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6:初めてのカツアゲ



******



『交渉成立だな』と告げた彼との距離がどんどん近づいてくる。なるほど、これが『食べさせろ』っていう意味だったのか。はぁ、仕方がないな……



「ククッ、いいぜ。じゃあ早速……」

「はぁ、仕方がないなぁ。はい、じゃあ、口開けて……」



 お弁当ごと空間魔法に入れといたから、出来立ての味だぞっ!慌てて食べると火傷するぜぃ!



「口?なんだ、積極的だな。あ……あ゛っ!んっ、ぐがぁっ!!」

「もーう!一気に口に入れたら勿体ないじゃない!せっかくカツあげたのに!!」

 


 ハッ!これってまさに、カツアゲってやつじゃない?

 カツ揚げ、カツあげ、カツアゲ!ぶふぅ!……バカ、親父ギャグだな。この昭和的発想が田舎臭い雰囲気を醸してしまったのだろうか。

 学生デビュー日に…やっちまった



「おにぎりも食べる?えへへ。実は途中でお腹空くかもって思って少し多めに握ってきたの!

 良かったぁ~おにぎりなら二個くらいあげられるからどうぞ!」



 だいたい、ドンタッキーって……いい響きのお肉を山盛り食べたみたいなのに、まだ食べれるんだ。やっぱり男の子はよく食べるんだねぇ~。



「………」

「なぁに?美味しくなかった?でも味の好み知らないし、そもそも、それは私のお弁当だからね。気に入らなければ返してちょうだい」



 っていうか、丸ごとあげるなんて言ってないんだから!味見だよ味見!



「いや……美味い。この肉うまい。なんだこれ、ブタタンの肉?やわらけぇー。

 オニギリってワノ国のだろ?コメって野菜なんだよな。でも中に味のついた挽肉が入ってて、うめぇな!」


「そうでしょ!?いやぁ~もう味見してるから美味しさはわかっているんだけどね。やっぱり甘じょっぱいっていいよね!良い醤油が手に入ったもので、作らずにはいられなくてさ~えへへ」


「へぇ、お前が自分で作ったのか……すげえな。このオニギリは冷めてんのにうめぇし」


「それが、お弁当マジックってやつなのよ!あぁ、私も食べたくなってきた……けど我慢、我慢!

 あ、ねぇ、そろそろ教室まで連れて行ってくれない?絶対ゴーちゃんとか心配してるし、ルティ…ルーティエ先生にバレたら大変だもの」


「はぁあ?ゴーちゃんだって!?そいつ、ゴーシェ…ゴーティエナイトのことか?あいつとお前ってどういう関係なんだよ?」


「ん、ゴーちゃん?ゴーちゃんは天使である前に、なんと私のお兄ちゃんになってくれた奇特な方ですよっ!あの奇跡の天使がっ!萌えの塊みたいな人がよっ!?そりゃさ、私だって『まーじーかー!!』って脳内で叫んだよ?

 妹なんて語るのも烏滸(おこ)がましいけど、ゴーちゃんが『アオちゃんは可愛い妹だよ』って言ってくれたので、もう妹を名乗ってますけど、それがなにか?」



 これだけは、異論は認めないっ!ちゅうか譲らんぞ!!なんなら養子に入ってもいい。ただ、私は戸籍らしきものは持ってはおりませんがね!!

 そういや、ギルドカードと学生証しか持ってないっす!



「お、おう……そうか、妹か…熱量が半端ねーな。そういや、しばらく滞在するって言ってた人族ってお前のことか……しっかしゴーティエが『ゴーちゃん』で、『天使』ねぇ……ぶふっ!ははははは!」


「やだ、頭打った?保健室行くなら、その前に私を教室に送ってもらってからでもいいかな?道が全くわからないのよ」



 抜けてきた廊下もウネウネとまた形を変えているし……もう二度と近づかないようにしないとだな。旧校舎は富士の樹海と同じと認定



「あーーははっ……はぁ、ひぃ笑った、笑った。んじゃ行くぞ。ほら、手貸せ」

 

 そう言って、彼は右手を差し出してきた。ふうむ、右手か……そうなっちゃうとこうかな


「手?はい」


 

「………おい」

「……ん?」



 なんで、しかめっ面で握った手を見てるの?あ、先にこちらから振るべきなの?むむ、異文化交流は難しいな。あ~シェイクハンド、オーケー?もしくは握手文化ってない系でオーケー?



