3:過去への嫉妬 ☆
この3話と次話の3.5話は読み飛ばしOKです(アルファポリスではカットしています)
なくそうか悩んだのですが、6000字以上書いているので、惜しくなりエイ!っと投稿したものです。
付き合い始めの頃ってこういうことあるよなぁと思ってサラっと読んで頂ければ幸いです。
要するにカップル喧嘩する→仲直りしてやっぱり好きー!となるってやつです。
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「ようこそ、いらっしゃいました、ルーティエ様、アオイ様。
ご主人様も、奥様、坊ちゃまも、この日を楽しみにしておりましたよ」
「久しぶりですね、カーモス。
ゴーシェナイトの出産祝に来た時以来ですかね?」
「こんにちは、はじめまして。しばらくお世話になります。
アオイ=タチバナです、宜しくお願い致します」
さらっと約20年振りって言ってるけど、感覚的には1、2年前レベルだよね?
10年単位でも記憶に残しておけるエルフ族に、今更ながら尊敬の念を覚える。
私なんて先週なに食べたか思い出せる?ってレベルなのに……
「これは、これは、私にまで、ご丁寧に……ありがとうございます。
ルーティエ様と最後にお会いしてから、もうそれくらいになりましたか?
月日が経つのは早いものですね……
おっと!私としたことが、ついつい立たせたまま、ご案内もせずに失礼致しました。
皆様はあいにく所用にて出掛けておりますので、戻られるまでは移動疲れもおありでしょうし、ゲストルームでゆっくりおくろぎ下さい」
ルティの従兄弟、アイさんのお兄さんは魔国のダークエルフの女性と結婚し、そのまま魔国に移り住んでいるという。
素人の私は疑問だったんだけど、エルフもダークエルフも同じ『エルフ』じゃないの?ってこと。
エルフは光を好むけど、暗いのは好まない。
ダークエルフは暗いのは好むけど、光はあまり好まない。
だから遠い昔は一緒だった種族なのに、住む場所がわかれちゃったんだって。
まぁこれには納得した。地球でも大昔から、住み良いところへ大陸移動ってあったもんね
しかし、そこでまた疑問が。
光好きの方がなぜ色白で、暗い方を好む側が小麦色なの?ってことよ。
答えはわからないんだけどね。(わからんのかーい!)
きっと、美への情熱を燃やす一族だから、強力なUVクリーム塗っているんだろうってことにしてる。
あと、曇りの方が案外、紫外線強いって言うし?うん。
―――つんつん
ん?
頬をつつかれた?
「アオイ?一人で百面相をして……ふふ。今度はなにを考え事していたのですか?」
「あ……ごめんなさい、つい。
え、と、カーモスさんはここのお屋敷には昔から勤めていらっしゃる方なのかなって」
これはこれで気になっていた。確かに大きなお屋敷ではあるけど、メイドさんを雇う程の規模でもないので、もちろんいない。
通いで勤める、広い敷地管理の庭師さんと料理人さんが二組ほどいるらしいけど、その他は全てカーモスさんが取り仕切っている、らしい。
立場的には女主人的な立ち位置。男性だけど。
「そうですね。カーモスは伯母上の、、、実の弟なんです」
「え?伯母様の弟さん!?」
「はい。伯母上とカーモスは、エルフにしては珍しく、50歳ほどしか歳の差がなかったので、姉弟と言うよりも、親友のような関係性だったそうです」
「へぇ。じゃあ、お姉さんを助けになる為に執事に?」
50歳は、私の人生くらいの感覚なんだけど、そちらでは年子的な感じ?
「いえ……中でも、『お嬢様と執事』という遊びをよくしていた影響で、カーモスがそのまま執事の道に目覚めてしまいまして、、、とは言え、自己流でやっているんですけどね」
ん?どこかで学んでくるとか、そういうものではないの?自己流執事……とは?
そして、そのごっこ遊びの内容がすごく気になる!
「伯母上も仕事をもっているので、ここの屋敷の管理にまで手が回らず……
誰か信用できる者をと探していたタイミングで、都合が良く本人が売り込んできたものですから、そのまま執事として雇っているのですよ」
お姉さんに自分で売り込み……すごい。自己流執事をよく受け入れたよね?
