にそのようなイメージを持ったことはないですね」
あー…二人共、生まれた時からあの美貌を見て育ってるんだもんね。そりゃあ、『私がカッコいい?だからなんだと言うのです?』みたいな感じになるよね。私で言う『あなた人間ですよね?』『はぁ人間ですけど、それがなにか?』っていうのと同じレベルだな。
「参考までに、二人が持つ私のイメージってなぁに?」
オニギリとか食べ物系がきてもおかしくない気がするし……良く言われるリスかな?
「僕は『太陽』かな……ごめんね僕、花はあまり得意じゃなくて……」
「『太陽』はまさしく、ですね。では、私は花であれば『ひまわり』でしょうか。タチアオイと悩みましたが、私を見上げる姿がひまわりのようで可愛らしいもので」
「わわわ……思いがけず素敵なイメージを頂きまして、ありがとうございました……あ、あの、私はゴーちゃんが『星』でルティが『月』のイメージかなぁ」
「僕が星?」
「うん。ゴーちゃんは星でも一番星だよ。その輝く白い髪も星っぽいんだけど……なんて言うか、いつも密かに見守られているような、『ちゃんとここにいるよ、大丈夫』って言われてるみたいな安心感があるって言うか。
だから『明けの明星』は寝てたりして、残念ながらあまり見れないけど、今の時期だと夕方から夜に向かう間の『宵の明星』はつい見上げて探しちゃうんだよね」
「そっかぁ……ふふ、ちょっとわかるかな。太陽のように明るく照らしてくれるアオちゃんを、僕はいつも眺めているもの」
「えぇ!私が太陽だなんて照れちゃうなぁ。あ、体温高いし、指ならよく温めているもんね!ふふふ」
「ふふ、確かにそうだね」
あ~でもホント体温高いから、今の時期暑苦しい真夏のギラギラ太陽をイメージって意味にも取れなくないな……いやいや、良い意味で取っておこう
「アオイ、私が月なのも髪色からですか?」
「う~ん、髪色もそうだけど、名付けの話の時もルティが生まれた日は満月だったって言ってたし。でも、どうしてなのかは、今度一緒に月を眺めるときに教えてあげるね!」
「ふむ。今すぐ知りたいところですが、説明を聞くにはそのシチュエーションが必要なのでしょうか?」
「そうだね、ご理解頂きありがとうございます」
立ち話をしている間に競技参加者へと集合の放送がかかった。強そうな保護者の方が味方についてくれるといいのだけど……
「あ、じゃあそろそろ集合みたいだから僕は行くね。アオちゃん、応援宜しくね!」
「うん、声の続く限り応援させてもらうね!」
***
≪♪ それでは【大爆弾転がし】を始めたいと思います。こちらは各学年毎の競技となり、武術科3クラス、魔法科3クラス、合計6クラスで戦います。得点が入るのは上位2クラスまで!
逆に自領の爆弾を爆破してしまった、またはされた場合には大幅なポイントマイナスになりますので、現在有利に進んでいるクラスへの妨害チャンスとなります≫
得点が今一位であっても妨害によっては不利に転じるかもしれないなんて、競技内容はともかく、最後まで手に汗握る大会だと思う。
さっき疑問に思っていた『なぜ事前練習がないのか』については、戦いにおいて、その場で考え行動できないと、命を落とす危険性が高まるからだとルティは言っていた。ルールブックと過去のデータを読み解いて、どう行動したら有利かを考えさせる目的があるとか。
ここの生徒は防衛団とか冒険者を希望する子が多いってことなのかな……でも、なんとなくその説明は納得できた。
それにしてもクラス全員で出場するわけではなく、各クラスたったの5人ずつしか生徒は並んでいない。そして、ここに地域の人や保護者が加わるののだけど……あれ?人数が生徒よりも少し多い!
「ん?ねぇ、ルティ……なんか遅れて走ってきた地域の方って学園関係者も入るの?なんか見覚えある七三分けの人が見えるんだけど…そしてなぜにタキシード着てるのかな?」
来る場所を間違えているのか、着る服を間違えているのか、まさかの普段着なのか…
「あれは学園長、、、のそっくりさんか、ご親戚の方では?顔全体を覆う仮面をしておりますので、顔認証は難しそうですね。本物ならまだまだ心の穢れを落としているかと思いますので、違うと思いますよ」
「あ~~なる、、、ほど?じゃあいいんだね、アレは」
「いいのですよ、アレで」
私達のクラスチームにはゴーちゃん、ダンチョ君、ハガネ君、ホヘットちゃん、アーチェリーちゃん。保護者・地域枠で、ゴーちゃん以外の親御さんと学園長っぽいタキシード仮面の人、そしてまさかのカーモスさん。仕事で来られない二人の代理で見に来るとは言っていたけど、まさかここに参加するとは意外!
総勢10人かぁ、なんて見ていたら「おらっ、離せよー!俺もこの競技の参加者だってー!!」と何やら係りの人と揉めながら乱入してくる人が一人……
「兄上…っぽい人が間に合ったようですね。アオイに雄姿を見せるのだと張り切っておりましたが。ゴーシェのついでにでも応援してあげれば、チームに貢献すると思いますよ」
「そっか、、、チームを助けてくれるならラトさん……っぽい人も応援しなくちゃね」
「そっくりさん、ではありますけどね」
この競技、絶対平和に終わらない気がする!