「……いや、なんで右手?これじゃ握手だろうが……」

「へへ、感謝の握手……じゃなくて、実は左手は下手こきまして、さっき手首を捻っちゃったから痛くてさぁ……」



 先程まではアドレナリン効果でしたね。今は結構イタイっす。ジンジンきてますわー



「おまっ、少し腫れてきてんじゃねーか!?早く言えよ!

 あー…でも、オレはあんま治癒が得意じゃないからなー。せめて痛みだけでも抑えてやるよ」



 彼は手の平に琥珀色の魔力を小さく纏い、手首に当ててくれた。暖かいなと感じると同時に、痛みが徐々に引いて行く。



「わぁごめんね。何から何までお世話になって……痛みがない分、楽になったよ。ありがとう!」



 ヤンキー君は雨に濡れた子犬に『お前も独りぼっちなのか?……俺と一緒だな』とか言っちゃう良い子なのかもしれない。胸アツです



「いや、いい。カツってやつの礼だ。よし、お前はドン臭そうだから、抱えてってやるよ。その方があっという間に着ける。ほら、行くぞ!」


「え?抱え…ギャーーー-ー!!!!急に走り出さないで!!速すぎるっ!っていうか壁走ってるぅーー!怖いぃぃぃ」



******



「ハァ、ハァ、ハァ……し、死ぬ」


「おい、着いたぞ!生きてるか?ほら、あっという間だったろ?」

「そ、そうだけど……足がガクガクするよ……」



 も、もうさ、今なら生まれたての子鹿を再現できるよ、見てガックガクでしょ?

今度、廊下は…いや壁は走っちゃいけませんとか、スピード出し過ぎ注意ってポスター貼ろうかな……顔面蒼白だよ。。。ゲッソリ



「アオちゃんっ!!!どこにいたの?校内中を探してたんだよ!?

 あぁ、足も擦りむいて……手首も、なにそれ腫れてないっ!?それになんで制服まで……!!顔色は悪いし、立てないくらい怖い目に合わされたの?……まさかコイツ…?コイツに何かされたってこと?」


「へ?ち、ちがうよ!この人は私が彷徨っていた所に通りがかって助けてくれて、私がケガしているからって送ってくれた親切な……あーごめん、名前なに君だった?もの凄く今更なんだけど、私はアオイ=タチバナって言います。宜しくね~」


「マジで今更だな……俺はキラ=カイザーだ。ヨロシクなアオ」


 いやぁうっかり、恩人の名前を聞くの忘れてたよ。それに自分も名乗ってもいなかったとは……バカ



「え!そうなの?キラが!?」



 そう、キラ君だね。瞳とおんなじキラ・キラネームねぇ……ってバカ



「んだよ、お前は()の言うことが信用できねーってのか?コイツはトイレから出られなくなって、自力で脱出を試みたらしいけど……そもそも、アオの言う()()()女子’Sってのはどうしたんだ?」


「は?親切な女子……?そう、一緒にクラスの女子とトイレに行ったのに、あの子達だけ戻るなんておかしいと思ったんだ。でも、『お腹が痛いみたいで、先に戻るように言われた』って言うから僕はそれを信用したのに……ユルセナイ!!」



……―――ゴゴゴゴゴゴ……パラ、パラ…



「「「ひぃぃぃぃぃぃ!!!助けてっ!お願い、助けてっ!!」」」



 ええ?女子’Sの怖がり方が尋常じゃないんだけど。見えないものが見えちゃったみたいな?