「少々変わっておりますが、カーモスはこの仕事に誇りを持っておりますし、天職だと明言しておりますので、執事として扱ってあげて下さいね。
基本的には真面目な執事モードですが、魔国の者は気分屋なところがありますので……
時折くだけた態度に変わったりすることがあると思いますが、驚かないでください。
あ、ちなみに、カーモスは本名ではなく、執事名です」
「今これにハマっててさぁ~」とかの次元じゃないよ!
そりゃあ天職と思わなきゃできないよね。変わってるなとは思ったけど、自分のお姉さんのことも「奥様」、甥っ子に「坊ちゃま」なんて呼んでいる辺りの徹底ぶりがすごいなと純粋に思う。
「でも何にせよ、自分の仕事にプライドを持ってやっている人って、カッコいいよね……
カーモスさんは結婚していないの?すごく素敵な紳士って雰囲気が滲み出ているから、モテるんだろうねぇ」
見た目は30後半~40歳って感じかな?
瞳は青いけど、親近感の湧く黒い髪は短く切られていて、前髪は半分を後ろに軽く撫でつけている。
もう少し老けたら、純喫茶のマスターとかどうだろうか?毎日通いたい。
体からマイナスイオンが出てる気がする……癒されるー
「…………アオイ、私がいつもそばにいるので忘れているかもしれませんが、私だって冒険者としてはそれなりに名前は知られているのですよ?
面倒だったのでこれまで断ってきましたが、アオイが望むなら今すぐにでもSランクをとってこれる自信がありますし。
それに、こんなラフな格好じゃなく、執事服でも、近衛騎士服でも、おそらくワノ国の衣装だって、私は着こなせますからね!
もしでしたら、アオイ専属執事として着替えますけど?」
え?え?ルティなんで急にSランクの話なんて出てきたの?
執事服に、近衛兵……ワノ国の服?よくわからないけど、確かに着こなせそうな気がする…
ん?もしかして、カーモスさんにヤキモチ焼いてる?
「ルティ……誤解してるの?
カッコいいって言うのは『生き様が』ってことだよ。
執事として見てと言われても、やっぱりルティとは親戚にあたるわけでしょ?
ルティの身内や親戚だから、私だってうまく付き合っていきたいし。
私が意識する男性でカッコいいと思っているのは、ルティだけだよ……」
「本当ですか?どんなであれ、アオイの口から「カッコいい」だなんて他の男性に向けて言われてしまうとつい……。狭量な自分が情けないです」
「それで情けないなら、私なんて情けない部分しかなくて泣けてきちゃうよ!
「カッコいい」にも色々意味はあるからね。気になったなら、今みたいに聞いてね?説明してあげるから」
ヤキモチ焼きが度を超す時もあるけど、そういう姿は私にしか見せないルティだから実は嬉しいんだよね。
「フッ……ごほん、失礼致しました。
お二人共、仲が宜しくてほほえましいですね。
ルーティエ様の新しい一面を、しかと拝見させて頂きましたよ?
あなた様が心配されるようなことなどございませんので、威圧を掛けないで下さいね」
こらー!殺気と威圧はすぐにポケットにしまいなさーい!!
「カーモスも普段より気合が入ってないですか?
そんなに紳士然としていなくていいですよ。あとは、私がわかりますから、伯父上達が戻ったら教えて下さい。
この部屋でいいですか?」
納得してくれたと思ったのに、まだ引きずってるし……
カーモスさんも、ちょっと口角上がってるんだけど?
「……いいえ?いつも通りですが?
それと、申し訳ございませんが、お二人はまだご結婚前ですので、お部屋は別々にございます。
そちらがルーティエ様、隣のお部屋がアオイ様のお部屋でございます」
「は?別々?彼女と別々に過ごすなんてありえないですよ!」
「そうは申されましても……まだお年頃のゴーシェナイト様もおりますし、情操教育上宜しくないかと」
「ゴーシェももう20歳でしょう?年頃なんてとっくに過ぎているじゃないですか!ましてここは魔国でしょう?彼だってそのくらいの経験はとっくに済んでいるのでは?」
ちょっとやめて欲しい。
まるで私たちがすでにそういう関係にあるみたいに聞こえるし!
それにわかってはいたけど、ルティにも『そのくらいの経験』をした相手がいたんだなって複雑な気持ちにもなる。
そりゃあさ、400年生きていて、まだ誰も知りませんって状態だったら、それはそれでびっくりだし、複雑にもなるけど……でも、なんとも言えないモヤモヤが広がるな……。
「ルティ、私は大丈夫だよ。
せっかく用意して頂いたんだし、わがまま言ったらダメだよ?
確かにちょっと疲れたし、私先に部屋で休ませてもらうね。また後でね」
このままだと泣きそうで、足早に当てが得られた部屋へ入った。
「え、アオイ?」
「……ルーティエ、お前もまだまだですね。学園へ通うなら女心を学んで来たら如何です?」
「なんですか?急に執事の仮面を剥がすなんて。
それに私は学園では教師をすることになりましたので」
「剥がしたくはなかったのですけど、少々お節介を焼かないと、せっかくあなたが苦労して手に入れた宝石を失くしかねない事態になっても困るかと思いましてね?
教える側に回るのであれば尚更、よぉくお勉強することですよ」
「どういう意味です?ハッキリと言って下さい」
「はぁ……ルーティエ、お前なら愛する彼女に元カレがいたとして、その話をされたら気分は如何です?
もっと言えば、聞いてもいないのに経験した時の話を聞かされたとしたら……?」
「―――っっ!!!……そんなつもりは…」
「つもりはなくとも、同じこと。
ハァ、ご主人様がお戻りの時に、険悪なムードになっていては困りますからね。
きちんと節度を守ってくれるのなら、今は彼女の部屋で過ごすことに目を瞑りましょう」
「今すぐ誤解を解いてきます!!」
「やれやれ……まだまだ若いですねぇ」
***
「アオイ?起きていますか……少し話があるのですが……」
ノックはされたものの、許可していないのに入ってくる辺り彼らしいけど、今はそっとしておいて欲しかった。
「………うっ、うぅ……な、に?私疲れてるからって、言った、のに……」
考えていたらやっぱり泣けてきちゃって、私はベッドにうつぶせになって泣き声を押し殺していた。
「泣くほど疲れていましたか?……って違いますね。私が泣かせてしまっているのですよね。
そばに行ってもいいですか?」
「や、やだ……泣いてるの、見られたく、ない!」
勝手にモヤモヤして、勝手に泣いてるだけなのに、ホントに私は情けない。
断ったのに、ルティは私のそばに腰掛けた。
「アオイ、悪いのは私ですが、それでも一人では泣かないで下さい。
私の配慮が足りませんでした、無神経だったと思います」
「……ぅん」
「本当はアオイにこんな話をしたくはありませんが、お気づきのように、私には経験があります……ですが、それはまだ私が青年期だった頃の話です」
「………青年期?」
「最低な話にはなりますが、お互いに恋愛感情があるようなものではなく、好奇心からだったり、一夜限りでと後腐れのない者と、といったものでした。
次第にそういった行為で満たされることはないと気付いてからは一切ないですし、興味すら湧きませんでした」
「……別に不思議には思って、ない……。ルティは、なんかキスも、手馴れてる感じ…あったし」
今だって有名人でモテモテだもん、きっと掃いて捨てるほど擦り寄って来たんだと思う。
それでも、彼の初めてを経験した人は他にいて、甘いキスを受け取った人も他にたくさんいるんだよね。もしかしたら、睦言の時だけでも愛を囁いたのかもしれないし
年月を考えれば、未経験のままいる方がおかしいだろうし、そうであってもらいたいわけじゃない。
それでも、本気じゃなくても……彼の口から「好きだ、愛してる」なんて言葉を初めて言われた人は、きっと私じゃないんだなって。
「手馴れてなんて……ないんですよ?気持ちのない者と口づけできる程、私は器用ではないので。
相手から不意打ちでされたことはありましたが、気持ち悪かっただけです。少々潔癖気味でしたので……例外はアオイだけなのですよ」
「ごめん……ちゃんと頭ではわかっているんだよ?