「っていうか、戻るの遅いのは腹痛が原因と思われたことがこの上なく恥ずかしいのですが!?ゴーちゃん、そこだけは訂正させてっ!トイレと友達状態だったわけじゃないからぁ!!」


「お前はアホかっ!今、気にするのはそこじゃねぇだろ!!」



「ハッ!!え、これってゴーちゃんが原因なの?どうして?天井から何かパラパラ落ちてくるんだけど……」



 みんなは頭に細かい瓦礫が当たっても、なぜか弾かれてるし……あ、結界?私も結界を張ればいいのか<結界>。初めからこれをやっておけば良かったんじゃない、私ってば。

 いつもルティにフォローされすぎて、すっかり魔法使えることを忘れてしまっていたよ。でも使わなくても、たいして困ることもなかったんだよねぇ。


 ファンタジーは見てるばかりだなぁ……だって、火を出すくらいならキッチンで作業した方が火加減もわかりやすいし、せいぜい水を洗濯に使用したり、風でドライヤー代わりにしたり……電源なくて便利だなぁ程度なんだよね。ルティが魔法で家を作るところを見るのが一番見ていて面白いかも。



「お、おいっ、ゴーシェ!教室で許可なく攻撃魔法使うのは禁止されてるだろ?落ち着けよっ!」


「アオちゃん、大丈夫だよ。お兄ちゃんがすぐにあの子達を片付けてくるから。ルーティエ先生のところへ行って治癒してもらって、待っててね?」



 ひぃぃーー!ちょっと別次元に行っている間に、ゴーちゃんが、あの天使のゴーちゃんがっ!私のせいで闇落ちしてしまう!!人は片付けるモノじゃないんですー!!



「ちょ、ちょ、ちょっと待って!嫌だよ、お願いやめてっ!!あの子達は何もしてないよ。鍵は建付(たてつ)けが悪かっただけで、ちょっとトイレは遠かったけど、木造のせいか……うん、ある意味落ち着く空間ではあったし。

 ケガは私が勝手に転んで受け身し損ねただけで、制服も板のささくれに引っかけちゃっただけなの!」


「……でも顔色悪いし、立てなさそうだったじゃないか。庇う必要なんかないんだよ?」


「違うよ!キラ君に送ってもらったスピードに慣れてなくて怖かっただけ!

 とにかく悪いのは私だけで、女子’Sは悪くないから……ゴーちゃんやめて……グスッ、心配掛けたことは、本当にごめん、なさい……うぅ~天使がぁぁ~病んでしまったよぉぉ」



 こんな私のせいで天使を闇落ちさせた日には、天罰が下るに違いない。ゴーちゃんファンの子達にも申し訳ない気持ちで一杯だ。ただ、一部頬を染めている子が見える辺り、天使はブラックエンジェルになろうとも、それはそれでモテるのかもしれないが、私は白き天使推しなので阻止一択で!!



「あ…あぁもうっ!アオちゃん泣かないで?わかったよ、何もしないよ!

 そもそもついて行かなかった僕が悪かったんだよね?次からは絶対に一緒について行くから」



 えぇっ!?ちょいちょーい!!それはそれで恥ずかしいから絶対嫌だよ!どんな拷問ですかって話でしょ。せめて、お昼休みの時にでも一番近いトイレの場所を教えてくれれば十分です!



「あ、ゴーちゃんそれよりも、次の授業はまたルティだから、始まる前に教室に入っていなきゃ怒られそうだし、早く崩れた瓦礫の掃除とか済ませておか…」


「何を済ませておくのです?」

「ひゃあ、ルティ!!…先生、なんで?まだ時間じゃないのに……」


「少し早めに前の授業を終わらせたので、1分でも早くアオイの顔を見ようかと……ところで、アオイ?そのケガ、涙の跡……ゴーシェ、これは一体なんの騒ぎです?」



 笑っているのに、なぜか背後に般若が見えるのは気のせいだろうか?さっきの女子’Sもこんな感じだったのか?タスケテー!!



「あの、ルーティエ兄…いえ、先生……」




 あ、これオワタかもしれん……






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