今は私が大好きで、大切にしてくれているって。こんなのただの嫉妬なんだよ。私の知らないルティを知っている女の人がいるって過去に嫉妬したって、なにも意味はないのに」
「過去をなかったことにしてあげられないことが、歯がゆくてしかたありません!
それでも私は……私の人生は、アオイと出会ったところから動き出したと思っています。
過去とか、前世とか関係ない、私とアオイのこれからへ……未来に目を向けていきませんか?」
「二人の、これから……?」
「はい。以前にもお伝えしましたが、私の初恋はアオイです。
口づけたいのもアオイだけ、すべてが欲しいと思うのもアオイだけ。
心も魂さえも魅了されてしまうのもアオイだけなんです。
本当は毎日、毎分、毎秒と求めているのを、いつも必死に耐えているのです」
「本当に?……そんなに我慢しているの?」
「もうすでに、アオイに嫌われたかもしれないという気持ちで半分死んだ状態なのです。
アオイを抱き締めて、口づけさせてもらわないと治りません。アオイこっちを向いて、私を見て?」
おずおずと身体を横向きまで動かしたところで、ルティにそのまま仰向けにされ、抱き締められる。
「アオイ、愚かな私を許して……どうか嫌わないで下さい。あなたがいない世界なんて考えられない。お願いします、口づけの許可を下さい……」
許可をって言っているけれど、もう鼻先と鼻先はくっついて、お互いの吐息まで感じれる距離に顔がある。本当に彼は切羽詰まっているようだ。
「じゃあ……ちゃんと気持ちを込めてして。それから、泣いて腫れちゃった目が恥ずかしいから、後で魔法で治してくれる?髪の毛もぐちゃぐちゃになっちゃった、ごめんなさい」
「全て、喜んで……」
萎んでいた花が、一気に花開いたように、全身から喜びの花が咲き乱れていた
―――世界でただ一人、あなただけを愛してる
気持ちの通った口づけはうっとりするほど心地よくて、夢見心地な気分……
なにより、言葉だけよりも心に響くものがある
彼の愛で全身を包まれて、このまま溺れてしまいそう―――
優しく啄むようなキスは初めだけで、すぐに我慢ができないとばかりに、嚙みつくようなキスに変わる。
深く……深い口づけ、唇全てを貪られ、私は息も絶え絶えで
それに気づいたからなのか、目元、頬へと移動し、耳裏、耳たぶを食まれ、首筋へ……
ゾクゾクとした感覚が身体中に走り、思わず声が漏れ出そうになる
やがて、彼の手が怪しく私の身体を弄り始め、柔らかな膨らみに指先が触れたところで、急にピタッと動きが止まる。
ルティが深く……長く息を吐き、ボソリと何か呟いていた。
何を呟いたのかわからなかったけど、息も絶え絶えでベットに倒れている私の目元の腫れを癒してくれた。
「リップ、全部とれてしまいましたね……」
そう言うと、顎を支えていた親指で唇をスッとなぞった。
普段見るルティもカッコいいけど、今のルティはまさに野性的な感じで……
何をしてもピンクな雰囲気に思えてしまう程のフェロモンを纏っている。
「アオイ、軽くシャワーを浴びておいで。
私も一度部屋へ戻り、身支度を整えたら、あなたの髪を整えにまた来ます。
……これ以上は抑えが利かなってしまいますので」
最後にまた軽くキスをし、彼は部屋を後にした。
私は一人まだ呆けたままの状態で、頭もふわふわとしている
(かっ、カッコよ過ぎる……ルティがカッコよすぎて辛いっ!)
キスがあんなに気持ちがいいなんて、知らなかった……いつも心地よかったけど、今日はさらに……
(何も考えられなくなって、あのまま流されてしまいそうだった……)
ルティが理性的な人で良かった……紳士、中身もイケメン
それよりも、ここが人の家だってことを忘れるところだった!
バカ!私は本当にバカ!
でも、そうじゃなかったら……?
「~~~っっ!!!って違う、違う、違うっ!!これじゃあ、私、痴女みたいじゃない!断じて違う!!」
火照った身体と色ボケした脳内を落ち着かせる為に、滝行と言う名のシャワーを浴びた
煩悩退散! 滅せよ色ボケ!!